19.救出作戦3
フォリンとブロムはこの町の集合地点に向かっていたが、追手が厳しいため、進路からずれていた。
追手の兵士はあの場だけでなく、他にもいたのだ。
(うーん、兄貴と分かれてから危険察知が反応しだしたっすね)
フォリンはまだスキルから目覚めたばかりでうまく使いこなせていなかった。しかし今のところスキルの効果で、この道を進むのはよくないなどがなんとなく分かるようになった。そうして今のところギリギリ追いついてはいない。
「こっちっす!」
フォリンは先導して、ブロムを導く。しかし、それでも危険察知のスキルは鳴りやまない。どこまで逃げても鳴り響いている。
「……まずいっすね」
思わずフォリンは弱音を口に出してしまう。いっそのことあのままタケルと一緒に居た方がよかったんじゃないかとすら思えてきた。
「いたぞ!」
今まで見つからずに逃げていたが、ついに兵士に見つかってしまった。フォリンは思わず声がする方に振り返ってしまったが、三人ほどの兵士が追いかけてきていた。
フォリンの足なら逃げられそうではあるが、ブロムはそこまで足が速いわけでもなく、体力があるわけでもない。このままいくとじり貧になる可能性が高かった。
「先に行くっす! 俺っちが足止めするっすよ」
「行けってどこにだよ!」
フォリンはしまったという顔をする。この逃走中にブロムにこの町の集合地点などは一切話していなかった。
「いや、その……」
そう言っている間にも追手は近づいてきている。それに万が一、集合地点を知られたら先回りされてしまう。それにパッと言えるような場所でもないのだ。
「と、とにかく逃げるっす!」
「……死ぬなよ」
ブロムとしてもろくに武器もなく戦えるわけでもないので、このままいても足手まといだと判断し、先に行くことを決断する。
フォリンは追手の足止めのために、一人残る。三対一で相手は剣。防戦に回るとキツイと判断し、果敢に攻め込む。
兵士の一人が剣を受け止める、そこに他の兵士の一人が横からフォリンに切りかかってくる。フォリンは目の前の男を後ろに押し出したあと、その攻撃を避け、蹴りをくらわせる。さらに、もう一人後ろから攻撃してきたのを、距離を取って避ける。
「ここから先は行かせないっすよ」
相手は三人だが、何とか戦えるという状態だ。フォリンの手応え的にもこのままならいけると判断した。しかし、そううまくはいかなかった。
「うわっ!」
ブロムの声が聞こえる。フォリンは思わずそちらの方に目を向けてします。すると、そこには他の兵士が立っていた。
「なっ」
フォリンは敵にその動揺を突かれて、剣を弾き飛ばされてしまった。
「しまっ!」
そして剣を振りかぶる兵士。フォリンはこれが振り下ろされれば自分は死ぬと思い、思わず目をつむってしまう。
しかし、その剣はいつまで経っても振り下ろされなかった。
様子が変だと思ったフォリンは、そっと目を開けると、そこには肩に弓矢が当たった兵士たちが倒れていた。
「ったく、お前はどこに逃げてるんだ!」
「シェイドおおおおおお!」
そう言ってフォリンはシェイドに抱き着く。
「やめろ! 引っ付くな!」
シェイドはフォリンを引き離すように顔を遠ざける。
「あれ? ブロムさんは?」
「あっちも何とかした」
ブロムに迫っていた兵士も矢を受け倒れていた。どうやら屋根の上にエルフがおり、眠り薬を塗った矢を使っていたようだった。
「それでタケル様は?」
「一人残って足止めしているっす!」
「バカ! なんでタケル様を一人にするんだよ! お前が残れよ!」
「いや、だって兄貴が行けって言うから……」
「それでもだよ!」
「大丈夫っすよ。兄貴は一人ならどうとでもなるって言ってたっすよ?」
「だろうな。でも、あの町はタケル様がいなければ終わるんだぞ」
シェイドもタケルの強さは知っている。そこらに居る騎士や兵士でどうにかなる相手ではない。それに逃げるだけなら足手まといである自分たちがいない方がいいのだろうということも分かっている。それでも守るのが自分たちの仕事だと認識している。
「じゃあ、戻るっすか?」
「……いいや、俺たちはこのまま町を脱出する」
シェイドは自分の仕事とタケルの実力の間で悩むが、やはり逃げるだけなら自分たちがいない方がいいと判断した。
「結局そうするんじゃないっすか……」
「うるせー」
こうしてフォリンとブロムはこのまま無事に町の外に逃げ出すことに成功した。
◆
タケルは適当に時間を稼いでそのまま逃げるつもりだった。しかし、その予定は変わった。わざわざ殴られに領主がやってきたのだ。ブロムの人生ともいえる酒を台無しにしてきたのだ。当然その報いは受けさせる。
先ほどまでとは雰囲気の変わったタケルに対して騎士たちは警戒をする。しかし、いつまでもそのまま見合っていることはできないので、再び上段から切りかかってくる。
「死ねっ!」
タケルはその剣を躱して胴に一撃を入れると、騎士は後方に吹っ飛んでいった。
残ったもう一人の騎士も剣を振り袈裟切りで切りかかってくるが、タケルはそれを軽々と弾き飛ばした後、相手の腹を思いっきり蹴飛ばした。こうして雑魚二人は片づけてメインディッシュの時間となった。
「やはりこ奴らでは相手にならんか」
ドラクムは騎士たちとの戦闘を見ていて、タケルが騎士たちよりも強いことを見極めていた。だからこそ、自分が前に出ることにしたのだ。
「私はこ奴らとは違うぞ」
ドラクムが切りかかって来て、それをタケルが受ける。つばぜり合いの状態で両者はにらみ合う。
「お前、どうしてブロムの酒を台無しにした」
「ほう、貴様らはブロムを引き抜こうとした奴らか」
「答えろ」
タケルは剣を押して両者は距離を取る。
「そんなもの決まっている。この私の利益のためだ。奴が大人しくクラウン・レッドにしていれば、どれだけ利益をもたらすことができただろうか」
今度はタケルの方からドラクムに切りかかる。ドラクムもそれを受け止める。
「お前の下らねー利益のために、ブロムがどれだけ傷ついたと思ってる」
「ふっ、くだらん。領主が民を好きに使って何が悪い」
ドラクムはさも当然かのように言う。そしてドラクムが受け止めた剣を弾き飛ばすようにして距離を取る。
「いいわけねーだろーが!」
「貴様には分からんだろうな。領主の思い通りに動かぬ奴が悪いのだ」
ドラクムは目の前にいる男とは一生分かりあえないことを察した。そもそも生きる世界が違うのだ。貴族と平民では価値観が全く違う。いや、違わなければ生き抜くことはできないのだ。
「もはや問答は不要だな。貴様は殺す。そしてブロムは一生私のところで酒を造り続ける。それがこの町の領主である私の決定だ!」
「残念だが、お前の望み通りには何一つならねーよ」
タケルは生きるし、ブロムはタケルのところで一生酒造りをするのだ。それがタケルの中での決定だ。
「これを食らってもその態度を崩さずにいられるかな。食らえ! 剛剣!」
ドラクムは距離を詰め横なぎで一閃する。
「ぐっ」
それをタケルは剣で受け止めるが、あまりのインパクトの強さに堪え切れられず、そのまま弾き飛ばされて壁にぶつかってしまう。
「このスキルの一撃を受け止めたものはいない。せいぜい逃げ回るがいい」
「はっ誰がそんなことするかよ」
タケルは起き上がりながら言った。
「お前のことは真正面からぶっ潰す!」
ここで無理に力勝負に出る必要はない。力で来るなら技で返せばいい。それだけの技術をタケルは持っている。しかし、タケルはこいつを真正面から倒すと決めた。むかつく相手には相手が得意としているもので勝負して勝った方が相手のプライドをボロボロにできるからだ。
「ふっ、減らず口を」
「ほら、勝負してやるからかかって来いよ」
タケルは挑発しながら、その場で剣をどっしりと構える。
「いいだろう。貴様に死を与えてやる! 剛剣!」
ドラクムはタケルの挑発に乗り、自身の最高の技でタケルに切りかかる。
「皇極天武流剣術【轟断斬】」
タケルもドラクムの切りかかりに合わせて、同様に切りかかる。そして両者の剣が激突する。両者の全身に衝撃が走るが、互いに一歩も引かず膠着状態だ。
「この私の剛剣に耐えるだと!?」
「まだまだ上がるぜえええええええええ!」
「なっ!」
剣がぶつかった当初は均衡を保っていたのだが、タケルがギアを上げてからぐんぐんドラクムは押し込められる形になる。
「ふざけるなああああああ」
ドラクムはさらに力を入れるが、それでも一ミリも跳ね除けることができない。
「はあああああああああああ!」
タケルはドラクムが力を入れるのに合わせて、さらに力を練り上げる。
「ぐっ」
「俺の勝ちだああああああ!」
力押しで勝ったタケルはそのままドラクムを切りつける。
「ぐはっ!」
タケルの一撃を食らったドラクムはその場に倒れる。
「まじでこいつみたいな奴がいるところに転生しなくてよかったわ。女神様ありがとうございます」
手を合わせて天にいるであろう女神様に祈りを捧げる。もしここに転生していたら、こいつと大戦争をしていただろう。
「さてと」
タケルは周囲を見回すと、兵士たちが困惑した様子でこちらの様子をうかがっている。もう十分に時間稼ぎをしたので、あとは逃げるだけだ。
「こいつを殺されたくなければ、武器をその穴に捨てろ」
タケルはドラクムの首元に剣を伸ばしながら周りにいる兵士たちに言った。別にタケルは殺す気はない。さすがに殺すとなると、一生この国と敵対関係になるだろう。それは避けたかった。下手に恨みを買っていいことはないのだとフィリーから教わっている。
兵士たちは領主の命がかかったとなれば、武器を捨てるしかなかった。捨てたところでタケルは土魔法で埋める。あとで掘り出せるだろうが、今は逃走するときだけでも武器をなくせればいいのだ。
そしてタケルはその場から立ち去り、町の外東側に消えていった。




