11.グリムウェイル大森林北部の争い3
ブラドは巨人族だけでは獣人族と馬人族の両方を相手にするのは厳しいと判断し、自分たちもまた他の種族と手を組むことを選んだ。
ブラドは元々友好的な関係だった鬼人族にその打診をしに鬼人族の族長のところに向かった。
そうして鬼人族の族長が自宅にブラドを迎え入れた。
「久しぶりだな、ディオラン」
「久しぶりだな、ブラド」
ブラドと鬼人族の族長ディオランは知り合いだった。二人とも同族の中で腕が立つものとして見られており、そこそこの交流があった。くしくも二人ともこの厳しい時代に族長になったのだ。
正直ディオランは久しぶりに会ったブラドが昔のブラドとはまるで違い一瞬大きく見えた。
「派手にやっているらしいな」
「責める気か」
ブラドはいきなり責められたと感じディオランをにらみつける。
「いや、そうではない。だが、暴れれば暴れるほど敵は増えるぞ」
「それはそうだな。ちょうどその件で話に来たのだ。どうやら俺たちに対抗して獣人族がミノタウロス族と手を組んだらしい」
ディオランもその話は噂程度であるが、耳にしていた。だが、それも当然だ。一方的にやられてそのままの部族はグリムヴェイル大森林の中にはいない。そんな甘い場所ではないのだ。
「それでだ、まずはお前に見てもらいたいものがある。ちょっと森の中まで付き合ってくれ」
「……」
「安心しろ。別にお前を殺りに来たわけではない」
「いいだろう」
ディオランは多少警戒しながらも承諾した。ブラドはわざわざそんな小細工を使うような人物ではないからだ。さらに獣人族、馬人族だけでなく自分たちまで敵に回すとは考えにくい。
ディオランはブラドの案内で森の中に入っていく。
「この辺でいいだろう。出てこい」
ブラドの部下の巨人がブラックパンサーと一緒に出てきたことでディオランは剣を抜く。
「待て、慌てるな。これが俺の新しい力の一つだ」
「一体どういう……」
ディオランが困惑しているが、ブラドはお構いなしに部下に指示を出す。
「おい、何か指示をしろ」
「この木の上に登れ」
ブラドの部下がブラックパンサーに指示を出すと、その指示通りに木の上に登った。
「見たか? 俺たちは魔獣を操る力を手に入れた」
「そんな力をどこで……」
ディオランは驚愕の目でブラドを見る。
「ある商人と契約をしてな。それでもらった魔道具の力だ」
「それは大丈夫なのか?」
この不思議で強力な力を持つ魔道具をなぜ巨人族に売るのか。どう考えても怪しい匂いしかしない。
「分からん。正直、奴のことは信用していない。だが、使えるものは使う。そして同族を救うと俺は決めたのだ」
ディオランは久しぶりに見たブラドが少し大きく見えた理由が分かった気がした。ブラドは同族を救うと覚悟を決めていたのだ。それがブラドを変えた。
「俺の下につけ。そうすれば全員食えるだけの食料を与えてやる」
ブラドは力強く宣言する。その言葉の裏にはそう断言できるだけの自信がある。
その言葉を受け、ディオランは少し沈黙して考え込む。
「……協力はしてやる。だが、お前の下につくわけではない。それを覚えておけ」
「俺たちに手を貸すのであれば、それでいい」
ブラドとディオランは力強く握手を交わす。こうして巨人族と鬼人族が手を組むことになった。
獣人族と馬人族は巨人族と戦うために集結し三千人ほどの軍を作っていた。ブラドたちはこれを無視することができなかった。これを放置すれば自分たちの村がやられてしまうからだ。そうなると互いに村を滅ぼしあう形になるので、それはあまり望ましくない。
そこで巨人族と鬼人族もそれに対抗するために集結し三千人の軍を結成した。
二つの軍が距離を取ってにらみ合っている。特に獣人族の目には憎しみが宿っている。
ブラドは自分の軍の前に出て演説をする。
「皆知っていることだと思うが、我らには食べ物がない。このままでは春を迎えることなく多くの餓死者が出るだろう。それを許せるか? いや俺は許せない! 何もせず同胞たちが死んでいくのをただ見ている。そんなふざけた話があるだろうか! だからこそ、我らは武器を取った! この手で食料を手に入れるためだ! 我らは黙って死にゆく者ではない! 我らは自分の手で生を掴み取る者たちだ! 気合を入れろ! 目の前の敵を倒し、生きる糧を手に入れるために! 全軍、俺についてこい!」
「「「おおおおおおお!!!!!」」」
ブラドの檄に冠かされ巨人族と鬼人族の兵士たちが雄叫びを上げる。
「全軍、突撃!」
テンションが上がったまま全軍が獣人族と馬人族に向かって突撃をしていく。
「全軍、突撃!」
ブラドたちに対抗して馬人族の将軍もまた突撃の指示を出した。
最前線を走っている者たちの距離が徐々に近づいていく。
最初のぶつかり合いが生じる。勝ったのは巨人族の者だった。そして他の巨人族や鬼人族もその勢いに乗って優勢に戦いを進めていく。
馬人族の将軍は相手の士気が高いことを受けて、こちらも檄を飛ばした。
「この戦で負ければ、我らは愛する家族を失うのだ! 全員、気合を入れろ!」
その激に刺激され、獣人族や馬人族の目つきが変わる。そして、防戦一方だった状態から、徐々に盛り返し始めた。
しかし、ブラドはここでさらなる攻撃の手を追加した。
「旗を上げろ!」
部下に指示を出して旗を上げさせた。そしてしばらくすると、左右からそれぞれ五百のブラックパンサーやウォーベア、ワイルドディア、グレイブボアなどの様々な魔獣が一斉に獣人と馬人族の軍に襲い掛かった。
いきなり魔獣が襲い掛かってきたこともあり、軍の両側からどんどんと削られていった。
「なんだ? この数の魔獣は?」
あまりの異常事態に馬人族の将軍は思考が止まってしまう。
ブラドたちは徹底して村人を捕獲していたので、まだ魔獣を操っているという情報が洩れていなかったのだ。
そのためこの状況に対しての判断が遅れてしまう。そして冷静に判断する余裕をブラドは与えない。
「貴様が将軍だな」
ブラドは旗を上げると同時に敵の将軍に向かって突撃をしていた。その勢いはすさまじく、途中に居た者たちは屍になっていた。
将軍に肉薄したブラドは棍棒で指揮官を殴りつける。それを馬人族の将軍は受け止めるが、あまりの衝撃の重さに大きく吹き飛ばされてしまう。
馬人族の将軍はギリギリのところで意識が残ったが、一つだけ確かに分かったことがある。この戦は負けであるということだ。
「全軍、退却だ! 少しでも多くの者が生き残るのだ!」
馬人族は槍を地面につき何とか起き上がる。
「俺が時間稼ぎをする。お前たちは逃げ延び家族と共に逃げるのだ」
「しかし……」
「行け!」
そう言って馬人族の将軍はブロムに攻撃を仕掛ける。その様子を苦しそうに見ながらも部下たちは逃げる選択をする。このままでは確実に村が襲われる。その前に逃げるしかないが、その時も戦力はあったことに越したことはないからだ。
ブラドは将軍の攻撃を受けながらも、周囲に指示を出す。
「追撃しろ! より多くの者を捕らえるのだ!」
こうして巨人族と鬼人族の連合軍が勝利することになった。
敵は逃げ切ったものもいるが、降伏した者も結構な数がいる。
ディオランはブラドの指示通り可能な限り多くの兵士を取られるように動いたが、不可解なことがあったためブラドに問いただした。
「兵士を捕らえてどうする? 奴らに食わせてやるものはないぞ」
食料を奪うために戦っているのだ。それを捕虜だからと言って与えることは難しい。
「奴らは売る」
「売る、だと?」
ディオランは意味が分からず困惑しているとそこにラピノザがやってきた。
「これはこれは。今回も素晴らしいお点前でした」
「なんだ貴様は?」
ディオランはいきなりやってきたラピノザを訝しむように見る。
「おや? ブラド族長からお聞きではない?」
「こいつが例の商人だ」
「お前がっ!」
「初めましてノートンと申します。以後お見知りおきを」
ラピノザはノートンという偽名を名乗り、ディオランに向かって丁重な挨拶をする。
「それでブラド族長。今回もすべて我らが引き取って構わないのですよね?」
「ああ、それで頼む」
「かしこまりました」
ラピノザは頭を下げると、そのまま作業をしにその場を去る。そしてディオランはブラドに詰め寄る。
「いったいどういうつもりだ。敵を殺すならまだしも奴隷として売るなんて正気か?」
死ぬのであれば苦しみは一瞬だ。しかし、奴隷として売られればその苦しみは長年続く。ディオランとしてはこのままあっさりと殺してやった方が敵にとってもいい話だと思っていた。
「何を腑抜けたことを言っている。これは生きるか死ぬかの争いだ。勝者が敗者をどう扱おうと非難されるいわれはない。彼らを売ることで我らは強力な魔道具を手に入れられるのだからな」
「しかし……」
ディオランは反論しようと思うが、実際にそのメリットを享受しているがゆえにその言葉は出てこなかった。
「生きられるだけでも感謝して欲しいくらいだ」
ブラドはそう言って、その場から去っていった。
一人取り残されたディオランはラピノザの部下たちが腕輪や足輪で拘束しているのをただただ見ているしかできなかった。
「もう引き返すことはできぬか」
そう言ってディオランは握りこぶしを固くした。
ブラドとディオランはある意味共犯関係だ。あの魔道具の恩恵を受ける以上、ある意味ディオランも同罪になるのだ。こうしてその現実を突き付けらえる形で覚悟を決めるしかないディオランであった。
ブラドは自分の陣地内で巨人族と鬼人族の上役たちが集まっている場所の上座にある椅子に座った。今後の方針を示すことにした。
「より多くの村を襲い食料を手に入れるぞ。邪魔するものは容赦しない」
こうしてブラドたちはグリムヴェイル大森林の北部の様々な部族の村から食料を略奪しき戦火はどんどん広がっていった。
そして、グリムヴェイル大森林北部全体の支配者が誕生しつつあるのであった。




