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12.難民1

 

 グリムヴェイル大森林南部。ヤマトの町がある周辺の森の中。獣人三人とエルフ二人の五人チームを組んで狩り兼見回りをしていた。


 すると、何やら人の気配を感じたため、武器を抜き警戒するようにこっそりと接近した。気配の先には、女子供を含む百名ほどの牛人族がいた。その姿はボロボロでどこからか逃げてきたような様子だった。その集団の周囲には男たちが守るように警戒をしていた。


「どうする?」


 獣人がエルフのリーダーに話しかける。


 こちらには気付かれていない様子だが、このまま進むのであればヤマトの町にぶつかってしまう。それは見過ごせないため、少し警戒しながらも集団に話しかけることにした。


「とりあえず話しかけてみるか」


 そう言ってエルフ二人と獣人二人は集団の前に姿を現す。万が一のために、一人はそのまま潜伏している。


 姿を現したことで、牛人族の男性陣は一気に警戒を高め、武器を抜く。


「ここから先はタケル様の領地だ。俺たちに何か用か」


 エルフのリーダーが牛人族たちに問いかける。すると、牛人族のリーダーらしき人物が警戒しながらも質問に答えた。


「いや、俺たちはこの森の北側から避難してきたものだ。当てもなくさまよっていたので、どこかの村などを目指していたわけではない」


「そうか」


 エルフや獣人たちは少なくともヤマトの町に攻めに来たわけではないことが分かったので、警戒心は弱まった。


「あなた方の村に厄介になることはできないか?」


 牛人族のリーダーが一縷の望みにかけて真剣に頼んだ。


 エルフは狩りのメンバーのリーダーであるが、こういった対処に慣れているわけではないし、何かルールで決まっているわけでもない。そこでエルフのリーダーは他のメンバーに相談をした。


「どうする?」


「どうするって……」


 数人程度であれば、町の中に入れても構わない。しかし百名近くのよそ者となると、そう簡単に中に入れていいわけがない。しかし女子供がいるのだ。町の中に入れてあげたい気持ちもあるが、よく分からない集団をそのまま中に入れてもいいのか、一介の兵士には分からなかった。


「タケル様に判断を仰ぐしかないだろ」


「だな。俺が行ってくる」


 そう言って一人の獣人がタケルを呼びに町の方に走って帰っていった。


「少し待ってくれ。今、あなた達を町の中に入れていいか聞きに行った」


「ああ、助かる」


 町の中に入れてもらえるかもしれないということで、牛人族の者たちはひとまずほっとした。ずっと森の中を移動していて心も体も疲弊していたからだ。特に女子供が安堵している様子が分かりやすい。


 そんなところに遠くから異変を感じてホワイトウルフに乗ったダルムが二人ほど獣人を伴ってやってきた。


「一体どうしたんだ?」


 エルフたちに事情を聴こうと問いかけたところ、急に牛人族のリーダーがブチ切れた


「貴様らもあいつらの仲間か!」


 そう言うや否や、いきなりダルムに剣で切りかかったが、ダルムがそれを受け止める。


「一体、何の話だ?」


「黙れ!」


 ダルムは剣を弾き飛ばし、距離を取った。ホワイトウルフに乗ったままでは戦いにくいので降りた。そして、敵に対して身構える。


「これはどういうことだ?」


 ダルムは仲間たちに問いかけた。


「分からん! が、きっとこいつらは何か勘違いしている!」


 その仲間たちも敵からの攻撃を仕掛けられており、応戦しているが、戦いには消極的なようだ。


 ダルムは女子供たちを見る。事情はよく分からないが、女子供を連れているせいで警戒心が強いせいかと判断する。


 しかし、そんなダルムたちの事情はお構いなしとばかりに牛人族の者たちは攻めてくる。特にリーダーの攻撃は激しい。


「はああああああああ」


「くっ」


 牛人族のリーダーからの連撃を何とかダルムはさばいていく。相手は疲労しているにも関わらず、一撃一撃が重い。


「タケル様を呼んでいる。それまでしのげ!」


 しかし、状況は劣勢だ。敵で戦えるのは二十名。護衛のために五名ほど残っているが、今こちらは七人と三匹で数的不利だ。獣人とエルフたちは固まって、ホワイトウルフが素早く移動してかき乱しているおかげで何とかやれている。


「くっ!」


 牛人族のリーダーとダルムの実力は拮抗している。しかし、ダルムはこの状況がよく分からず行動に迷いが生じているだけでなく、周囲の仲間たちの様子も気になるし、相手を殺していいかも分からない。一方、牛人族のリーダーはダルムを殺す気満々だ。その意識の差が、ついに出た。


「しまっ!」


 ダルムの剣が弾き飛ばされる。


「死ね!」


 無防備なダルムに向かって牛人族のリーダーの剣が振り下ろされる。


 ダルムは思わず目をつむってしまう。が、キンッという音と共に何かに攻撃が防がれた音がした。


 ダルムがゆっくりと目を開けると、


「おい、一体なんの真似だ?」


 そこにはブチ切れたタケルがいた。


 獣人が呼びに行ったあと、タケルはすぐにこの場所に向かっていたが、途中で異変を感じ急いでやってきた。そうしたら戦闘になっているだけでなくダルムが殺されかけていた。


 事情がどうであれ、仲間が殺されそうになって平然としていられるほどタケルは甘い奴じゃない。


「貴様がこいつらの親玉か!」


 牛人族のリーダーは鍔迫り合いをしているタケルを憎しみの籠った目でにらみつける。それに対抗するようにタケルも相手をにらみつける。


「うるせーよ!」


 タケルは鍔迫り合いいのまま相手を押し返す。


「そっちから手出してきたんだろ? なら覚悟はできてるよな?」


 タケルは改めて牛人たちを威圧する。


「くっ! こいつは他の奴より数段強い! 手を貸せ!」


 牛人族のリーダーがそう言うと、二人ほど加わってきた。こうしてタケルは三人を相手にすることになる。


「それだけで相手になると思ってるのかよ。面倒だ。まとめてかかってこい」


 タケルの左側にいた牛人がタケルに向かって切りかかる。それを紙一重でかわし、そのままカウンターで右手でぶん殴った。顔面をやられた牛人は吹っ飛ぶ。


 ぶん殴って隙ができたところに右側にいた牛人が、切りかかってくるが、上段の構えで隙が出た腹に後ろ蹴りを食らわす。お腹に蹴りを食らった牛人はくの字になりながら吹っ飛ぶ。


「はああああああ」


 残ったリーダーも勇猛果敢に攻めてくるが、相手の上段切りをタケルは剣で防ぐ。牛人族のリーダーがそのまま押し切ろうと力を込めた瞬間にタケルは力を弱めて引く。力み過ぎていた牛人族のリーダーが前のめりになったところに、タケルは足を引っかけて転ばせる。完全に重心が崩れていた牛人族のリーダーはそのまま地面に突っ込む。


 そしてタケルは剣を持っている手を踏み、首に剣を差し向ける。


「お前ら全員動くな。こいつを殺すぞ?」


 タケルは目の前にいた男がリーダー格だと判断し、人質にすることにした。すると、他の場所での戦闘も止まった。


 すると、一人の牛人の若い女が前に出てきた。


「お待ちを! どうか話だけでも!」


「お嬢様、危険です」


 その女を引き留めるかのように護衛についていた男が引き止める。


「そっちから襲っておいて、状況が悪くなったら話を聞けだ? 随分とおめーらに都合がいい話だな?」


「っ!」


 タケルの圧と図星を突かれたことで、牛人の女は反論できなかった。


「……殺しはしない。でも、二度と俺たちの町に近づくな。今度近づいたら問答無用で殺す。いいな?」


 女子供を連れた集団だ。何か事情があることは様子を見れば分かる。しかし、ここで甘い対応をすることはブチ切れているタケルにはできなかった。


「ちょっと待ってほしいっす! 兄貴!」


 フォリンがタケルの決定に口を挟む。フォリンのいきなりの行動に周りの獣人やエルフが驚く。


「なんだ? フォリン」


 珍しくブチ切れているタケルの圧に当てられ、フォリンは思わず唾をごくりと飲む。


「いや、その、話だけでも聞いてあげて欲しいっす。なんだか、昔の自分を見ているみたいで……ちょっと放っておけないっす」


 タケルはフォリンとの最初の出会いを思い出す。確かにあの時のフォリンはかなりイキっていた。


「くっはっはっはっは。確かにあれはひどかったな」


「勘弁してくださいよ! 兄貴!」


 先ほどまでの緊張感が霧散し柔らかい空気になった。


「いいだろう。全員生きていることだし、フォリンに免じて話だけは聞いてやる。俺の町に入る気があるなら、武器は預けろ。それが条件だ」


 そう言ってタケルは剣を収めリーダーの手から足を退ける。すると、牛人族のリーダーのところに、先ほど反論した女がやってきて抱え起こした。


「すまない」


「いえ」


 そこにフォリンがやってきた。


「兄貴の話を聞いていたっすよね? うちの町に来るなら武器を預かるっすよ」


「……」


 牛人族のリーダーは躊躇した。


「お兄様、とりあえず今はあの者たちと話をするのが先決です。それに私たちを殺す気なら先ほど殺すこともできました。ここは武器を預けましょう」


「……分かった」


 牛人族のリーダーはフォリンに武器を渡した。


「あの、先ほどは助かりました」


 牛人の女がフォリンに話しかける。


「事情はよく分からないっすけど、お腹が空いて苦しい気持ちは俺っちも知っているっすからね」


 フォリンはあの時、自分も空腹でこれから先の見通しも暗く絶望していたからこそ、視野が狭まっていた。そういう時は間違いを犯しやすい。過去に自分が失敗したからこそ、目の前に同じような人を見かけて放っておけなかったのだ。


「本当にありがとうございました。このご恩はいつか必ず返させていただきます」


 リーダーの妹は頭を下げる。


「いやいや、恩返しなんてしなくて大丈夫っすよ! たいしたことしてないっすから!」


「いや、でも」


「それじゃあ、兄貴のことをあんま嫌いにならないで欲しいっす。多分、兄貴は本当は穏便に済ませたかったはずなんすよね」


 タケルはむやみに人の命を奪わないということをフォリンは知っているのだ。今回も結局誰も死んでいない。タケルはやろうと思えば全員すぐに殺せる。けど、やらないのである。


「分かりました」


「それはよかったっす! 兄貴はすごくていい人なんすよ? まあ、それは町に来れば分かるっすね。ほら、手が空いてる人は荷物を持ってあげるっすよ!」


 フォリンはその場にいる連中に指示を出しに向かった。


「お兄様、ここから先はよく考えてから行動してくださいね」


「……分かった」


 フォリンが言っていることが事実だとすれば、牛人族は明らかに対応を間違えたことになる。今回はフォリンのおかげでどうにかなったが、次も大丈夫という保証はない。だから、リーダーの妹は兄に釘を刺さずにはいられなかった。


「ほら、行くぞ」


 タケルはラグナに乗って号令を出した。タケルを先頭に集団は町の方へと向かって行った。



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