32.戦後処理
ノクタリア王国軍に勝利した後、タケルたちは王都に向かった。そこでも一戦あるかもしれないと思っていたが、大きな抵抗なく門が開かれた。
超越者や準超越者がいない状態で争っても勝ち目がないからだろう。ちなみに、超越者だったボルガレス以外にも準超越者のランデルやレイガルドもタケルに下ることを認めた。彼らは死にそうだったが、上級ポーションを使ったことで何とか一命をとりとめていた。
タケルたちは王城に出向く。
そして玉座に佇む国王に宣告した。
「滅ぼされるか、属国になるか選べ」
全ての領土をヤマト王国の領土にするという案もあったのだが、まともな国家運営ができていない状態のヤマト王国が敵国だった国を統治するのは難しい。しかも、亜人差別の激しい国なのでなおさらだ。
条件付きである程度の自治を認めるという形がベストだろうという判断になった。
どんな選択をするかは相手次第だが、ほぼ答えは決まっているようなものだ。
とはいえ、交渉を軟着陸させるためにヴェルノアとフィリーとオルランドが有力貴族たちに根回しや話し合いを積極的に行っていた。
数日の後、国王は苦渋の決断という感じで属国になることを決めた。
「ノクタリア王家はヤマト王国に忠誠を誓います」
こうして正式にノクタリア王国はヤマト王国の属国となった。
現国王は引退。その子供に国王を継がせる。年齢はまだ十二歳だ。実務能力もなく実権もないので、実質お飾りみたいなものだが、傀儡政権を作るには都合がいい。
有力貴族の大部分は表立って反対はしなかったが、それでも一部の貴族は属国になることを認めず反乱を起こした。そうした貴族は見せしめのためにも処刑した。
なお、辺境都市オーズとその周辺の都市はヤマト王国に併合することになった。ヴェルノアが人族の手駒があった方がいいと言ってきたからだ。何やら考えがあるようなので、それを認めた。
属国化を進めていくにあたって一番大きな抵抗があったのが、亜人奴隷の解放である。
亜人奴隷は個人の所有物になので、それを一方的に取り上げるとなれば市民にどんどん不満が溜まっていくのだ。何とか取り上げられないように隠す人は少なくなかったが、ホワイトウルフたちの徹底的な捜索によって、片っ端から解放していった。
そういったトラブルは予測されていたがタケルは強引にことを進めた。なぜなら亜人奴隷のほとんどは攫われて奴隷にされているからだ。借金奴隷や犯罪奴隷であれば認めることもやぶさかではないのだが、そうでない亜人をいつまでもそのままにはしておけなかった。
多少の抵抗はありながら、ノクタリア王国の属国化は比較的穏便に進んでいった。
◆
時は少し遡り、タケルたちは王都に入った頃。
この戦争を起こすきっかけとなったものをタケルは忘れるはずがなかった。
タケルはヴェルノアや部下を連れて魔法研究局に出向いた。逃亡を防ぐためにぐるりと周囲を囲った後、中に入っていた。
すると、意外なことに中には研究職員たちが多く残っていた。戦時下でしかも負けが濃厚だったのだから逃げている人も多いと思っていたのだが。
研究職員たちの中から一人前に出てきた。どこかくたびれた様子のある年配の男だ。
「私はこの魔法研究局の所長をしておりますネルソンと申します」
「お前たちの国は戦争に負けたことはもう知っているか?」
「はい」
「なぜこんなに残ってるんだ? てっきり逃げた奴も多いと思っていたんだが」
「それは……」
ネルソンの言葉を遮るような形で一人の男がしゃべりだした。
「それは我々に価値があるからです! 我々は新たな力を得ることを目指し魔法を日々研究しおります! その研究はきっと閣下のお役に立てることができる! 私はそう信じております!」
その研究者は自信満々にどこか優雅さを交えて語った。
「なるほど、自分たちは優秀だから殺されずに生かして利用されるだろうと」
「ご明察でございます。閣下」
「んで、お前はどんな研究をしてるんだ?」
「私は特殊な魔方陣を使い、生贄を捧げることで強化戦士を生み出す研究をしております。ついこの間、準超越者レベルのものを生み出すことに成功しております」
その研究者は笑みを浮かべながら自慢げに語る。自分であれば確実に生き残れると思っているのだろう。が、それはタケルの逆鱗に触れた。
「そうか、お前か」
「ひっ!」
タケルはジルの仇になるような人物が偉そうに自慢してきたこともあり、思わず怒気が漏れてしまった。
「こいつは連れていけ。色々吐かせたあとは……ヴェルノアに処分を任せる」
あの惨状をこいつ一人でやったわけでないだろう。関係した者は一人残らず殺すつもりだ。もちろんただ殺すだけではもったいないので、ヴェルノアに有効活用してもらおう。薬の実験でも魔法の実験にでもなんでも好きにすればいい。
「かしこまりました」
ヴェルノアは笑みを浮かべながら了承する。
この研究者はバカではない。明言されていないが、明らかに悪いことになりそうな雰囲気を悟り外聞を捨てタケルにすがる。
「おおおお、お待ちを! 私なら閣下の役に立つことができます! どうか! どうか! 再考を!」
「連れていけ」
タケルはこんな奴とは会話すらしたくないので、さっさと連れていくように命ずる。
「閣下! どうか私にお慈悲を!」
研究者は叫びながら何か言っているが、すべて無視する。そうして連れ出された後、その場にはしばしの沈黙が流れた。
他の研究者たちは自分たちがどうなるのか戦々恐々としていた。
「……さて、残ったお前たちについての処遇だが……今後は俺、いや違うな。ヤマト王国の利益になるような研究をしてもらおう」
タケルがそう言っても反応はあまりよろしくない。皆どこか怯えている様子だ。
「……安心しろ。あいつの実験に関わっていないのであれば、処罰を与える気はない」
タケルの個人的な感情を言えば、この研究所もろともすべてを壊したい気分だ。だが、国を作る以上、こうした研究は必要だ。それが明らかに人道的でないとしても。
国を作るにあたっての闇を飲み込む覚悟はできている。なんでも利用するし汚いこともする。それをせずにまた悲惨なことが起こったら、きっと自分を許せないから。
「むしろ、俺の元では存分に研究するがいい。それにこいつは魔法にも詳しいから、色々聞くのもいいだろう。とにかく結果を出せ。お前たちには大いに期待している」
タケルのその言葉を聞いて目を輝かせている者が一部いる。きっとそいつらは研究バカなのだろう。タケルはそいつらが、国の利益になるような結果をもたらしてくれることを心の中で祈るのであった。




