31.タケルVS超越者ボルガレス2
タケルとボルガレスの戦闘はいまだタケルの劣勢が続く。
タケルは相手の攻撃を捌きながら勝つために思考を巡らせる。
(どうにかしてこの猛攻をかいくぐって本体を叩くしかねーな)
しかし、そもそもタケルはどれがボルガレス本体なのかすら分かっていない。戦闘中にコロコロと位置が変わっているためもはや本体を捕捉していなかった。
タケルは時に攻撃をし、時に防御をし、相手の反応を探っていく。
分身体はやられてもいいという性質上、どこかで対応の差が出てくるはずだ。
そう信じてタケルは戦闘中ボルガレスを観察し続ける。
ボルガレスを他の場所に行かせないために無茶をしたこともあり、タケルの体はボロボロだ。
しかし、成果は確実にあった。
「なるほど、ようやく分かった」
タケルはぼそりとつぶやく。
タケルは剣に闘気を流し一人のボルガレスに突っ込んでいく。タケルの連撃をボルガレスは後ろに下がりながら躱していく。そうしていると、後ろから別のボルガレスが攻撃を仕掛けてくる。タケルは振り向くとその攻撃を正面から受ける。その攻撃を何とか耐え、攻撃でできた隙をついてそのボルガレスを蹴り飛ばす。
そして残った一人に向かって全力で距離を詰める。
「お前が本体だよなあ!」
タケルが闘気を流し強力な一撃を与えられる状態の時、本体は分身を囮や壁として使って比較的安全な場所にいるのだ。そう目星をつけて、タケルは一か八かの賭けに出た。
「皇極天武流剣術【疾風一閃】」
タケルの剣がボルガレスに迫っていく。
剣があと少しで届くというところでタケルは攻撃を当てられることを確信した。
(もらった!)
しかし、タケルの真横にもう一人のボルガレスがいた。
(っ! 俺の後ろに二人いたはず!)
そのタケルの感覚は間違っていなかった。実際に先ほどまで相手をしていたボルガレスの分身はタケルの後ろにいた。
だが、もう一人いるのだ。
一か八かの賭けでボルガレス本体に攻撃を仕掛けていたタケルは横にいたボルガレスの拳をもろに食らって吹き飛んだ。
「ぐはっ!」
土煙が晴れるとタケルは口の中にあった血をぺっと吐き出す。
「こざかしい真似しやがって」
「儂は二体までとは言っておらんからのう」
ボルガレスはにやりと笑いながら煽るように言う。
タケルは勝手にボルガレスの分身体が二体までだと思っていた。周囲の戦場はこちらがいまだに有利だ。もし分身体をまだ作れるのなら、戦況をひっくり返すために援軍を送るはずだからだ。
しかし、実際にはそう思い込むようにボルガレスが行動していたのだ。
「儂の一撃は軽くないじゃろう?」
「はっ! 大して効いてねーよ」
タケルは見栄を張った。ボルガレスの渾身の一撃は確実にタケルにダメージを与えていた。並の者だったらあの一撃で命を刈り取られていてもおかしくない攻撃だ。さすがのタケルでもそれを食らってダメージがないわけがない。
「お主は人なのにどうして亜人なんかを守る?」
「人も亜人も大して差はねーだろうが。逆になぜ亜人を差別する?」
「なぜ……か。亜人は劣等種だからと言われておるな」
「劣ってる? この戦場を見てもか」
この戦場では亜人の集団の方が優位に戦を進められている。それを見たら決して劣等種だとは言えないだろう。
「まあ、確かにこれだけを見たら違うかもしれぬな。だが、我々の意識にはそう深く刻まれているのじゃ」
「ああ、そうだろうな。そういうクソみてーな固定観念がこの戦を引き起こしたんだろうよ」
亜人だったら生贄にしてもいいというクソみたいな奴がいたせいで、あんな悲劇が起こった。
「別に納得しろなんて言わねーよ。だがな、こっちを虐げてくるんだったらその反撃を受ける覚悟は持っておくべきだな」
「……かもしれぬな。儂はこの国の守護者として長い。お主に負けるわけにはいかんのじゃ」
ボルガレスは構えを取る。
「もう決めさせてもらおう」
ボルガレスが再び攻め始める。それに対してタケルは攻撃を受けることしかできない。
三人相手でもギリギリだったのだ。それが四人に増えたら防戦一方になるのは当然だろう。
「仕方ねー。……あれやるか」
ただそんな状況でもタケルの眼は死んでいない。
タケルは一か八かの賭けで虚遊という技を使い始めた。この技は無意識を利用して身体を動かし最適な行動をとるという技だ。
だが、当然リスクがある。うまく意識を落とすことができなければ、ただ棒立ちになって攻撃を食らうからだ。ただ、そのリスクを飲んでもタケルは虚遊を使った。
タケルは半目の状態で脱力し、ゆらゆらと揺れ始める。
ボルガレスの攻撃に対しても正面から受けるのではなく、受け流し次の行動に繋げていく。それはさながら柳のように。
しかし、この状態を外から見ればフラフラで今にも倒れそうなように見える。
「兄貴……」
そんなタケルの状態を近くで見守っていたフォリンが心配そうに見つめる。
タケルはほぼ無意識の状態でボルガレスの攻撃を捌きながら、意識を自分の内側に落としていく。
この世界に来てから今まで本気を出していなかった。
バルガスもドラクム、ヴェルノアもブラド、ガウェインも本気を出す前に倒すことができた。このやたらとスペックの高い体のおかげだ。さらに最高品質の作物を食べているおかげもあり、どんどんスペックが上がっているような感じもしている。
そんな環境にいたせいか、心のどこかで慢心があったのは間違いない。超越者を相手にすると言っても普通に勝てると思っていた。まさかここまで苦戦するのは予想外だった。
でも、もう覚悟は決めた。
もう二度と大事な人を失わないように。
もう二度と仲間が虐げられないように。
俺が誰よりも強くなって、ヤマト王国に簡単に出を出せないようにする。
そう決めたんだ。
タケルは闘気を体内で循環させていく。
タケルは元々この世界で戦いに身を置くつもりはなかった。だから、こちらに来てから強くなるための修行を一切していなかった。
だが、もうそれは終わりだ。
元々あまり意識して使われていなかったため、気の巡りにどこかしこりがあった。だが、無理やりにでも循環させていくことによって徐々にしこりがなくなっていく。
そして闘気が体を満たし、気と体が一体となる。
カチリと自分の中で何かがハマるような感覚があった。
そしてタケルは目をゆっくりと開く。
スッキリとした意識とかつてないほどエネルギーに満ち溢れた体があった。
「天輪廻気」
明らかに様子の変わったタケルの状態にボルガレスは一瞬臆するが、この優位な状況で立ち止まっているわけにもいかないので、分身体の一人がタケルに向かって距離を詰めた。
タケルはボルガレスの攻撃をかわしカウンターで切り裂いた。すると、ボルガレスの分身体は霧散していった。
「まずは一人」
そしてタケルは本体に向かって走り始める。すると、その本体をかばうようにして二人の分身体が立ちふさがり、二人合わせて攻撃を仕掛けてくる。
「皇極天武流剣術【乱刃絶華】」
タケルは目にもとまらぬ速さで剣戟を浴びせ、ボルガレスの分身体を切り刻む。分身体は抵抗する暇を与えずに霧散していく。
「あとはお前ひとりだ。追加で出さなくていいのか?」
「……」
ボルガレスは優位な状況にあったにもかかわらず、あっという間に形勢を逆転され追い込まれた。
「さすがにもう出し尽くしたか」
「さて、それはどうかのう」
ボルガレスは軽口をたたいているが、図星を突かれ内心焦る。分身体と本体はほぼ同じ実力なのだ。分身体があれほど簡単にやられたということは、本体もまた簡単にやられてしまう恐れがあるのだ。
だが、タケルからほとばしる闘気の圧。尋常でない闘気の量を消費していることは間違いない。ならば、時間を稼げば勝機はあるのかもしれない。そう考えたがやめた。
ボルガレスは闘気を爆発させ覚悟を決める。
逃げ回ることなど無理だと判断したのだ。それなら一縷の望みをかけて全身全霊で攻撃を仕掛けるのみ。
タケルとボルガレスは互いに見合い、視線を交錯させる。
「……」
「……」
互いに何かに示し合わせたように同時に距離を詰める。
勝負は一瞬。
どちらの攻撃が上か。ただそれだけ。
タケルの剣とボルガレスの拳が衝突し閃光が走る。
「はああああああああああああ」
「はああああああああああああ」
互いに負けまいと気力を尽くす。
そして決着がついた。
ボルガレスの腕が吹き飛び地面に落ちた。
腕をなくしたボルガレスは地面に膝をつく。
「まさかエクストラスキルを温存されて負けるとはのう」
「そんなもんねーよ。スキルはあることにはあるが、戦闘向きじゃない」
「なんだとっ! まさか……闘気だけで超越者の領域に立つ者が現れるとは……」
ボルガレスがかつて目指した境地。長らくエクストラスキルに目覚めなかったから自力で強くなろうとした。しかしエクストラスキルを得てからは、それに頼るばかりでどこか闘気の力を高めることに怠っていた。
自分がかつて断念させられた道の先を歩むタケルに心の底から負けたと思わされた。
「さて、どうする? 俺に下るんなら命までは取らねーぞ」
タケルはフィリーから超越者はできることなら殺さずに倒すように言われていた。仮にその国を手に入れても、超越者がいなければ、軍事方面で不安を覚えることになるからだ。だから、タケルは命を奪わずに腕を切り飛ばした。しかし、まだ戦うというのであれば、命を奪う覚悟はある。
「……よかろう。完全に儂の負けじゃ。お主に下る」
ボルガレスは仰向けで大の字になって倒れる。
完璧な勝利を得たことでタケルはニカッと笑う。
「敵の超越者をタケルが討ったぞおおおおおおおおお!」
「「「「「わあああああああああああああああああ!」」」」」
タケルが超越者に勝った勝鬨を上げると、周囲のヤマト軍の兵士たちは皆歓喜に沸いた。
そして、敵の主力である準超越者、超越者をすべて倒したためこの戦場での勝敗は完全に決まった。
こうしてヤマト軍とノクタリア王国軍の勝負はヤマト軍の勝利で終わったのであった。




