26.悪魔の捜索
タケルたちは精霊の住まう世界から元の世界に戻ってきた。
「それでどうすんだ?」
「とにかく元凶の悪魔を見つけなきゃ始まらないわね」
悪魔が悪さをしているということまでは分かっているが、どこにいるかまでは特定できていない。悪魔に対してどういう対応をするにせよ、居場所が分からなければどうしようもないのだ。
「しらみつぶしで探すか」
タケルは頭の中で捜索に出せそうな人たちを思い浮かべる。ホワイトウルフに獣人たち、エルフにオーク。チームを組んで捜索をすれば一週間くらいで見つけられるかと見当をつける。
「はあ? 何言っての? あんた。この私が誰だか忘れたの?」
タケルは今までのピルカとの思い出を振り返る。その中で一番強力な思い出があった。
「俺の野菜を盗んだ害獣?」
「違うでしょ! この森の管理者よ! 私はね、この森限定だけど、どこだって見通すことができる目を持っているのよ!」
ピルカは胸を張って自慢げに言う。確かにそんな能力があれば悪魔の捜索もだいぶ楽になる。特にこの森には危険な魔獣が多く住んでいるので、危ないことをさせないで済むのもデカい。
「そうか、それならさっさと頼む。今日中に終わらせるぞ」
「そ、そんなすぐにできるものじゃないわよ!」
「そうなのか」
一瞬でこの森全体のことを見通して悪魔を見つけられると思ったのだが、違ったようだ。
「一か所一か所、全部見ないといけないんだから! それに意外と疲れるのよね。だからまずは町に戻って英気を養うことを所望する!」
いくら森のすべてを見通せるとしても、この森のどこかにいる悪魔を探すのは大変だ。実際すべてをしらみつぶしで探していくことになるので、結構神経を使う作業となる。
「そう言うことか。じゃあ、ひとまず帰るか」
こうしてタケルたちはヤマトの町に帰ってきた。
「帰ってきたぞー」
「おかえりなさい」
「おかえりなさいませにゃ」
家に着くとフィリーとエルミィが出迎えてくれた。
部屋の中に入りバッグを置くと、そこからピルカが背伸びしながら出てきた。
「ん~あ~。なかなか見つからないわね」
道中ピルカはタケルのバッグの中に入って悪魔の捜索をしていたが、まだ見つかっていないようだった。
「ほい、お土産」
タケルが無造作にフィリーにブラッドビーのはちみつを渡すと、フィリーはとても大切なものを扱うようにそおっと手に持った。
「こ、これがブラッドビーのはちみつなのね」
瓶の蓋を開けてみるとキラキラと輝くはちみつが入っていた。その中身を見たフィリーは思わずごくりと生唾を飲む。
「どうやって食べようかしら……パンにかけてもいいし、焼き菓子にしてもいいし……」
フィリーの頭の中はブラッドビーのはちみつをどうやっておいしく食べるかでいっぱいになった。
「飯よ、飯! おいしいご飯を用意しなさい!」
悪魔の捜索に疲れているピルカは乱暴に要求した。
「エルミィ頼む」
「はいにゃ!」
タケルは先ほどのフェルネアから聞いた女神様の子らしいという話をフィリーにするかどうか悩んでいた。ラグナとカリュネラは知っているわけで、そんな中フィリーに内緒にしておくのもおかしいけれど、わざわざ話すようなことでもない気もしている。
「全部ひとりで食べないわよ!」
タケルは考え事をしながら、フィリーのことをじっと見つめていたので、何かを勘違いしたようだ。
「なあフィリー……どうやら俺は女神様の子らしいぞ」
「はい?」
タケルは突拍子もないことをいうのがいつものことだが、その中でも今回の内容は飛びぬけておかしかった。
「あー、さっきフェルネアが言ってたことね」
「それって本当なの?」
半信半疑のフィリーはピルカに聞いた。
「フェルネアは嘘をつくような精霊じゃないわ。だから私は一応この男が女神様の子だってことは信じてる」
「ふーん」
フィリーは一応信じたようだが、反応が薄かった。タケルとしては思い切った告白だったのだが、反応の薄さに困惑した。
「ふーん、ってどれだけか?」
「今更でしょ。あなた元々だいぶおかしい存在よ」
農業スキルに戦闘力、さらに魔物を従えている。このどれをとっても普通の人ではありえない力だ。さらに神棚にお供え物をすれば、それはどこかに消えてなくなり、何もないところから農具や種を出す。そして自称ではあるが、女神様からクエストという名の神託が下りてくる。こういったことをずっと隣で見てきたフィリーなので、今更女神様の子と言われても、それほど驚く要素ではないようだ。
「それにあなたはあなたでしょ? 女神様の子って分かったら何か変わるわけ?」
「……変わらんな」
「でしょ?」
フィリーの言葉を聞いて、タケルの心の中でつっかえていたものが取れたような気がした。いきなり女神様の子とか言われて正直混乱していたのだ。
でもよく考えれば女神様の子だと分かったからと言って、何かやることが変わるわけではない。そもそも別に女神様の使命を与えらえたとかではないのだ。タケルはこの世界に来た時に好き勝手に農業すると決めたのだ。
「ありがとな」
「ん? どういたしまして」
何が何だかよく分かっていないフィリーだが、感謝は受け取った。
「! それじゃあ、ちょぉぉぉっとでいいのよ。ちょっとで。このはちみつ私に多くくれないかしら?」
「いいぞ。俺の分は全部やるよ」
タケルも甘いものは好きだが、どうしても食べたいというわけではないので、譲ってあげる。
「全部はダメよ! こういうのは独り占めしてもおいしくないんだから!」
「それもそうだな。みんなで食べよう」
その後、エルミィが作った料理をみんなで食べた。その時に、今の大まかな状況を話した。今は森からエネルギーを奪っている悪魔をどうにかするためにピルカが自身の能力を使って探しているところだ。
それから二日ほど時間が過ぎていく。
傍から見ていると、ピルカは食っちゃ寝、食っちゃ寝ばかりしているように見えるかもしれない。しかし、目をつむりながらも真剣な表情をしているピルカに対してサボっているという印象を受けることはないだろう。
そしてついにピルカは悪魔を発見した。
「み、つ、け、た!」
苦労して見つけたことでピルカは自然と笑みを浮かべていた。
「タケルー! タケルー!」
「どうした? 見つかったのか?」
タケルちょうどタイミングよく農作業から戻ってきた。
「ええ、奴よ! あの悪霊どもを送ってきた悪魔をようやく見つけることができたわ!」
「じゃあ、明日行くか」
今はもう午後だ。どれくらいの場所にあるか分からないが、夜になってしまう。森の中を夜歩き回るのは避けたいため明日行くことを提案した。
「ダメよ! さっき覗いたとき、また悪霊を召喚しようとしてたのよ!」
「それは面倒だな」
悪霊を召喚されたらまた倒しに行かなければならない。それだったら、その前に対処してしまった方がいいだろう。
「しょうがねー。今から準備して完了次第出発するか。悪魔はどれくらいのところにいるんだ?」
「えーっと、あのラグナだっけ? そのスピードなら三、四時間ってところかしら」
到着した時点で辺りは暗くなっているだろう。それならあまり大勢で行くのは避けた方がいい。
「カリュネラは今回も行くか? 戦うか分からねーけど」
あくまでフェルネアの頼みは、精霊の世界からエネルギーを奪うことをやめさせることだ。話し合いで解決できる可能性もまだあるのだ。
「もちろん!」
「よーし、それじゃあ準備するか」
タケルも身支度を整え、農作業服から狩り用の服に着替える。準備が整ったところで、玄関でフィリーに一言言っておく。
「たぶん帰りは遅くなるから飯は先に食っててくれ」
「はーい」
フィリーにそう言うと適当な返事が返ってきた。
「タケル様、お弁当を作ったにゃ」
「おお、気が利くな」
タケルは適当な保存食でも持っていく予定だったが、エルミィがお弁当を作ってくれたようだ。それを受け取りバッグの中にしまう。
「あれ? 兄貴、どこに行くんすか?」
何やらどこかに行きそうなタケルたちを見てフォリンが話しかけてきた。
「ちょっと悪さをしている悪魔に会いにな」
「俺っちも行くっす!」
「それなら早く準備しろ」
こうしてタケル、ラグナ、カリュネラ、フォリン、ピルカと移動用のホワイトウルフたちで悪魔に会いに行くことになった。
「ピルカ、道案内頼むぞ」
「まっかせなさい!」
ピルカはラグナの頭に乗りながら方向を示すようだ。その指示に従いながら、進んでいくと誰かが暴れたような場所に到着した。木が折れたり、燃えた形跡があったり、地面がえぐれていたりした。
「これは悪魔が暴れた跡よ」
どうやらこの様子を見るに、悪魔は穏健派ではないらしい。
さらにその場所には、はちみつの巣が落ちていた。それを見つけたピルカは何かを悟ったようだ。
「あいつが集めさせてたんだ」
「どういうことだ?」
「多分だけど悪魔は元々どこかに封印されてたんじゃないかしら? 弱っていた体を癒すためにはちみつを摂取したってわけ。ブラッドビーのはちみつは活力が豊富だから摂取すると回復しやすいのよ」
「なるほどね」
あのウォーベアの行動を思い返してみると、ウォーベアは手に入れたはちみつをその場で食べることはせずにどこかに持っていこうとしていた。その行動にどこか違和感があったのだが、これで納得した。
「そろそろよ」
ピルカがそういった後すぐに視線の先に悪魔を視界に収めることができた。悪魔は何やら魔方陣を描いている最中だった。おそらくあれが悪霊を呼び起こすものなのだろう。
「とりあえず俺だけで行く」
離れた場所で止まったタケルはラグナから降りた。
悪魔はそれなりに殺気立っているようで、その殺気に当てられてラグナやカリュネラ達も殺気立っている。しかし、まずは話し合いをするつもりでタケルは来たのだ。殺気まみれの奴をそばに連れて話し合いもくそもないだろう。
「主、危険です」
「そうよ。みんなで囲って一斉にやっつけましょうよ!」
ピルカは悪魔のことをあまりよく思っていないらしく、問答無用で殺りたいらしい。
「バカ言え。俺は穏健派なんだ。話し合いで問題が解決できるならそれに越したことはない」
「主の変な癖が出た」
カリュネラは自分のところに能天気でやってきたタケルのことを思い出していた。なぜかタケルは普通の人間と違って魔物であっても話し合いを試みようとするのだ。
「いいから任せておけって。穏便に終わらせてみせるからよ」
なぜか自信満々に話し合いで終わらせるというタケルに皆反論ができなかった。
そして、タケルは一人で悪魔に近づいていった。
タケルは殺気を出しておらず、散歩でもするかのように近づいていったためか、悪魔も攻撃することなく、話ができる程度の距離まで近づけた。
「よお」
「……」
タケルが声をかけても、悪魔は反応しなかった。まずは挨拶から順に話を進めていきたかったのだが、反応がないので本題に入ることにした。
「もう悪霊を召喚して向こうの世界からエネルギーを奪うのをやめてほしいんだが」
その言葉を聞いた悪魔はタケルのことをギロリとにらみつける。
「っ! 貴様らか! 余計なことを!」
悪魔は何かに耐えるようなそぶりを見せながら言ってきた。悪魔は悪霊たちが向こうの世界からエネルギーを持ってこなくなった原因がこいつらだと気が付いた。
そして、悪魔は手のひらに炎を生み出し、それをタケルに飛ばしてきた。
しかしその攻撃に対してタケルは難なく避け、さらに悪魔に近づいていく。
「まあまあ、落ち着けって。代わりにこれやるからよ」
タケルはバッグの中から、木の葉っぱで包んだおにぎりを取り出した。これはタケルの夕飯としてエルミィからもらったものだ。
「これ食って元気だせ?」
そう言いながらタケルは悪魔におにぎりを差し出すと、悪魔はその手を払いのけた。
「ふざけるな! この俺が人間ごときに施しを受ける言われはない!」
タケルは手を弾かれておにぎりは地面に落としてしまう。
「「「あっ」」」
遠くで見ていたラグナ、カリュネラ、フォリンは悪魔がやってしまったことの重大さに気が付いた。
「おらの……握り飯が……」
タケルはわなわなと震え始めた。タケルが大事に育てた米で作られたおにぎり。それを台無しにされてタケルはブチ切れた。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
こいつにはタケルのおにぎりがうまいことを思い知らせなければならない。
「お前には絶対食わせてやるからな!」
こうしてタケルと悪魔の戦闘が始まった。




