20.意気投合
追手がついてきてもやっかいだったためタケルは町の東側に向かった後、遠回りして北側にある集合地点に向かった。しかし、ちゃんと迷った。
「……あれ? ここはどこだ?」
大まかな方向性はあっていると思うのだが、この辺の森の中に詳しいわけではないので、あまり自信がなかった。
そんな感じで森の中をさまよっていると、横の方からなじみのある気配がやってくることが分かった。
「主!」
「おー、ラグナか。助かったぞ」
ラグナはタケルに飛び掛かった。そしてタケルはラグナを撫でまわしてあげた。
「皆、向こうの方で待っています」
どうやらタケルは向かっていた方向は若干ずれていたようだ。タケルはラグナに乗り集合地点に向かって行った。
「おかえりなさい」
まだ夜なのにもかかわらず、フィリーは起きてタケルを待っていたようだ。
「それにしても、ずいぶんと無茶したようね」
どうやら先に戻っていたフォリンたちから話を聞いたようだ。ジト目でタケルのことを見てくる。
「おう! 領主とやりあって、一発かましておいてやったぞ!」
それをブロムに向かって伝える。
「おま、おま、お前えええええ!」
驚きと困惑とうれしさが混ざったような返事をした。
「あの領主にかますとはなかなかやるじゃねーか。あれでもあの領主は国で結構名をはせているんだぞ」
バルドが言った。
「まあ、それなりに強かったな」
「それなりか……随分と頼もしーこった!」
バルドがなんだか楽しそうに笑いながら言った。
「いや、タケル俺のことを思ってだと思うが……ありがとな」
ブロムは少し恥ずかしそうにしながらもお礼を言った。
「何勘違いしてんだ? 俺があいつを気にくわなかったからやっただけだ。おいおいおい。まさか自分のためにやってくれたとか思ってんのかよ」
「う、うるせー!」
ブロムは照れながら反論し、どこかに行ってしまった。
「ねえ、まさか殺してないわよね」
ジト目のままのフィリーがタケルに確認した。
「おいおい、さすがの俺もそれくらいの分別はあるよ。ちょーっとかまして気絶させただけだって」
フィリーは思わず顔を手で覆う。
これはギリギリアウトである。この領主の性格によっては負けたことに怒ってどう行動に出るのかが分からない。見栄とか誇りとかは理屈ではない。明らかに損でもメンツを保つために行動を起こすこともあるのだ。できれば領主と相対したらそのまま逃げてほしかったフィリーである。
「そんな気にすんなって」
なんだか大変そうなフィリーを慰める。
「誰のせいよ。誰の!」
「要はバレなければいいんだよ。バレなければ」
「……そうね。あんたたち町の中では自由にしてもいいけど、外との交流には気をつけなさいよ!」
切り替えの早いフィリーはドワーフたちに言う。
「わ、分かった」
あまりの剣幕の強さにドワーフたちはおののきながらも返事をする。
◆
こうしてタケルたち一行はヤマトの町に向かった。
道なき道を進んだので、あの領主からの妨害は全くなかった。もし普通の道を通っていたら、指名手配されていて追手が厳しかったかもしれない。
「ようこそ! ここが俺の町ヤマトだ!」
町の入り口でタケルがドワーフたちに町を紹介する。
「まさか、本当に魔獣と共生しているとはな」
ヤマトに到着してそうそう町の様子を見て、木工職人のバルドリンが言った。
タケルがホワイトウルフとディープスパイダーを配下にしていることはすでに知っていたが、町全体で共に暮らしているとは想像できなかった。普通、魔獣は人を襲う生き物だからである。
「ここで暮らしてる奴を襲うようなことはねーから安心してくれ」
「それは分かっているが……」
ここに来るまでもホワイトウルフに乗ってきたのだ。むやみやたらに襲う獣ではなく理性のある獣だということが嫌でも分かる。
「まあ、なんにせよ。まずは酒だ。ここで作ってる酒を飲ませろ」
酒狂いのバルドが言う。道中も酒を飲んでいたが、大量に飲んで酔っ払うことはできなかったため禁断症状が出てきたようだ。
「いや待て。酒もそうだが、酒蔵も見たい」
「分かった。こっちだ」
ブロムが真面目なことを言ったので、タケルはドワーフたちをこの町で発酵品を作っている蔵に案内する。
「ほう、ここか。意外と立派な蔵だな」
グリムヴェイル大森林の中にある町だと聞いていて、そんな辺境だと思っていたが、案外ちゃんとした蔵があったので、ブロムは少し驚いていた。
タケルは扉を開いて中に入ると、そこにはサイラスが何やら樽に向かって愛を囁いていた。
「エルフ。そうかエルフか」
そんな様子を見たブロムはどこか一人で納得しているようだった。
それもそのはず。エルフは醤油や味噌などの発酵食品を作ることをブロムは知っていた。そんなエルフの職人がいれば、ちゃんとした蔵を作るくらいの技術があるのは理解できるからだ。
「どうされたんですか? タケル様」
ドワーフの方をちらちらと見ながらサイラスがこちらにやってきた。
「こいつらはな。この町に酒を造りに来たドワーフたちだ」
タケルはサイラスに簡単に説明する。
「ま、ま、まさか! この私の城を乗っ取る気ですか! そうはさせませんよ! いくらタケル様と言えど、この城は渡しません! なんていったってもうここはそれぞれの発酵食品ちゃんが心地よーく安心して、暮らせるような環境づくりをしてしまったんです! ここにさらに別の物を加えるとなると、この場が荒れるんです! 場が荒れると発酵食品にも悪影響が出るんです!」
サイラスは通せんぼするかのように手を広げて一気にまくし立ててきた。
タケルにはよく分からないが、サイラスは嫌がっていることだけはよく分かった。
「いや、別に乗っ取りはしねーよ。別のところで酒は造ってもらう予定だ」
「それはよかった。それならそうと早く言ってくださいよ」
一安心するサイラスだが、反論する暇もなく一気にまくし立ててきたのもサイラスなのである。
「俺はブロムだ。正直、この町のレベルは低いと思っていたが、この場所を見て俺の考えは間違っていたことが分かった。ここはいい蔵だ。お前は菌に愛されている」
「ほう、それが分かりますか。私も直感で分かります。あなたも菌に愛されていると」
「そうか。俺は今でも菌に愛されているか……」
ブロムはマズい酒しか造れなかったのが妨害されたせいだと分かっていても、心のどこかで不安だったのだ。だが、自分が一目見ても優れていると分かる職人からの賛辞はブロムの心の中に染みた。
「正直、私にはお酒の良さはよく分かりません。しかし、あなたが作るお酒はぜひ飲んでみたいと思いますね」
「ああ、それは楽しみに待っていろ。最高の酒を造るに俺はここに来たからな!」
どうやら二人の職人は通じ合ったようで、すっかり意気投合したようだ。この様子を見て、大丈夫だろうと思ったタケルはこの場から立ち去ることにする。
「じゃあ、お前たちあとは好きに見学してくれ。必要なものがあればフィリーにでも言ってくれ。もしくはサイラスでもいいな。頼んだぞ!」
「お任せください」
サイラスは恭しく頭を下げる。
そうしてタケルはこの場から立ち去る。
タケルにはやることがあるのだ。女神様からのクエストはおいしい酒を造ること。そのためには原材料の質の高さは必要不可欠だろう。なんていったって女神様がおいしいと感じるほどのものを作る必要があるのだ。下手な原材料では無理だろう。
そんなことを考えながら、タケルは畑に来た。結果として一週間近く放置してしまったので、ダメになっているものも多いかと思ったが、ほとんどの農作物達は無事だった。意外なことに最高品質用の農作物もあったのだが、無事だった。
一応、町の住民に世話を頼んではいたが、スキルがないのでダメになると思っていたのだ。
「案外、植物ってのは頑丈なんだな」
今まではなんだかんだ言ってほぼ毎日手を加えていたが、そこまでタケルが手を加えなくても大丈夫なのかもしれない。
将来的にはタケルが作る量を減らして品質重視の方に移行するためにも他人の手を借りたいと思っている。だが、どこまで任せていいのかまではよく分からないので、そこら辺も試行錯誤になっていくのだろう。
シャク。とリンゴをかじる音がする。
「へぇ、なかなかおいしいもの作るじゃない」
タケルは声が聞こえた方を向くと、そこには妖精の形をした害獣がリンゴを持って宙に浮かんでいた。




