15.塩の調達1
「海だー!」
そう言ってタケルは砂浜から海の方に走っていく。
「海だー」
それに続く形でジルも海の方に走っていく。
「全く元気なものね」
そう言ってフィリーも海辺に近づくと
「ほれ」
とタケルが水をかけてきたが、それを避ける。
「危ないじゃない!」
「「あはははは」」
タケルとジルが一緒に笑う。
なぜタケルたちが海に居るのかというと、それは数日前に遡る。
タケルの家で皆で夕食を食べているときにフィリーから報告があった。
「エルドールからの報告があったんだけど、このままいくと塩が不足するそうよ。だから、タケルのお金で外から買い付けていいか聞かれたわ」
「別にいいぞ」
タケルには金の余裕がある。ネザリス王国との貿易で儲けたお金だ。特にタケルはコショウなどの香辛料を売っているので、かなり稼いでいる。軽くて腐りにくくて値段が高いということで商人に大人気だ。量は値崩れしない程度に制限しているため、商人たちはこぞって手に入れようとしてくる。そのおかげで鉱石を仕入れていても黒字だ。
「まとめて仕入れるなら、交渉して契約をした方がいいと思うんだけど、タケルは行く?」
大口契約の場合、値引き交渉がしやすい。ただそうなると誰が交渉しに行くのかという話になる。
「うーん、行くか。久々の遠出だし、フィリーとジルも一緒に行くか?」
「うん!」
「分かったわ」
「私もお供します」
ジルとフィリーが返事をした後、ヴェルノアも立候補した。
「いいぞ。で、どこに行くんだ?」
「エルドールに聞いたんだけど、この町の東の方に塩を生産している里があるみたいよ。そこに行く予定」
「塩を生産しているってことは、海か?」
「そうね。海はあるわね」
「おお! 海か! それは楽しみだな!」
「僕まだ海ってみたことない」
「海はな……でっかいぞー、ものすごくでっかいー」
「へぇー楽しみ!」
そんなこんなでタケルたちは塩を調達しに西の方にある里に買い出しをすることになった。
主要なメンバーとしてはタケルの他に、ジル、フィリー、ヴェルノア、フォリン、シェイド、クルガンだ。このほかに護衛兼荷運び要因として、獣人やエルフなども十数名ついてくることになった。
そして里に向かう当日、全員ホワイトウルフに乗って里に向かう。
「よし! 出発だ!」
道中は特にトラブルが起こることもなく、順調に里の近くまで来た。さすがにホワイトウルフに乗ったまま里に入ることは難しそうなので、少し離れたところでホワイトウルフたちから降りて移動することになった。
「大人しくしているんだぞ」
「分かりました。我が主!」
特に今は北側からの難民がそこら辺にいてトラブルが起こりやすい。クルガンと同じような勘違いをする奴が出てきても不思議ではないのだ。
ラグナには一切非はないのだが、余計なトラブルを避けるためにもあまり見つからないようにしてもらう。
ラグナ達と分かれてから少し歩いたところで里が見えてきた。
「ん? あれが里か?」
里は木の壁で覆われているが、その外側には獣人族、蛇人族、牛人族、馬人族、単眼族などの種族の者が大勢たむろっていた。おそらく難民だろう。
あまりに大勢の難民がいるため里の中には入らないのだろう。
タケルたちはそんな難民たちを避けながら、里の門の方に向かって行く。
「タケル様、知り合いを探しに行ってもよろしいでしょうか?」
そんな事言ったクルガンをシェイドがにらむ。クルガンは護衛としてやってきたのに私情で離れるとは何事だとということだ。
「いいぞ。行ってこい」
「ありがとうございます」
そう言ってその場を去るクルガンをシェイドはにらみつけている。
「まあまあ、家族がいるかもしれないっすからね」
「それとこれは話が別だ。せめて、自由時間にしてもらいたいものだ」
怒っているシェイドをなだめるためにフォリンが声をかけるが、シェイドとしては規律を大事にしたいのだ。
タケル一行は門の前に到着すると二人の魚人の門番にじろじろ見られた。
「何をしにこの里に来た?」
「塩を買いにやってきた」
門番はタケルとフィリーを見たあと、後ろの護衛達も見る。
「後ろの奴らはなんだ?」
「俺の護衛兼荷物持ちだ」
「……少々お待ちを」
そう言って一人が詰め所に向かう。そして、少し偉そうな門番を連れて戻ってきた。
その門番が再びタケルたちをじろじろと見る。
「行っていいぞ」
そうしてタケルたちは里の中に入ることができた。
「なんかやたらじろじろと見られたな」
「あー、たぶん難民を入れたくないからじゃないかしら?」
難民の中に獣人も混ざっているためタケルの護衛としている獣人が難民なのではないかと疑われたようだ。実際、偉い門番はその身なりを見て違うと判断して中に入れてくれた。
「大勢の難民が里の中に入ったら収集がつかないもの」
「まあ、仕方のねーことか」
里の中に入るとそこには魚人族、兎人族、蛙人族が大勢いた。この里は複数の種族で構成されているようだ。
里の中に入ってから、タケルは護衛達を自由時間にさせた。いきなり塩を買って帰るというのもあれなので、この里の中を一通り見て回ることにしたのだ。ある程度の時間が経ったら塩屋の前に集合という手はずになっている。
一緒にいるのはフィリー、ジル、ヴェルノア、フォリン、シェイドだ。
タケルたちは市場に来た。
ここでは意外なことに食料品が売られていた。この里の中はある程度の貨幣経済が出来上がっているようだ。そして、魚介類が多く売られておりそれでグリムヴェイル大森林の飢饉を乗り越えたようだった。
タケルはこの世界に来てから川の魚は食べたことがあるが、海の魚は食べたことがなかったので興味深そうに色々な店を見て回っている。
一通り見て気付いたのだが、あれがないのが気になったので、魚屋のおっちゃんに聞いてみた。
「なあ、おっちゃん、昆布ってないのか?」
「昆布? なんだそれ?」
「なに!? 昆布を知らない? こう緑色でぬめってしているやつだ!」
「なんだその気持ち悪いのは。あったとしても捨ててるだろうな」
「まじかよ! じゃあ、鰹節や煮干しは?」
「……申し訳ないが、知らん」
「知らない!? それは由々しき事態だ! 漁師に直接聞いて確かめるぞ」
鰹節はどうやってタケルも作っているのか知らないが、昆布や煮干しくらいはあると思っていた。料理の質を上げようと思ったら出汁は重要だ。ここに来たのも魚介類や出汁に使えるものを買いに来たというのもあるのだ。
そのためタケルたちは漁師に会いに海の方に向かう。
「海だー!」
タケルとジルは海に走っていった。そしてタケルがフィリーに水をかけ終わったところで
「ほら、遊んでないで漁師に話を聞きに行くんでしょ! あんまり時間がないわよ!」
と注意を受ける。
「へいへい」
そう言って海から上がり、漁師たちがいる漁港に向かう。三人ほどでたむろっている魚人の漁師たちにタケルは問いかける。
「ちょっと、いいか?」
「お、なんだ?」
「昆布って知ってるか?」
「昆布?」
漁師たちは顔を見合わせるが、誰も知らないようだ。
「こう緑色でぬめってしているやつだ!」
「ああ、海に生えてる草みてーなもんだろ」
「たまに網に引っ掛かるあれか」
どうやら漁師たちは昆布を知っているようだった。
「今、あるか?」
「今日もあったはずだが、捨てちまってるな……」
「そうか……」
タケルがしょんぼりしているところにちょうど海から帰ってくる船があった。
「兄ちゃん、あの連中が持っていることを期待しな」
タケルのあまりのしょんぼりさに漁師が励まし、一緒に帰ってくる船の連中に話してくれることになった。
「おう、ちょっといいか。この兄ちゃんがよ、あの海に生えてる草みてーなもんを欲しがっててよ。あるか?」
漁師は船の網の中を確認し、それを取り出した。
「これか?」
「それだ!」
「良かったな、兄ちゃん」
タケルの喜びように一緒についてきた漁師たちもニコニコだ。
「こんなもんが欲しいのか?」
「ああ、売ってくれ!」
「いや、いい。タダでやる」
「売り物になるぞ?」
「ははっ、兄ちゃんぐらいの変わり者しか買わねーよ」
「そうか。ありがたくもらっておこう」
タケルはもらった昆布を袋の中に詰めていく。漁師たちに感謝して、手を振りながら別れた後、塩を買いに向かうことにした。その道中でフィリーが質問してきた。
「ねえ、それ何になるの?」
「これはだな。乾燥させると、料理の出汁に使える。まあ、味に深みが増すってやつだな」
「へぇ」
「たぶん薄味好きのフィリーは気に入ると思うぞ」
「それは楽しみね」




