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27.vs悪魔

 


 悪魔はブチ切れたタケルに対して脅威を感じ取り、一瞬で距離を取る。


 そこでタケルの怒りに満ちた目と視線が合ってしまう。それに一瞬ひるんだ悪魔は焦ったようにタケルに向かって手をかざす。


「ヘルフレイム」


 悪魔は魔法を唱え、直径一メートルを超える大きなどす黒い赤色の炎を飛ばす。


 迫ってくる炎に対して、タケルは全く焦ることなく無造作に剣を構えるとその剣に気を長し、わずかに光らせた。


 タケルは悪霊と戦ったことで一つ分かったことがあった。前世における気を剣にまとわせることによって、その斬撃の威力や性質が変わるということだ。そしてタケルの勘では魔法すらも切り裂くことができる。


「皇極天武流剣術【魔断一閃】」


 迫ってきていた炎を見事に切り裂いた。


「ってところか」


 今までにはない技ではあるが、この場で作り出した剣術となる。


 そしてタケルは、切り裂いた炎の間から悪魔に近づいていく。


「ぐっ」


 悪魔は何やら動きが鈍いようで、タケルの接近に対してうまく対応ができていなかった。その隙もあって、タケルは剣の間合いに悪魔を入れることができ、水平切りを食らわせた。


 カンッ


 悪魔はギリギリのところで、部分的な防御結界を発動させタケルの一撃を防いだ。


 タケルは一瞬で全体が覆われているわけではないことを見抜き、逆方向からもう一撃食らわせた。しかし、それも見事に悪魔は防いだ。


「へえ、なかなかやるじゃねーか」


 あえて体全体を守らずピンポイントで結界を張っているあたり、相当技術に自信があるのだろう。


 それからしばらくはタケルの攻撃をして悪魔が攻撃を防ぐというのが続いた。


 悪魔は何とか距離を取ろうと手のひらサイズの炎で反撃をするが、ことごとくタケルには避けられ、どんどん距離を詰めて攻撃された。


 思ったように戦うことができない悪魔のいらだちはどんどん募っていった。


「くっ!」


 悪魔は苦し紛れに大きな防御結界を張り、それを壁としてタケルに押し付け、距離を取った。


「……もういい。力を押さえるのは面倒だ」


 悪魔は体の奥底から湧いてくるどす黒いエネルギーに飲まれまいずっと抗い続けていた。しかし、そんな状態ではタケルに勝てないことは明白だった。


 どす黒いエネルギーに体を乗っ取られるのも嫌だが、タケルに負ける方がもっと嫌だった。だから、悪魔はどす黒いエネルギーに身をゆだねることにした。


「中途半端に力があることを後悔するがいい。こうなった俺はどうなるか分からんぞ」


 無理やり抑え込んでいたどす黒いエネルギーが解放される。そのどす黒いエネルギーは悪魔の胸の中心から全身を巡り満たしていく。悪魔は自分が自分ではなくなる感覚があったが、それ以上に膨大なエネルギーで体が満たされ快楽に陶酔し、いつの間にか完全に身をゆだねる結果になった。


 そしてラピノザに最後に出された命令があふれ出したエネルギーの方向性を決めることになった。


「うがああああああああ!!!!!」


 悪魔は先ほどと打って変わって様子が変わり、雄叫びを上げた。


 その様子の変化にタケルは一段階警戒度を上げる。先ほどと違って安易に攻めるのをやめた。


 悪魔がタケルの方に手をかざすと、一瞬にして先ほどの五倍の数の炎を生み出し、タケルに向かって放った。そのスピードも先ほどの倍は早くなっており、タケルはすべてを避けることはできず、最後の一つの炎は剣で切り裂いて防いだ。


 タケルの意識が炎の方に向いた隙に悪魔はタケルに対して一定の距離を保ちながら、横に移動して炎の連撃をした。


「ちっ」


 先ほどと打って変わって、あまりに数の多い攻撃にタケルは思わず舌打ちをした。


 数多くの火の玉が迫ってきてもなお、タケルは時に躱し、時に剣で切り裂きながら、悪魔の方に近づいていった。


 距離を詰めたところで、袈裟切りをお見舞いする。しかし、その攻撃は悪魔の防御結界に阻まれ傷一つつけることができなかった。


 先ほどと違う点が悪魔にあった。


「ヘルフレイム」


 防御しながらもタケルに攻撃魔法を当ててきたのだ。想定していなかった行動にタケルは虚を突かれ、真正面からヘルフレイムを食らってしまう。


「兄貴!」


 思いっきり攻撃を食らったタケルを心配して、フォリンが思わず声を上げる。


 タケルはヘルフレイムを食らいながらも無事だった。


「くっ! 読みを間違えたっ!」


 少し前の悪魔と比べれば明らかに魔法の量や速さが変わっていたのだから、防御と同時に反撃ぐらいは予測できたはずだ。タケルは自分の失態を反省する。


 さらにどんどんと悪魔の攻撃が過激になっていき、タケルはどんどん攻撃を防ぐことに意識を集中させねばならなくなった。


 そんな苦戦をしているタケルに対してカリュネラが大きな声で問いかける。


「主―、手伝おうかー?」


「うるせー! 黙ってみてろ! こいつには絶対おにぎりを食わせなきゃいけねーんだ!」


 カリュネラやラグナとともに殺すのであれば、余裕をもって対処できる相手だ。しかし、それではタケルは納得しない。あくまでおにぎりを食わせて分からせてやらねば気が済まないのだ。


 タケルは火の玉が迫りくる中、地面に手を付き目の前に土の柱を立てた。それで攻撃を防ぎつつ、さらに辺り一帯に何本もの柱を立てまくった。


「うしっ!」


 盾替わりになる柱を立てたことによって、タケルは防御がだいぶ楽になった。そこから攻撃へと転ずるために、柱を間に挟みながら、火の玉を放ち続ける悪魔に近づき、攻撃をするが、再び防御結界に防がれてしまう。


「ヘルフレイム」


 悪魔は再度同じように反撃をするが、事前に予測していたタケルは攻撃後すぐに回避行動に移っていたので、躱すことができた。


 タケルは再び地面に手を付き悪魔の周囲に何本もの柱を立てる。その柱を防御壁として使うことでタケルはより果敢に攻めることができるようになった。


 悪魔の火の玉を柱で受けた後、一気に距離を詰め悪魔の懐に入り、水平に剣を薙いだ。


 それも悪魔の防御結界に防がれるが、それは予想済み。防がれると同時に横に移動して袈裟切りを食らわす。さらに横に移動して切り上げを、さらに横に移動して水平切りをと、連続しくらわしていく。


 悪魔はたまらず全身を覆う形で防御結界を張る。


 タケルは悪魔と戦っていた分かったことがあった。それは黒いエネルギーに飲まれ暴走するようになってから魔法の操作技術が甘くなっていることだ。威力自体は上がっているのだが、技術の甘いせいか、今では必死に防御結界で守るだけしかできなくなっている。


 ここでタケルは決め時だと判断し、ギアを一段階上げる。


「うらああああああああ!!」


 タケルの猛攻に防御結界が耐え切れず、ピシリとヒビが入る。


 ここで決める。とタケルが最後の一撃を繰り出したところ、ついに防御結界が割れる。


 そのまま刃が悪魔に迫るが、それを悪魔は手で受け止める。手は剣で切り込みが入り、血が流れるが、残った手をタケルにかざしてヘルフレイムを放ってきた。タケルはそれを食らい数メートル吹き飛ぶ。


「うがああああああああああ!!!!!」


 さらに悪魔からどす黒いエネルギーが放たれ、より凶暴化し、周囲に向かってでたらめに火の玉を放ちまくる。


 もはや暴れている獣。しかし、魔法の威力は先ほどから段違いで上がり、タケルが壁として使っていた柱も吹き飛ぶほどの威力だった。


 そして周囲から柱がなくなり、更地のようになったところで、悪魔はヘルフレイム以上に巨大な炎を作り上げる。それはすべてを飲み込むようなどす黒い炎。それに普通の人間が当たったら骨すら残らない漆黒の炎。




「うわあああああああ、なんかヤバいっす! ヤバいのが来るっす!」


 フォリンの危険察知のスキルが反応した。今までタケルと一緒に居て反応したことがなかったので、反応していることにだいぶ驚いている。


「ここも危険っすよ!」


 フォリンはカリュネラとラグナに対して言う。


「お前は離れていればいい。僕はここで主を見守る」


「そうだ、フォリン。お前は下がっていた方がいい」


 カリュネラとラグナはむしろヤバいからこそ、近くに居なくてはいけないと思っていた。万が一、タケルがやられそうになったら、二人とも戦闘に介入するつもりだ。


「私は離れるわよー!」


 ピルカは言い切る前に、とっととこの場から離れていた。


 逃げるものと残るもの、二手に分かれた状況にフォリンは迷う。しかし、時間の猶予はあまりない。迷いに迷った結果、フォリンは決断をした。


「俺は兄貴を信じるっす」


 そう言って、フォリンはカリュネラとラグナの横に立った。


 そんな様子のフォリンを見て、カリュネラとラグナはフォリンの前に立った。


「あまり無茶をするな。死んだら主が悲しむ」


 万が一にも余波で死んでもらっても困るので、カリュネラとラグナはフォリンの盾替わりとなった。


「……先輩たち! ありがとうっす!」




 そんな三人が見守る中、タケルはニカッと笑った。


 タケルも魔法を使っているから分かるが、複雑であればあるほど、巨大であればあるほど、集中力を必要とする。これほどの魔法であれば使った後に必ず隙ができる。つまりこの目の前の巨大な炎を処理すればタケルの勝ち、できなければ負けというシンプルなものになった。


 タケルは悪魔の攻撃に備えて剣を構える。


「うがあああああああああ!!!!」


 悪魔は巨大な漆黒の炎をタケルに向かって放つ。それに対してタケルは避けることはしない。


「皇極天武流剣術」


 剣がかつてないほどの光を放った。


「【断魔天刃】」


 迫りくる炎を一刀両断した。そのままタケルは一気に距離を詰め、袈裟切りの構えを取る。


 悪魔は防御結界を張るが、それは簡単に切り裂かれ、そのまま悪魔を切りつける。


「ぐぎゃああああああああ!!!!」


 まともに攻撃を食らった悪魔はその場に倒れる。


 タケルが膨大な気を流した剣はボロボロになっていた。タケルはそれを見つめながら感謝の気持ちを伝えた。


「ありがとな」


 なんだか一瞬剣が答えてくれたような気もするが、タケルはそのまま剣を鞘に納める。





 タケルの一撃を食らった悪魔はどす黒いエネルギーを消費しつくしたのが最初の状態に近くなっていた。


「ようやく大人しくなったか」


 タケルは戦闘開始時に投げ捨てたバッグのところに行き、おにぎりを取り出す。


「カリュネラ、こいつを縛っておけ」


「はーい」


 戦闘が終わったことで近づいてきていたカリュネラに指示を出す。


 カリュネラの糸でぐるぐる巻きにされた悪魔はただでさえろくに動けないのに余計に身動きが取れなくなった。


「くっくっく、おにぎりを落としたことを後悔させてやるぜ」


 右手におにぎりを持ったタケルは悪い顔を浮かべながら言った。なんておいしいものを落としてしまったんだと後悔させてやるのだ。


「食らいやがれ」


 そう言ってタケルは悪魔の口を開いておにぎりを押し込んだ。


 悪魔は口に入ってきたおにぎりを反射的に咀嚼してしまった。そして、ごくりと飲み込むと、それは心にしみるおいしさだった。心の奥底からあふれていたどす黒いエネルギーは鳴りを潜め、心が温かい光で満たされた気持ちになった。


 なぜか悪魔の目から涙があふれてきた。


「……おいしい」


「そうだろ、そうだろ。俺が作った米はうまいだろ!」


 タケルはにっこにこで頷きながら言った。


 そんなタケルを見て悪魔はとある決心をした。


「どうか、この首輪を……外してください」


「ん? これか?」


 タケルは悪魔の首にあった首輪を外そうとしたが、どうすれば外れるのか分からなかった。


「壊してもいいか?」


「むしろ、そうしてください」


 タケルはガシッと首輪を掴み、思いっきり引っ張る。


「ふーん」


 バキッと音がして首輪が壊れる。


「すみません。今までこの首輪のせいで暴走していたのです」


「そうだったのか?」


「封印から目覚めた私にいきなりこの首輪をつけた輩がおりまして。どうやらそれは人の言うことを聞かせる魔道具のようなもので、それに抗った私は力が暴走し、挙句の果てにこの森で暴れるようにと命令をされました。本当はこんなことしたくなかったのです!」


 悪魔はすべての責任をあの二人組と首輪に押し付けることにした。


「大変だったんだな」


 悪魔があまりに悲壮な感じで言うのでタケルはそれを信じた。


「お願いがあります。罪滅ぼしとしてどうかあなた様にお仕えさせてください」


「別にそこまでのことをしなくても……」


 タケルとしてはおにぎりを食わせてうまいと言わせたことで怒りは完全に収まっていた。なので、これ以上何かを要求するつもりはないのだ。


「どうか、どうかお願いします!」


「……そこまで言うなら、俺のところに来い。面倒を見てやる」


「ありがとうございます」


 この一連のやり取りを近くにいたカリュネラはジト目で見ていた。


「主、なんかこいつ、うさん臭くない?」


 カリュネラは理由までは分かっていないが直感的にうさん臭さを感じ取っていた。


「何を言っているんですか? 主様、私にそのおにぎりをもっと食べさせてください!」


「カリュネラ、糸をほどいてやれ」


 タケルとしてはかいがいしくおにぎりを食べさせる義理はないのだ。なので、糸をほどいて自分で食べさせるようにする。


 カリュネラは糸を緩めながら自分が思っていることを言った。


「ほんとにこいつを仲間にして大丈夫? 怪しいよ」


「そう言うなって、たぶんそんな害のある奴じゃねーよ」


 タケルの直感的にはタケルたちに害を与えるような奴だとは思えなかった。ただ一般的にいい奴か悪い奴かと聞かれると困る話ではあるが。


「主がそう言うんなら、いいけどさ~」


 カリュネラは悪魔のことをにらみつける。


「何か悪さしたら僕がお前を殺すからな」


「主様に対して不利益になることは致しません」


 殺気を込めたカリュネラの視線に対して悪魔は笑顔で返した。


「そんでお前の名前はなんて言うんだ?」


「私の名は……いえ、かつての名はありますが、それはもう捨てます。新しく生まれ変わったようなものですから、どうか主様がお付けください」


「そうか」


 タケルは腕を組み少し考えこむ。なんとなく降ってきた名前を口に出す。


「じゃあ、ヴェルノアはどうだ?」


「とても素晴らしい名だと思います。付けていただきありがとうございます」


「じゃあ、夕飯食ったら帰るか」


 こうして戦いを終えたタケルたちはその場で夕食を食べたあとに町に戻るのであった。




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