8.ネザリス王国への道
雪が解け、冬の終わりが近づいてきた。
そんなある日、フィリーがタケルにネザリス王国との交易の道ができたという報告をした。
「タケル、ネザリス王国との道ができたみたいよ」
馬車がすれ違えるくらいの広さの土の道路だが、これでとりあえずネザリス王国と交易が行えるようになった。
「おっ、ようやくか!」
「それでね。一応話として決まっているのが、開通の儀礼としてゼルファス様がやってくることになっているわ」
この世界では大きな道が開通したら偉い人が通ることで、開通の合図とされるようだ。
この儀礼はタケルがネザリス王国に行くという話も合ったのだが、畑の面倒を見るために断った。またゼルファス側もどこの国にも所属せず、よく分からない人物を王宮に招いて歓迎するのは、ちと面倒だということで、ゼルファスがヤマトの町にやってくるという話になった。
「それはちょっと楽しみだな」
それから時は過ぎ、ネザリス王国からゼルファスが開通の儀礼としてヤマトの町にやってくる日を迎えた。
先触れが来たので、ゼルファスを迎えるためにタケルたちは町の入り口で待機している。すると、道の奥の方からゼルファスたちが乗っている馬車がやってきた。
「ゼルファス! 久しぶりだな! 元気にしてたか?」
「相変わらず元気だな、タケルは」
ゼルファスは前回と違って二十名ほどの従者を連れてやってきた。
「それで、開通の儀礼ってのはこれで終わりか?」
「まあ、そうなるな」
「じゃあ、もう帰るのか?」
「そんなわけないでしょ」
「そんなわけあるか」
タケルのボケにフィリーとゼルファスがツッコミを入れる。
「ははっ、冗談だよ。せっかく来たんだ。ゆっくりしていけよ」
するとそこに農作業をしていたヴァルザナードが、野菜の詰まった籠を持ってこちらにやってきた。
「何やらこの町に客人が来ると聞いていたが、お主のことであったか」
「おお、ヴァルザナード殿!」
ゼルファスはなぜヴァルザナードが農作業の恰好をしているのか一瞬戸惑ったが、何とか持ち直して挨拶をした。
「ふむ、つい先ほど収穫した我の野菜を食べるところであったが……せっかくだ、お主にくれてやろう」
そう言って野菜が詰まった籠を渡す。
「ありがたくいただこう」
「礼はよい。ただのおすそ分けだ。がっはっはっは」
そう言ってヴァルザナードは再び自分の畑に収穫に戻っていったのであった。
ヴァルザナードがこの場を去った後、ゼルファスはタケルに問いかけた。
「タケル、どういうことだ?」
「どういうことも何もあいつはうちで農業を始めたんだ」
「……意味が分からん」
「あいつはタダ飯ぐらいだったからな。いつまでも働かずに飯を食ってるのは不公平だろ?」
ゼルファスは世界の守護者と恐れられているヴァルザナードに対して農業をさせることが信じられなかった。が、事実として楽しそうにしているのを見ると混乱せずにはいられなかった。
「陛下」
思わぬ出来事に混乱してぼーっとしていたゼルファスに側近のエイシスが声をかける。
「ごほん。まあ、タケルだしな」
ゼルファスは無理やり納得した。
それからゼルファス一団を宿舎に案内した。ゼルファスはエイシスだけを連れてタケルの家に来るようだ。他の従者は宿舎に到着したあとは好きにさせるようだ。
タケルとゼルファスたちは、タケルの家でお菓子を食べつつお茶を飲みまったりしている。
タケルはせっかくゼルファスが来るのだからその時に聞けばいいと思っていたことを、聞くことにした。
「あ、そうだ。黒鉄鉱石ってあるのか?」
「ああ、うちで採れるし、輸出もしているな。でも、高いぞ?」
「ふふふ、そんなうちを見くびってもらっちゃ困るぜ。なんていったって俺たちは砂糖を作っているからな!」
「何っ!」
ゼルファスは砂糖を作っていると聞いて驚いた。しかし、それ以上に驚いていたのがフィリーだ。こんな情報を簡単に他国の王に話すなんて信じられないのである。
「ゼルファス様」
フィリーがゼルファスに口止めしてもらおうと声をかけるが、それをゼルファスは手で制す。
「タケル、それはあまり口外しない方が良いぞ。砂糖を扱っている商会に目をつけられたくなければ内密に取引した方がいい」
「そういうもんか? でも将来的には大々的に売る予定だぞ」
「そうだとしても、敵は増やさない方がいい。それに商人は面倒な手を使ってくることも多いからな。大々的にならこっそりと味方を増やしてから、行動した方がいい」
フィリーは自分がタケルに言いたいことを言ってもらえたので、うんうんと頷いている。
「エイシス、この件は内密に扱う。よいな」
「はっ」
エイシスはゼルファスの腹心なので、この情報はネザリス王国の中でもごく一部にしか広まらないだろう。
「タケルにはよく度肝を抜かれるが、もうちょっと情報の扱いには気を付けた方がいいぞ」
「まあゼルファスだから話したみたいなところはあるけどな。よく知らねー奴にはこんな口は軽くねーよ」
説教モードだったゼルファスだが、自分だから話してくれたと聞いて雰囲気が和らぐ。
「全く、俺だからいいものの。……まあ砂糖は個人的に買うことにしよう。そして黒鉄鉱石についても口添えをしてやる。これでどうだ?」
「おう、いいぜ」
それからゼルファス一団はヴァルザナードも混じった夕食会でおいしい食事を堪能した。ヴァルザナードが作った野菜を使った料理も出したので、ヴァルザナードが少しうるさかった。とはいえ、タケルの作った野菜の料理も多いので、初めて食べたゼルファス一団の者たちはそのおいしさに感激していた。
食事の後、タケル、ゼルファス、ヴァルザナードは大浴場を貸し切り、のんびり湯船に浸かった。たわいのない会話ばかりだが、ゼルファスとしては心を許せる場としてだいぶリラックスできた。
そんなこんなで数日後、ゼルファス一行はタケルの町を堪能し国に戻っていった。
ゼルファスが帰った日の夕食の前に家でくつろいでいるとピルカが少し深刻そうにやってきた。
「ねえ、タケル。昨日はあんたの友達がいて楽しそうにしていたから言わなかったけど、ちょっとやっかいなことが起きたわよ」
「なんだ?」
「この森の北部で大きな戦いがあったわ」
戦いという言葉を聞いてタケルは少しばかり雰囲気が鋭くなる。
「細かい事情は分からないけど、たぶん食料を巡ってでしょうね。北側にはあんたがいないから結構ひどい状況だったのよ」
「なるほどね」
「奴らがどこまで戦いを続けるのか分からないけど、一応気を付けておいた方がいいわよ」
「了解、忠告ありがとな」
「ふん、別に! 私もこの町が気に入ったし、なくなってほしくないんだから、あんたしっかりしなさいよ!」
「へいへい」
タケルとしては遠い場所のことについては管轄外だ。しかし、ここに攻めてくるというのであれば全力で相手をするそれだけだと思っていた。




