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17.難民引き取りの交渉1

 

 翌日。タケルたちは難民の引き取りの話をするために里に戻ってきた。一緒についてきたのはフィリー、フォリン、シェイド、クルガン、その他には難民の移動の際に護衛にする獣人とエルフがそれぞれ二十名ほどついてきた。


 里長のケルヴァに会いに前回やってきた役場にやってきた。アポなしだったが、スムーズに会うことができた。部屋にはタケルとフィリー、あとはクルガンが入っていった。クルガンを同席させたのは今回の話に一番関係しているからだ。


 部屋に入るや否やケルヴァは不機嫌そうに言ってきた。


「なん用だ? 今更協力しようと言われても承諾できんぞ」


 それを無視してタケルは勝手に椅子に座った。


「いや、その話じゃねー。この里の周辺にいる難民を俺が引き取るって話をしに来たんだ」


「何?」


 ただでさえ機嫌が悪そうだったケルヴァの眉の溝がより深くなる。


「そんな勝手なことをされては困る。こちらは少ない食料を分け与えているのだ。それをよそから勝手にさらっていくのはあんまりじゃないか」


「じゃあ、その分の食料を返せばいいのか?」


「ダメだ。そういう問題ではない。彼らにはやってもらうことがあるのだ」


「それはなんだ?」


「そんなもの決まっている。北部から攻めてきたときに一緒に戦ってもらうのだ」


「まあ、そう考えるよな……」


 北部から攻めてくる可能性があるという状況なら、それに使うのは不思議ではない。特に難民なんていうのは里の外の人間だ。いくら使い潰しても里には何のダメージもないのだから当然だろう。


「どうしてもダメか?」


「ダメだ」


 ケルヴァの強い拒否の態度にクルガンは思わず握りこぶしを固くする。


「うーん、それじゃあ仕方ねー。あいつらが勝手に移動したことにするか」


 そう言ってタケルはその場を去ろうと椅子から立ち上がろうとする。


「なっ! そんな勝手は許さん!」


 ケルヴァは机をたたきながら椅子から立ち上がった。


「許さんって言われてもな。こっちとしては勝手に連れて行ってもよかったんだが、あんたの顔を立てるために話し合いに来たんだ。大体あいつらのことを里の中にも入れてくれないのに面倒を見てるってことで、あの場所に拘束するのは無理があるだろ?」


「ぐっ、それは……」


 ケルヴァの里長の判断としては間違っていない。食料もなく飢えた難民たちを里の中に入れていたら間違いなく里の中は混乱するし、犯罪率も高まるだろう。しかし、それでは難民を好き勝手に扱う権利も弱くなる。実際に勝手に移動されてもそれをどうこうする力はケルヴァたちの里にはない。


 ケルヴァはしばらく悩んだ後、フィリーの方を見る。


「フィリー殿、私はこの辺り一帯のエルフを統括しているエルドール殿と知り合いです。あのお方ならこのような横暴は許さないはずです!」


「ん? なんでエルドールの名前が出てるんだ?」


「さあ?」


 フィリーもケルヴァから言われたはいいものの、なぜエルドールの名前が出てくるのか分からなかった。

 ケルヴァは少し呆れながらもタケルたちに説明をした。


「エルドール殿は村や里の間で何か問題が起きたときに調停役を担うことがあるのだ。それを知らないだと?」


「あいつ、そんなことやってたのか」


「初耳ね」


 ケルヴァはエルドールの名前を出してものんきな二人に唖然とした。エルドールはこの森の中では一目を置かれた存在なのだ。その名前を出しても二人は身を引き締めるどころか、どこか余裕すら感じられる。そんな姿を見てケルヴァは何か自分が大きな思い違いをしているのではないかと漠然とした不安に駆られた。


「いや、待て。お前たちとエルドール殿との関係はあるのか?」


「エルドールならうちの町でこき使ってるぞ」


「は?」


 ようやくここにきてケルヴァのタケルに対する認識が変わった。目の前にいるのはただの生意気な小僧ではないということに。


「町? こき使ってる?」


 ケルヴァは意味が分からなかった。あのエルドールが町で目の前の男にこき使われるなど決してあり得ないことなのだ。


「ああ、去年色々あってエルフやら獣人やらオークやらを俺が面倒見ることになってな。気付いたら町になってたんだ」


(そんな話は知らない)


 ケルヴァは里の外の情報に疎かった。タケルの町と交流があったわけでもないので、その情報がケルヴァの下に伝わることがなかったのだ。


 それに目の前にいる小僧の話が本当なら、この里の規模以上の集団だ。格下の相手だと思っていただけに動揺がひどかった。


 ケルヴァは声を絞り出すようにしてフィリーに問いかけた。


「それは本当なのか?」


「ええ、本当よ」


 ケルヴァは思わず手で顔を覆う。否定したいという気持ちが沸き上がるが、それを抑え込む。ケルヴァはやらねばならないことを提案する。


「……一度、あなたの町を見てみたいのだが、よろしいか?」


 そう現状確認だ。実際にどれほどの町なのかが分からなければ、今後の対応もできない。それに町にいるエルドールとも話をしたかった。


「難民はうちが引き取るけどいいか?」


「……半分は許可する。残りの半分は町を見てから判断をさせてくれ」


「分かった。それでいい」


 こうしてケルヴァとの交渉を終えたタケルたちは難民たちのところに向かった。ケルヴァは移動のための準備をしているので一足先にやってきた。


「それでどうなったのでしょうか?」


 タケルたちが里の外に出ると難民の代表者たちがタケルたちのところに来た。馬人族の代表が代表して尋ねてきた。


「とりあえず半分はいいって話はなったが……たぶん全員いけるな」


 ケルヴァは半分と言ってきたが、おそらく全員いけるだろうなというのがタケルの勘だ。


「それはよかったです」


 タケルからの報告を聞いて難民の代表者たちは皆ほっとする。あれだけの食料をぽんと出せる人物が治める町なのだ。この場所よりもはるかにいい場所なのは間違いないからだ。


「つっても、一度に全員を移動させるのは難しいから順次移動しろよ。一応護衛は用意したから」


「ありがとうございます」


「んじゃ、シェイド。あとは任せたぞ」


「お任せください」


 こうして難民たちはシェイドの指示に従って移動する準備を始めた。


 そうこうしているうちにケルヴァがやってきた。


「タケル殿。準備ができたぞ」


 現れたケルヴァの後ろには兎人族と魚人族の男がいた。


「こちらは兎人族の族長のノクシェルと魚人族の族長のオルケイアスだ。二人の同行も頼みたい」


「よろしくお願いします」


「よろしく頼む」


 ノクシェルは丁寧でオルケイアスは武骨な感じだ。ただ二人ともなんだかタケルのことを怪しい人物を見るかのような目で見ているが、タケルはそれを気にせず返事した。


「おお、よろしくな。んじゃ、さっそく移動するか」


 そう言ってタケルたちは森の中に移動を始めた。すると、視線の先から巨大なホワイトウルフの群れがやってきた。


「なっ! 巨大なホワイトウルフだとっ!」


 ケルヴァ、ノクシェル、オルケイアスは巨大なホワイトウルフに驚いた。しかし、今から逃げてもあのスピードには負けるので逃げられない。ケルヴァとノクシェルは戦闘能力はほぼないのであたふたするしかなかった、


「まあ、落ち着けって。あれは仲間だ」


「主お待ちしておりました」


 ラグナたちはタケルの前で止まる。タケルはラグナの頭をよしよしと撫でまわす。


「ほら、こいつらに乗って町に向かうぞ」


 そう言ってタケルはラグナに乗る。他のタケル側のメンバーも各自ホワイトウルフに乗る。しかし、ケルヴァ、ノクシェル、オルケイアスの三人は尻込みする。


「……このホワイトウルフに」


 そんな中オルケイアスが、意を決して乗る。


「ケルヴァ、我々が乗っても問題ないようだ」


「う、うむ」


 このまま立っているわけにもいかないので、ケルヴァとノクシェルは恐る恐るホワイトウルフに乗る。


 ホワイトウルフが立ち上がると、それに揺られて体が大きく揺れるが何とか乗れている。


「よし、全員乗ったな。町に帰るぞ!」


 こうしてタケルたちは町に戻っていった。



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