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14.難民たちの事情

 

 牛人族の族長がいる村。クルガンは族長である父が周囲の村長たちと話し合っているが、それが終わるのを家で待っている。


 クルガンの耳にも食料不足から争いが起こっているという情報は入ってきている。村の中にはいつ襲われるのかという不安が渦巻いている。しかし、クルガンの心の中は闘志の炎が燃えている。勝てば相手から食料を奪えるのだ。そうすれば皆救える。そんな思いが心の中に宿っていた。


 クルガンはじっとしていられずに家の前を行ったり来たりしている。


「クルガン、何をやっている」


「父上! これからどうするのですか?」


「そう焦るな。家の中で話してやる」


 クルガンの父は、家族皆を集めて話をすることにした。その場にいるのはクルガン以外に、父のガルク、母のカルディナ、長女のエウラシア、次男のボルザ、次女のミノエラだ。


「我らは単眼族、蛇人族、馬人族、獣人族と手を組んだ。そして、巨人族、鬼人族、鳥人族、蜥蜴人族と戦う。負ければ我らの食料は根こそぎ奪われ滅びる。そういう戦いだと心得よ」


 その場にいる全員が息を飲む。


「クルガン、お前は俺と一緒に戦場に向かってもらう」


「分かりました!」


 クルガンはそう言われるのを心の中では待ち望んでいた。そのため声には喜びの感情が混ざっている。


「カルディナ、家のことは任せた」


「分かりました」


 母のカルディナは冷静に任されたことを全うしようとしているが、クルガン以外の子供たちはどこか不安そうな表情をしている。


「不安そうな顔をするでない。必ず勝って戻ってくるから安心せよ」


 こうしてクルガンと父ガルクは戦に向かう準備をする。


 出発の時、クルガンは母のカルディナとハグをしてから別れる。


「無事に帰ってくるのですよ」


「必ず勝って戻ってきます!」


 そうしてクルガンとガルクは集結拠点に向かう。そこではすでに他の部族の人たちも大勢集まっていたが、どこか空気が悪かった。皆、下を向いており、この世に絶望しているような人が多かった。特にすでに大きな争いをした馬人族と獣人族のテンションが低い。それもそのはず、すでに有力な戦士は死んでおり、頼りのなるものがいないのだ、そう言った集団ではどうしても士気は下がってしまう。


「父上、この空気は……」


「仕方あるまい。それほどいい状況ではないからな」


 クルガンは自分が想像していたものとはまるで違っており、この拠点に来る前のテンションはどこかに消え去り、その空気に飲まれ胸の中に嫌な予感を抱え始めた。


 ガルクは不安そうな表情をしているクルガンを見て励ますことにした。


「そう不安そうにするな。我らが戦場で盛り立てればいいのだ」


「はい!」


 クルガンはその場に飲まれまいと気合を入れなおした。


 それから時は過ぎ、戦場で敵と相対することになった。戦場では左から蛇人族の部隊、牛人族の部隊、単眼族の部隊、馬人族と獣人族を合わせた部隊の順で並んだ。合計で六千人ほどだ。


 敵はクルガン側から見て左から鳥人族の部隊、鬼人族の部隊、巨人族の部隊、蜥蜴人族の部隊が並んでいる。さらに右端と左端に魔獣がいる。数は七千人と魔獣が千五百匹だ。


「父上、右端と左端にいる魔獣はいったい……」


「奴らは魔獣を操ると聞いた。それを知らずに戦った馬人族と獣人族は痛い目に遭ったようだ」


 魔獣は一体一体であればクルガンでも余裕で対処できる。しかし、集団となって突っ込んでくるとなるとかなり厄介そうだと感じた。


「始まったぞ」


 戦は左右の魔獣の突撃から始まった。相対する蛇人族の部隊と馬人族と獣人族の部隊は、突撃に備え槍を構えた。しかし、そんな槍を構えているのをお構いなしとばかりに、魔獣は突っ込んでいった。当然多数の魔獣が死ぬが、それでも集団としては一切勢いが衰えず、どんどん飲み込んでいった。


「なんだあの勢いは?」


 ガルクは死を恐れぬ突撃の異常さに気付いた。


 暴れまわる魔獣たちの対処に苦慮しているところに、敵は全軍で突撃を開始した。


 このまま守勢に回ったら飲み込まれると判断したガルクは敵に負けじと突撃の命令を出した。


「敵を恐れるな! 全軍突撃!」


 ガルクが突撃の命令を出すのとほぼ同時に、単眼族の族長も突撃を開始していた。


 さらに単眼族の族長は指揮を上げるため、部隊の前の方で一緒に突撃をしていた。


 そして最初のぶつかり合い。互いにやり合う形で潰しあい、状況としては五分五分の両者痛み分けだった。


「うおおおおおおおおお!」


 そこから差をつけたのが単眼族の族長だ。単眼族の中でも上位の力を持つ族長は一人でくる敵を二人、三人、四人とどんどん倒していった。


 その行動に勇気づけられた周りの単眼族たちも士気を挙げ、攻撃の勢いが強まる。


「この俺についてこい!」


 単眼族の族長が最前線で戦い皆を引っ張る。しかし、それを止める存在がいた。


 巨人族の族長ブラドだ。


「少しは骨のある奴がいるようだな」


 ブラドは王者の風格を漂わせ堂々と単眼族の族長の前に出た。


「抜かせ。俺はお前を倒して勝利を手に入れる!」


 単眼族の族長は一人でブラドに立ち向かう。


「ふん!」


 単眼族の族長はブラドの一撃であっさりと倒されてしまう。


「「「族長おおおおおお!!!!」」」


 あまりの唐突の族長の死に周囲にいた単眼族の者たちは心が折れてしまった。


「このまま一気に勝利を収める! 全軍攻めよ!」


 巨人族の族長ブラドが号令をかけると、一斉に周囲にいた巨人族たちがガンガン攻めていった。


 単眼族の族長の死は、他の戦場にも伝わった。


「単眼族の族長が死んだだと!?」


 ガルクは単眼族の族長の死に驚く。


 今の状況を冷静に分析すると牛人族以外の部隊の敗北が決定したようなものだった。そして牛人族が相手をしている鬼人族は強いと有名な部族だ。これを倒して他の不足まで相手にするほどの力は牛人族にはない。


 ならば、決断するべきことは一つだ。ガルクは隣にいた息子のクルガンを見る。


「クルガン、お前は若い衆を連れて逃げろ」


「父上!」


「敵は村人にも容赦はせぬと聞く。今まで襲われた村からの生存者はおらぬらしい。だから、お前たちはすぐに村へ戻り、逃げるように指示するのだ」


「それなら父上が逃げてください」


「バカを言うな。子が親よりも早く死ぬものではない。それにお前は一族の希望だ。生きて再興を目指せ!」


「……」


「ほら、早く行け! 敵はすぐにやってくるぞ!」


 クルガンは名残惜しそうにしながらも、この場から逃げる決心をし、歩み始める。


「つらい道を歩ませて済まんな」


 族長である父がぼそりとつぶやいた言葉が耳に届いたがクルガンを振り向かない。苦悶の表情を浮かべ、父に誓う。


「必ずや生き残った我が同族を守ってみせます!」


 その言葉を聞いた父は朗らかな笑みを浮かべ、迫ってくる敵を見つめ顔を引き締める。


「我らの家族が逃げる時間を稼ぐぞ!」


「おお!」


 そうしてその場に残る者たちと一緒に一秒でも長く時間を稼ぐことに命を使ったのであった。


 クルガンは他の仲間と共に息も絶え絶えで自分の村に到着した。そして村の人たちに逃げるように指示しながら、自分たちの家に戻っていった。


「母上! 母上!」


「どうしたのですか?」


「戦に敗れました。ここも危険です。逃げましょう」


 戦に敗れたと聞いてクルガンの母は面食らったが、一瞬で立て直した。族長の妻なだけあって色々な情報は集まっている。こうなることはある程度覚悟していたのだ。


「分かりました。それでは母はボルザ、ミノエラを連れて逃げます。あなたはエウラシアと共に逃げなさい」


「共に逃げないのですか?」


「固まっていては、万が一敵に見つかった時おしまいです。なるべく分かれて逃げた方がいいでしょう」


 クルガンとしては納得ができないというのが母からみて表情から分かった。だから、後押しする言葉を言う。


「あなたは強い子。だから、エウラシアを守ってあげなさい。逃げ延びたあと母たちを迎えに来てちょうだい」


「分かりました! 必ず迎えに行きます!」


 それからクルガンは妹のエウラシアを連れて逃げた。最初は十数人で逃げていたが、逃げている途中で他の人たちを放っておけずに一緒に逃げたり、他のグループと合流した結果百人ほどまで増えてしまった。食料が尽きかけたところで、タケルたちと出会うことになった。



  ◆



 こうしてクルガンの話は終わった。


「というのが、ここまでやってきた事情です」


 クルガンの話を聞いたフィリーたちは各々考え込んでいる。そんな中タケルが口を開いた。


「なるほどな。まあ大変だったみたいだな。……少しの間なら俺が面倒を見てやる。これからどうするのかはゆっくり決めな」


「ありがとうございます」


「あとの細かいことは……バラル任せたぞ」


「は、はい」


 そう言ってタケルは応接室から出ていくと、バラル以外の者たちも一緒に部屋から出ていった。


 部屋の中にはバラルとクルガン、エウラシアが残った。


 そしてバラルが二人に今後の説明をする。


「まず仮住まいとしてテントを用意しよう。この町はまだ発展途中で、まだ家のない者もいるのでそれで勘弁してもらいたい」


 ヤマトの町では建設ラッシュが続いているが、まだテント暮らしをしている者も多い。そのためいきなりやってきたものに明け渡せる家などない。


「問題ありません」


 クルガン達にとっては安全に休める場所があれば十分なので、それで文句はない。


「それで食事についてだが、朝昼夜の三回の食事を用意しよう。食事の時間になったら鐘が鳴るので、食堂に向かうように。時間が過ぎると食べられなくなるので注意するように」


 ヤマトの町ではタケルがほぼ無限レベルで作物を作り出すことができるため、町の人全員に無料で配っている。町の上役たちは将来的にはこれをやめる予定だが、村人たちが何かで稼ぐ手段が乏しいため、しばらくはこの体制で行く予定だ。


「あ、ありがとうございます」


 クルガン達は一日に一食出ればいい方だと思っていたが、三回も食事が食べられるということで驚いている。


「これはタケル様からの施しであるので、そのつもりでいるように」


「分かりました」


 バラルはこの返事の軽さに、このまま話を終えていいのかと悩んだ。そして、とある話をしようかしまいか、髭をさすりながら悩んだあと話すことにした。


「……実はこの施しを受けているのはお主らだけではない。我らも一緒なのだ」


「?」


「お主もこの森の住人だったのであれば分かるであろう。この森は近年作物が実りにくく、今年は特にひどかった。それが原因で儂らもつらい決断をしたことがある。そんな時、ある縁で我らはタケル様の庇護下に加わった。そして、あのお方が特別な力で食料を作り出し救われた。ここにいるのはそんな人たちばかりだ。だから、我らは皆タケル様のために働いておる。仮にタケル様に敵対するものが現れれば命を懸けてその敵を排除しに行くだろう。この町の住人たちは、それくらいあのお方には恩があるのだ。ゆえに安易な気持ちでタケル様に依存するのであれば儂らが許さない」


「……」


 クルガンは納得した。この町でタケルがなぜあんなにも慕われているのかと。


「先に言っておくが、いつまでもここにいることはできぬ。ここに残り我々と共にタケル様のために働くか、ここを去るかよく考えて決めるといい」


 バラルはクルガンとエウラシアに問うたのだ。自分たちと一緒にタケルたちのために働けるのかと。飯にありつけるからと安易な気持ちでタケルに依存するようであれば、バラルが許さない。そんな覚悟をぶつけた。


「分かりました」


「それではお主たちの仲間も心配していることだろう。早く戻るといい」


「ありがとうございます」


 クルガンは感謝を伝えたあとエウラシアも頭を下げて感謝の気持ちを示す。そして応接室から出ていった。


 役場から出たところでエウラシアがクルガンに話しかける。


「これからどうするおつもりですか?」


 クルガンの心の中に色々な思いがうごめく。父との約束である家の再興。母を迎えに行くという約束。そして、守るべき同族たち。


 自分の目的を果たすのに何が最適なのかを考えた。このまま当てのない逃避行を続けても何か得られる保証はない。それどころか運が悪ければ餓死だ。そんな博打には出られなかった。


「俺はタケル様の配下に加わろうと思う」


「分かりました。私もそれが良いと思います」


 クルガンの宣言を聞いたエウラシアはほっとしたようににっこりと笑い同意した。


 そして後日、改めてタケルたちとクルガン、エウラシアの面談が開かれた。


 クルガンとエウラシアは跪き願いを申し上げた。


「どうか我らをタケル様の配下に加えてください!」


 タケルは声こそ出さなかったが、どうしていきなりこんなことになったのか理解不能だった。


 そして左右に居るフィリーたちを見るが何の反応もなかった。これはどっちを決断しても問題ないパターンだ。そうじゃなければ、何か言ってくるからだ。


 ということで、タケルは少しばかり考えたあと決断をする。


「……俺の配下になったら厳しいぞ? それでもいいのか?」


「はい! 全身全霊を持ってタケル様に仕えさせていただきます!」


「分かった。今日から俺が面倒を見てやる。あとの細かいことは……バラル任せた!」


「はい!」


 こうしてクルガン達牛人族がタケルの配下に加わったのであった。



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