17.救出作戦1
タケルたちは出発日までに観光をした。
その間にラグナには一度ヤマトまで戻り、ホワイトウルフを連れてきてもらっていた。来たときの数ではドワーフたちの分がないためだ。往復にホワイトウルフの足で二日ぐらいはかかるので、三日後という期間に設定していた。
その間やることがないため、タケルはフィリーやジルたちとおいしいものを食べたり、町を散策したりした。
エルミィがカジノで勝ったお金の残りはみんなで分けて、お土産を買うことにした。たくさんではないが少しは洋服を買えたためフィリーの機嫌はよかった。
ちなみに、エルミィはあのカジノでの勝利の興奮が忘れられずにこっそりと賭博場に行ったが、結果としてすべての所持金を使ってしまった。護衛をまいたことに対しても怒られた。そうそう幸運は続かなかったようだ。
そして、ブロム達との待ち合わせの日がやってきた。タケルたちは先に待っているために朝早くに出発した。
タケルたちは一キロほど進んだところで止まった。
「まだ誰も来てねーよな」
「うーん、もうちょい先まで見てくるっす!」
それなりに見通しのある道だが、念のためにフォリンが先まで進んで職人ドワーフたちがいないかを確認しに行った。
そのまま待っていると、一人のドワーフが深刻そうな表情をしながらやってきた。
「あれ? お前はブロムの弟子のヘルムだったよな」
「はい、そうです」
「ブロムはどうした?」
「それが昨日領主様のところに連れていかれて戻ってこないんです」
ヘルムは昨日の出来事をタケルたちに話すと皆険しい表情を浮かべた。
「それって捕まったってこと?」
フィリーがヘルムに気になったことを聞く。
「それは分かりません。親方のところに来た騎士は領主様のところに連れて行くとしかいっていなかったので……」
「引き抜きがバレたのであれば、他の職人も来ないわよね」
「もうちょっと様子を見てみるか」
それから間もなく、他のドワーフたちも次々とやってきた。結局、この場所に来られなかったのはブロムだけとなった。
「ブロムが領主様のところに連れていかれたって?」
最後にやってきたバルドリンが思わぬ知らせを聞いて驚いた。
「領主のところに行って一晩帰ってこないことってあるのか?」
「それはねーな」
タケルの質問にバルドが答える。
「あの領主は民のことを道具として思っていない。そんな長い間歓迎するなんてことは絶対にねーな。たぶん捕まってるな」
「そんな!」
バルドの厳しい予想に対して弟子のヘルムが悲痛な声を上げる。
「でも、なんで捕まってるんだ? だって、あいつは今まずい酒しか造れねーだろ?」
ここにブロムが引き抜いた職人たちが全員いるということは、引き抜きの件はバレていない。つまりそれ以外の理由で捕まっているということになるが、不味い酒しか造れない職人がどこに行こうと捕まる理由はない。
「可能性としてあるのは、クラウン・レッドを作ったことがある職人が外に出るのを嫌がったってところだろ」
バルドの意見に他のドワーフたちは無言で同意している。皆可能性として思い浮かぶのはそれくらいだという感じだ。
「それでどうするんだ?」
バルドはタケルの目を見て問いただす。
「そんなもん決まってるだろ。あいつを助けに行く」
「待ってください! 親方は万が一の時は見捨てろと言っていました。それで代わりに僕に最高の酒を造れと! きっと親方はタケルさんに危ない目に遭ってほしくないはずです!」
ヘルムも本当は親方のことを助けてほしいと思っている。しかし、助けに行くのはあまりに危険だ。領主を敵に回したら生きていられない。
だからこそ、ブロムから意思を継いだ自分が最高の酒を造るのだと、そんな覚悟を持ってヘルムはここにきていたのだ。
「わりーな。俺はあいつと最高の酒を造るって約束したんだ。ここで助けにも行かず見捨てて他の奴と酒を造るなんてことはする気はねーよ」
ヘルムはそれなりの覚悟を持っているが、タケルの覚悟には負ける。
「俺たちも協力するぞ」
バルドリンが言ってきたが、他のドワーフたちもそれに同意しているようだった。
「いや、爺さんたちは足手まといだろ?」
「お前さんは刑務所のある場所は知ってるのか?」
「うっ」
「逃げやすい道は知ってるのか?」
「うっ」
勢いよくブロムを助けると言ったものの、どうやって助けるかはノープランだった。それにカザルの町についても詳しいわけではない。
「俺らだって助けるための準備くらいは手伝える」
「そうだな。頼むよ」
「よし! 任された!」
「じゃあ、とりあえず計画でも練るか」
こうしてタケルたちはブロム救出作戦を計画するのであった。
囚われている可能性が高い刑務所の位置や逃走ルートの確認などの下準備をした。
作戦開始はこの日の夜に決めた。ブロムがどういう理由で囚われているのか分からない以上、なるべく早めに救出したかったのだ。殺される可能性は低いが、領主の言うことを聞くように痛めつけられる可能性はゼロではないからだ。怪我をした状態になると、逃げるときにも足手まといになる。成功確率を上げるためにも早めに救い出すことにした。
そして作戦が決まった。
タケルとフォリンで刑務所の中に侵入。補佐として小さいディープスパイダーが二匹つくことになった。やりづらい監視員はディープスパイダーにこっそり近づいてもらって麻痺で動けなくしてもらう予定だ。
刑務所から逃げ出した後に補佐として、シェイドをはじめとする獣人やエルフの護衛達が町の中で潜伏している。
フィリーやドワーフたちは町の外で野営をしている。ブロムを連れ出して町の外に出たら、そのまますぐに帰るからだ。
そして、夜になった。
タケルとフォリンは刑務所の近くで身を潜めている。
刑務所は高い塀で囲まれており、入口の門にはかがり火があり、兵士が立っている。ただそれでも全体的に暗く、入り口以外の塀から侵入できる。特に建物の入り口がない場所からであれば、そうそうバレることはないだろう。
タケルとフォリンはこっそり塀に近づき、タケルが土魔法で台を作る。その台の上にフォリンが登り塀の中をこっそり確認する。
「俺っちのスキルには何の反応もないからきっと大丈夫っす」
「よし、行くか」
フォリンの危険察知というスキルには今のところ何の反応もない。つまり危険はほとんどないと判断し、そのまま塀を乗り越えた。
建物の横から入り口の方をこっそりと見ると、そこには再び二人の兵士が立っていた。結構な距離があるため、一息で近づいて声を上げられる前に倒すのは難しい。
小さいディープスパイダーが任せろとばかりに手を上げて建物の壁を伝って兵士に近づいていく。
上の方から兵士の首に飛び乗りそのままがぶりとかみつく。
「あっ……」
兵士は何か言おうとしたが、そのまま声を上げることもできず麻痺でまともに動けなくなった。
その瞬間タケルがさっそうと近づき二人の兵士のそれぞれの腹に一発ずつ拳を入れると、二人は完全に気絶した。
「さすが兄貴っすね」
見事な手際にフォリンは思わず声を上げる。
「さっさと中に入るぞ」




