1.道づくり
グリムヴェイル大森林北部の部族連合に勝ったことでヤマトの町には、各部族の族長をはじめとする一部の者が移り住むことになった。
税という形で、各村々で育てられた農作物を徴収することにしたタケルではあるが、当然不作の状況なので、税を取ることはできず、タケルが無料で配っている。
何の役にも立っていないのにもらうだけもらうというのはおかしいということで、各部族の一部の者がヤマトの町に移り住んでタケルのために働くということになった。
また、難民としてヤマトの町に来たものたちの中で元々の村に帰りたいというものも返した。
そうした中である一つの問題点が浮かび上がってきた。
そのことについて、役所の執務室の中でタケル、フィリー、エルドール、ヴェルノアが話をしている。
「……道か」
「はい、今までは各村同士でそれほど物資のやり取りがあったわけではありません。そのため細々とした道か獣道しかありません。しかし、これからヤマトの町から物資を輸送するにあたって道がないと輸送に相当苦労するかと思います。それに将来的に徴税のことを考えるのであれば、なおさら」
タケルはエルドールから道を作るように提案された。
「なるほどな。いいんじゃないか?」
「それならアルネイアを働かせてみてはどうでしょうか?」
ヴェルノアが提案をする。
アルネイアとはカリュネラに負けたゼルアントの魔物の名前だ。名前がなかったためタケルが名づけをした。
「ゼルアントの魔物なら土木工事が得意そうよね。イメージだけど」
ゼルアントは蟻の魔物のため穴を掘ったりものを運搬したりするのが得意だ。そのため今回の道づくりでも活躍が期待される。
「あいつ暇してるし、頼んでみるか?」
いきなり増えた新しい魔獣に町民たちも少しばかり困惑しているため町中で働かせるというのができないのだ。最初からタケルに従っているホワイトウルフやディープスパイダーとは違う。
アルネイアは今適当に自分の配下となる者を増やしたり、自分の巣を作らせたりしている。
タケルはアルネイアに頼みに行くために椅子から立ち上がろうとする。
「タケル様、もう一点あります。将来的な話になりますが、税として農作物などを徴収するのでしたらそれを換金する手段が必要となります。はっきり言って、タケル様に農作物は不要ですので。そのためにもゆくゆくはネザリス王国以外とも取引が必要になるでしょう。そのことを覚えておいてください」
「分かった」
「ほんとに分かってるの? 外と交流するってことは色々とバレる可能性があるってことよ。大規模になればなるほど、この町が注目されるでしょうね。その辺も含めてどうするのかをあなたが決めるのよ」
タケルの軽い返事にフィリーが釘を刺した。だが、フィリーの言うことはもっともなので大人しく受け止める。
「……はい」
タケルにとってこれは少しばかり重たい決断だ、今までのように能天気に決断できなくなっている。あまりにも支配している領地や人が増えたからだ。
タケルはひとまずその決断は棚上げして、アルネイアに話をつけに行く。
アルネイアは農場の外側で巣作りの指示を出していた。配下のゼルアントたちはせっせと穴を掘り土を運び巣を作ろうとしている。どこまでやるのか聞いていないが、なんだか将来的に地下帝国ができそうな感じである。
カリュネラもそこに一緒にいた。
「ちょっといいか?」
「はい、なんでしょうか?」
「今、この町と他の村の道を作るっていう計画があるんだが、やってもらえるか?」
「構いませんが……カリュネラが魔人に進化した秘密を教えていただきたいです」
「あー、それか。別にいいぞ」
確かそれが知りたくて配下になったと言っていたしそれが気になるのは当然だろう。
「ほ、本当ですか!」
「別にたいした秘密じゃないぞ。俺の最上級品質の農作物を食ったからだな。たとえは、この果物とか」
そう言ってタケルは保存ボックスからリンゴを取り出す。
普段アルネイアが食べているのは普通の兵士たちと同じで低品質と高品質の者を混ぜた食事となっている。それだけでも以前よりかはるかに速いスピードで成長しているが、魔人になれるイメージまではできていなかった。
「食ってみるか?」
アルネイアはごくりと喉を鳴らす。が、カリュネラが邪魔した。
「ダメダメ! まだ早いよ、主! もっと働かせてからじゃないと!」
「確かにそうかもしれないな」
ずっとタケルのために働いていたカリュネラするといきなり最上級品質の農作物を与えるのはずるいのかもしれない。
それを聞いたアルネイアは少しだけしょんぼりする。
「確かにまだ何の役にも立っていない私がそれをもらうのは早いかもしれませんね」
「じゃあ、グリムヴェイル大森林に道路網を作ったら報酬として最上級の農作物を使った料理を食わせてやろう」
「っ! はい! 必ずや達成してみせましょう!」
「細かい話はフィリーかヴェルノアにでも聞いてくれ」
「全く主は甘いんだから。もっと僕がしっかりしないとね」
こうしてアルネイアは道づくりを行うのが決定したのであった。
その夜、タケルは自宅に帰ってきて夕飯を食べる。その時にフィリーにも報告をする。
「そう言えば、アルネイアが道づくりをやるってことになったぞ」
「それはよかったわね」
フィリーは町民がアルネイアのことを受け入れられていないことを少しばかり問題視していた。フィリーはもう色々とタケルになれたので受け入れられているが、普通に魔物なのだ。そう簡単に受け入れられない方が普通だ。
タケルのためにヤマトの町のために働いた実績を作れば町の人々も受け入れやすくなるだろうと考えているため、そう言った意味でもアルネイアが町に協力的なのは助かっている。
「あとエルドールが言ってた販売先も一応考えた」
「どうするの?」
「とりあえず小規模で販売する。目立ったものは一切売らない。普通の野菜や穀物だな。そしてこれが一番大事なことだ。それは俺が自分で売りに行く!」
「どうしてあなたが売りに行くのよ」
フィリーはジト目で問い詰める。もはやタケルは領主と言ってもいいような存在だ。そんな人が自分で野菜を売りに行くなんて普通あり得ないのだ。
「だって! 自分で作った農作物を自分で売るって一度はやってみたいじゃないか! それにリアルな感想も聞きたいんだよ!」
タケルが作った農作物は今まで飢饉で腹を減らしている人やタケルに恩がある人達ばかりに食べさせてきた。一応おいしいと言ってくれてはいるが、お世辞で言っているのかもしれないのだ。だから、何のしがらみのない人からの正直な感想を聞きたかったのだ。
「まあ、ずっとじゃないならいいんじゃない?」
フィリーは若干呆れながらも、一度言い出したら止まらないことを知っているので、渋々ながら認める。
「よし! ジルも行くか?」
「うん! 行く!」
「じゃあ、色々と落ち着いたら町に野菜を売りに行くぞ!」
こうしてタケルたちは近隣の町に野菜を売りに行くのを決めたのであった。




