8.聖女捜索
タケルたちはセラフィナがいると予想されるアルディア王国にある聖都リンドールに向かった。
セラフィナ奪還に向かったメンバーは、タケル、フォリン、シェイド、ヴェルノア、獣人とエルフがそれぞれ三人だ。ラグナ達ホワイトウルフに乗って向かったが、当然都市の外でお留守番だ。
「おお、これが聖都リンドールか!」
タケルは想像以上に大きな都市を目の前にして感嘆の声を上げた。
「タケル様、ここからは注意してくださいよ。聖都リンドールは大国アルディア王国内にありながらも、アメリア協会が仕切っている都市です。下手に目立つ行動をとると教会に目をつけられますよ」
「了解。フォリン気をつけろよ」
「いや、俺っちより兄貴の方が目立つじゃないっすか!」
「ははっ! よし都市の中に入るぞ」
そう言ってタケルは先頭で聖都リンドールに向かった。
「無事に中に入れたな」
「そうっすね」
アメリア協会は様々な人種の人たちに信仰されている宗教だ。そのため聖都の中には獣人、エルフ、ドワーフ、人族など様々な人種がいる。
聖都なだけあって信徒が巡礼でやってくることもあるので、タケルたちも何の問題もなく入ることができた。
「とりあえず宿決めて、そのあとはバラバラに情報収取しよう」
タケルとしてはいざとなれば強引にでもセラフィナを連れて行くつもりではあるが、なるべく穏便に済ませられるなら済ませたいと考えている。それにセラフィナが本当にここを選んだのであれば、女神様からの依頼であってもそれを認めるつもりであった。
タケルはフォリンとシェイドの三人で情報収集を開始した。町中で屋台で飯を買いながら聖女の話を聞いたりしたが、あまり使えそうな話はなかった。
そこでタケルたちは思い切って、中央神殿に普通の信徒を装って入ることにした。
「ここが中央神殿ねー」
やたらと豪華な装飾や彫り物がされている神殿だ。一体いくら金をかけているのだろうかとタケルはあきれている。セラフィナが教会の在り方に疑問があると言っていたがなんとなく分かるような気もする。
中央神殿の中にある礼拝堂に入り、とりあえず女神様に祈っておく。やり方は周囲にいる人たちのを見よう見まねで、手を組んで祈った。
祈りが終わった後に近くにいた神官に声をかける。
「中央神殿には聖女様ってのがいるって聞いたんだが、会うことはできないのか?」
神官はタケル姿をじろりと見る。
「申し訳ありませんが、聖女様はただいま修行中ですので、会うことは難しいかと……」
「そうなのか。それは残念だ。あっそうだ。寄付ってのはどこにすればいいんだ?」
「あそこの前にある箱に入れてください」
「そうなのか。ありがとう。助かった」
タケルは箱の中にいくらかの寄付をした後、三人で神殿の外に出た。適当に歩いているところで、フォリンが小声で話しかけてきた。
「露骨に探りを入れて大丈夫なんすか?」
「意外と簡単に会えるかもしれないだろ? それに聖女ってのは有名人だからあれくらいならよくある話だろ」
「ですが、見事に隠されましたね。タケル様の話では再び女神様の声が聞こえるようになったとか……」
「ああ、だから修行中ってのは嘘で、何らかの理由があるんだろうな」
三人はそれぞれ考え込むがこれ以上考えても答えは出てこないのでタケルは頭の切り替えをする。
「よし、次は酒場だな」
「いいっすね!」
「何らかの噂話が聞ければ儲けもんだな」
タケル、フォリン、シェイドの三人は賑わっている酒場に入り静かに酒を飲んでいると、近くのテーブルから聖女の話をしている声が聞こえた。
「おい、聞いたか? 聖女セラフィナ様の噂」
「とてつもない回復魔法が使えるようになったって話か?」
「ああ、指をなくした騎士の手が元に戻っていたらしいぞ」
「まじかよ!」
「あー、セラフィナ様に癒されてー。ついでに笑顔でも癒されて―」
「バカ、セラフィナ様もお前が相手なら微笑むどころか顔が引きつるわ」
「おい、どういう意味だ」
おそらく教会関係者が三人で飲んでいるようだと判断し、タケルはそのテーブルに向かって勝手に椅子に座った。
「その噂、もうちょっと詳しく聞かせてくれよ」
「なんだ? 貴様は」
「まあまあ、一杯奢るからよ! お姉ちゃん、エール三つね」
「はーい」
そう言ってタケルはポケットからエール三杯分よりも少し多めの小銭をテーブルに乗せる。
「で、話ってなんだ?」
一人の男が酒が入りながらも多少警戒しながら問いかけてきた。
「さっき、あんたら話をしていたすごい回復魔法を使える人に会うことってできるのか?」
タケルはあくまですごい回復魔法が使える人に会いたい人という体で話しかけることにした。
「無理無理無理」
「教会の聖女様だぞ。そう簡単に会えるわけがないだろうが」
「まあ莫大な寄付金があればチャンスがあるかもってレベルだな」
「やっぱり金か~」
三者三様に答えたあと、タケルは思いっきりがっくりする。
「金だな」
「世知辛いね~」
タケルががっくりしたことで、その場の空気が柔らかくなった。そこでタケルは質問を重ねる。
「俺はその聖女様って見たことないけど、美人なのか?」
「美人だな」
「美人っていうより可愛い系じゃないか?」
「確かに可愛い系だ」
「へぇ~それは一目だけでも拝んでおきたいね。どうにかして見ることはできないのか?」
「うーん一般信徒だと、式典か何かでしか見るのは難しいんじゃないか?」
「ああ、昔は他のシスターと同様に働いていたが、最近はずっと裏にいるな」
「裏? 礼拝堂が表だよな? それじゃあどこで祈りを捧げるんだ?」
「裏にも小さな礼拝堂がいくつかあるんだよ。教会のお偉いさんやお忍びでやってきた貴族なんかが静かに祈るためのな」
「へぇ~そんなところがあるんだな」
「たぶん聖女様もそこで祈りを捧げているな」
「それじゃあ、見ることも無理か~」
「最近じゃあ俺らでもめったにお目にかかれないからな」
「まあ、あれだけの力の持ち主となれば警備が厳重になるのも仕方ないな」
「そりゃあ残念だな~」
酒場での情報収集を終えたタケルたちは宿に戻ってきた。それから宿で他の人たちが収集した情報を聞いていたが、タケルたちが集めた以上の情報はなかった。
「こりゃあ、待っても表に出てくることはねーな。忍び込むしかねーな」
「中央神殿の敷地は広いのでどこにいるか分からない人を探すのは難しいと思いますが」
「警備も厳重って言ってたっすからね」
タケルが出した案にシェイドやフォリンは反対のようだ。
「それはそうだが、もう手詰まりだろ」
「一度、町に戻ってお金を取ってくるという方法もあるかと思いますが……」
「そんな金あるか? 聖女に会うためにどれだけ金をむしり取られるか分からんぞ」
「……」
欠損を治すほどの回復魔法の使い手というのはめったにいない。そのため普通にそんな回復魔法の使い手に依頼するだけでも莫大な金銭が必要になるのだが、ここに教会の聖女という拍もつくためさらに多くの金銭が必要となる。
ヤマトの町にもお金はあるが、すべてのお金をこのために使えるわけではない。そのためシェイドが出した案は本人も含めて実行するのが難しいと皆考えているようだ。
そんな沈黙を破る形でヴェルノアが戻ってきた。
「ただいま戻りました」
「お疲れさん。いきなりで悪いが、どうだった? 何か情報は集まったか?」
「たいした情報が集まっていないので心苦しいのですが、一応報告させていただきます。……ごほん。まずセラフィナは中央神殿の奥に囚われているようです。自由に行動することが許されておらず、神殿内を移動するにも常に監視を兼ねた護衛がついているそうです。セラフィナが住んでいる正確な部屋までは分かりませんでしたが、中央神殿にある神官用の宿舎の上層階にいるそうです。最近警備が厳重になったこともあり部屋の前に警備の者が立っている可能性が高いとのことでした」
「って、めちゃくちゃ詳しい情報手に入れてるじゃないっすか!」
たいした情報がないと言っていたヴェルノアにフォリンが突っ込みを入れる。
「お前、すごいな」
「お褒めいただきありがとうございます」
ヴェルノアはニコニコと嬉しそうにしながら感謝する。
「おおよその居場所が分かれば上等だな。忍び込んでセラフィナに会いに行く」
「そのようなことになるかと思いまして、神官の服を拝借しておきました」
「ははっ! さすがだな! ヴェルノア!」
「ありがとうございます」
「よし、それじゃあ、明日日が暮れてから神殿に忍び込むぞ。そのつもりで皆準備しろ」
「「「はっ!」」」
こうしてタケルたちはセラフィナ奪還に向けて動き出すのであった。




