30.タケルVS超越者ボルガレス1
本陣にいるタケルはいつになく真剣な表情で戦場を見つめている。
「……動いたな」
何かを察したタケルは立ち上がる。
「ラグナ!」
タケルがラグナを呼ぶとあっという間にやってくる。ラグナにまたがり戦場に向かおうとするタケルにフィリーが声をかける。
「タケル。気を付けて」
「ああ、勝ってくる」
フィリーの言葉にタケルは笑顔で答える。その後、すぐに真剣な表情に戻る。
こうしてタケルは戦場に現れたであろう超越者の元に向かうのであった。
◆
バルガスのところに現れた男はノクタリア王国の超越者ボルガレスだった。しかし、バルガスにとっては誰が相手でも関係がない。戦場にいる以上、バルガスは攻撃を仕掛けるのみだ。
「ふんっ!」
レイガルドを倒したときと同等の威力の戦斧を繰り出す。が、その攻撃はボルガレスの手でつかみ防がれた。
「はああああああああああ!」
バルガスはそこからさらに食い込ませようと力を込めるが、相手はピクリとも動かない。全力でさらに体重を乗せているのにもかからわずだ。
「おお、それなりのパワーのようじゃが、それでは儂に通じんな」
ボルガレスは戦斧を引き体勢が崩れたところで、バルガスのお腹に拳をお見舞いする。
「ぐほっ!」
バルガスは後ろに吹き飛んだ。そこに追撃をかけようとボルガレスは踏み込むが、何かに気付いたボルガレスは追撃をやめた。
「まあ、儂が動いたら来るわな」
ボルガレスはこの戦場に超越者がいることをなんとなく察していた。そのせいでうかつに動けなかったのだが、これ以上動かなかったら負けが決定的になるため、仕方なく行動を始めたのだ。
バルガスをかばうようにして現れたのはタケルだ。
「バルガス、下がってろ。こいつは俺の獲物だ」
「申し訳ありません」
さすがのバルガスも限界ギリギリまで絞り出したレイガルド戦で大けがをしていた。これ以上の戦闘はさすがにきつかった。が、それでも戦えなくなったことに対して謝罪をした。
「謝るな。よく敵の主力を倒したな。おかげで奴を前に引き出せた。後ろに下がってゆっくりと休んでおけ」
「はっ」
タケルに褒められたバルガスはどこか嬉しそうな表情を浮かべた。
タケルは一人ボルガレスの前に進む。
「いいのか? お主一人で?」
「当たり前だ。お前は俺一人で十分だからな」
「ふっはっはっは! ……若いのう」
ボルガレスはタケルを見て冷静に分析する。若さからくる傲慢。若い者にありがちなことだ。
あの年齢で超越者に並ぶ力を持っているということは驚愕に値するが、得てして勝利しか味わっていないものは脆いし隙もある。事実、こんなに戦場を有利に進めているのだから、複数で囲って倒した方が楽だ。だが、そんなことをしないタケルに対して未熟者という判断をした。
「儂の名はボルガレス。ノクタリア王国の超越者にして守護者。そして、貴様を倒すものだ」
ボルガレスは威圧を放ちながら名乗りを上げる。その威圧の圧力に周囲の兵士たちは真っ青だ。
だが、それを跳ね返すかのようにタケルも威圧を放ちながら名乗り返す。
「俺の名はタケル。ヤマト王国の超越者にして国王。そして、お前たちの国を滅ぼすものだ」
「ふっはっはっは、抜かしおるわ。若造が!」
ボルガレスは地面を踏みしめ、タケルとの距離を詰める。
タケルは迫ってくるボルガレスに居合切りで応じるが、ボルガレスは前方宙返りでその攻撃をかわす。
そうしてタケルの後ろを取ったボルガレスはすぐさま反転し、タケルの背中に向かって拳を放つ。タケルはその攻撃をギリギリのところまで引き付け、半身で避ける。
(なっ!)
攻撃が当たると思っていたボルガレスは驚愕する。そして、タケルは避けたときの回転を利用して、そのままボルガレスに切りかかる。ボルガレスはタケルの剣を腕でガードし受け、距離を取る。
ここで互いに一呼吸。次はタケルの方からボルガレスに攻めていく。
ボルガレスはタケルの攻撃を次々と躱していく。
(想像以上の苛烈な攻め。やりおるわい。だが、ここで隙を作れば……)
ボルガレスはタケルの想像以上の攻めに対して、攻撃箇所を限定させるためにあえて隙を作るために攻撃を防御した後弾かれたようにわずかによろめいた。そこに罠を張りながら。
(ほら、来た!)
ボルガレスの想像通り若造のタケルは隙があればそのまま攻めてくると予想していた。そして予想通りに攻めてきたことににやりと笑う。ここであえて受けて間合いの内側に入ることで、主導権を握ろうとしたのだ。
しかし、次の瞬間ボルガレスの顔から笑みが消えた。
タケルは剣に闘気を流して、作られた隙に向かって全力の一太刀を浴びせる。
ボルガレスは闘気で全力で守るが、勢いまでは殺すことができず吹き飛ぶ。
吹き飛んだボルガレスは何とか体勢を立て直し立ち上がる。
「痛てててて。隙ができたら全力で切りかかってくるとか、お主は獣か?」
「何言ってんだ? 罠は全力で踏み潰すもんだろ?」
その言葉にボルガレスは眉を顰める。
(あれを罠だと知ってか……単なる若造ではなさそうじゃな)
ボルガレスはタケルの強さを上方修正する。単なる力のある若造だと思っていると痛い目を視そうだと判断したからだ。
「爺さんのその強さもへんてこな儀式をやったおかげか?」
「何の話じゃ?」
「お前らの国の魔法研究局の奴らがやってることだろ?」
「ああ、あれか……。あれと一緒にするとは……儂をバカにしておるのか?」
ボルガレスはあんな奇妙な術やへんてこな儀式を使って強くなったと思われて怒気を込めながらタケルを睨んだ。
「儂はあやつらのことが嫌いじゃ。強者を人工的に作るなんぞ反吐が出る。楽して強くなれるわけがなかろう」
「まあ、それには同意見だな」
「あやつらは分かっておらぬ。超越者になるというのがどういうことなのかと……。そもそもただの人では超越者にはなれぬ。エクストラスキルという人智を超えたスキルに目覚めなければな」
ボルガレスの雰囲気が少し変わったことにタケルが警戒する。
「儂が超越者たらしめる力をお主にも見せてやろう」
そう言うとボルガレスと全く同じ人物が二人増えた。
「虚像具現。これが儂の力じゃ」
新たに増えたボルガレスの分身たちがタケルに迫ってくる。
その一人に向かってタケルは剣を振り下ろすが、両腕でガードされる。その隙を突かれて横からボルガレスの攻撃を食らった。
タケルはとっさの判断で後方に飛んだことでダメージを軽減した。
「幻術ってわけじゃなさそうだな」
タケルが攻撃した相手にも攻撃を仕掛けてきた相手にも、どちらとも実体があった。そして何よりもやっかいなことにボルガレスとほぼ同じ力があるように感じられた。
「当然じゃ」
「儂らは本体と同等の力を持っておる」
「……三対一か」
タケルは内心焦り始める。一人相手でも互角に近い実力だったのだ。それが三人に増えたのであれば劣勢なのは間違いない。
「ふぅー」
タケルは息を大きく吐いて覚悟を決めた。ここからは多少攻撃を食らっても敵を倒す必要がある。
タケルは敵に向かって走り出し、積極的に攻撃を仕掛けようとした。だが、そうタケルの思惑通りに事は運ばない。
ボルガレスはタケルを多方面から囲みヒット&アウェイで攻撃を仕掛けてきた。誰かが攻撃を受けるとその隙を必ずついて攻撃を仕掛けてくるのだ。
「くっ!」
こうなってくるとむやみに攻撃を仕掛けることができなくなってくる。
こうして戦いの主導権は完全にボルガレスに奪われた。タケルが受けに回ると四方八方からボルガレスが近づいてきて拳で殴ったり、蹴ったりしてくる。
タケルは何とかボルガレスの攻撃を捌いていくが、それでも何発かは攻撃を食らってしまう。
見るからにタケルの劣勢な状況に周囲にいるヤマト軍の兵士たちが動揺している。
「タケル様!」
シェイドをはじめとする他の兵士たちがタケルとボルガレスの戦いに参入しようとする。
「手出すな! これは俺の獲物だ!」
「しかし!」
「分かってんだろ! これもこいつの能力の一つだ! だったら、それも含めて俺一人で勝たなきゃ意味がねー!」
シェイドはこの戦の目的を知っている。ただ勝つだけではない。力を見せつけることができて初めて真の勝利ということを。
「……やはり若いのう」
ボルガレスはこの状況になっても一人で戦おうとするタケルを若いと評する。
シェイドはタケルの手助けをしたいという気持ちとその目的の間で苦悩した。
「くっ! 俺に続け! 戦場での勝利を決定的なものにする!」
シェイドは頭を切り替えて、戦場での勝利を目指した。それがシェイドにできるタケルへの最大限の助力だからだ。
その言葉を聞いたボルガレスは一瞬気が散ってしまう。仮にタケルを倒したとしても、他の兵士の多くがやられてしまえば、ボルガレスもまた打ち取られることになるだろう。
分身の一部を他の回すかと一瞬だけ逡巡したが、それはすぐさま中断された。
「お前の相手は俺だ! 他を気にする余裕なんて与えねーぞ!」
タケルはボルガレスの分身をすべて引き受けるためにボルガレスに踏み込み攻撃をした。




