2.ピルカのお仕事
タケルはヴェルノアとの戦いでダメになった剣を直してもらうために、鍛冶場に向かった。
するとそこにはドワーフのバルドが、この町にいる鍛冶職人たちの指導をしていた。
「ほれ、そうじゃねー! もっと鉄の状態を見て打つんだ!」
「はいっ!」
バルドはドワーフの国グラニット王国の中でもトップクラスの腕を持つ職人なため、この町にいる鍛冶職人たちもよく言うことを聞いていた。
「おっ、やってるね」
「ん? なんだお前さんか? しょうもない冷やかしが来たかと思ったわ」
「そう言うなよ。ここには用事があってきたんだ。ちょっと派手に戦ってたら剣がボロボロになっちまってな。直せるか?」
そう言ってタケルは持ってきたを前に出す。
「見せてもらうぞ」
タケルが渡した剣を抜くとあまりのボロボロさに眉を顰める。
「……闘気か」
「闘気?」
「そんなことも知らんのか? 武器に闘気を流して強化するという技があるんだ。闘気の量が多いと武器がダメになる。おそらくお前さんの闘気に武器が耐えられなかったんだろう。このなまくらじゃあ、しょうがないのかもしれんがな」
「直せるか?」
「無理だ。新しく作り直した方がいい」
「じゃあ、頼んだ」
「断る」
バルドが断ったことで周囲にいた鍛冶師たちが驚く。この町に置いてタケルは絶対的な存在だ。その頼みを断るなんてことは誰もできない。そのためその場の空気が少しばかり緊張する。
「どうしてだ?」
「……儂はな、ここに最高の酒を飲むために来た。しかし、それはまだ飲めていない。暇だからここで手伝っているが、本気で働く気はない」
バルドは自分の思っていることをきっぱりと言った。
「だが、もし最高にうまい酒を飲むことができたら、その時はお前さんのために最高の剣をつくってやろう」
「くっくっく。ブロム次第ってことか。なら酒ができるまで待ってるわ。きっとあいつは最高にうまい酒を造るぞ。なんて言ったって俺の作った作物を使ってるからな!」
「ああ、期待しかしておらん」
周囲の緊張をよそにタケルとブロムは笑い合っていた。とにかく問題はないようなので、周囲の鍛冶師たちはほっとしていた。
タケルはと数撃ちで作られた剣をとりあえずの武器として持つことにした。
数日後、タケルが農作業から帰ってくると、ピルカはタケルの家の中でゴロゴロしていた。
そんな様子のピルカを見てタケルにはいろいろと思うところが出てきた。
「お前、今日何してた?」
「えーっと、朝ごはん食べたらちょっと休憩したあとに、近所の水くみ歯で話している女性たちに混ざっていろいろと話をしたり、午後はご飯を食べたあと町の中をブラっと回って……あっ! そうだ! タケル知ってる? ウラルの家で赤ちゃんが生まれたのよ! 私は出産っていうのを外から見ていいもんだな~ってしみじみ思ったわよ」
タケルはこの町の住民の名前と顔をすべて把握しているわけではない。なので、ウラルとか言われても全然分からない。しかし、分かったことが一つあった。それはピルカが遊び惚けているということだ。
「働け!」
「そんな私たち友達でしょ!」
ピルカはまるでこの世の終わりかのような表情になった。
「それとこれは関係ない。ちょっとの間ならタダ飯食らいでもいいだろう。でも、これからこの町に住むんなら何かしら貢献してもらわなきゃ困る」
働かざる者食うべからず。それはピルカであっても適応外ではない。
「ええ~」
わがままをいうピルカにしびれを切らしたタケルはきっぱりと宣言することにする。
「このまま働かずに入り浸るようなら、お前を追放する!」
「そんなっ!……分かったわよ。それじゃあ私は何をすればいいのよ」
ピルカは追放すると言われたことでショックを受けたが、ここを出ていくのは嫌だったのでしぶしぶ働くことにした。
「うーん、農作業でもするか?」
タケルは働けと言ったはいいものの何をさせるかまでは考えていなかった。そもそも基本的にタケルは仕事の割り振りをしていない。なぜならほぼ人任せにしているからだ。
「こんな小さい体で何をさせるっていうのよ」
ピルカの反論ももっともだ。農作業となるとそれなりに力仕事になるので、小さい妖精のピルカではいても邪魔になるだけだ。
「フィリー、なんかいい案ないか?」
何も思いつかなかったタケルはフィリーに投げした。
「そうね。……確かピルカは私たちがドワーフの国に行ってる時に最上級の畑の面倒を見てくれたのよね? そっち方面で役に立ってくれるのが一番いいんじゃないかしら」
困った時はフィリーに任せると大抵何とかしてくれる。
「私に作物に活力を与えまくれってこと?」
ピルカはなんだか嫌そうに言った。
「それはいらん。俺がいるからな。せいぜい俺が面倒見切れない時に世話してもらうくらいかな」
ピルカは活力を与えると言っても、タケルのように無限に使えるわけではない。どうせ使える範囲が狭いので、基本的にタケルがやった方がいいだろう。
「それじゃあ……普通の人は活力を作物に与えることはできないのかしら?」
フィリーとしてはいつまでもタケル頼りの状況を何とかしたいと常々考えていた。最上級のものまで作れなくても、季節に関係なく作物を育てられたり高品質の作物が作れたりできればいいと思っている。
「どうかしらね。技術的には不可能じゃないとは思うけど、そう簡単に使えるものじゃないわよ」
「それはもちろん分かっているわ。たとえ長い時間がかかっても使える人が増えてくれた方がこの町のためになるわ。だからあなたには活力の与え方の指導をしてもらえると助かるわね」
タケルは自分のスキルがどういう原理でどう作用しているのかさっぱり分からない。人が生まれたときから呼吸できるように、当たり前に使えるので、人に教えるのが無理なのだ。
それに対してピルカは自力でその能力を獲得している。そのためタケルよりか人に教えられることが多いだろう。
「分かったわ! 人に教えるくらいなら楽そうだしやってもいいわよ!」
翌日。
畑の一部をヤマトの町の住民に開放した。そこでは特殊なスキルを持っていない普通の農民が作物を育てることになる。そこではピルカの指導も入ることになった。
タケルたちは農業をやりたいと集まった人々の前で今回の趣旨を説明していく。
「えー、いつまでも俺の力ばかりに頼って食料を作っているのも良くないとフィリーに言われたので、お前たちにも農業をやってもらうことにした。普通に作物を作るだけでなく、できるだけ品質が良くなるように作ってもらいたい。そこでこの妖精ピルカにそっち方面の指導をお願いした」
「私があなた達の先生よ! 活力が与えられるようになるまで大変な道のりかもしれないけど、しっかり私についてくるのよ!」
ピルカは乗りよく集まった人たちを鼓舞してく。集まった人たちの目は真剣だ。タケルと同じ農作業ができるということもあり、皆の士気も高い。
「じゃあ、まずは種まきからだな。何か大事なポイントはあるか?」
「大事なのは愛よ!」
「愛?」
集まった農民の一人が聞き返す。
「そう! 愛よ!」
「ピルカ、それじゃあ誰も分からんぞ」
タケルはこいつに指導は無理なんじゃないかと一瞬思った。
ピルカは言い回しがないか腕を組みながら考えたあと、ピンとくるものがひらめいたようだ。
「ほら、たまにタケルがやってるじゃない! かわいいぞとか、愛してるぞとか、今日も最高だねとか言ってるでしょ? まずはあんな感じから声掛けするといいんじゃないかしら?」
「まさか、あれがプラスに働いているとはな」
「あんた気付いてなかったの?」
「ああ、なんとなく声掛けをした方がいいとは感じていたが……」
あくまでサイラスの真似として始めてみたことで、悪いことだとは思っていなかったが品質向上に役立っているとは思っていなかった。タケルの場合は、スキルがあるので声かけをしようがしなかろうが、結果は変わらないので気付かないのも無理はない。
「さあ、種を植えてからやってみなさい!」
集まった農民たちはごくりと生唾を飲む。自分たちはあんな変なことをしなければならないのかと、皆内心ではこれに参加したことに後悔し始めた。
しかし、いつまでも棒立ちしているわけにもいかないので、それぞれ自分たちの農地に向かい種を蒔くのであった。
「さあ、声掛けをするのよ!」
「愛してるぞ」
「愛してるよ」
「愛してる」
集まった農民たちは恥ずかしがりながらも、蒔いた種に向かって愛を囁いた。しかし、それでは不十分だと感じたピルカが追加のアドバイスをする。
「もっと大声で!」
「愛してるぞ!」
「愛してるよ!」
「愛してる!」
「もっと!!!」
「愛してるぞ!!!」
「愛してるよ!!!」
「愛してる!!!」
「その調子よ!」
こうして作物に愛を叫ぶヤバい農民集団が生まれたのであった。ちなみに多くの住民が不審な目でその様子を見ていたのであった。




