21.森の管理者
「これ、あんたが作ってるの?」
なんだから偉そうにそして、馴れ馴れしく害獣がしゃべっているがタケルはそれを無視して、妖精を掴む。
タケルが作ったものを勝手に食べるのは犯罪である。それはすなわち畑にとって害獣。畑を荒らす害獣は皆殺しだ。
「おらの畑の物を勝手に食ってるおめーは害獣だ! 害獣は皆殺しだ!」
「く、苦しい! ちょ、あ、待って! 待ってください!」
タケルが徐々に握っている拳の圧を上げていくと妖精は根を上げた。
「言い訳を聞こう」
狩るものと狩られるものというマウントは済んだので、少しだけ握りこぶしを緩める。しかし、その言い訳次第では殺処分するつもりだ。
「ここ最近ちょっと畑の管理が甘かったから少し手を加えただけじゃない! 勝手に手を出したのはいけないことかもしれないけど、せっかくいい感じに育ってる植物たちが台無しになるのはもったいないと思ったのよ! それがそんなに悪いことなの!」
妖精は何とか早く許してもらおうと今までここでやっていたことを素直に話した。
「……つまり、畑を守っていたと」
この妖精曰く、タケルがドワーフの職人たちを勧誘している間の畑の面倒を見てくれていたようだ。もしかしたらこの妖精がいなかったら、もっとダメになっている農作物たちが多かったのかもしれない。
「そうよ! だからちょっとくらいもらったっていいでしょ」
だがしかし、この妖精の形をした害獣が本当のことを言っていればの話である。
「それは本当か?」
「本当よ!」
「証明できるか?」
「放してくれたら少しだけ私の力を見せてあげる」
「……いいだろう」
タケルは害獣から手を放すが、油断は一切しない。いざとなれば、そのままサクッと殺すつもりである。
「ふぅ、全く。この私になんて無礼な奴なのかしらね」
「さっさとしろ」
「はいはい! 分かりましたよ!」
やけっぱちという感じで害獣はタケルに返事をする。
「よく見ておきなさいよ」
そして害獣は手のひらを向かい合わせにして、その真ん中に温かい色の光の球を作り出す。そして手のひらを上の方に向ける。
「さあ、お行きなさい」
その光の球はゆらゆらとぶどうの木の上に移動したあとに弾けた。すると、光の粒子がブドウに降り注いだ。
普通の人には判断できないかもしれないが、タケルにはブドウの輝きが若干増し元気になったことが分かった。
「こうやって私があそこら辺に育ってるものに活力を与えていたのよ」
妖精が指し示しているところは最高品質の農作物たちのエリアだ。最高品質の農作物たちが無事だったのはこの妖精のおかげだったのかもしれない。それならば多少タケルの畑に実っている作物をつまみ食いするのは許してあげてもいいかもしれない。
「すまなかった」
「わかりゃーいいのよ、わかりゃー」
タケルが素直に謝ると妖精も潔く許してくれた。
「それじゃあ、俺はやることがあるからな。食うのはほどほどにしておけよ」
タケルはこの妖精を放っておいて仕事に戻ろうとする。
「ちょっと待ちなさいよ! 今度はこっちが質問する番でしょーが!」
「ん? なんだ? 俺に用があるのか?」
「いや、だから、さっきも聞いたでしょ? ここら辺の野菜や果物をあんたが作ってるのかって」
タケルにはそんな記憶が一切ないのだが、それを指摘しても話が進まないので、そのまま答える。
「そうだ。ここの野菜は俺が全部作っている」
「それはよかった。そんなあなたにちょーっと頼みごとがあるのよ」
「嫌だ。俺にはやることがある」
なんだか面倒くさそうな予感がしたので、タケルはさっさと断ってその場から立ち去ろうとした。
「ちょ、話ぐらい聞きなさいよ!」
タケルが移動をしても妖精は付いてくる。
「ねえ、この私が頼んでいるのよ? 普通、私の頼みだったら聞くもんでしょ。それが何。無視って。人としてどうなのよ? その態度」
「……」
妖精はタケルの周りを飛びながら言ってくるが、タケルは無視する。
「えーっと作るのは、ブドウと……あれ? あいつらってワインしか造らねーのか? うーん、念のためビール用の麦と日本酒用の米も作っておくか」
女神様がどの酒を気に入るのか分からない。イメージ的には神様に捧げるお酒というのは日本酒なのだが、あいつらは作れるのだろうか? 今は作れなくてもチャレンジしてもらえばいいかと考え、とりあえず作ることにする。高品質の農作物を作るのには時間がかかるのだ。
「はあ? そうやって無視し続ける気? いいわよ。そっちがその気なら。あんたが話聞くまで付きまとってやるんだから!」
それからタケルは日が暮れるまで農作業をし続けた。その間妖精はずっと何か喚いていたが、集中して農作業をしていたタケルには一切ダメージがなかった。
「今日はこれくらいにしておくか」
麦と米に関しては作付けをしたところで終わった。家に帰るとフィリーがくつろいでいたのだがタケルの方を見て開口一番にこういった。
「何よ。それ」
「ああ、これか。なんかよく分かんねーけど、変なのに付きまとわれてるんだ」
あれだけ威勢の良かった妖精はどこかに消え、消え入りそうな弱弱しい雰囲気でタケルの周りに漂っていた。
「ん? なんか言ってるわよ」
フィリーが耳を澄ますと妖精がぼそぼそと言っている言葉が聞こえてきた。
「お願いします。ほんとに困ってるんです。せめて話だけでも聞いてください」
「ねえ、話だけでも聞いてあげたら?」
あまりにかわいそうな雰囲気にフィリーが助け舟を出す。
「うーん、しょうがねー。話を聞くだけだぞ」
「ありがとうございます」
そう言って妖精はテーブルの上に座る。
「料理ができたにゃ!」
エルミィがテーブルに食事を運んでくる。
「まあ、せっかくだし食っていけ」
飯を食いながら話を聞こうと思ったのだが、妖精はものすごい勢いでご飯を食べていた。
「うまい! うますぎる!」
一心不乱に食べる姿に話をしろというのは憚られ普通に食事が終わるまで話をするのは待った。
「ふー食べた、食べた」
ぱんぱんに膨らんだお腹をさすりながら妖精は言った。
「で、話ってのはなんだ?」
「そうよ! それが本題だったわ!」
飯を食って元気になった妖精は威勢もまた復活していた。
「ところで、あなたの名前は何なの?」
フィリーが妖精に聞く。
「……そうね。話をする前に、まずは名乗るべきだったわね。私の名前はピルカ! このグリムヴェイル大森林の管理者よ! ひれ伏しなさい!」
なんだか偉そうに言うが誰もひれ伏さない。そのまま無視して、タケルはが話を促す。
「で、その森の管理者が一体何の用だ」
タケルはわずかながらに警戒をした。タケルがやっている開拓というのは、森を切り開くことである。それを咎めに来たのではないかと思ったのだ。だが、タケルは引くつもりはない。せっかく作った畑や町を放棄しろ、なんていうのは受け入れるわけがないのだ。
「今、この森はヤバいことになっているのよ」
「やばいこと?」
タケルはますます警戒する。一気に開拓を進めたことを指しているのではないかと。
「えーっと、色々とややこしいことになっているのよね。まあ簡単に説明すると、この森から活力が失われていっているのよ」
「活力? もしかしてこの周辺が飢饉で苦しんでいるのってそのせいなの?」
「うーんっと、関係あるけど関係はないわね」
「なんだ、はっきりしねーな」
「説明するのが結構ややこしいのよ。まず今この森で作物が育ちにくくなっているのは自然なこと。この森は豊作期と不作期を行ったり来たりしているわけ。今はちょうど不作期に当たるから食べ物がなくなってるのは自然なことなのよ」
「なるほど」
「ただある程度活力がなくなるのはいいの。でも、今は必要以上に活力が奪われてしまっているのよ。それが私が困っている問題なの」
「それは俺が原因なのか?」
タケルは真剣な表情でピルカに聞いた。
タケルの中に思い当たるのは農業スキルだ。これが必要以上に活力とやらを吸い取って農作物を作っているのではないかという疑念だ。それは確かめなければならない。このスキルがそんな厄災ネタを抱えているのかを。
「は? なんであんたが原因になるのよ?」
「俺の農業スキルが活力を吸い取ってるじゃないのか?」
だから、タケルのところに来てやめさせようとしているのではないかという話だ。
「正直、私もそれを疑ったわ。でも、それはここに来て関係ないことが分かった。あんたの力はかなり異質なのよね。普通のスキルの範疇を超えている。間違いなく特殊スキルね」
「特殊スキル?」
「普通のスキルだったら、別にスキルがなくても同じようなことはできるでしょ? でも、特殊スキルになると再現できる人はいない。というか、少なくとも私は知らない」
確かに言われてみれば思い当たるふしはある。例えばフォリンの危険察知はタケルにはないが気配を探ることで危険かどうかは分かる。それにバルガスの鉄壁もタケルにはないが、成長する農作物を食っているせいかやたらと体が頑丈になっている。でも、タケルの能力を再現できているものは一人もいない。フィリーも聞いたことがない力と言っていたし。
「特にその植物の品質を馬鹿みたいに上げる能力はあなたしかできないでしょうね」
「やっぱりそうよね」
フィリーが納得したかのように声を出す。
タケルがもらった農業スキルは女神様から直接もらったものだ。もともと性能がおかしな能力だとは思っていたが、けた外れにすごい能力なようだ。
「その能力っていうのは、周囲の土や植物に悪影響を与える形で活力を与えていないのよね。正直、どういう原理なのかは私にもさっぱりだわ」
森の管理者を名乗るほどの物でも、どうやって農作物の品質を上げているのか分からないらしい。それぐらいタケルのスキルは異質で高性能なスキルということだ。
「で、そんなあなたにこの森を助けてもらいたいのよ。手伝ってくれるわね」
「嫌だ」
タケルは色々と分かり、ほっとした気持ちもあったが、それはそれとして、手伝うのとは関係がないと判断した。
「どうしてよ! 今の話の流れ的に手伝うって話じゃない!」
「いや、だって俺が原因じゃないんだろ?」
もしタケルのせいで森が危機に瀕していると言われればきっとどうにかしようと手伝っただろう。しかし、タケルは無関係なのだ。手伝う義理はない。
「いいじゃない! そんなすごい能力持ってるし、強いんだから!」
「いや、森の管理はお前の仕事だろ?」
森の管理者を名乗るくらいなのだ、しっかりと管理して欲しいものだ。
「うぐっ……いや、ほんとにこのままじゃ森がやばいのよ! 森が枯れたら困るでしょ?」
「いや、それを何とかするのが森の管理者の仕事じゃないのか?」
「自分だけが良ければそれでいいって考えよくないわよ! みんな助け合って生きているの! あなたも私の手と手を取り合って素敵な森を作りましょう!」
妖精は急になんだか胡散臭いことを言い始めた。
「今、忙しいんだって」
だが、タケルはそれを断る。
タケルはうまい酒を造るためのブドウ作りやら麦作りやら米作りがある。神様からのクエストなのだ。なるべく早めにクリアしたい。
「報酬! はちみつがあるわよ! 好きでしょ? 甘いもの!」
「うーん、確かに惹かれるものはあるが、今はそれどころじゃない」
「それどころなのよ~」
ピルカがタケルに縋りつく。
目の前にいきなりクエスト画面が現れた。
・クエスト【グリムウェイル大森林の危機を救おう】
どうやら女神様はこの森の危機を何とかしてほしいようだ。ならば選択肢は一つだ。
目の前に表示されている「受ける」というボタンを押す。
「おし、いっちょ森の危機を救ってやるか!」
「えっ! 本当! やったー!」
「急にどうしたのよ」
フィリーはこのまま断ると思っていたのに、急にやることにしたタケルに驚いていた。
「女神様からクエストが来たからな」
「ああ」
フィリーはそれで納得した。もしそうならタケルはやるに決まっているからだ。
「何それ?」
「何それも何もそのままの意味だが?」
「あんた頭大丈夫?」
タケルはちょっとイラっとしたのでピルカをデコピンする。
「あ、いたっ。ちょっと何すんのよ! 大体女神様からのクエストとか意味の分かんないこと言ってる方が悪いでしょーが」
ピルカはおでこを押さえながら言う。
タケルはよくよく考えてみれば、ここら辺の話をしているのはフィリーぐらいだ。そしてそれを不思議に思うことなく聞いてくれる存在というのは貴重なのかもしれない。
「まあいいだろ。手伝ってやるから」
「……そうね。手伝ってくれるなら理由はなんだっていいわ」




