7-8 雇用責任の分解が社会に与えた影響
前節で確認した通り、派遣制度は雇用責任と労働利用を分離する三者構造を生み出した。そして技術進化後もその構造は維持され、仲介は中間収益構造へと変質した。
ここで重要なのは、雇用責任の分解が社会全体にどのような影響を与えたかである。
従来の日本型雇用では、「雇用=責任」という構図が成立していた。企業は労働力を利用する主体であると同時に、その生活基盤に一定の責任を負う存在でもあった。賃金の継続性、昇給の予測可能性、長期的なキャリア形成。これらは雇用関係の中に内包されていた。
三者構造が一般化すると、この一体性は崩れる。
労働者は派遣会社と雇用契約を結ぶが、実際に働く場所は別の企業である。使用者と雇用主が分離することで、責任の所在が構造的に分散する。
この分散は違法でも不正でもない。制度として設計された結果である。しかし社会的な意味は大きい。
第一に、将来予測が困難になる。
契約期間が限定される場合、更新の有無は外部要因に左右されやすい。長期的な所得見通しを立てにくくなる。
第二に、所得安定性が低下する。
同じ業務内容であっても契約形態により待遇が異なり、賞与や退職金といった長期的報酬の構造が弱まる。これは個人の資産形成や信用形成に影響を与える。
第三に、生活設計が難しくなる。
住宅取得、子育て、教育投資といった長期計画は、一定の予測可能性を前提としている。将来の収入と雇用継続性が不確実であれば、合理的にリスクを回避する選択が増える。
ここで少子社会との接続が現れる。
出生行動は感情だけで決まらない。経済的予測と生活設計の見通しが強く関与する。不安定な雇用環境においては、子どもを持つという選択はリスクとして認識されやすい。
派遣制度は少子化の原因ではない。
しかし、雇用責任が分解され、将来予測が難しくなる構造は、合理的選択として出生を抑制する方向へ働く可能性がある。
これは誰かの悪意ではない。制度設計の交差と、合理的行動の積み重ねの結果である。
派遣制度は労働市場の問題を解決するために生まれた。しかしその構造は、社会全体の将来設計に影響を与える転換点となった。
次節では、本章全体を総括し、制度がどのように合理的選択を変化させたのかを整理する。




