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21.戦準備

 


 タケルの自宅にて戻ってきたヴェルノアが報告をした。


「主様、申し訳ありません。必死に説得をしたのですが、奴らはタケル様の警告を聞く気がないようです」

 ヴェルノアは悔しそうに言う。


「そうか。それじゃあ仕方ねーな」


 そう簡単に止まるとは思っていなかったタケルはヴェルノアを許す。


「あんたちゃんと説得したんでしょうね」


「当然です」


 ヴェルノアのことをジト目で疑っているピルカが問いただすがヴェルノアは平然とした顔で応える。


「んで、敵の状態はどうだった?」


「ピルカの言っていたように戦の準備をしていましたね。数は多いものの兵士の質はこちらが上です。族長とやらも大した力もなかったので余裕で勝てるでしょう」


「いや、それ兄貴とかヴェルノアさん基準じゃないっすか?」


 フォリンからのツッコミが入る。


「数は多いってどれくらいだ?」


「あの野営地の規模から判断するに一万は超えるでしょうね」


「一万!」


 一万という数にフィリーが驚く。


「一万ってうちの町から出せる戦力のほぼ倍じゃないっすか!」


「いや、全員は戦に参加させねーぞ。この町の守りもあるんだから。人と魔獣を合わせて四千くらいだろ」


 獣人、エルフ、オーク、ホワイトウルフ、ディープスパイダーを合わせて四千がヤマトの町が出せる戦力だ。一般市民を参加させれば数を増やすことはできるが、それをするつもりはない。普段から警備や狩りなどで訓練している者たちだけが参加する。


「それってまずくないっすか……」


「いえ、二、三倍程度であれば我々の余裕勝ちです」


「いやいやいやいやいやいやいや、それはおかしいっすよ!」


 ヴェルノアが余裕勝ちというがフォリンがツッコミを入れる。


「何を言っているんですか? この町の兵士や狩人たちは他の里や町の兵士と比べれば、一段上の力があります。いわゆる精鋭部隊みたいなものです。」


 一般の兵氏にも高品質の作物の料理を食べさせている。そのおかげもあって、この町の兵士たちの実力が高い。


「さらにタケル様や私、カリュネラがいるんですよ? これで負ける方がおかしな話です」


「そうなんすか?」


 さも当然化のように話すヴェルノアの様子にフォリンは正しいことを言っているのかもしれないと思い始めた。


「最悪俺が一人突っ込んで敵の総大将倒せばいいだろ」


 タケルの直感としては全く嫌な感じや恐れがなかった。この世界に来て体のスペックが上がり、さらに最高品質の作物たちを食べている今、そこら辺の奴らに負けるイメージが持てないのだ。


「確かに兄貴が負けるところは想像できないっすね」


「いやいや、そんな危険なことしないでよね」


 タケルが死んだらこの町は終わりなのだ。フィリーとしてはそんな危ないことはしないで欲しい。


「あくまで最悪の話だ。最悪の。多分そうならんだろ」


「もしそうなったら僕が行くよ!」


「私も行きます」


「……最悪の場合は三人で総大将めがけて突っ込むか」


「いや、まあ、それなら……」


 フィリーとしても単身で敵陣に突っ込んでいくのではなく、カリュネラやヴェルノアが一緒にいるのであれば許容できるのであった。


「んじゃ話は以上だな。戦の準備でもさせるか」


 そう言ってタケルは立ち上がろうとするとフィリーから待ったがかかった。


「ちょっと待ちなさい。戦うのであれば難民たちや里や村の方からも人を出させるわよ」


「必要か?」


「武功を上げてタケルに貢献したいっていう人が多いって話を聞いているわ。そういう場を用意してあげるのも統治者としての役目よ」


 充実した食料や環境を得られたからか、この町やタケルに対して好意的な気持ちを持つ人が増えた。そして、再び自分たちの居場所を奪われないためにも戦いに参加したいという人が案外多いのだ。


「……そういうもんか。分かった。それでいい」


 こうしてヤマトの町では北部の部族連合との戦いに向けての準備が始まった。号令がかかればいつでも出陣できるようにだ。


 そんな準備期間の中、鍛冶師のドワーフであるバルドに鍛冶場に呼び出された。


「ほれ、これをくれてやる」


 バルドはタケルに向かって鞘に入った剣を投げる。


「まだ満足のいく出来じゃねーが、これから戦があるんだろ。他のなまくらよりもましだ」


「おう、ありがとうな」


 タケルはその場で剣を抜くと、そこには黒光りしている刀身の刃があった。


「ははっ! かっこいいな」


「次はもっとかっこいいのをくれてやるから期待しておけ……で、勝てそうなのか?」


「ああ、余裕だ」


「ふっ、そうかよ。……死ぬんじゃねーぞ」


 タケルはニカッと笑って答えた。


 こうしてヤマトの町ではどんどんと戦に向けての準備が進んでいく。里や村の方からもあらかじめ戦に向けての人員がヤマトの町に集結した。


 準備をしている最中、クルガンがタケルの家に会いに来た。


「うまく難民たちをまとめてるみたいだな」


「はい! おかげさまで!」


「そんで何の用だ?」


「これは俺のわがままなのですが……北部の連中と戦うとき鬼人族の部隊と戦わせてもらえませんか?」


「……仇か」


 確かクルガンの話を前に聞いたとき鬼人族と戦い父親が殿に残ったという話をしていた。それゆえ仇を取りたいのかとタケルは思った。


「いえ、憎しみが全くないわけではありませんが、父が打ち取られたのは戦場での出来事です。それは恨んでも仕方ありません。ですが、これから俺が前に進むためにきっちりと区切りをつけたいのです!」


 クルガンの真剣な目がタケルの目とぶつかる。


「……分かった。一部隊をお前に任せて鬼人族の部隊と戦えるようにしてやる」


「ありがとうございます!」


 こうしてタケルはクルガンに一部隊を任せることにした。





 そして、ついに敵が動く日がやってきた。定期的に敵の様子を観察していたピルカが畑作業をしていたタケルのところにやってきた。


「動いたわよ」


「まあ、動くよな」


 相手にするのは面倒なので動かなくてもいいと思っていたが、やはり動いたようだった。


「出陣の準備を始めろ!」


 タケルが号令をかけたことで、町の中があわただしく動き出す。


「ぎゃっくさつ♪ ぎゃっくさつ♪」


 タケルの家でカリュネラがルンルン気分で戦支度をしているとそこにヴェルノアが口をはさんだ。


「カリュネラ。虐殺もほどほどにしてくださいね。人的資源というのは有効に活用すべきなのです」

「はあ? なんでお前にそんなこと言われなきゃならないんだよ」


 カリュネラが不機嫌そうに返す。久々に大暴れできる機会なので、思いっきり暴れてやる予定なのである。


「奴らには我らが勝った後に主様のために働いてもらうのですから。使える駒は多い方がいいのです」


「ふーん、まあ主のためっていうならほどほどにしておこーかな」


 広場に集まったのは合計六千人だ。内訳は獣人千人、エルフ千人、オーク千人、ホワイトウルフ五百匹、ディープスパイダー五百匹、難民や里、村からの来た者たちが二千人だ。


 集まった皆の顔は気合十分という表情で引き締まっている。


「よし、集まったな」


 タケルはそんな人たちをゆっくりと眺めた。そして出陣のための号令をかける。


「お前ら! 俺たちの領地に足を踏み入れようとしている愚か者どもを潰しに行くぞ!」


「「「「「おおおおおおお!!!!」」」」」


 こうしてタケルたちは進軍を開始した。



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