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君の魔法が僕の世界を変えていく。  作者: 月島
第一章 恋と魔法と始まりの日々
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11 八坂姉弟

 寝る支度を整えた芽生は、冬紀の部屋に入るとベッドの上に座り、クジャクのぬいぐるみを抱き締めた。

 冬紀は座卓の前で青いチェック柄の座布団に座ると、「それで」と口を開いた。


「姉ちゃん、好きな人でもできたの?」

「う、ううん……よく分からない……」


 クジャクを強く抱き締めながら赤面する芽生を見て、冬紀は首を傾げる。


「分かんないの?」

「うん……この気持ちが、憧れなのか好きなのか……」

「ああ……なるほどね」


 冬紀はしばらく宙を見て考え込んだ後、人差し指を立てて口を開いた。


「姉ちゃん、目を閉じて想像してみて」

「ええ? ……うん」

「その相手の人とショッピングモールの水族館に遊びに行くことになりました。姉ちゃんとその人の二人きりです。どんな気持ち?」


 芽生は目をギュッと閉じて、冬紀に言われた通りのことを想像する。蓮介と共に水族館を歩き、展示を見て回っていく。エイが泳ぐトンネルをくぐり、イルカショーを見て、浅瀬の生き物が触れるコーナーに行き……。


「う、ううーん……わ、私、ヒトデ触るのはちょっと……」


 目を閉じたまま唸る芽生を見て、冬紀は溜息をついた。


(まあ、姉ちゃんは恋愛初心者だからな)


「姉ちゃん、ヒトデは置いといて、相手の人は姉ちゃんの隣でどんな顔してる?」

「え、えっと……ニコニコしてるかな?」

「その笑顔見てどう思う?」

「うん……と」


 芽生の脳裏に、先程の蓮介とのことが蘇る。自分を抱き締めてくれた後の、蓮介の優しい笑顔……。


「う、うわあ!」


 芽生は恥ずかしさのあまり目を開けてクジャクを強く抱き締めた。もはや首が絞まる勢いだ。

 芽生の大きな声に、冬紀もびくりと体を竦める。


「え、急に何!?」

「あ、え……」


 芽生はクジャクに顔を埋めて小さく呟く。


「蓮介先輩の笑顔、色々と心臓が保たない……」


 芽生の様子を見て、冬紀は真顔で告げる。


「姉ちゃん、それ恋だから」

「ええ……?」

「恋だよ。恋」

「恋……!」


 芽生は再び顔をクジャクで隠す。


「次の部活、どんな顔して会えば良いんだろう……」


 恥ずかしがって顔を上げない姉に対して、冬紀は力強く言う。


「バドミントンで落とそう」

「お、落とす?」

「うん、バドミントンしてる時の姉ちゃん、マジで最強だから」

「そ、そうかな……」

「そうだって。インターハイ出た人が何言ってるの」


 冬紀はそう言うと、微笑んで続けた。


「バドミントン部に入部しちゃってさ、その……蓮介先輩? と一緒にバドミントンしてきなよ。そんで、仲良くなって距離縮めていこう」

「うう……簡単に言うよ」


 芽生は体を縮こめて溜息をついた。


(……でも、バドにならそれなりに自信はある。実際、見学の時は蓮介先輩のプレーにもついていけた。それに……今度会うときは一緒にバドミントンするって約束もしてくれた)


 芽生はクジャクの羽をきゅっとつまみながら、冬紀に笑顔を作る。


「……でも、やってみる」


 芽生は冬紀に笑顔を返して頷く。


「私、バドミントン頑張って蓮介先輩と仲良くなるよ。冬紀、ありがとう」


 芽生の前向きな言葉を聞いて、冬紀はニッと笑った。


「その意気だよ」

「うん。冬紀はすごいね。なんていうか、恋愛慣れしてるっていうか……」

「めっちゃ誤解を生みそうな言い方するじゃん」


 冬紀は苦笑いしながら頬をかく。


「まあ、伊達に何年も片思いしてないからね」

「わ、私で良ければ相談に乗るよ?」

「姉ちゃんの恋愛アドバイスか。あんまり当てにならなそー」


 冬紀がケラケラ笑うのを見て、芽生はむっとして頬を小さく膨らませる。


「相談くらいちゃんと乗れるよ。いいから話して」


 芽生の頑なな様子を見て、冬紀は頭をかいた。こうなった姉は絶対に折れないのだ。芽生は昔から、真っ直ぐで一生懸命で、妙なところが頑固だった。


「分かった。話すよ。……姉ちゃん、美世のこと覚えてる?」

「ああ、安住さんのところの……冬紀とも昔は仲良かったよね」

「うん。昔はね。でもうち、父さんが倒れたときから生活が苦しくなったでしょ。それで、ご両親がお金のトラブルを心配して美世にオレと関わるなって言ったらしいんだよね」


 冬紀の言葉を聞き、芽生は悲しそうに眉尻を下げて「そうなんだ」と呟く。


「まあ、美世のご両親は芸能界の人だしさ、そういうお金の問題とかにシビアになるのは分かる。それに、美世がご両親の意見を無下にしたくないのも分かるよ。でも……」


 冬紀は膝の上で拳を握りしめて、口を開いた。


「美世と一緒にいること、諦めたくないんだ」

「冬紀……」


 弟の一生懸命な様子を見て、芽生は何とかしてやりたくなる。

 今日もそうだが、冬紀は芽生より考え方がずっと大人びていて、いざという時、何度も芽生を助けてくれていた。

 今度は、私が助ける番なんじゃないか――芽生はそう思ったのだ。

 芽生は少し俯いて考えた後、冬紀の方を見た。


「まず、ご両親に認めてもらわなきゃいけないんだよね?」

「うん、そうだね……」

「だったら、何か実績があるといいんじゃないかな?」

「実績?」

「うん。勉強でも、バイトでも、部活でも……何かを頑張った結果があれば、安住さん達の冬紀を見る目も変わるかも」

「……たしかに、そうかも」


 冬紀は頷くと、芽生に向かって真剣な眼差しを向けた。


「姉ちゃん、オレ頑張るよ。アドバイスありがと」

「ううん、こちらこそだよ」


 芽生はそれに笑顔で応えて、心の中で呟く。


(冬紀の頑張りも、報われるといいな)

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