25.悪魔の封印解除
時はさかのぼること十日。
グリムヴェイル大森林の中でラピノザとカーニアは封印された悪魔を探していたが、難航していた。そんな中しびれを切らしたカーニアが大声で叫ぶ。
「こんな地図で分かるわけないじゃん!」
地図にかかれているのはグリムヴェイル大森林の大まかな図とも言えない落書きのようなもの。さらに封印されている場所を示す箇所が大体ここら辺と指している範囲が広すぎる。
「まあまあ、カーニアさん。古文書からの情報ですから、情報があいまいなのは仕方ありません」
「そんなこと言ってもさー。……てか、本当にいるの?」
さんざん探しても見つからないのだ、カーニアが疑うのも無理はない。そしていないものを見つけることは不可能だ。
「上も無能ではありません。私たちが派遣されるくらいですから情報の確度は高いでしょう」
「でもさー」
明らかに不満の溜まっているカーニア。その様子を見てラピノザは今後のことを一瞬で考える。
「ですが、あと三日調べても見つからないようであれば作戦中止にしてもいいかもしれませんね」
ラピノザ的にはもっと長い期間捜索しても問題ないのだが、これ以上進展がないとカーニアが爆発する。その限界ギリギリのリミットが三日というところなのだ。
「長い! あと一日!」
「三日です。そうすればこの辺り一帯を調べたことになりますから、上へ義理を果たしたことになります」
「ぶーぶー」
カーニアは文句を垂れ流しながらも、ラピノザに付き合って悪魔探しを続けた。
その翌日。とある洞窟を発見した。
「ここはなんだか怪しいな」
「何も感じませんけどね」
ラピノザから見たら何も感じないただの洞窟。しかし、カーニアは何かを感じているようだった。
「分かってないなーラピノザは。こう、なんか怪しい感じがするじゃん!」
カーニアはうまく言語化できていないようだが、何かを感じるのは間違いないようだった。それにこれまでこんなことを言ったことはないので、当たりかもしれないとラピノザは思った。
「封印された悪魔が見つかるといいですね」
そう言って二人は洞窟の中に入っていく。その中はあまり広くなく、すぐに一番奥までたどり着いた。
「あれ?」
カーニアは何かあると思っていたのに、何の変哲もない普通の洞窟で終わったことに首を傾げた。しかし、ラピノザはあることに気が付いたようだ。
「おや、これは当たりかもしれませんね」
そう言って洞窟の一番奥の壁に触れると、魔法による結界術が施されている壁だということが分かった。遠目で見ただけでは分からないが、触れば分かるようなものだった。
「えっ! 当たり!?」
「ええ、どうやら結界術が施された壁のようでして。何もないところにはこのようなことはしないでしょう」
内側から出てくるのを防ぎたかったのか、外側からの侵入を防ぎたかったのか分からないが、それによって見つけることができた。
「やったー! 当たりだー!」
「まだ分かりませんよ。可能性が高いだけの話です」
ようやく当たりかもしれない場所を見つけたことで、カーニアは飛び跳ねながら大喜びした。
「じゃあ、行くよー!」
カーニアはそのハイテンションのまま背負っていた巨大な戦斧を壁に向かって振りかざす。
「ちょっ! カーニアさん!?」
ラピノザが止める隙を与えない間に、カーニアは巨大な戦斧で壁をぶん殴る。
どーん、と洞窟内に大きな音が響き、土埃が舞う。
ラピノザはごほ、ごほと咳をする。
「全く洞窟が崩れたらどうするつもりだったんですか」
「ほら! 空いたよー! 中に入るよー!」
ラピノザの心配を一切無視して、カーニアはどんどん先に行ってしまう。
「カーニアさん、ちょっと待ってください!」
カーニアに続く形で中に入ると、そこは大きな広場になっていた。そして六つの像が六角形の頂点の位置にあり、その中央に宝玉が埋め込まれた台座があった。
カーニアは何の警戒もなしにぐいぐい進んでいく。
「カーニアさん、何があるか分からないんですよ!」
「平気平気! いざとなったらやっつければいいんだから!」
カーニアは中央の台座のところにたどり着く。
「これに悪魔が封印されてるのかな?」
そう言ってカーニアは埋め込まれている宝玉に手を伸ばした。それに反応したのか、周囲にいる像が動き始めた。
「カーニアさん! 後ろ!」
動いた石像はカーニアに向かって強烈なパンチを繰り出していた。それをギリギリのところで察知したカーニアは大きく飛びのいて回避した。石像が繰り出したパンチは地面に当たり、小さなひび割れが起こっていた。
ゴーレムは敵と定めたカーニアとラピノザに向かって近づいてきた。
「ゴーレムですか……」
「これは壊してもいいよね?」
カーニアはこの時点で戦闘モードに入っていた。これまでさんざん我慢させられており、ストレスも溜まっていたので、こいつら相手に発散するつもりだった。
「ええ、どうぞ。好きにやってください」
そんなカーニアを止めることはラピノザでもできない。
「いっくよー!」
カーニアは一歩でゴーレムの近くまで近づくと、巨大な戦斧の袈裟切りで攻撃した。すると、ゴーレムは何の抵抗もできずに、そのまま切り裂かれた。
「次ぃ!」
そのままの勢いでカーニアは次々とゴーレムを倒していった。
そして最後の一体を上段からの振り下ろしで切り裂いた。
「さすがですね」
「まあたいした相手じゃなかったね」
カーニアはゴーレム相手に少し暴れたことで少し落ち着いた。
通常の人であればゴーレム六体のゴーレムに苦戦をしたかもしれない。しかし、相手が悪かった。カーニアはこの程度では止められなかった。
そしてラピノザは安全になった台座に近づき宝玉の様子を見た。何かが封印されているのは間違いない。しかし、これを解除するとなると結構厄介な代物だった。そして、問題はもう一つある。カーニアの機嫌だ。
「手っ取り早いのと、時間がかかるのどっちがいいですか?」
「手っ取り早いの!」
まあカーニアだったらそう言うだろうなとはラピノザは思っていた。頑張れば封印を解除することはできるかもしれないが、少なくとも数日はかかる。そんなに待つことはカーニアにはできないのだ。それに万が一、封印を解除できなかったら、結局壊すしかない。そうなったらカーニアの機嫌は最悪のものになるだろう。
「……仕方ありません。壊しちゃってください」
その言葉を聞いてカーニアはにんまりと笑う。
「まっかせて!」
カーニアの巨大な戦斧の上段からの一撃を宝玉に食らわせると、ピキリとヒビが入った。その日々から黒い靄が出てきた、ラピノザとカーニアは少し距離を取ると、その靄は徐々に人に近い形が作られていった。
「カーニアさん」
変化している最中にラピノザは持っていた首輪をカーニアに渡す。
「ほい」
カーニアは首輪を受け取り、出てきた悪魔の意識が覚醒する前に首に着ける。完全に人の形をとったところで、悪魔の意識が目覚める。
「ん? ここは……」
悪魔は目が覚めると立ち上がり周辺を見渡すと、ラピノザとカーニアが目に入った。
「そうか、貴様らがこの私を復活させたのか」
「うーん、頭が高いですね。跪きなさい」
「ぐっ!」
悪魔の体に衝撃が走る。思わず膝をつき、頭を垂れるように体が動いた。しかし、それに対して悪魔は必死に抵抗をする。
「これはっ! 貴様ら! 何をした!」
「うーん、完全に操作できるとまではいかないようですね」
激こうする悪魔に対してラピノザは冷静に首輪の性能を分析する。
「再び命じます。跪きなさい」
悪魔の体に再び衝撃が走る。しかし、今度は身構えていた分耐えることができた。そしてゆっくりと立ち上がりながらこう言った。
「こんな、おもちゃで、この私を、好き勝手、出来ると、思うなよ!」
「おや、操作できない場合は間違いなく暴走すると聞いていたのですが……研究部の奴らも当てになりませんね」
目の前にいる悪魔を観察すると、暴走状態にはなっていない。あくまで命令に背くように抵抗をしているだけである。しかし、変化はそのあとすぐに来た。
「おや?」
悪魔の体の芯の方からどす黒いエネルギーが湧き出てきて、悪魔の全身から放たれるのであった。
「ぐおおあああおあああああ!」
突如として悪魔がもがき苦しむように悲鳴を上げる。
「ああ、これが暴走状態なのですね」
首輪の支配に抵抗し続けたことによって、より支配から抵抗するためのエネルギーが暴走し始めたのだ。こうなってしまっては間違いなくこの悪魔を手駒にすることはできない。
「うーん、やはり失敗ですか……」
もがき苦しむ悪魔を見てラピノザは残念そうに言った。
「ねぇねぇ、どうする? この程度なら瞬殺だよ?」
カーニアはこんな状況の中でも、楽しそうにラピノザに尋ねる。
「はぁ~。私たちの任務を覚えていますか? 私たちの言うことを聞かない悪魔は放置。わざわざ問題を解決してやる義理なんて私たちにはないんですよ」
問題が発生したのは間違いないが、このまま放置しても彼らには何の害もないのだ。正義感で倒す必要もない。むしろ放置した方が利さえあるのだ。さすがのラピノザもカーニアを止めるしかなかった。
「問題を起こして誰かに押し付けるのが私たちの仕事です。どこかの誰かに迷惑がかかっても知らんぷり。たくさん人が死んでも知らんぷり。私たちの利益になればそれでよし。それが私たちです」
「最悪だね。私たち。……でも、好き勝手出来るの最っ高♪」
カーニアは言葉とは裏腹に満面の笑みを浮かべながら言う。
「そうです。そんな最高の仕事を失うわけにもいかないので、この場は立ち去りましょう」
「まあ、しょうがないね」
「あ、そうそう。忘れていていました。命令です。グリムヴェイル大森林で適当に暴れていなさい」
そう言ってラピノザたちはこの場から立ち去る。
最後にラピノザが残した言葉は悪魔の脳みそにスッと入る。破壊衝動があるせいか、暴れるということに嫌悪感がないせいか、先ほどの命令と違って抵抗することができず、まるでそれをやらなければならないと思わされた。
命令されたということは分かっている。しかし、それに背く意思を持てないのだ。
「クソッ! ふざけるな!」
悪魔はつけられた首輪を外そうとしたが、どれだけ足掻いても外すための動作を取ることができない。
「くっ! これは霊体に作用しているのかっ!」」
ようやくこの首輪の魔道具がどういう原理で支配してきているのかを、おぼろげながら理解することができた。
「ふざけた人間どもがっ! 必ず地獄を見せてやる!」
こうして封印から解放された悪魔は人間に対して憎悪を抱き、復讐を誓ったのだった。




