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5.クエスト報酬と砂糖作り

 

 壮大な飲み会があった後の翌朝。タケルはいつも通り畑作業をしたあと朝食を取っていた。


「あっ、そうだ。クエスト報酬を確認するか」


 昨日は飲み会の準備やらいろいろあってクエスト報酬を確認するのを忘れていた。なので、このタイミングで確認することにした。


 女神様のギフトボックスを開いてみると、果物類が増えていた。例えば、みかん・オレンジ・レモン・グレープフルーツ・いちご・さくらんぼ・桃・柿・スイカ・メロン・パイナップル・マンゴーなど。


 さらに注目するべきものと言えば、サトウキビがあった。


「む。これで砂糖が作れるな」


 タケルが独り言かのようにぼそりとつぶやいた言葉をフィリーの耳がキャッチした。


「砂糖? ……ってまさかあの砂糖?」


「甘いやつだな」


 フィリーはタケルの肩をガシっと掴み念を押すかのように確認をした。


「本当なのね」


「本当だぞ」


 相変わらず軽い口調でタケルは答える。が、フィリーはそこからしばらく考え込んだ。


 砂糖事業は間違いなく金になる。この世界にも砂糖を扱っている商会は存在するが、そこは大商会となっている。量はあまり取れていないのか、基本的には王侯貴族向けに販売されている高級品だ。贈答品としても使えるので、各国の王侯貴族とのコネクションづくりには最適だ。


「これほどの物となると下手に任せると権力に繋がるわね。いや、でもタケルが原材料を握っているから大丈夫? いやいやタケルに対して従順でも町内での権力抗争に繋がる恐れも……」


 フィリーは一人でぶつぶつ言いながら砂糖をどうするべきか考えているようだ。そして考えがまとまったようで一つの答えを出した。


「とりあえず砂糖事業は私が責任者になるわ」


 フィリーは色々考えた結果、自分が責任者となることにした。決して私欲ではない。甘いものが好きだからとか、お金になるとかは二の次だ。いつかこの町からいなくなる人間なのだから、一時的に関わっても問題ないと判断した。


「ひとまず試作として砂糖を作ってみましょうか」


「僕も協力するよ!」


「協力しますにゃ! フィリー様!」


「私もやったるわよ!」


 カリュネラ、エルミィ、ピルカとフィリーに対して協力を申し出る。甘いことに関しては女性陣の結託がすごい。


「ありがとう、みんな。協力して砂糖を手に入れましょう!」


 飯を食った後に早速タケルは畑に出向き、サトウキビを育て収穫してきた。とりあえず物が欲しかったので低品質のサトウキビだ。


 とりあえずタケルの家で砂糖づくりの実験を行うことになった。


「それでどうやって作るのかしら?」


「たぶんだが、絞ってサトウキビから汁を取り出した後、煮詰めて濃縮させればいいんじゃないか?」


 タケルはサトウキビから砂糖にする方法を詳しくは知らないが、なんとなくのイメージを伝える。失敗したら失敗したで別の方法を考えればいいからだ。


「じゃあ、まずはそれを試してみましょう! カリュネラ、サトウキビの絞り汁をこの鍋に入れてもらえるかしら」


「任せて!」


 カリュネラは軽々とサトウキビをぞうきん絞りのようにひねって汁を出させる。


 エルミィも手伝おうとサトウキビを絞ろうとするが、ほとんど汁は出てこなかった。


「これ、固いにゃ!」


「うーん、ってなると、何か道具を作る必要があるわね」


 エルミィは獣人族なので決して力が弱いわけではない。そのエルミィがほとんど絞れないとなると何か工夫が必要となる。本格的に量産する場合、毎回カリュネラにやってもらうわけにもいかないのだ。


「これくらいでいい?」


 フィリーが色々と考えている間にどんどんと汁を絞って鍋の八分目くらいまで汁を溜めることができた。


「それくらいでいいわ。じゃあ次はエルミィ煮詰めてもらえるかしら」


「はいにゃ!」


 沸騰しないくらいの温度で長時間にかき混ぜながら煮詰めていく。途中で出てきたあくは取り除いている。徐々にとろみがついてきて黒砂糖のシロップになってきた。


「うーん、黒いな」


 そんな黒砂糖のシロップを見てタケルが不満そうにつぶやいた。


「何言ってるの? 砂糖なんだから黒っぽい色をしているに決まってるでしょ?」


「いやいや、白い砂糖ってのがあるんだよ。そっちの方が雑味がなくてすっきりした甘味になるんだよ。まあ、どっちが優れてるとかって話じゃないけどな」


「……白い砂糖。それは作ってみたいわね」


「俺は作り方がよく分からんから、頑張ってくれ」


 さらにそのままに詰めてたところで、タケルは火を止めるように指示をした。


「それくらいでいいんじゃないか? あとは冷やせば固まると思う」


 そうして黒砂糖のシロップが冷めるのを待ったが、タケルのイメージしている黒砂糖にはならずシロップのままだった。


「うーん、おかしいな、固まらん」


「でも、これはこれで料理に使えるにゃ!」


「確かにそれはそうだが……できれば結晶化させたいな」


「何か方法はないの?」


「うーん」


 タケルは腕を組んで前世の記憶を色々と思い出してみる。


「何かで混ぜるか、急激に冷やすか……くらいしか可能性があるのは思いつかんな」


「じゃあ、それをやってみましょ」


 再び黒砂糖のシロップを熱して温まった後、火を止めてエルミィが木のへらを使って攪拌させる。


 すると、とろとろとしていた黒砂糖のシロップが徐々に結晶化し始めた。


「おっ!」

「わわわ」


 作業をしているエルミィも驚いたようで、徐々にざらざらとした感触になっていった。


「これだよ、これ!」


 出来上がった黒砂糖をひょいと掴み味見をする。


「めちゃくちゃ甘いな!」


 タケルがつまみ食いをしたことで、その場にいた他の人たちも味見をした。


「ん! あっまーい!」

「甘くて幸せだにゃー」

「最高ね!」

「んー幸せ!」


 カリュネラ、エルミィ、ピルカ、フィリーと皆喜んだ。これであとは完全に冷えるまで待てば黒砂糖の完成だ。


「これで俺の農作物を使った世界征服計画が一歩前進したな」


「……あなた気付いてたの?」


 フィリーはタケルがいつもの能天気な感じでいたので、砂糖の重要性に気付いていないと思っていた。だからこそ、自分が管理することで余計な混乱を防ごうとしていたのだ。


「そりゃあ、甘いものは金になるだろ?」


 タケルは手で丸を作り、銭を表現する。


「そうね。どこまで手を広げるかにもよるけど、莫大な富を築けるでしょうね」


「くっくっく。砂糖の虜にさせて支配してやるぜ」


 タケルは悪い顔をしながら笑う。


「扱い方には気をつけなさいよね」


 他の商会でも扱っているからこそ、下手に扱うと妨害されたり潰されたりする。それに甘い蜜があればあるほど、この町に目をつけるやっかいな人間も増えるのだ。


「まあ、そこら辺はフィリーに任せておけば大丈夫だろ」


 タケルは笑顔でフィリーに語り掛ける。


「そう、ね」


 フィリーは砂糖事業を自分の手で扱うことができたらきっと楽しいと思った。


 でも、いつかタケルのもとから去らなければいけないのだ。それなのにどんどんとこの町に居たくなる理由が増えていく状況に一瞬心がぐちゃぐちゃになってしまった。


(ああ、タケルとずっと一緒にいたいな)


 叶わぬ願いだと知りながらもフィリーはそう思わずにはいられないのであった。



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