26.クルガンVS鬼人族族長ディオラン
場所は変わり、ここはクルガンの部隊と鬼人族の部隊が戦っている場所だ。
クルガンの部隊は難民でやってきた者が多く、他のタケルの部隊と比べると実力は劣る。しかし、タケルから全員が腹いっぱいになるほどの大量の食料をもらい体が元気になったことと、その恩に報いて町に貢献するためにも武功を上げること、そして何よりあれだけ豊かな場所をもう二度と奪われないようにするために異常に士気が高い。
そのため鬼人族を相手にしても互角以上の戦いができている。
その中でも特に士気が高いのがクルガンだ。
「うおおおおおおおおお!」
クルガンは敵中央で敵を倒しながら進んでいった。ある集団を倒し前に進むとぽかんと空白地ができていた。その先に待っているのがクルガンの目的の男だった。
「貴様は……族長だな」
「そうだ。鬼人族族長ディオラン。貴様の快進撃もここまでだ」
そう言ってディオランは剣を抜く。
ディオランは快進撃を続けていたクルガンを止めるべく前に出てきたのだ。
「俺は牛人族族長の息子クルガンだ! 貴様の首をもらい受ける!」
クルガンは勢いに任せてディオランに攻撃を仕掛ける。しかし、ディオランはクルガンの攻撃をすべて紙一重のところで避ける。しかし、それにめげることなくディオランは攻撃をし続ける。
「うおおおおおおお!」
クルガンが思いっきり振り下ろした剣をディオランは軽々と受け止める。
「なるほど。さすがにここまでこれただけのことはあるな。次はこちらの番だ」
ディオランは受け止めた剣を弾き返すと先ほどのお返しとばかりに連続で切りかかっていった。
クルガンは何とか剣で受け止めているが、一撃一撃が重い。攻撃を食らうたびに耐えなければならないほどだ。
「ぐっ」
攻撃も完全に防げているわけではなく細かい傷を負っていく。そんな防戦もいつまでも続くわけではない。ディオランの切り上げを受けたことでクルガンが大きくのけ反ってしまう。隙だらけのお腹に蹴りを食らう。
「ぐふっ」
蹴りを食らったクルガンは数メートル後ろに飛ぶが、何とか膝を付きながらも堪える。そしてディオランをにらみつける。
(強いっ!)
クルガンはディオランを甘く見ていたわけではない。しかし、自分の想像以上の強さが目の前にして、少しだけ心が折れそうになった。だが、それでもクルガンは戦わなければならないのだ。
クルガンは剣を付きながらもなんとか立ち上がる。
「なぜ貴様らは逃げた村人まで襲うのだ! 答えろ!」
結局クルガンと分かれた母親たちはいまだ見つかっていない。おそらく敵に襲われ亡くなったのだと思っている。だが、その理由をクルガンは知りたかったのだ。
「……捕まえて売るためだ」
「なぜだ! 鬼人族は誇り高い部族だと父から聞いていたぞ! なぜそのような真似を!」
グリムヴェイル大森林の北側の国々は亜人に対する扱いがひどい。そんなところに売られたのであれば待っているのは地獄。そんな地獄に自分の母親や弟、妹たちが送られた可能性があると知ってクルガンは驚愕し激怒した。
ディオランは苦々しい表情を浮かべながらもなんとか答える。
「生きるためだ」
ディオランも本心では間違ったことをしていると思っている。捕まえた村人を売って、力得て、戦争をして。そんな悪魔のような所業をしていることは自覚している。
ただそれでも理由を挙げるとすれば生きるためなのだ。
「そうだ。生きるためだ。だから、お前にはここで死んでもらう」
何か吹っ切れたようなディオランはクルガンを見据え、決着をつけるために攻撃を仕掛ける。
ディオランの猛攻を受け、クルガンは守るしかなかったが、徐々に攻撃を受け全身血まみれになりボロボロの状態になった。
しかし、それでもクルガンは立ち続けている。
「勇敢なる戦士よ。その傷で立ち続けているのは賞賛に値する。だが、もう苦しむ必要はない。終わりにしてやる」
クルガンのとどめを刺そうとディオランが構えると、隣の戦場から勝鬨が聞こえた。
(蜥蜴人族は負けたのか……)
今まで目の前にいたクルガンに集中していたため周囲の戦況が分かっていなかった。
今になって戦況を確認するべく周囲を見回すと、鬼人族はほぼ互角の勝負をしているが、蜥蜴人族は負け、巨人族もかなり押されているようだ。
賢いディオランは悟ってしまった。
(……これはもう負け戦だ)
ディオランが戦況を把握するべく周囲を見ている隙をついてクルガンは切りかかるが、簡単に防がれてしまう。それでもクルガンは熱のこもった目でディオランをにらみつけて押し切ろうとする。
(目の前にいる男を切って何になる。もはや食料を得ることはほぼ不可能だ)
蜥蜴人族が負けたということはその戦力はこちらに来るということ。巨人族からの救援も見込めない。限りなく負けに近い状況になりディオランは敵を倒す事に価値を見出せなくなった。
(撤退するか……いや、食料がない状態でどうするのだ)
食料を得るための戦なのだ。撤退という選択肢はない。ここで引いても待っているのが飢餓だ。
(ああ、これが報いか)
人からさんざん食料を奪い、挙句の果てに女子供も含めて商人に売り、武器を得て、さらに食料を奪う。そんな悪魔のような所業をした報いがいつか訪れるような予感はしていた。
それが今なのだとディオランは悟ってしまった。ここに残るも死、引くも死。
行き過ぎたことをやったブラドを殴ってでも止めるべきだったのだ。しかし、その後悔はもう遅い。
報いなのであれば、将来有望そうな若者に倒されるのも悪くない。そう思いディオランは力を緩める。
「うおおおおおおおおおおお!」
無防備になったディオランにクルガンの渾身の一撃が入る。ディオランはどこかスッキリしたような顔で倒れていく。
「「「族長!」」」
「勝ちました……父上……」
限界を迎えていたクルガンはその場で気絶し、倒れ込みそうになる。
そこにバルガスがやってきて受け止める。バルガスは部隊を部下に任せ単身でディオランのところにやってきていた。
「無事、勝利できたようだな」
最後は相手がわざと攻撃を食らったように見えたが、それでも勝利は勝利だ。
かなり危険な状態のクルガンに対して回復ポーションをかける。すると、みるみると傷は癒されていく。目は覚まさないが、これで死ぬことはないはずだ。
「武器を捨て降伏せよ!」
バルガスが降伏勧告を出すが、鬼人族たちは武器を手放そうとしない。
「降伏すれば回復ポーションをやる。そうすればその族長も助かるかもしれぬぞ」
互いに顔を見合わせえた鬼人族たちは族長が倒され心が折れていたこともあり、武器をようやく手放した。
こうしてクルガンと鬼人族族長ディオランの戦いはクルガンの勝利に終わった。




