27.カリュネラVSセルディオス
ヤマト軍とノクタリア王国軍の戦が始まった。
場面はヤマト軍右翼カリュネラとアルネイアの軍に移る。
いつもなら一人で特攻しているカリュネラが今回は大人しくしている。その理由はこの決戦前のヴェルノアとの会話にあった。
「なあ、ヴェルノア。ジルを生贄にして強くなった奴は戦場にいるか?」
「いるかもしれませんね」
「なら、僕に戦わせろ」
「……あなたが復讐ですか?」
「主の代わりだ」
ヴェルノアはカリュネラの真剣な目を見る。それだけではないとヴェルノアは感じたが、そう言うことにしておくことにした。
「……まあ、いいでしょう。あなたの軍がそこにぶつかるようにします。ただし、敵もそれなりには強くなっているでしょうから、一人で突っ込んで孤立した状態で戦うのはやめておいた方がいいですよ」
「はっ! そんなの必要ない」
「復讐をするのでしょう? それなら余計な邪魔がない状態でじっくりやった方がいいのでは?」
ヴェルノアは言外にただ殺すのでは復讐にならないと言っているのだ。周囲に敵が多ければ、いたぶることは難しくなるから、アドバイスしたのだ。
「それもそうだな。……絶対に僕にやらせろよ!」
カリュネラは納得した後、ヴェルノアに釘を刺すようににらみつけた。
「はいはい。分かりましたよ」
そんなやり取りがあったため、カリュネラは敵軍に食い込むまで、おとなしくしている。すべてはジルの仇を討つためだ。
順調に敵に攻め入っていく中、一部だけ押し返され始めた。明らかにそこに強者がいる。
「あそこか」
狙いを定めたカリュネラはそこに向かっていく。すると、そこにはディープスパイダーやゼルアントの攻撃をものともせず、ガンガン倒している男がいた。そしてその男――セルディオスはカリュネラが近づいてきたことに気が付いた。
「おっ、魔人か。まさか魔人が亜人どもに従ってるとはな」
「なあ、お前。僕らの国の村で変な儀式をして強くなった奴か?」
カリュネラは男の言うことを無視して、自分の聞きたいことを聞く。
「ははっ! 魔人がいっちょ前に人のことを気にかけているとはな」
普通、魔人は人類の敵として見られている。それが人と一緒に攻めてくるのだからセルディオスはおかしかった。
「答えろ」
「そうだ! この俺があの実験の成功者だ! 死ぬ確率が高い儀式を乗り越えた俺は準超越者並みの実力者になった! そして、俺はいずれ超越者になり、この国のトップに君臨する男だ!」
セルディオスは傲岸不遜にもそう宣言する。
「そうか。お前か。お前のせいでジルは……」
「ん? あそこで死んだ亜人の名前か? ははっ! それなら感謝して欲しいな! 亜人ごときが、この俺様の力になれたのだからな!」
悪びれるどころか感謝しろと堂々と言ってのけるセルディオスの態度にカリュネラはブチ切れた。
「死ね」
「おっと」
カリュネラはセルディオスに突撃して殴り掛かるが、セルディオスはひらりと躱す。
「さすがは魔人。信じられないスピードだ。以前の俺だったらこの一撃でやられていたかもな。だが! 今の俺にとっちゃあ避けられないスピードではない!」
セルディオスは反撃に転ずる。地面を踏みしめものすごいスピードでカリュネラに迫る。
「食らえ!」
カリュネラはセルディオスの剣を自らの剣を作り出して受け止める。
「自らの糸で剣を作り出すとは器用な真似をしやがる! だが、所詮は獣から進化したに過ぎない! 俺様の剣術にどこまでついてこられる!」
セルディオスの猛攻が始まった。セルディオスは流れるように次々と攻撃を繰り出していく。
カリュネラはその攻撃を時に剣で受け時に躱しながらさばいていく。
「ふっはっはっはっは! いくら魔人と言えど手も足も出まい!」
意気揚々とセルディオスは攻撃し続けているが、カリュネラはいまだ一度もまともに攻撃を受けていない。カリュネラの表情は苦戦している様子もなく、嵐の前の静けさのようなものを感じさせた。
セルディオスは攻撃している中、腕が何かに引っ掛かるような感触を覚えた。
「ん?」
「気付いたみたいだけど、もう遅い」
「なっ!」
セルディオスはカリュネラの糸によって雁字搦めに縛り上げられる。カリュネラはセルディオスの攻撃を捌きながら、糸を絡ませていたのだ。そうして準備が整ったところで一気に仕上げをした。
「お前を殺そうと思えば一瞬だ。でも、それじゃあ僕の気が晴れない」
カリュネラはセルディオスの顔面をぶん殴る。
「お前なんかのために! ジルは死んでいい人間じゃなかった!」
さらに顔面を殴る。殴る。殴る。
「うぐっ、やめ……」
カリュネラにとってもジルは大切な人だったのだ。カリュネラとジルは特別仲が良かったわけではない。でも、タケルの家で毎日のように顔を合わせて食事をしていれば、自然と嬢が湧くものだ。少なくともジルのためにカリュネラ自らが洋服を作るくらいには。
そんな大切な人がこんな奴のために死んだことがカリュネラは許せなかった。殺すだけじゃ生ぬるい。ジルと同じような苦しみを与えて殺してやる。
「ジルはお腹に槍が突き刺さった状態だったらしいな」
カリュネラはセルディオスの腹に剣を突き立てる。
「あが……うが……」
セルディオスのお腹から血がどんどん出ていく。
「それと同じような痛みを味わう気分はどうだ?」
セルディオスはカリュネラの糸に拘束され全く抵抗ができない。圧倒的強者に蹂躙され弄ばれ、自分あの時やったことがそのまま返ってきている気が付いて絶望の淵に立たされた。
「そのまま死ぬまで後悔していろ」
このままではカリュネラの言った言葉通りになる。それに焦りを覚えたセルディオスは外聞を捨て去り周りに助けを求めた。
「誰か! 誰か俺を助けろ! 誰か! 誰でもいい!」
セルディオスは周囲に助けを求め喚くが、すでに周囲に味方はいない。この場所もディープスパイダーとゼルアントの魔獣たちがとっくに蹂躙していた。
そして仮にセルディオスの味方が駆けつけようとしてもカリュネラが絶対に邪魔をする。
セルディオスはこのまま死ぬしかないのだ。
「くそっ! このまま……こんなところで死ぬのか……」
セルディオスにとってあの実験はようやく手に入れたチャンスだった。長い間強くなろうと努力をしても準超越者にすらなれなかった。その壁を超えるためなら何でもやる。そんな藁にもすがるような思いであの実験に臨んだのだ。実験に失敗して死ぬ可能性がある。それでも弱いまま老いるのなら死んだ方がましだと自ら実験台になることを志願した。
「ふざけるな! せっかくこれからだというのに……」
セルディオスはそんな賭けに勝った。しかし、死ぬリスクを負って手に入れた力なのに、カリュネラには一切通用しなかった。その屈辱ともう死んでしまうという絶望がセルディオスに力を与えた。
「俺は、こんなところで死ぬ男ではないのだあああああああああ!」
セルディオスの全身から黒い何かが湧き出てくる。
「うがあああああああああ」
セルディオスは全身に力を込めて、拘束されたカリュネラの糸をぶちぶちとちぎり始めた。そして全身が黒いオーラで包まれると完全にカリュネラの糸の拘束を断ち切った。そしてセルディオスはお腹に刺さった剣を抜く。すると、黒いミミズのようなものが体のうちから生えてきて、その怪我を満たすといつの間にか怪我が治っていた。
「はあ、はあ……こ、これが、俺様の力だああああ!」
セルディオスの体の内側にはミミズのような何かが全身を這いずり回るような感触があり気持ち悪さと同時に力をもたらしていた。
「なんだ。その気持ち悪いのは」
セルディオスの変化はそれだけではなかった。セルディオスの足元から黒い触手が何本も生えているのだ。
そしてその触手は周囲にいるディープスパイダーやゼルアントを掴み、ゼルアントの足元に引きずりこんでいった。
「ふっはっはっは! 力が! 力が湧いてくる!」
カリュネラはこの状況を見て、もう目の前の男をいたぶっている暇はないことを悟った。セルディオスを拘束したとしても、あの触手までは拘束するのは難しい。それに多少痛めつけたぐらいでは回復してしまうので意味もない。
「ごめん」
できる限り痛めつけて殺すことができなくなったことに対して、カリュネラは謝罪の言葉を口にする。
「今更謝っても遅いわ!」
「お前になんか謝ってない。……もういいや。終わらせる」
そう言ってカリュネラは構えを取る。
「それはこちらのセリフだ! 死ねえええええ!」
セルディオスはすべての触手をカリュネラに差し向けてくる。カリュネラはそれを避けたり剣で切り裂いたりしながら、セルディオスとの一瞬で距離を詰め懐に入る。
「は?」
一瞬で距離を詰められたセルディオスは間抜けな声を出す。
カリュネラは最初から本気を一度も出していなかったのだ。仮にセルディオスが強くなったとしてもカリュネラとの差を埋めるには到底足らなかったのである。
「ま、待――」
セルディオスの懐に入ったカリュネラは刃を首に向かって走らせる。
「糸刃術【ソニックススラッシュ】」
セルディオスの頭が飛んだ。すると、セルディオスの体のオーラや触手は霧散して倒れた。さすがに首を切られても生きているということはないようだ。それでも念のためカリュネラはセルディオスの頭を踏み潰した。
そしてセルディオスの死亡を確認したカリュネラはぼそりとつぶやいた。
「ジル、仇は取ったよ」
こうしてカリュネラとセルディオスの勝負はカリュネラの勝利に終わった。




