10.神殿からの脱出
タケルたちは早速神殿から脱出するための手段を考える。
セラフィナが部屋以外の場所を移動するときには、基本的に護衛騎士が二人つくようになっている。そのためタケルとフォリンが、部屋の前にいて入ってくるときに気絶させた護衛騎士が着ていた鎧を着て仮初の護衛になることにした。今はその着替え中だ。
「揉めずに出られればいいんだがな。うちの町のこと誰かに話したか?」
「いえ、私一人が聖地だと言っても聞き入れてもらえないでしょうから。誰にも言っておりません」
「あの場所がバレてないなら大丈夫だろ」
「まあ、フィリー姉さんは頭抱えていたっすけどね」
「主の希望を叶えるのが臣下の役割。教会が武力を持って攻めてくるなら、こちらもやり返せばいいだけの話です」
「まあ、そうならねーといいな」
騎士の格好に着替え終わったタケルとフォリン。タケルたちは早速部屋の外に出て行こうとするがセラフィナが待ったをかけた。
「お待ちください。私が護衛騎士以外の人と一緒にいると宿舎の前の騎士たちに怪しまれるかもしれません」
「……じゃあ、とりあえず俺たちが先に行くからヴェルノアは後から来てくれ」
「何かあればすぐに援護に向かいます」
こうしてタケルとフォリンはセラフィナに付き従う形で宿舎の入口に向かった。
セラフィナは少しドキドキしながら、宿舎から出て行こうとすると、入り口に立っていた騎士が声をかけてきた。
「聖女様、お待ちください。どちらに行かれるのですか?」
「礼拝堂に」
「……このような時間からですか?」
聖女は、普段夜は部屋で過ごすことが多いので、騎士たちは訝しんだ。
「はい、何か掴めそうな予感がするのです」
騎士は少し迷った後もう一人の騎士にアイコンタクトをすると、こう言われてはしょうがないだろという感じで頷いた。
女神様の声が聞こえるという聖女に何か掴めそうだと言われれば、そうそう邪魔はできない。
「分かりました。どうぞ」
騎士たちは道を開け、セラフィナたちは宿舎の外に出ることができた。
「少しドキドキしますね」
このような悪いことをしたことがなかったセラフィナは、夜外に出歩くということに少し興奮していた。
「ああ、あとは人目がないところから神殿の外に出られれば……」
とタケルが言っていると前方から二人の人が向かってきていることが見えた。サルビオ枢機卿と神殿騎士長のガウェインだ。
「これは聖女様、どちらに行かれるので?」
ガウェインがセラフィナに話しかけてきた。
「女神様に祈りを捧げようと思いまして」
「こんな時間に? 普段は部屋で祈っているだろ」
「今夜は何か掴めそうな感じがするので礼拝堂で祈りたく思いました」
「……ふん、一日も早く女神様の声が聞こえるようになるのだな」
サルビオ枢機卿はつまらなそうに言い捨て、そのままセラフィナたちとすれ違おうとする。
それに対してセラフィナは道を譲り軽く頭を下げた。それに倣ってタケルたちも軽く頭を下げた。
そうしてすれ違う瞬間、神殿騎士長のガウェインがちらりとタケルたちの顔を見る。そのまま行ったかのように思えたが、違和感を覚えたガウェインが問いかける。
「待て。……お前たちは誰だ?」
その言葉を聞いて前を歩いていたサルビオの足が止まる。
「私はこの神殿の騎士の全員の顔を覚えているが、お前たちは見たことがない。もう一度よく顔を見せてみろ」
そう言いながら、ガウェインは腰に差していた剣に手をかける。
「ちっ、穏便に出られりゃーよかったんだがな」
そう言ってタケルは剣を抜く。
「フォリン、お前は下がってセラフィナを守れ」
「了解っす」
セラフィナとフォリンをかばうようにタケルは前に出ていく。
「賊だー! 族が侵入したぞー!」
ガウェインは大声で叫ぶ。
「時間はかけられねーみてーだな」
ガウェインが大声を出したことで、それを聞きつけた他の騎士たちがそのうちやってくるだろう。タケルたちだけで神殿内にいる戦力のすべてを相手にするのは分が悪い。
タケルはガウェインに切りかかるが、ガウェインはそれを受け止め鍔迫り合いになる。ガウェインはタケルの攻撃を受けても一歩も引かず互角だ。
「聖女様を攫う賊は許さぬ!」
ガウェインは聖女を攫おうとしているタケルたちに激怒しており、その怒りを持って剣を押し込み、距離を取った後、縦横斜めと様々な方向から切りかかるが、タケルはそれを防御しきる。
「なかなかやるみてーだな」
タケルは目の前にいる男がそう簡単に倒せそうにないことを悟る。あまり時間をかけていられない中で強者との最初に会うというのは運が悪い。
「準超越者のガウェインと互角だと!? こやつらただの賊ではないのか? いや、待て。セラフィナは無理やりというよりもむしろ……」
サルビオは先ほどのやり取りは明らかに聖女も協力しているような感じだったことを思い出した。
「そうか! 貴様らがセラフィナをたぶらかし私利私欲のために回復魔法を利用しようとしている輩か! ガウェイン、その男を決して逃してはならぬ! 教会のためにもこの場で切り捨ててしまうのだ!」
「もとよりそのつもり」
ガウェインはタケルとの距離を詰め、一気呵成に攻撃を仕掛け続ける。
「はあああああああああああ」
相変わらずタケルは受けに回っているが、一度のまともに攻撃を食らうことなく、さばき続けている。
「タケル様は大丈夫なのでしょうか?」
「大丈夫っすよ! 兄貴を信じるっす!」
セラフィナが防戦一方のタケルのことを心配しているが、フォリンは危険察知が反応していないので、今のところ心配していない。とはいえ、あまり時間が長引くと他の人たちがやってきてマズいことになるという不安はある。
ガウェインの攻撃が一方的に続いている中、ドカーンという爆発音が聞こえてきた。
「なんだ!?」
いきなりの爆発音にガウェインの攻撃も止まり、周囲の警戒をする。
「爆発して火が回り始めている! 消火作業を急げ!」
そう怒鳴っている声が遠くから聞こえてきた。
「まだ他にも賊がいたか!」
サルビオは腹立たしげに吐き捨てるように言った。
「ヴェルノアか……。よし、注意も分散したようだし、このままサクッと倒して逃げるか」
「貴様が私を倒すだと。防ぐだけで手一杯の奴が強がるな」
「ふっ。それはどうかな」
タケルはガウェインのセリフを鼻で笑い、タケルの方から距離を詰めていった。




