22.森の管理者の頼み1
「それで何を手伝えばいいんだ?」
「えーっと……色々?」
「ふざけてんのか?」
「いや、だって! 問題が複雑に絡み合っていて正直何が原因なのか、どう対処すればいいのか分からないのよ!」
こいつは本当に森の管理者なのかと疑いたくなるようなセリフだ。
「でも、わざわざ助けを求めに来たってことは困ってることがあるんだろ?」
「それはあるわね。ブラッドビーのある個体のはちみつが欲しいんだけど、そこをウォーベアに占拠されちゃってるのよ。だからそれを何とかしてほしいわね!」
「じゃあ、ブラッドビーとウォーベアってのを倒せばいいのか?」
名前から想像するに蜂と熊の魔獣だろうとタケルは推測する。
「いえ、ウォーベアだけでいいわ。ブラッドビーを殺しちゃったら次からはちみつが取れないじゃない」
「それもそうか」
つまり今回だけ必要なものというよりも継続的に必要になるかもしれない代物ということだろう。
「ねえ、タケル。そのはちみつは絶対手に入れてきてね」
少しばかり真剣な表情でフィリーがタケルにお願いをした。
「……うまいのか?」
「絶品っていう噂ね。なんて言ったって、ブラッドビーが強くて王侯貴族でもめったに手に入らないはちみつなんだから」
「それは手に入れないとダメだな」
タケルにはそのはちみつの価値はよく分からないが、ディープスパイダーの糸みたいな感じだと思っている。
「ねえねえ、主。それ僕がやってもいい?」
カリュネラがタケルに聞いてくる。
「別にいいが、勝てるのか?」
「む。主、僕のことバカにしてない? そこら辺にいる魔獣なんかに負けるわけないでしょ」
「それもそうか」
タケルがピルカの方に視線を移すと、そこには固まっているピルカがいた。
「ま、魔人!? なんでここに魔人がいるのよ!」
「いや、さっきからずっといたが」
カリュネラも一緒に飯を食っているのだからいるのは当然だ。
「やめて! 殺さないで! 私を食べてもおいしくないわ!」
「は? お前みたいな不味そうなの最初から食べる気はない」
「ふぅ、よかった。……でも、それはそれでむかつくわね。っていうか、あんたなんで魔人なんか連れてるのよ!」
なぜかピルカはタケルに切れる。
「なんでって……そりゃあ俺の農場で一緒に働いてくれる仲間だからな」
「意味が分かんないわ……」
普通は魔人が人と一緒に暮らすというのはあり得ないのだ。ヤマトの町の住人たちはいつの間にか受け入れているが、ピルカの反応は普通である。
翌日。
タケルたちは早速ピルカの頼みを聞くことにした。参加するメンバーはタケル、ラグナ、カリュネラ、フォリン、ピルカだ。そこにカリュネラとフォリンの移動用にホワイトウルフが二匹いる。
「さあ、出発よ! この私についてきなさい!」
なぜかピルカが音頭を取ってタケルの家の前から出発をする。
「じゃ、お土産持ってくるから」
「楽しみに待ってるわ」
タケルはのんきにはちみつというお土産を持って帰ってくることをフィリーに約束する。
「ウォーベア狩りに行くんすよね。普通、命がけっすよ」
まるでピクニックに行くかのような雰囲気のタケルたちにフォリンは今までの常識が壊れている。ウォーベアはここら辺にいる魔獣の中でもトップクラスに強い魔獣だ。万が一森の中で見かけたら見つからないように逃げるのが鉄則だ。
「別に無理についてこなくてもいいんだぞ」
なんだか一人だけ緊張しているフォリンを見かねてタケルが声をかける。
「いや、兄貴が行くんすから、第一の舎弟である俺っちが行かない選択肢はないっす!」
フォリンは威勢よく言った。
「それに俺っちのスキルには何の反応もないからきっと大丈夫っす」
タケルは一瞬なんかのフラグなんじゃないかと思ったが、前回も面倒なことはあったが、危険なことはなかったなと思い直した。
こうしてタケル一行はピルカの後について目的地を目指した。
目的地であるブラッドビーの巣から少し離れた場所にたどり着いた。とりあえず遠くから様子をうかがう。
ブラッドビーの巣は木のいたるところに巣があり、木の中までブラッドビーの住みかとなっていた。そういった木が五本ほどある。おそらくあの一帯の木すべてでブラッドビーの巣となっているのだろう。
働き蜂たちがせっせとどこからか蜜を運んできている。
その巣の中に我が物顔で侵入してくる熊の魔獣が見える。おそらくあれがウォーベアなのだろうとタケルは判断する。そしてなぜか蜂たちはウォーベアを攻撃していない。
「やばいっすよ! あのウォーベア普通よりもかなり大きいっす!」
フォリンがウォーベアを見て怯えながら小さな声で叫ぶ。もしフォリンがあのウォーベアと相対したら間違いなく殺されると思わされるような個体であった。
「なあ、なんでブラッドビーはウォーベアを攻撃しないんだ?」
タケルは沸いてきた疑問をピルカに問う。
「……たぶんだけど女王蜂を力で支配してると思う」
「支配なんてできるのか?」
「あそこのブラッドビーの女王は怪我をしているのよ。あのウォーベアにやられてね。あまりに反抗すると女王が殺されちゃうからしぶしぶ従っているって状態ね」
「なるほどね」
「ねえ、早く助けてあげてちょうだい」
「了解。カリュネラ、あいつ強いらしいけど一人でいけるか?」
「余裕」
カリュネラは準備運動がてら軽く体を動かして調子を確かめている。やる気満々の様子だ。危なくなったらタケルも出るつもりだが、この様子ならきっと大丈夫そうだと判断する。
「じゃあ、任せた」
「任された!」
そう言うが否や、カリュネラはウォービーに向かって走っていった。
ウォーベアはブラッドビーのはちみつの詰まった巣を持ってどこかに行こうとしていた。
カリュネラはそのウォーペアの前にわざわざ立った。
「さあ、僕が相手をしてやる。殺してやるからかかってこい」
ウォーベアはカリュネラをにらみつける。巣を抱えながら近づいて来て、距離が詰まったところで右手を振りかぶり爪で切り裂こうと振り下ろした。
それをカリュネラは悠々と左手で受け止める。
「おい、お前、ふざけてるのか?」
カリュネラは巣という荷物を持ったまま戦おうとするウォーベアにイラっとした。その怒りを右手に込めてそのままウォーベアのお腹をぶん殴った。
「ぐおおおおおお」
ウォーベアはカリュネラの一撃で十メートル以上吹き飛んだ。
カリュネラはそのウォーベアに向かってゆっくりと歩いて向かう。
「これじゃあ、準備運動にもならないじゃないか」
そう言ってカリュネラはウォーベアに硬質化させた手刀でとどめを刺そうとする。しかし横の方から何かが攻撃してきたことに気づいたカリュネラはその攻撃を防ぐ。すると、攻撃を仕掛けたウォーベアはそのまま距離をとった。
「もう一体、いや……三体いたのか」
はちみつを採りに行っていたウォーベアは一体だけだったが、その周辺には他のウォーベアが控えていたのだ。このウォーベアたちがブラッドビーの巣を独占するかのような、自分たちの縄張りたと主張するかのようだった。
カリュネラは三体のウォーベアに囲まれた状態に陥った。しかし、それでもカリュネラには一切の焦りはない。
「これなら、準備運動ぐらいにはなるかもね」
多少戦える相手が三体もいるということでカリュネラのテンションは少し上がる。
ウォーベアたちはヒット&アウェイの要領で一撃入れたらすぐに距離を取る戦法を選んできた。しかも、連携も素晴らしく死角になっている部分から攻撃をしてくるので、思うように攻撃に出れないでいた。
「兄貴! カリュネラ先輩、苦戦してるっすよ!」
「大丈夫だって」
遠くで見ていたフォリンが心配をしているが、タケルはカリュネラのことを一切心配していなかった。
「むー、じれったい戦い方するなー。このままでも勝てるけど、あんまり主を待たせたくないんだよね。だから、もう終わらせるよ!」
カリュネラはこのまま防戦を続けていても、少しでも隙を見せればひっくりかえせる自信はあった。しかし、それではいつこの戦闘が終わるか分からない。だから、カリュネラは力を使うことにした。
「操糸術」
そう言ってカリュネラは五本の指から細い糸を漂わせる。
そこに一体のウォーベアが突っ込んでくる。
「バインドスラッシャー」
カリュネラが出した糸がウォーベアの手や足、首などに絡まり拘束し、身動きが取れなくなる。
「ぐがっ」
「じゃあね」
ぐっと手を動かすことで、ウォーベアの体をそのまま切断してしまう。
仲間が無残に殺されたことで動揺しているウォーベアに対して、カリュネラは間髪入れずに接近して、バインドスラッシャーで拘束、切断を次々と行うと、当たり一面に血しぶきが飛び交う。
「まあ、こんなもんだよね」
フォリンたち普通の獣人が命がけで戦う相手であっても、魔人になったカリュネラの前には物足りない相手なのだ。




