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4.酒の完成

 

 タケルは今日も農作業に精を出している。ルンルン気分で作業をしているところにブロムがやってきた。


「おい、タケル。酒が完成したぞ」


「おお、やっとか!」


 ブロムの酒造りは酒蔵作りから急ピッチで進められていた。それに合わせてタケルは高品質のブドウと成長しないけどおいしいブドウの両方を提供していた。


「じゃあ、さっそく試飲……っとその前に女神アメリア様に奉納だな」


 元々酒造りは女神様のクエストで始めたことだ。だから、最初に持っていくのは女神様のところだ。


「随分と信心深いんだな」


「まあな」


 ブロムはタケルが女神様への奉納なんかやるタイプだと思っていなかったらしい。タケルの裏事情をまだ話していないのでそれも当然かもしれない。


「じゃあ、女神様の神棚に奉納しに行くぞ」


 タケルはブロムと一緒に酒蔵に行き、酒樽から瓶にワインを移した。そしてその瓶を持って、神棚のある祠に行き、その前にある棚に完成したワインを置いた。


 そして二礼二拍手したあとに女神様への報告を行った。


「女神様いつもありがとうございます。私の作ったブドウを使ったお酒が完成しました。どうかお納めください」


 タケルは一礼すると、ワインの入った瓶は光の粒子になって消えた。


「うおっ」


 その様子を見ていたブロムは驚いた。まさか自分の作った酒が目の前から消え、どう見ても女神様のところに届いたようにしか思えなかったからだ。


 そして慌ててブロムは頭を下げた。


「さて、クエストはクリアしたかな」


 そう言ってタケルはウィンドウを表示させると、クエストクリアの文字が表示された。それを見てにっこりと笑う。女神様が満足なされたようでよかったと。


 森を救うクエストでも報酬があったので、今回も何かしらの報酬があると思い、ギフトボックスの中をよく見ようとしたところでブロムに肩を揺らされた。


「おい、おい。あ、あれは一体……」


 ブロムはいまだ驚いて動揺しており言葉をうまく出てこなかった。


「ん? 最初に言っただろ? 女神アメリア様への奉納って」


「じゃ、じゃあ、俺が作ったのは女神様のところに届いたってことなのか?」


「たぶんな」


 ブロムは光の粒子が消えていった方向を天高く見上げて呆然としている。


「あと女神様はお前の酒で喜んでいたぞ」


 女神様が喜んでいなければクエストクリアにはならないからだ。


「おお、ありがとうございます!」


 ブロムは深々と頭を下げ、女神様にお礼を言った。


「じゃあ、みんなでできた酒でも飲むとするか」


 そう言ってタケルは移動を始めた。


「俺はとんでもない場所に来たのかもしれないな……」


 そんな様子をただ茫然と見ていたブロムはぼそりとつぶやいたのであった。






 それからタケルはフィリーやバラル、エルドールなどの町の上役たちに話をして、出来上がった酒を広場でみんなで飲む会の準備をさせた。とはいえ、広場に町民全員は収まりきらないので、食堂でも酒が振舞われることになった。


 日も暮れて皆の仕事が終わった時間。タケルはブロムを連れて広場の台に上り乾杯の音頭をする。ブロムは前に出るなんて聞いていないとばかりに、驚き緊張している。


 そんな様子を、フィリーたちをはじめとする町民が見ている。


「さあ、みんな! 今日は酒飲みの日だ! どんどん食べてどんどん飲んでくれよな! ただその前にみんなに紹介しておきたい奴がいる。今日飲む酒を造ったブロムだ」


 そう言ってタケルはガチガチに緊張しているブロムを一歩前に押しやる。


「俺はまだ飲んでねーが、どうやらめちゃくちゃおいしい酒に仕上がったらしい。女神様にも奉納したが喜んでいたぐらいだ。ブロム、なんか一言あるか?」


「そ、そうだな。……ごほん。俺はこの町に来る前燻っていてうまい酒が造れなかった。まあ、それは妨害があったからなんだが……いや今はそれはいいか。そんな俺を拾ってくれたタケルに感謝しているし、その恩に報いるために俺は全身全霊で酒造りに挑んだ。今回作った酒は今までに作った酒の中で一番の出来だ! だからみんな、楽しんで飲んでくれ!」


「最高にいい仕事をして、最高にうまい酒を造ったブロムに賞賛を」


「最高の酒、ばんざーい!」

「来てくれてありがとーう!」

「お前は俺たちの誇りだぞー!」


 町民がブロムを拍手と賞賛する声を上げる。そんな様子を見てブロムは感動し思わず涙ぐんだ。今まで職人生活を送っていたが、こんな風に賞賛されることなど一度もなかったからだ。せいぜい仲間ウイでうまいうまいと言われるくらいで。


 それにブロムに一緒についてきた木工職人であるバルドリンが誇りだと言ってくれたこともうれしかった。


「早く飲ませろー!」


 ブロムが感動に浸っていると、バルドが早く飲ませろと叫んできた。


「ははっ! どうやらうまい酒を飲みたくてうずうずしている奴らがいるみたいだ。じゃあ、前置きはこれくらいにして。そろそろ乾杯するか。皆、コップは持ったか?」


 タケルは辺りを見回して皆がコップを持っていることを確認する。皆がコップを持ったことを確認したところで、力強く乾杯の音頭を取った。


「最高の酒に乾杯!」


「「「乾杯!」」」


 乾杯後、皆一斉に酒を飲む。


「うおおおお! めちゃくちゃうまい!」

「うまい! うますぎるぞおおおおお!」

「こんなうまい酒、初めて飲んだぞ!」


 広場のいたるところで、ブロムが作った酒を褒める叫び声が聞こえる。


 そんな中でタケルとプロムは広場の台から降りていく。すると、そこには酒をがぶがぶ飲みながらむせび泣いているドワーフたちがいた。感極まったバルドリンがブロムにハグをした。


「うまい、うまいそ。ブロム!」


「俺はお前についてきて本当に良かったと思ってる」


 バルドリン以外に他のドワーフたちも改めてブロムに賞賛を送った。


 まずい酒しか造れなくなってからも見捨てることはしなかった。だからこそ、ブロムの作ったうまい酒がより心にしみるのだ。


「お前ら、心配かけたな」


「バカ野郎、お前の苦労に比べたら屁でもねーよ」


 うまい酒が造れず誰よりも苦悩していたのはブロムだ。クラウンレッドを冠することができる名酒を作ることができるほどまで高みに昇った経験があるからこそ、より苦しいのだ。何をやってもうまくいかない日々はブロムにとっては暗闇の中を歩いているようなものだった。


 自分たちも同じ職人をしているからこそ、今までできたことができなくなることのつらさがよく分かるのだ。


 だからこそ、再びうまい酒を造ることができるようになって泣くほどうれしいのだ。


 ブロム達が熱いハグを交わしているところにサイラスがやってきた。


「さすがです。とてもおいしい」


「同じ職人のあんたに褒められるとこそばゆいな」


 ドワーフたちとハグしたままのブロムが答える。そのまま彼らはしばしの談笑をする。


 タケルはそんなブロム達のことを微笑ましそうに見ている。するとそこにバルドがやってきた。


「お前はあそこに混ざらなくていいのか?」


「もう十分だ。あそこに居たらいつまでも酒を楽しめねー」


 バルドはそんなことを言いながら、目に涙を浮かべ鼻を赤くしてすすっている。


「んで、出来はどうよ?」


「文句なしだ。あの約束を果たしてやる」


 その答えを聞いたタケルはニカッと笑う。あの約束とはタケルの剣を作るという約束だ。


「楽しみにしておく」


「だが、ここは鉄や鉱石がほとんどねーな。どうにかしていい鉱石を手に入れろ」


「鉱石か……確かネザリス王国から買うって話があったような」


 タケルのダークエルフの友達であるゼルファスが王を務めるネザリス王国との交易で鉱石関係のやり取りをするようなのをおぼろげながら覚えていた。


「それなら黒鉄鉱石を手に入るな」


「それって何か普通のと違うのか?」


「普通の鉄よりも丈夫な黒鉄になる。お前さんみたいに闘気を使うやつはだいたい黒鉄の武器だ。ちと貴重で手に入りづらいが、なんとかしろ」


「うーん、まあ、ゼルファスに頼めば大丈夫だろ。つっても道が完成するまでお預けだがな」


 タケルは貴重だと言っても国王であるゼルファスに頼めば多少は融通を聞かせてくれるだろうと楽観的に考える。


「なら急がせろ。職人のやる気はいつまでもあるもんじゃねーぞ」


 すぐに作業ができないことに関してむっとしたバルドはタケルに急がせるように要求した。とはいえ、そう簡単にできないのが道だ。


「あっ、そうだ。ブロム! ちょっと聞きたいことがある」


「なんだ?」


 ドワーフたちとひとしきり談笑し終わったブロムをタケルは呼びだした。


「お前たちってこのワインよりもキツイ酒を造ることはできるか?」


 タケルは知りたいのは蒸留技術があるかどうかだ。


「そういう酒があることは知ってるが、俺はやり方を知らねー」


 この世界での蒸留酒は貴重な飲み物とされ上流階級の人しか飲むことはできない。優秀な酒造り職人ではめったに飲むことができないものだ。


「ああ、それなら大雑把なやり方教えるからよ。作ってくれ」


 ブロムはアホみたいに口を開けて呆然とする。


「そ、それは秘匿されてる技術だぞ?」


「……そうなのか? まあ、細かいことは気にするなよ」


 もしかしたらフィリーに呆れられる案件かもしれないが、前世では多くの人が知っているような知識なので出しても問題ないと思っていた。


「簡単に説明するとだな」


 タケルは適当な木の枝を使って地面に蒸留の簡単な図を書く。その間にブロムは弟子であるヘルムを引っ張って連れてくる。


「酒ってのはだな、水と酒精に分けられるんだが、これらは蒸気になる温度が違うんだ。だからその差を利用する。ここで熱して気化した酒をこっちの方に移動させて冷やす。すると、酒精の部分が多い液体が出来上がるってわけだ」


「……なるほど」


 ブロムはタケルの雑な説明でもなんとなく理解できたようだ。


「より酒を強くしたいなら繰り返すことでより純度は高まるな。つっても、どうやったら味のいい酒になるかまではよく分からねーから、そこら辺は色々と試行錯誤してくれ」


「ふっはっはっはっは! ここにきて酒の新たな境地を知るとはな! これだから人生は面白い!」


 ブロムにはタケルが話した技術は新しい可能性を見出した。


「ヘルム! お前はここにきて正解だったな! 儂は死ぬまで新しい酒の極意を掴めるか分からん。だが、お前には時間がある。きっとお前の人生を全て賭ける価値があることだ!」


 タケルの話を師匠のブロムと聞いていたヘルムも高揚していた。ここには新しい酒の境地があるということにだ。


「はい! 俺も人生を賭けて最高の酒を造って見せます!」


「そうだ! その意気だ!」


 ブロムはヘルムの肩をバンバンと叩きながら言った。ここまでついてきてくれた弟子にも成功して欲しいとブロムはずっと思っていた。そして、そのチャンスどころか自分を超えられる可能性があることをタケルに提示されテンションがおかしくなっていた。


「俺も協力はするが、お前に任せるぞ! タケル。それでいいな!」


「ああ、もちろんだ。頼んだぞ、ヘルム!」


「はい!」


 それからこの飲み会は大盛り上がりで進んでいった。うまい飯にうまい酒。これがあれば人は喜び楽しみ、最高の時間を過ごすことができる。





 そんな飲み会の終盤。酔いつぶれている人がいる中、ひっそりと穏やかな空気が流れてきた。そんな死屍累々とした広場を眺めている、タケルとブロムだ。


「来てくれてありがとな」


 元々は女神様のクエストのために連れてきたのだが、こうやって皆が楽しそうに酒を飲んで騒いでいい時間を過ごすことができて、タケルは改めて感謝をしたくなったのだ。


「いや、感謝を言うのはこっちの方だ。タケル、いやタケル様って言った方がいいか?」


「おいおい、やめろよ、今更。タケルでいい」


 くっくっくと二人で笑い合う。


「これからもよろしくな」


「ああ、こちらこそ」


 二人は何度目ともなる乾杯をしたのであった。



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