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9.グリムウェイル大森林北部の争い1



 時は遡り、タケルがヴェルノアを仲間にした少しあと。グリムヴェイル大森林の北側では、少ない食料を巡って壮絶な争いが起ころうとしていた。


 そんな中、ラピノザとカーニアは他の仲間を連れて工作活動に勤しんでいた。仲間の数はラピノザとカーニアを除いて五人だ。


「ひま~」


 カーニアは荷物を載せたガルホーンに乗りながら、つまんなそうに言った。


「ねえねえ、仏頂面のメトラ君。なんか面白いことやってよ!」


 カーニアは後ろについてきていたメトラに嫌な注文をした。


 メトラは今回率いている商隊の副隊長だ。ガルホーンを使って商品を運ぶために、本部から指示された。


「断ります。それは俺の仕事じゃないので」


「ラピノザ~! メトラが意地悪する!」


「どちらかというとカーニアさんの方が意地悪していますよ」


 どう考えてもカーニアがメトラに無茶ぶりをしていたので、ラピノザはメトラの肩を持つ。


「そうやって二人して私を暇にして殺そうとするんだ!」


「暇で人は死にません」


「いじわる!」


 カーニアはこうやって喚くことでストレスを発散している。ラピノザはそれを分かっているので、爆発しない程度に好きにさせておく。


「暇で死にそうなカーニアさんに朗報です」


「何?」


「そろそろ目的の村に到着です」


「おっ! やっとかー」


「ええ、ですので、ガルホーンの上で大人しくしていてください」


「ぶーぶー」


 カーニアは暴れさせろと不満を表しているが、ラピノザは無視する。商売する相手を武力で脅しても意味がないのだ。


 ラピノザたちが到着した村は、木で作られた壁で周囲を覆われた巨人族の村だった。巨人族は体格がよく成長すると身長が二メートルを超えるものがほとんどの種族だ。


 ラピノザたちは商売をしに来たという体なので、正面の門から訪問する。


「行商としてやってきたノートンと申します。どうか門を開けてください」


 ラピノザは偽名としてノートンという名前を名乗った。


 すると物見やぐらに待機していた巨人は訝しむようにラピノザたちを見た。普通の行商人とは毛色が違う。そのため安易に中に入れていいのか判断がつかなかった。


「しばし待て」


 そう言い残し、門番は村長を呼びに行った。ちょうど村の外で上役の巨人たちと何かを相談しているところに出くわした。


「ブラド村長、今門の前に行商人がやってきているのですが、なんだか怪しい奴でして。どうしますか?」


「怪しい奴?」


「どこかの村の手の者か?」


 村長ではない上役の巨人が門番に質問をする。


「それは分かりません」


「とりあえず見に行く」


 村長であるブラドはこのままでは埒が明かないと思い、実際にその怪しい行商人とやらを見ることにした。


 門の近くに立っている物見やぐらから、ラピノザたちを見下ろした。


「殺して奪うか?」


 上役の巨人がブラドに問いかける。これから自分たちがやることを考えれば、それも一つの手段となる。


 ブラドはその問いにすぐに答えることをせず、ラピノザたちを観察した。


 ガルホーンの上に座り足をぶらぶらしているカーニアを見る。するとカーニアと目が合い、にやりと笑った。その瞬間、村長であるブラドはぞくりと嫌な予感がした。


「待て。こんなところにわざわざ来る連中だ。それなりの強さは持っているはず。今、無駄に争うわけにはいかない。迎え入れる。門を開け!」


 ラピノザたちを迎え入れるために、門が開く。


 それを待っている間にラピノザは小さな声でカーニアを諫める。


「全くカーニアさん、ほどほどにしてくださいよ」


「何の話?」


 カーニアはとぼける。それを見たラピノザはやれやれと言った感じだが、これからの交渉に向けて頭を切り替えた。


 ラピノザたちは門をくぐるとそこには巨人たちが待ち構えていた。あまり歓迎されている様子ではなかったが、そんなのはお構いなしとばかりにラピノザは前に出た。


「私、行商人をやっております。ノートンと申します」


 ノートンことラピノザは優雅にお辞儀をして挨拶をする。


「村長のブラドだ」


 ブラドは多少警戒しつつも、名を名乗った。


「おお! それはちょうどいい! できれば村長様とお話をしたいことがありまして」


「……なんだ?」


 ブラドは一瞬迷ったが、話を聞くことにした。もう招き入れてしまったのだ。話を聞かないのもおかしな話だろう。


「あなた方の事情は知っています。食料が不足しているのですよね?」


「ならお前たちは食料を売りに来たのか?」


 ブラドはそうであればいいという願望を乗せて声に出した。


「いいえ、残念ながらそうではありません。私たちが売るのは、とある魔道具です」


 巨人たちはなぜ魔道具を売りに来たのか分からない様子だった。そこでラピノザは補足を付け加えた。


「あなた方はどこか別の村でも襲って食料を手に入れるつもりなのでしょう?」


 その瞬間、巨人たちが一斉に殺気立つ。中には武器を手にかけたものもいる。彼らは情報が漏れたと判断したのだ。そうであれば目の前にいる奴らを外に出すわけにはいかなくなる。


 しかし、村長のブラドが他の物たちが勝手な真似をしないように手で制す。


「誰に聞いた?」


「それは簡単な予想です。食料がなければ奪うしかないでしょう?」


 巨人たちの殺気立った中でも、ラピノザは涼しい顔のまま、さも当然のことかのように話す。


 しばしの沈黙のあとブラドは重い口を開いた。


「……なるほど。確かにそうかもしれんな。それで、そんな我らに何を売りに来た」


「略奪を行うあなた方におすすめしたいのが、こちらの首輪の魔道具です」


 ラピノザは首輪の魔道具をカバンから取り出し、手に持つ。


「この首輪の魔道具を使えば、どんな魔獣でも意のままに操ることができます。時に主戦力として時に奇襲役として時におとりとしてなどなど様々な用途で魔獣を使うことができます。……と、言っても信じられないでしょうから、実際にこの首輪で使役するところをご覧に入れましょう」


 ラピノザの部下が布で覆われた檻を持ってきた。その布を外すと、その中にはブラックパンサーという魔獣が入っていた。


「このブラックパンサーはここに来る途中で捕まえた個体です。ほら、獰猛でしょ?」


 ラピノザが檻の方に手を伸ばすとそれをひっかこうと攻撃をしたが、檻に阻まれている。そんな様子を巨人たちは黙ってみている。


「ですが! この首輪をつければあっという間に従順になります。見ててください」


 そう言って、檻からブラックパンサーを出すために鍵を開ける。すると、ブラックパンサーは勢いよく飛び出て、この場から逃げようとするが、メトラが捕獲する。


 ブラックパンサーは暴れようとするが、その前にラピノザが近づき首輪をかける。


「これでもう安心です」


 先ほどまで暴れようとしていたブラックパンサーは大人しくなり、メトラの手から離れても逃げるそぶりを見せなかった。


「「「おお!」」」


 巨人たちはブラックパンサーの変わりように驚きの声を上げる。


「どうです?」


 そう言ってラピノザはブラドの方を見る。ブラドがどう反応するか判断に迷っていたところ、ラピノザが次の口を開く。


「もちろん言いたいことは分かっております。これだけじゃあ、言うことを聞くかどうか分からないということですよね。私たちの周囲を一周回ってきなさい」


 ラピノザがそう命令すると、ブラックパンサーはラピノザたちの周囲を一周して戻ってきた。


「次は何があっても鳴かず動かないように」


 ラピノザはそう命令した後、メトラにブラックパンサーに剣で突き刺すように指示を出した。


 メトラがブラックパンサーに向かって剣を何か所か突き刺すが、ブラックパンサーは動く様子がない。


「っ!」


 その様子を見た巨人たちは、驚きの表情でいっぱいだ。普通魔獣に限らず生き物であれば痛めつけられたら間違いなく抵抗する。しかし、その様子が一切なく、さらに鳴き声も発さない。それはあまりに異常な光景だった。


 そしてパフォーマンスは続く。


「先ほどと同じルートで周囲を回りなさい」


 体が傷つきよたよたとした歩きだが、それでも必死に先ほどと同じルートで回ろうとしている。


「……これほど命令を聞くのかっ!」


 ブラドのつぶやきには驚きと恐怖の感情が混ざっていた。しかし、それと同時に別の思いも生じていた。


(しかし、この力があればより安全に仲間を救える!)


 そう村長としての思いだ。そして村長としてブラドは冷静に判断をしなければならない。


 なぜなら目の前にいる男は商人だ。商人が何らかの利益を求めることくらいは知っている。それ次第では断らなければならない話かもしれない。


「見返りはなんだ?」


 ラピノザはにやりと笑う。


「話が早くて助かります。我々は奴隷を求めています」


 それを聞いた巨人たちは眉を顰め、緊張感が増す。グリムウェイル大森林よりも北に位置する国ではア人種は奴隷として扱っているところもあるのだ。しかもかなり扱いが悪いと聞いているので、巨人たちにとって気分がいい話ではない。


「もちろん、あなた方の仲間を差し出せと言う話ではありません。我々が手にするのはあなた方が滅ぼす村の人たちですね」


 それを聞いて巨人たち緊張感が少し和らいだ。しかし、それでも納得しているものは少ない。その様子を無視して、ラピノザは演説を続ける。


「正直な話、争いに敗れ村がなくなっている者の方が、奴隷として扱いやすいのです。帰る場所がない者であれば逃亡しようとも思いませんし」


 ラピノザは信用してもらうために自分たちの利益になる話だと説明を加えたのだ。さらに帰る場所のあるものを奴隷にするのは大変だと説明をすることで、巨人たちは対象ではないということも分からせた。


「あなた方が気に病む必要はありません。奴隷であれ生きていけるのですから。そのまま放置されて餓死するよりもはるかにましだとは思いませんか?」


 そうブラドたちはラピノザの提案を受けようが受けまいが、食料を奪うために村を襲うのだ。当然奪うのであれば根こそぎ奪う。そうなればその村人に待っているのは死。それと比べれば幾分ましだと、自分たちの罪悪感をごまかす言い訳を用意された。


 だとすれば、あとは決断するだけ。そして、その腹はもう決まっている。目をつぶってラピノザの話を聞いて考え事をしていたブラドは目を開いた。


「分かった。それで手を打とう」


「賢明な判断をされて何よりです」


 ラピノザはブラドに向かって商人的な笑みを浮かべた。


 そしてラピノザは商品を受け渡しのための作業に移っていった。その対応は部下たちがやるということで、ブラドとその上役たちはその場から少し離れたところで話を始めた。


「あの男を信用するのか?」


 上役の巨人が厳しい目でブラドをにらみつける。正直、気分のいい話ではないのだ。確かに奪う。が、他者の力を借りて行うというのは、どこか自分たちのプライドを傷つけるものだ。


 それにあの商人たちもうさん臭さが出ている。


「信用はしていない。だが、使えるものは使う。それだけだ」


 しかし、ブラドは揺るがない。仲間を生かすために、手を汚す覚悟はもうとっくにしていた。であればより被害が少なくなるだろう手段を選ぶのは村長の判断としては間違っていない。


「分かった。お前がそう判断するなら従おう」


 こうしてブラドたち巨人族は大きな力を手に入れたのであった。



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