28.左翼での争い
次の戦場はヤマト軍左翼ディオラン軍に移る。
ディオランは、一人ひとりの兵士の質はヤマト軍の方が高いおかげで、優位に戦況を進めることができていた。
(ここまでは順調だが……)
この世界の戦場では一人の圧倒的強者によって戦況がひっくり返されることがあるのだ。それをさせないためにも、少なくともそういった強者とやり合える者が必要だ。
この戦場における強者がついに動き出した。
その男の名はランデルと言う。ノクタリア王国の準超越者では二位の実力を持つ強者だ。そしてこの男の恐ろしさは特別なスキルなしでここまで上り詰めたことにある。たった一本の剣で帝国との国境線を守っていた闘気使いの剣士だ。
今回もランデルの仕事は変わらない。その剣を持って敵を排除するのみだ。
ランデルは突撃を仕掛けてきたホワイトウルフの騎獣部隊の前に立ちふさがり、一閃を食らわす。
その攻撃を受けたホワイトウルフたちから血が噴き出る。乗っていたダルムをはじめとする獣人たちはホワイトウルフから転がり落ちる。
ダルムはなんとか受け身を取り騎獣部隊を止めたランデルを見つめる。
(この男、強いっ!)
ダルムは目の前の男を見てすぐに強者だと分かった。そしてそれがこの戦場に出てくる可能性が高い準超越者だということも理解した。あらかじめ決まっていたように伝令を送る。
「すぐにディオラン殿に準超越者が現れたと報告に行け」
「はっ!」
一人の兵士が無事だったホワイトウルフに乗ってディオランの元に向かった。
そしてダルムは、一人ランデルの前に立ちふさがり剣を構える。
「我が名はダルム。ヤマト軍騎獣部隊隊長だ」
「……ランデル」
ダルムはランデルが自分よりも強者であることは理解していたが、準超越者を野放しにすると被害が大きくなるため少なくとも足止めをする必要がある。たとえそれが命がけだったとしても自分の役割だと自覚していた。
両者はにらみ合い、二人の間には静寂が走る。その静寂を壊したのはランデルだ。
ランデルはダルムとの距離を詰め、剣戟を浴びせまくる。
「くっ」
ダルムはランデルの攻撃に対して、防戦一方だったが、それは狙い通りだ。ダルムの目的はこの男を倒す事ではない。時間を稼いでランデルを倒せるだけの戦力を集めることだ。
「つまらん剣だ」
ランデルは攻め気が全くないダルムの剣をつまらないと評価した。こんなつまらない勝負をさっさと終わらせるために、ランデルは剣に闘気を流し剣がわずかに光らせた。
急に攻撃が重くなったダルムはランデルの攻撃を捌くことができなくなり、剣が弾かれてのけ反ったところにランデルの袈裟切りが走る。その攻撃は防具をいともたやすく切り裂きダルムの肉を切った。
「ぐはっ」
切りつけられたダルムはその場に倒れる。
ランデルは倒した男に興味をなくし次の獲物に向かおうとした。
「待て」
正面から攻撃を受けたダルムは傷口から血がぽたぽたと落ちる。それでもダルムは立ち上がり持っていたポーションを使って傷を癒す。
「まだ、俺は元気だぞ」
「しぶとい奴だ」
ランデルは再びダルムに向き直す。そして再びダルムに切りかかった。
ダルムはその攻撃を受け止めてはいるが、ランデルは闘気を使い続けているため、一部の攻撃は防ぎきれず、細かい傷がどんどん増えていく。
「結果は変わらぬというのに……」
ランデルは目の前で必死に防御に徹しているダルムを一思いに殺そうとする。
「これで終いだ」
ランデルの剣がダルムに迫ってくる。この一撃を食らえば完全に切り裂かれ死んでしまうような一撃だ。
しかし、そこに一人の男が立ちふさがり、その攻撃を防ぎ、弾き返した。
「ディオラン殿!」
ダルムとランデルの戦いに割って入ってきたのはディオランだ。ディオランは準超越者であるランデルを倒すためにここに来た。
「大丈夫か? ダルム殿」
「ああ、ぎりぎりな」
ダルムが待ち望んでいた援軍が到着した。ダルムはポーションを使い細かい傷を治した。
「俺たちで奴を倒すぞ」
「ああ、分かった。だが、あの男は強い。闘気を使うみたいだから注意しろ」
ディオランは闘気使いと聞いて警戒を強める。
闘気を使うことによって力や素早さ、頑丈さなどが向上する。これは強者であれば無意識で使われていることも多いのだが、自らの意志で自由自在に闘気を扱えるとなると強さが一段階上がる。そこれこそ、それだけで強力なスキルを持つ準超越者と並ぶくらいだ。
そして残念なことに、ディオラン達は闘気の扱いがまだまだ未熟だ。
「多少はやるようだが……」
ランデルは相手をする敵が増えたことでギアを一つ上げる。
「それでも俺には届かん」
ランデルはディオランに攻撃を仕掛ける。ディオランは何とかその攻撃を受けるが、体勢を崩されて蹴りを腹に食らって吹き飛ぶ。隙をついてダルムは攻撃を仕掛けるが、弾き返されてしまう。
「なるほど。これは一筋縄ではいかんな」
ディオランは一当たりしてみて改めてランデルの強さを知った。これはディオランとダルムの二人では倒しきれない。
「これで分かっただろう。お前たちがいくら集まろうと俺には勝てん。……降伏すれば命は取らない」
「奴隷にされるくらいなら戦場で散った方がましだ」
ディオランはランデルの降伏勧告を一蹴する。命は取らないだけであって奴隷にされるのは目に見えている。それにディオランの目はまだ死んでいない。
「仕方ない。もう少し時間が欲しかったが、そうも言っていられぬな。……魔法部隊! やれ!」
その合図によってエルフ族、蛇人族、単眼族で構成される魔法部隊が、ランデルに向かってファイアーボールを放った。
それに気が付いたランデルは剣に闘気をなじませて、魔法を切り裂く。
「小癪な」
その攻撃を目くらましにしたディオランが炎の後ろからランデルに切りかかる。
「我らを相手に勝てるかな」
ディオランはここに一人でやってきたのではない。準超越者を倒すために精鋭部隊を引き連れてやってきたのである。
本来であればランデルを孤立させてから袋叩きにする予定だったが、そうも言っていられない状態になった。ランデルが引けないようにディオランは全力を尽くすのであった。
ディオランとダルムは交互にランデルに攻撃を仕掛け、距離を取ったら魔法が飛んでくる。その多段攻撃にランデルは対処するので精一杯だ。
(このままではまずいな……)
ランデルはこの戦場の状態を分析してそう思った。目の前にいる敵はそう簡単に倒せそうにない。特に周囲から魔法が飛んでくる妨害が厄介だ。そして周囲の状況もどんどんと悪化している。ノクタリア王国の兵士はどんどんと押されてこのままでは近いうちに孤立するのは間違いなかった。
「出し惜しみしている余裕はないな」
ランデルはこれまでも手を抜いていたわけではない。しかし闘気を消耗しすぎれば戦争という長丁場は乗り切れない。そこで最低限の闘気の消耗で乗り切っていたのだが、それでは倒せない状況に追い込まれたのだ。
ランデルは闘気を練り上げると、圧が増した。
その圧にディオランやダルムなどランデルを相手にしていた者たちが思わず息を飲んだ。
「覚悟しろ」
ランデルはあまり時間を無駄にできない。まずは厄介な魔法部隊にものすごい勢いで向かっていく。急にスピードが上がったことで、ディオランやダルムがかばいに行くことができない。
魔法部隊は慌ててランデルにファイアボールを放つが、それは切り裂かれ、ランデルと魔法部隊の距離はゼロになる。ランデルは魔法部隊を切り飛ばし、ついでと言わんばかりに周囲にいる他の兵士たちも切り飛ばしていった。
そこになんとかディオランとダルムが追いつき攻撃を仕掛けるが、簡単に一蹴されてしまう。
「ぐはっ」
ランデルの攻撃は止まらず、気が付くと周囲にいたヤマト軍の兵士たちはことごとく地に伏せていた。
「これが……準超越者の力だというのか……」
ダルムは目の前の惨状に驚愕し呆然とする。
一人で戦場をひっくり返しうる力を持つのが準超越者だ。それに並ぶ力の持ち主がいなければ抑えることすら難しい。
このままでは負ける。それがこの場にいる者たちの脳裏によぎる。しかし、そんな中でも一人諦めていない男がいた。
「はあああああああああ!」
ディオランはやられてもすぐに立ち上がり、ランデルに果敢に攻めていった。ランデルはディオランの攻撃を受け止めた。
「貴様では俺は倒せない」
「だから、なんだというのだ!」
ディオランはタケルに世話になってからまだ一つも恩を返せていない。左翼軍の将軍という大役に任じられておきながら、負けるというのは許されないのである。仮にここでディオランが死んだとしてもヴェルノアが何とかしてくれるはず。そう信じてディオランはただただ目の前の敵を倒す事に全力を注ぐ。
ディオランの剣がわずかに光始める。
「む」
その様子を見たランデルは一瞬眉を顰める。
「そうか、お前も多少は闘気が扱えるようだな。だがっ!」
ランデルはそれを上回る闘気を流し込み、ディオランの剣よりも光る。だが、それに負けじとディオランも闘気を注ぐ。
もうこうなったら両者の意地と意地のぶつかり合いである。
「うおおおおおおおおおおおおお」
「はああああああああああああああ」
ディオランとランデルのつばぜり合いが続く。
そしてその勝負に勝ったのはランデルだった。ディオランの剣を押し込んだランデルはディオランを斜めに切りつけた。
「はあ、はあ、はあ……」
ディオランを相手に全力を出したことでランデルの闘気が底をつき始め、明らかに消耗していた。しかし、これで敵の主力を討てたと考えれば、悪くない結果である。そう考えたランデルだったが、ディオランの作戦はここで終わっていなかった。
「ガルーダアアアアアン!」
倒れた状態のままディオランは血を吐きながらも大声で叫ぶ。その言葉にランデルは周囲への警戒をする。
しかし、ガルーダンがランデルの意識の外である空から奇襲を仕掛けて槍を持って突撃した。
「ぐはっ」
ガルーダンの攻撃はランデルのお腹を貫いた。
万全な状態であればランデルは迎撃できたり躱すことができたりしたであろう。しかし、ディオラン達によって弱らされたランデルでは対処することができなかった。
「……見事……」
そう言ってランデルは倒れた。
「敵の準超越者を倒したぞおおおおおおお!」
「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおお!」」」」」
ガルーダンは周囲の指揮を上げるために勝鬨を上げる。
そしてすぐに怪我をしているディオラン達の手当てに向かった。
「大丈夫か?」
「ギリギリだったな」
ディオランはギリギリの戦いをものにしたうれしさを噛み締めるのであった。
こうしてヤマト軍左翼は強敵であったノクタリア王国第二位の準超越者ランデルに勝利したのであった。




