2.追放された元聖女
「女神様の声を聴けぬ聖女など聖女ではない! これまで何百年にも渡り女神様の声を受け取り民に届けていたお役目がお前のせいで途切れたのだ! その罪は重い! よって、セラフィナを辺境に追放することを決定する!」
教会の大神殿で枢機卿であるサルビオが宣言をする。
元聖女であったセラフィナはうつむき黙って教会の決定を聞く。
その姿を見る枢機卿や大司教たちの目線は冷たい。それも当然のことだ。
アメリア教がアメリア教である所以とも言っていいほど重要なのが、女神アメリアからのお言葉である。それを聞く役割を持っている聖女がその役割を果たさないというのはアメリア教の根本をも揺るがしかねないことなのだ。
その罪の重さは聖女自身も認識している。それゆえに何の反論も抵抗もせずに粛々と決定に従う。
手枷、足枷ははめられていないが、まるで罪人かのように大神殿から連れ出され、入り口に止まっている古びた馬車に乗る。
ガタガタと揺れる馬車の中で聖女は一人物思いにふける。
(私はアメリア様に見放されてしまったのでしょうか)
女神アメリアは今まで遅くとも一年に一度は神託として言葉を授けてくださった。しかし、前回の神託からもう二年もそれが止まっている。
セラフィナは自分の力がなくなったとは感じていない。それなら声が聞こえないのは女神アメリアが自分を聖女としてふさわしくないと判断したと考えていた。
(これも運命だと受け入れるしかありません)
こうしてセラフィナは一人寂しく辺境に送られるのであった。
その頃大神殿では次なる聖女の任命が行われようとしていた。
「セラフィナという偽聖女は居なくなった! しかし、このまま聖女不在では教会の権威に関わる。そのため暫定的ではあるが、聖女候補生だったエルシアに聖女代行を担ってもらうことにする! さあ、エルシア前に」
エルシアは顔に笑顔を張り付け自信満々に前に出て挨拶をする。
「ご紹介預かりましたエルシアです。私はまだまだ聖女としては未熟ですが、必ず女神様の声が聴けるように精進させていただきます。どうぞ皆さまよろしくお願いいたします。」
そう言ってエルシアは深々と頭を下げた。それに対して盛大な拍手が起こる。
(さあ、邪魔者は消えた。これからは儂の時代だ)
枢機卿であるサルビオは心の中でほくそ笑んでいた。
◆
数日後。元聖女のセラフィナはクレシア王国の辺境にある町オルドンの教会に到着した。そこは元居た大神殿に比べるとあまりにも質素な場所だ。
あまりの違いに呆然としていると護衛をしていた騎士が声をかけた。
「それでは我らはここで」
「はい、お送りいただきありがとうございました」
ただの護衛騎士にもセラフィナは丁寧に挨拶をする。騎士が簡単な挨拶を済ませ、その場から馬車と共に去っていった。
これでもう一人。このまま入口の前で佇んでいても仕方ないので、扉を開けて中に入っていった。
教会の中には教会で祈りを捧げている者もおらず、一人もいなかった。誰もいない教会の中を歩いていく。
基本的に神父は人がいなければ裏の方にいるためセラフィナはそちらに向かっていると、途中で神父がやってきた。
「おや、これは……」
「初めまして、この度新たに赴任してきたセラフィナと申します。これからよろしくお願いいたします」
セラフィナは神父に対して丁寧に挨拶をする。
「ああ、例の元聖女ですか」
「……はい」
元聖女と言われセラフィナは思わず暗い顔をしてしまう。
「いや、申し訳ない。他意はないのだが……」
神父は自分が失言したことを自覚し気まずそうにした。
「はい、分かっております」
少しばかり気まずくなった空気をごまかすかのように神父は咳払いをする。
「ごほん。それでは改めて。あなたを歓迎します。ここは辺境の教会で中央に違うところも多いと思いますが、ゆっくりと慣れていってください」
「はい、お気遣いありがとうございます」
「とりあえず裏の方に案内しますね」
そう言って神父は教会の裏の方に向かい始めた。歩いている途中で何かを思い出した。
「ああ、そうだ。自己紹介を忘れていました。私の名はマルセルです。どうぞよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
教会の裏手にある中庭に行く。そこには十名ほどの子供たちがいた。
マルセルとセラフィナが来たことが分かると子供たちが寄ってきた。
「神父様!」
「この人だーれ?」
「この人はね、新しいシスターのセラフィナさんだよ。みんな言うこと聞くように」
「「「はーい!」」」
この教会では孤児院も併設しており、ここには十名ほどの子供がいる。小さい子は三歳から大きい子で八歳ほどだ。十歳になる前にほとんどの子供はどこかに住み込みで働き始めるからだ。
それから神父たちは食事の準備を始めた。メニューはオートミール粥のみだった。
「今日も私たちに食事を与えてくださる女神アメリア様に感謝の祈りを」
マルセルが両手を合わせて祈りのポーズをとると、他の皆もそれに倣って祈りを始めた。
「いただきます」
「「「「いただきます」」」」
子供たちは待ちかねていたかのように勢いよく食事を始めた。
「セラフィナさんにとっては少し質素でしたかな?」
「いえ、そんなことは……」
否定はしつつも神殿にいた頃はもっとましなメニューだった。また聖女という地位もあって、時折肉も出たことがある。そんなメニューと比べると、この食事は質素に見える。
「孤児院の運営資金にはあまり余裕がなくて色々と節約が必要なのです。そのことを覚えておいてください」
「分かりました」
セラフィナは辺境の孤児院の事情など全く知らなかった。ここまで質素な生活を余儀なくされているなんて思ってもいなかったが、セラフィナはある意味罰としてここに送られたのである。そう思うと納得の貧しさであった。
それからセラフィナは教会で働き始めた。と言っても、教会に祈りに来る人はほとんどおらず、シスターらしい仕事もほとんどなかった。そのため孤児院としての仕事の方がメインになっていた。
そんな仕事をしていく中で問題となっているのが、食料だ。今のところ一日に二食食べられてはいるが、量としてはギリギリだ。全体的に食料品の値段が上がっているのがキツイ。どうやら今年は収穫高が落ちているらしい。飢饉になるレベルではないが、家計には確実にダメージが入るレベルだ。
そのためセラフィナは目的の物を手に入れるために少しでも安い場所はないかと探すようになっていた。
そんなある日。日課である日々の祈りを済ませた後、セラフィナは買い出しに向かう。
(今日は麦が安く買えるといいのですけれど)
市場に到着すると、何やら活気のいい穀物商人の人がいた。
「へい、らっしゃい! 安いよ、安いよ!」




