20.北部部族連合の意志
時は遡ること数日前。ここは巨人族、鬼人族、鳥人族、蜥蜴人族の連合軍の野営地。
巨人族の族長であるブラドは天幕の中で部下からの報告を受けた。
「まだ足りぬか」
各部族の者たちが周辺の村から食料を奪い取ってくるが、まだ十分な量を集められたとは言えない。敵に対応するために、手を組む相手が増えてしまったからだ。問題はそれだけではなかった。
「一般の兵が勝手に食料を食べてしまうこともありまして……」
元々空腹な者たちだ。略奪するにあたってまずは自分の腹を満たしてしまうというケースが発生するのは当然だ。
「それは仕方あるまい」
戦いをするにあたって食っている方が強いのでブラドはそれを咎める気はないようだ。
「仕方なくはあるまい。それでは我らはどこまで戦い続ければよいのだ」
明らかに違反行動をしていることを鬼人族族長のディオランが咎める。ただ暮らしていくだけの場合よりも多くの食料を消費してしまっている現状を嘆いているのだ。きちんと回収できていれば、もうこれ以上戦わずに済んだのかもしれないのだ。
「戦い、そして奪い続ければいい。我らが満たされるまでな」
ブラドは自分たちが力を得たことで、歯止めが効かなくなってきた。足らないのであれば他者から奪えばいい。自分たちにはその資格があると思っているのだ。
「いつまでも勝てるとは限らんぞ」
「それなら私がより戦いを有利に進められるものをお渡ししましょう」
いつの間にか天幕の中に入っていたノートンことラピノザが言った。ディオランはいまだにラピノザのことを信用しておらず、勝手に天幕の中に入ってきたことに対してにらみつける。
ブラドは自分たちに勝利をもたらす商人を歓迎した。
「ノートン。次は何を持ってきた」
「今回は、大量の上質な武器を持ってまいりました。また各部族の族長様のために特殊な武器を用意いたしました」
ラピノザはその場にいる鳥人族の族長ガルーダンに剣を、蜥蜴人族の族長クルドラクに槍を、鬼人族の族長ディオランの前に剣を置く。
「これは?」
ガルーダンが問いかける。
「これらの武器には攻撃速度が上がる力が付与されています」
「ほう」
ガルーダンとクルドラクが剣を手に取りよく観察する。そんな中ディオランはその武器に手を伸ばさなかった。
「俺はいらん。他の奴が使え」
「そうですか。それは残念です」
残念と言いながらも全く残念そうでないラピノザは続けて言った。
「次が目玉の商品でございます。こちらに入ってきなさい」
ラピノザが外に向かって指示を出すとそこからとある魔物が入ってきた。
「ちょうど運よく捕獲できたゼルアントの魔物でございます」
「ゼルアントの魔物だと!?」
ただの魔獣ではなく知恵のある魔物だと聞いてブラドたちは驚いた。それにゼルアントの魔物はこのグリムヴェイル大森林の中でも主の一人として恐れられている存在なのだ。
「こちらは通常の首輪の魔道具よりも強力なものでして、何とか魔物を操ることに成功しました。ただあまりに貴重な個体なため販売することはできずお貸するという形になります」
「森の主の一匹がこちらの味方になるとは……」
「これで我らが恐れるものはなくなったな」
ガルーダンとクルドラクがそれぞれ言った。
「驚くのはまだ早いです。ゼルアントの魔物の特性として、同族の魔獣を統率する能力があるのです。ゆえにこの魔物だけでなく千匹以上のゼルアントの魔獣をも操れるとお考えください」
「なんだと!?」
ディオランが思わず声を上げてしまった。
「……決めたぞ。南部もすべて我らが手中に収める」
「正気か!? そこまでやる必要は……」
ディオランは立ち上がりブラドに抗議する。
「これだけの力があるのだ。それも十分に可能だろう」
「しかし……」
「ディオラン、腹をくくれ。所詮この世は弱肉強食だ」
ディオランはこれ以上反論できず、そのまま大人しく座った。
その様子を見てラピノザの笑みは深まったのであった。
それからブラドたちは南部進軍に向けて様々な準備をしていく。
そんな連合軍の野営地の中に一人の男がやってきた。
「南部の代表の使者だと?」
「はい……そのように言っていました」
ブラドたちの頭の中には南部をすべてまとめている部族の情報はなかった。おそらく自分たちに対抗するためだろうと予測をした。
「ここに連れてこい」
「はっ」
部下が使者をここに連れてくる間に、もし降伏の宣言だとしたらつまらんなとブラドは思った。これだけの武器や魔獣や魔物が揃っているのだ。自分たちの負けは考えられない。
使者を名乗る男が天幕の中にやってきた。その男は敵中のど真ん中にも関わらず何も恐れず堂々とした振る舞いをしていた。
「これはお初にお目にかかります。私はグリムヴェイル大森林南部の支配者であるタケル様の側近のヴェルノアと申します。私の主様からの言伝を伝えにやってまいりました」
「なんだ」
「これ以上南に進むのであれば潰す。以上でございます」
ブラドの中に怒りが込み上げてきた。まるで自分たちの方が上だと言わんばかりの言動に頭にきた。
「お優しい主様はあなた方のことを思って警告を出されています。大人しく従うのがいいでしょう」
それがさも当然かの如く振舞っているヴェルノアに対しても怒りがこみあげてきたので、ブラドは机を思いっきり叩く。
「ふざけるな! 貴様らが頭を下げ食料を差し出すというのであれば話を聞いてやったものの! 我らに対してそんな脅しが効くと思っているのか!」
「そうだ! 我々が貴様らを潰すのだ!」
ブラドの反論に追随してガルーダンも反論をする。
ブラドたちはヴェルノアに対して威圧をするが、ヴェルノアは全く気にせずやれやれと言った感じで話し出す。
「やめておいた方がいいですよ。あなた方は大して強くないので。大人しく強者にこびへつらって生きていくのがあなた方にはお似合いです」
「貴様!」
「使者殿、交渉は決裂のようだ。早く去るがいい」
怒っているブラドたちに対して比較的冷静なディオランが言った。
「主様の優しい気持ちを受け取っていただけなくてとても残念です」
ヴェルノアはやれやれと言った感じで頭を振る。
「我らをそれほど侮辱してただで帰れると思っているのか?」
「思っていますが?」
ヴェルノアはブラドたちを完全に煽る。
「奴を殺せ」
ブラドは部下に指示を出す。部下たちは剣でヴェルノアに切りかかるが、あっさりと避けられてしまう。
「ここであなた方を殺してもいいのですが、もっと分かりやすく敗北を知った方がいいでしょう。それではまた戦場で合いましょう」
そう言ってヴェルノアはその場から立ち去る。
「奴を逃がすな! 追え!」
ブラドは部下たちに命令を出し、ヴェルノアの追撃を行ったが、途中で巻かれてしまった。
「申し訳ありません。逃してしまいました」
「……戦に参加する人員をもっと増やせ。南部侵略は徹底的にやる!」
こうしてブラドは南部侵略により多くの力を注ぐのであった。




