6-1 市場は制度を修正しない
6-1 市場は制度を修正しない
第6章では、制度を変える主体を一点に絞る。そのためにまず切断しなければならないのは、「市場が解決する」という期待である。
よくある説明はこうだ。競争が働けば非効率は淘汰される。企業努力が積み重なれば環境は改善される。需要と供給が調整されれば最適解に近づく。これらは市場原理の基本的な説明であり、一定の範囲では正しい。
しかし、本書で扱ってきた問題には当てはまらない。
派遣制度は市場が自然に生み出した現象ではない。法律によって認められ、拡張され、維持されてきた制度である。つまり前提がすでに法的に固定されている。
市場は、与えられた前提の中で動く。
前提を疑うことはしない。
ここが決定的に重要である。
例えば、雇用の不安定性が制度上合法である場合、企業はその範囲内で合理的に最適化する。コストを下げ、リスクを減らし、競争に勝とうとする。それは市場の正常な動きである。
だが、その最適化は制度の内部で起こる。
制度そのものを変える方向には働かない。
市場は、「ルールがある」という前提の上で効率を追求する仕組みである。ルールの是非を判断する装置ではない。
ここでしばしば混同が起こる。市場が効率化を進めるなら、やがて問題のある制度も自然に淘汰されるのではないか、という期待だ。しかし制度が法律によって支えられている限り、市場はそれを前提として動く。派遣が合法である以上、合法である範囲内で最適化が進むだけである。
市場は制度の内部で合理化する。
制度を修正する機能は持たない。
ここを誤解すると、解決の主体を見誤る。
「そのうち企業が直接雇用を増やすだろう」「人材不足が深刻になれば自然に条件は改善されるだろう」そうした期待は、市場が制度を修正するという前提に立っている。しかし市場は修正しない。市場は適応する。
不安定な制度が存在すれば、不安定な前提の中で合理性を最大化する。
それが市場の性質である。
だからこそ、制度の是非を問う段階では、市場を解決主体として想定すること自体が論理的に誤っている。
市場は強力である。
だが強力であるがゆえに、制度の内部で徹底的に最適化を進める。
その結果、不安定な制度は固定化される。
ここで結論を置く。
市場は制度の内部で最適化するだけである。
制度そのものを変える機能は持たない。
では、市場でも企業でもないとすれば、制度を変える主体はどこにあるのか。
次で、その整理に入る。




