5-2 派遣には政策的目的が存在しない
5-2 派遣には政策的目的が存在しない
5-1で整理したように、消費税には少なくとも「建前」が存在する。社会保障財源という名目があり、制度の目的が言語化されている。賛成か反対かという議論は当然あるし、設計の問題を指摘することもできる。しかし、制度として何を目指しているのかは説明されている。
では、派遣はどうだろうか。
派遣労働は、何のために存在している制度なのか。
誰の生活を安定させるために設計された仕組みなのか。
この問いに対して、明確な政策目的は提示されていない。
少子化対策ではない。むしろ逆に、不安定雇用を拡大することで長期的な人生設計を困難にしている。賃金向上策でもない。一般的に派遣労働者の賃金は抑制されやすく、昇給の構造も弱い。労働者保護制度でもない。雇用責任が分離されることで、むしろ責任の所在は曖昧になる。
では何のための制度なのか。
答えは単純である。
企業側の雇用責任を軽くするためである。
これ自体を否定する必要はない。企業がリスクを管理し、柔軟に人員を調整したいと考えるのは自然なことだ。しかし、公共制度として存在する以上、その仕組みが社会全体にどのような目的を持つのかは問われなければならない。
ここで重要なのは、「便利であること」と「公共目的を持つこと」は別であるという点だ。
派遣は企業にとって便利である。人員を迅速に調整できる。固定費を変動費に変えられる。景気変動への対応もしやすい。しかし、それは企業内部の合理性であって、社会全体の目的ではない。
消費税には、少なくとも「社会保障を支える」という建前がある。議論可能な目的がある。一方、派遣にはそれがない。
労働市場の活性化という言葉が使われることはある。しかし、活性化とは結果の表現であって目的ではない。活性化した先に何を実現するのかが示されなければ、政策目的とは言えない。
さらに言えば、派遣は労働者の生活安定を目的としていない。長期雇用の形成を目指していない。技能蓄積を促進する制度でもない。つまり、個人の将来予測可能性を高める方向には設計されていない。
それにもかかわらず、派遣は広範に拡大してきた。
ここに本章の核心がある。
公共目的を持たない制度が、社会構造の中核にまで入り込んでいる。
制度は本来、公共性を持つべきである。少なくとも、社会全体にどのような利益をもたらすのかを説明できなければならない。しかし派遣は、「企業の雇用責任を軽くする」という一点以外の目的を持たないまま拡大してきた。
その結果、雇用の安定は弱まり、生活の予測可能性は低下した。
ここで繰り返しておく。
これは派遣労働者個人の問題ではない。努力不足でも意識の問題でもない。制度が、長期的な人生設計を前提としない方向へ社会を動かしているのである。
結論は明確だ。
派遣は公共目的を持たない制度である。
そして公共目的を持たない制度が、少子化という社会問題の中核に位置している。
ここから先は、さらに具体的に検証していく。派遣は本当に社会にとって必要不可欠なのか。財源、成長、経済への寄与という観点から、その実利を見ていく。




