29.バルガスVSレイガルド
戦場はヤマト軍中央バルガス軍に移る。戦況はややバルガス軍が有利。全体的に押しているが、その中でも特にクルガンの部隊が先行していた。
「よし! このまま敵軍に切り込むぞ!」
目の前の敵を倒したクルガンは、さらなる進軍を試みる。が、目の前に一人の巨大な棍棒を持った大男がやってくる。
その男の名はレイガルド。ノクタリア王国の準超越者の中で一位の実力を持つ男だ。
クルガンは目の前の大男のただならぬ雰囲気を感じ取り、警戒をしながら構えを取る。
「我はクルガン! 牛人族の族長にしてヤマト軍の先方を担う部隊の隊長だ! 腕の立つ御仁と見受けられる! 名はなんという!」
「名か。まさか亜人に問われる時が来ようとはな。まあ、いいだろう。俺の名はレイガルド。ノクタリア王国準超越者の第一席だ、まあ、どうせ死ぬから覚えなくていいぞ」
レイガルドは武人としての礼儀として名乗り返したが、クルガンに対しては何の期待もない。そこらにいる雑兵と大して変わらない実力だと判断をした。
「それはこちらのセリフだ!」
クルガンはレイガルドの安い挑発に乗り、攻撃を仕掛けた。が、その攻撃は地面から生えた岩でできた手に防がれた。
「なんだ!? これは! 魔法か?」
「俺のスキルの力だよ!」
そう言ってレイガルドは岩の手を操作しクルガンを殴りつける。レイガルドは大地掌握というスキルによって大地を操ることができる。そして今は二本の岩の手を出している。
「ぐはっ!」
横からもろに殴られたクルガンは吹き飛ばされる。何とか意識は飛んでいないが、重たい一撃にダメージが大きい。
ただそれでもクルガンは踏みとどまり、再度攻撃を仕掛けていく。
「まあ、所詮は劣等種の亜人だな」
レイガルドはその場から一歩も動かず指一本すら動かさずにクルガンを圧倒していく。
「くっ!」
クルガンは攻めても岩の手で攻撃は防がれる。そして、岩の手での攻撃もしのぐのが精いっぱいだ。劣勢に立たされるクルガンは、ついに岩の手のパンチがクルガンのお腹にもろに入ってしまう。
「ごほっ!」
もろに攻撃を食らったことでクルガンは倒れてしまう。
「よし、こんな雑魚は捨て置いて次に行くか」
レイガルドは次に攻め込まれている箇所に援軍に向かおうとする。
「……俺は……家族を救い出すためにも負けていられないのだ!」
クルガンは全身の傷みに耐えながらも奮起し立ち上がる。しかし、ダメージの蓄積が多いせいで、膝がガクッとしてしまう。そのまま倒れるのかというところ、横から腕を掴み支えられる。
「よくここまで足止めをしてくれたな」
クルガンがその男を見ると、それはバルガスだった。
「バルガス殿……」
「あとは俺に任せろ」
バルガスはクルガンを部下に預け、一人で前に進む。
「次の相手は俺だ」
「少しは骨のある奴だといいがなっ!」
レイガルドは容赦なくバルガスを岩の手でお腹をぶん殴る。
「バルガス殿!」
正面から食らったように見えたクルガンが叫ぶ。しかしバルガスは敵の攻撃にはびくともしていなかった。
「俺には効かん!」
そう言って岩の手に向かって戦斧を振り下ろして粉砕する。
「ほう。生半可な力では通用しないか」
「そう言うことだ。余裕ぶってないで、さっさと全力を見せたらどうだ?」
「俺が全力を出すかは俺が決めることだ!」
レイガルドは土の足場を作り、それを駆け上っていく。高いところから飛び降りて体重を乗せた棍棒をバルガスに振り下ろす。
バルガスはその攻撃を正面から戦斧で受け止めると、足は地面に沈み衝撃波が発生した。
「くっ!」
バルガスはなんとか戦斧を押しやりレイガルドをはじき返す。
レイガルドは着地すると同時に再びバルガスに向かっていった。
両者の間に剣戟が起こる。互いにパワータイプで一進一退の攻防が続いている。
そんな中バルガスの一撃によってレイガルドは吹き飛び膝をつく。
そこにさらなる一撃を加えようとバルガスが戦斧を振りかぶると、レイガルドはニヤリ笑った。
そうレイガルドの攻撃は手に持っている棍棒だけではない。地面から伸びる岩の手もあるのだ。
バルガスが攻撃を仕掛けるところにカウンター気味に顔面に向かって岩の手が迫ってくる。
それに気が付いたバルガスは避けられないと判断し、向かっている岩の手に向かって頭突きをした。
ドオオオオンと大きな音が響き土煙が発生する。土煙が晴れると、バルガスには傷一つついていなかった。
「俺に小細工は通用しない」
「……なるほど。確かにその硬さは厄介だな。だが、それだけでは俺には勝てんぞ」
レイガルドの言う通りバルガスにはなかなかダメージを与えられていないが、バルガスもまたレイガルドに有効なダメージを与えられていない。レイガルドの推測では与えたダメージは大きくはないがゼロではないと判断している。
「そろそろ準備運動が終わったところだ。今度はこちらからいかせてもらう」
ここまで防御主体で戦っていたバルガスが積極的な攻めに転ずる。先ほどよりもスピードとパワーを上げ、レイガルドに攻撃を繰り出し続ける。
「くっ」
レイガルドはその攻撃を何とか防いでいるという状態だ。しかし、それでもレイガルドの意志は負けていない。その状態から何とか反撃して、攻撃を繰り出した。
バルガスはその攻撃を避けた。
今までさんざん正面から受けていたにもかかわらず、ここぞというタイミングで攻撃を避け、虚を突いたのであった。
バルガスはがら空きになった横っ腹めがけて戦斧を振り回す。
レイガルドはたまらず岩の手を使って防御をした。
「言っただろう。俺に小細工は通用しないと」
バルガスは岩の手に阻まれながらも、それを無視してレイガルドに戦斧を振り回した。
その攻撃は岩の手を砕きレイガルドに直撃し後方に吹き飛んでいった。
吹き飛んでいったレイガルドは再び立ち上がる。
「……亜人にしてはやるようだな。賞賛に値する。では、貴様には特別に俺の全力を見せてやろう!」
レイガルドは全身を土で覆い巨大化していった。全長は三メートルほどの巨体になった。その土はレイガルドの力で岩よりも固くなりレイガルドを守る鎧となった。
「この状態の俺はさっきの俺よりも倍は強くなっているぞ」
そういってレイガルドはバルガスとの距離を詰め攻撃を繰り出す。
バルガスはレイガルドの攻撃を戦斧で受け止めようとするが、踏ん張ることができずに吹き飛ばされてしまう。
「さすがに受けきれないようだな。だが、恥じることはない。亜人にしてはよくやった方だ。ただ俺が貴様より強いと言うだけの話だ」
そこからレイガルドによる蹂躙が始まった。
レイガルドの一撃は先ほどの倍以上重くなり、攻撃を受けるたびに体が振り回される。そして何とか避けて攻撃を仕掛けても岩の鎧が邪魔をする。
バルガスの攻撃を岩の鎧に当たったが、岩の鎧にわずかに切り込みの傷がつくだけ。その傷も瞬時に修繕されてしまった。
「無駄だ、無駄! そんなちんけな攻撃、俺には通用しない!」
レイガルドは攻撃をして隙ができたバルガスを棍棒で思いっきり横腹をぶん殴る。もろに攻撃を食らったバルガスは口から血を吐き出しながら吹き飛ばされる。
「ぐはっ!」
重たい一撃をもらいながらもバルガスは何とか立ち上がり、レイガルドに向かっていく。
しかし、どれだけ攻撃を与えてもレイガルド本体には届かない。
その一方でレイガルドの攻撃は一撃もらうだけでも重傷だ。しかも受けようと思っても受けきることができず、ダメージが増えていくばかりだ。
「……バルガス様……」
周りにいる兵士たち一方的にやられてボロボロになっているバルガスを見て、悲壮な顔を浮かべている。
勝利は絶望的。そう思わされるのに十分な状態であった。
何発もレイガルドの攻撃をもらったバルガスはとうとう膝をつく。
「もういい加減負けを認めて楽になったらどうだ?」
「……俺は負けられんのだ。タケル様が国作ると言った以上、このような場所で負けていられんのだ!」
仮に自分が負けたとしても自分より強いヴェルノア、カリュネラ、そしてタケルがいる。この三人なら目の前の男は敵にならないだろう。だが、それではダメなのだ。
「いつまでタケル様に甘えるつもりだ! ただ倒れないだけでは足りない! 敵を打ち倒す力がいる!」
バルガスは自分を叱咤激励するかのように叫びながら立ち上がる。
いつまでもタケルにおんぶにだっこでは意味がない。タケルの臣下として、タケルを支えられるだけの男になる必要があるのだ。それがあの日救ってもらったことの最大の恩返しになるのだ。
そんな決してあきらめずに敵に攻撃を仕掛け続けるバルガスの頭の中にスキルが目覚めた声が響いた。
(スキル【不屈の反撃者】に目覚めました)
「っ!」
バルガスはスキルが目覚めた声が響いたことに驚き、レイガルドに向かっていた足が思わず止まってしまう。突然の出来事にレイガルドの動きまで止まる。不審に思っているが、ただ事ではないと思い訝しむことしかできなかった。
バルガスの脳のこのスキルの効果が流れてくる。不屈の反撃者は敵から攻撃を受けることによって自分の攻撃力が増すスキルだ。
このスキルを理解したバルガスは防御を捨てた。
「はああああああああああ!」
ノーガードの殴り合いだ。しかし相変わらずバルガスの攻撃は岩の鎧に阻まれてダメージを与えることができない一方、レイガルドの攻撃は着実にバルガスにダメージが入っていく。
だが、それでいいのだ。バルガスは自分がどれだけ傷つこうとも目の前の相手を倒す力を得る事の方が重要であった。
「こいつ、どんどん力が……!」
レイガルドは困惑し焦り始めた。自分の方が確実にダメージを与えているのに、力が尽きるどころか増してくる。そんな異常な敵に恐れが湧き始めたのだ。
バルガスは全身の至る所から血が流れ意識も飛びかけている。それでも一切ひるむことなく、防御を捨てて攻撃をし続ける。
「うおおおおおおおおおおおおおお!」
そしてついにバルガスの攻撃がレイガルドの鎧を打ち砕いた。
「何っ!」
それに驚愕したレイガルドは思わず引き下がり鎧の修復に力を入れようとする。
しかし、攻撃することしか考えていないバルガスの方が早かった。あっという間に距離を詰め、再度戦斧を振るう。すると、修復しかけていた岩の鎧もろともレイガルドを切りつけることに成功した。
「ぐはっ!」
バルガスの全身全霊の攻撃を食らい大量の血を流すレイガルドであるが、それでもまだ倒れない。
「亜人ごときに負けるわけにはいかぬのだ!」
両者限界に近い。自分の鎧が無意味だと思ったレイガルドは鎧の修復を諦め、攻撃することに全力で集中する。
バルガスも今まで攻撃をノーガードで受けてきたツケは大きい。ただそれでも目の前の男を倒すために気力を振り絞る。
指し示したように両者同時に距離を詰め攻撃を仕掛ける。
「うおおおおおおおおお!」
「はあああああああああ!」
バルガスの戦斧とレイガルドの棍棒が交差し、周囲に衝撃が走る。
二人の勝負の結果はバルガスの勝利。レイガルドの棍棒を粉砕し、レイガルドの胸から腹にかけて深い傷を負わせた。
レイガルドはそのままバタリと倒れる。
「敵の準超越者を討ち取ったぞおおおおおおお!」
「「「「「わあああああああああああ!」」」」」
バルガスがレイガルドを討ち取ると周囲にいたバルガス軍の兵士たちが一斉に沸いた。
皆の表情は明るい。これでこの戦場を優位に進められる。この勢いに乗って敵軍を深く削っていこう。皆がそう思っていたその瞬間。そんな雰囲気をすべて吹き飛ばすような男が現れた。
「レイガルドを倒す奴がいるとはのう」
強者の雰囲気を纏った男がやってきた。
それなりに歳をとっており、見た目ではそれほど強そうには見えない。しかし、なぜだかバルガスは冷や汗が止まらない。戦場に居ながらも、どこか飄々としており、周囲の敵を敵とみなしていないような感じがある。
そんな男の登場にバルガスはさらなる戦いへの覚悟を決め、戦斧を握りしめるのであった。




