7-9 本章の結論
7-9 本章の結論
本章では、派遣制度を単なる労働問題として扱わなかった。
出発点は悪意ではない。
国家は未来を壊そうとしたわけではない。
企業は合理的に行動した。
労働者も生存のため合理的選択をした。
派遣制度は、労働力へのアクセス問題を解決するために生まれた合理的制度である。求人情報の流通が遅く、採用に時間がかかり、短期的人員確保が困難だった時代において、それは社会的に必要なインフラであった。
その後、制度改正により一般職へ拡張され、企業は直接雇用と派遣利用を比較可能になった。解雇リスクの低減、雇用責任の軽減、人件費調整の容易化といった合理的理由から、派遣利用のインセンティブが生まれた。
さらに消費税制度との接続により、「税制 × 雇用制度」という交差点が形成される。契約形態の違いが会計処理の違いを生み、企業側の合理的選択を強化した。
ここまで一貫しているのは、すべてが合理の積み重ねであるという点である。
しかし技術進化が進む。
SNS、マッチングアプリ、即時雇用プラットフォームの普及により、労働力へのアクセス問題は大幅に緩和された。派遣制度の本来の存在理由は縮小した。
それでも制度は残った。
そして仲介は、中間収益構造へと変質する。雇用責任と労働利用が分離された三者構造は維持され、価格透明性の低下、責任分散、マージン固定化といった構造的変化が生まれた。
ここで決定的だったのは、雇用責任の分解である。
将来予測の困難化、所得安定性の低下、生活設計の不確実性。これらは個人の合理的選択を変える。出生行動の抑制は感情ではなく、予測可能性の問題として説明できる。
派遣制度は少子化の原因ではない。
しかし、制度同士の交差と技術進化の中で、社会構造の転換点となった。
制度が人を変えたのではない。
制度が、合理的選択の条件を変えたのである。




