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6.年越しの祭り



「タケル様、相談事が」


 いつものようにタケルが農作業をしていると珍しくエルドールがやってきた。元エルフの里の長なので、色々と任せているが直接やってくるのは珍しい。


「おっ、どうした?」


「我らエルフは毎年年越しの際に祭りを開いておりました。この町でも祭りを開く許可をいただきたいのです」


「いいんじゃないか?」


 タケルとしても何の問題もないので即決する。


「その祭りでは今年一年の感謝の気持ちと翌年もまたよろしくお願いしますとの気持ちを神様に伝える行事でもあるのですが」


「そう言うことか……。それは大事だな」


 エルドールに限らずこの町にいる人ならタケルが女神アメリア様を大事にしていることは知っている。そしてお供え物をすれば神様に届くという信じられない場所でもあるため、エルドールはタケルにどうするのかを直接確認しに来たというわけだ。


「タケル様の方で何か儀式を行いますか?」


 タケルは別に作法に詳しくない。二礼二拍手一礼ぐらいしかマナーを知らないのだ。


「うーん。細かい作法はよく分からんから任せた」


「分かりました」


 タケルとしては特に要望はないのだが、年越しの祭りに堅苦しい儀式だけっていうのもなんだか味気ない気がした。


「あっ、どうせなら神輿も担ぐか」


「神輿ですか?」


「こう神様が乗る台車みたいなのをみんなで担いで、わっしょい、わっしょいってやるんだよ」


「はあ」


 エルフには神輿を担ぐ文化がないためいまいちピンと来ていないようだ。


「どうせ神様に気持ちを伝えるならよ、堅苦しい儀式だけじゃなくてみんなで盛り上がるものもやった方がいいと思うんだよな」


「タケル様がそうおっしゃるのであれば、神輿とやらを作る手配をしましょう」


 こうしてエルドールは年越し祭りに向けての準備を始めた。神輿の制作に関してはタケルが大まかな要望をドワーフの木工職人であるバルドリンに伝え作成してもらうこととなった。





 次にタケルが農作業を終えて、家に戻ろうとしているところミクシリオンがやってきた。


「タケル様ああああああ、ついに中級ポーションができました!」


 ミクシリオンが持っているポーションは下級ポーションの緑色よりも少し明るく輝いた色をしている。


「おお、思ったよりも早いな」


 ミクシリオンは中級ポーションの製法は大まかに知ってはいたのだが、実際に作ったことはなかったので少し苦労していた。ポーションのランクが上がると少しのミスで失敗してしまうようだ。


 ただそれでも大量にタケルが中級ポーションを作るのに必要な薬草を提供していたので、無事作ることができたようだ。


「それで、ものは相談なのですが……」


 ミクシリオンは聞いちゃいけない事だがどうしても言わずにはいられないことがあったのだ。そもそもこれを聞くためにわざわざタケルのところまで来た。


「なんだ?」


「ちょっと誰かの腕を一本や二本を折ってきてもいいですかね?」


 ミクシリオンはハアハア言いながら、ちょっとヤバそうな感じで尋ねてくる。


 中級ポーションであれば骨折した腕を瞬時に直すことができる回復力があるのだ。おそらく実験をしたいのだろう。


「ダメに決まってるだろ」


「そんな!」


「そんなもクソもあるか! 試したいって言うなら誰かが怪我をするのを待て。てか、自分で実験とかしてないよな?」


「自分ではちょっとしか試してませんよ。えへへ」


 タケルとしてはどんなことをやったのかあまり深くは知りたくないので、これ以上深くは突っ込まないようにした。


「あんま危険なことやるなよ。この町唯一のポーション職人なんだからよ」


「はい」


 タケルとしてはあまりその返事を信用できないのだが、こればかりは無茶しないように願うほかない。


「回復ポーションは訓練場とか警備部のところに持っていけよ。運がよかったら怪我人がいるんじゃないか?」


「っ! 分かりました! 早速納品しに行ってきます!」


 それがあったかと気付いたかのようにミクシリオンは訓練場の方に走り去っていった。


 しかし、訓練場では特に重傷の怪我人はおらず中級ポーションを使う機会はなかった。





 それから訓練場での訓練は少し激しさを増したものの、大きな怪我をするようなこともなく時間は過ぎ去り、年越し祭りの日になった。


 年越し祭りではまず四台の神輿を担いで町内を回りそのあとに感謝の儀式を行うという手順になった。神輿のスタート地点とゴール地点は女神様の社の前だ。


 タケルは神輿を担ぐ気満々で法被を着て準備万端だった。


「あなたも担ぐの?」


「当たり前だろ。神輿は担ぐのが楽しいんじゃないか」


 普通偉い人はそんな仕事をしないのだが、普段から農業をやっているタケルにとっては今更だったことを思い出し、フィリーはそれ以上何かを言うのをやめた。


 神輿を担ぐ役の男たちに向かって号令をかけた。


「さあ、行くぞ! お前たち!」


「「「おっす!」」」


 四台の神輿を持った男たちが、町内をゆっくりと歩き始める。一番前の神輿を担いでいるのはタケルだ。

「タケル様―!」


 タケルの人気は高く神輿を担いでいる様子を一目見ようと大勢の町民が道の両端に詰めている。


「わっしょい! わっしょい!」


 タケルたちはわっしょいわっしょい言いながらも時折民衆に手を振り声援に応えている。


 タケルがある程度進んだところで、タケルの前方の方でトラブルは起こった。


「おいおい、押すな押すな!」


 前列に居る奴が叫ぶが、祭りの熱狂もあり制御が効かず、人が土砂崩れのように倒れていった。


「なにやってんだ。ったく。大丈夫か?」


 そう言ってタケルは崩れていった人たちの方に駆け寄ると、皆徐々に起き上がっていった。


 しかし、腕を押さえている獣人がいた。


「腕、折れたかもしれないです」


「やったー!怪我人!」


 タケルは何かを言おうと口を開いたが、たまたま近くに居て様子を見に来ていたミクシリオンが骨折をした人が出てきたことに喜ぶ。


 そんなミクシリオンをジト目で見るが、ミクシリオンはそんなのお構いなしに怪我人に駆け寄り症状をチェックする。


「これは折れていますね!」


 ミクシリオンはなんとも嬉しそうに症状を告げる。


「ですが、ご安心を。私が作ったこの中級ポーションがあればあっという間に治りますよ!」


 そこにいる人たちに見せびらかすようにミクシリオンは中級ポーションを皆に見せる。


「骨折の場合はですね。半分飲んで半分患部にかけるのが一番治りが早いとされています」


 全部飲む、全部かけるでも治りはするが、この方法が一番確実だと言われている。


 そうしてミクシリオンは怪我人にポーションを半分飲ませた後、患部に残りをかけた。


 怪我人は傷みが消えたのか、手のひらを握ったり開いたりした。すると、痛みが全くなかったのだ。


「おー治った!」


「「「おおおお」」」


 周囲にいた人たちが歓声を上げながら、パチパチパチと拍手をする。


 それからは特にトラブルが起こることなく神輿を担いで町内を一周した。


 神棚が置いてある社の前に四台の神輿を置き、その前の広場に大勢の町民が集まっている。


 そんな中、タケルはフィリーの他に、獣人族のまとめ役のバラルエルフ族のまとめ役のエルドール、オーク族のまとめ役のバルガスを連れていつもの祭壇の前に立った。


 祭壇の前には今年取れた最上級品質の米や野菜とお酒が置いてある。


 そしてタケルは皆に向かって今日の祭りの一番の目的を離す。


「今日の祭りでは残念なことに怪我人が出た。しかしその怪我人は中級ポーションですぐに回復できた。これは女神様から薬草の種をもらったおかげだ。それだけじゃない。普段みんなが食ってる食べ物も俺が女神様からもらった力のおかげでもある。だから、今日は女神様に今年一年の感謝の気持ちと来年よろしくお願いしますの気持ちを込めて皆で祈りを行う!」


 タケルが二礼二拍手をするのに合わせて皆が二礼二拍手した。


「今年も一年ありがとうございました。来年もまたよろしくお願いします」


 そして最後に一礼をしたところでお供えした野菜やお酒は光の粒子となって天高く昇って行った。


「よし! 儀式は終わり! これからみんなで飲み食いするぞ!」


「「「おおおおお!」」」


 こうして年越し祭りは盛大に終わったのであった。



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