26.決戦前
ノクタリア王国軍は王都から数十キロ離れた平原にて敵を迎え撃つことにした。
あっという間にいくつもの都市を落とされたことを考えると、敵は複数の強者がいる可能性が高いと考えた。王都を守るためにこちらの強者を分散して配置すると、どこからか一つ集中して攻め込まれた場合抜けられ城下町が戦場になり被害を受ける可能性が高い。
また王都が亜人の軍勢に包囲されたことだけでも王のメンツをつぶす行為となる。それをさせないためにも、王都での防衛ではなく、そこから数十キロ離れた平原にて敵を迎え撃つことになったのであった。
「斥候による情報では、敵はどうやら王都前の平原で我々を迎え撃つつもりみたいです」
ヴェルノアがタケルに報告をする。
「平原が……ちょうどいいな。真正面から打ち破ってこそ、力を示せる」
タケルがこの国を攻め落とすのは、やられたからやり返すというのだけでなく、力を見せつけるという側面もある。これだけの武力を持ってるのだから、ちょっかいかけてくるなよと、他の国にアピールするためだ。だからこそ、平原での対決はタケルにとっても都合がいい。
「で、作戦はどうなってる?」
タケルは今回の軍事作戦のほとんどをヴェルノアに任せている。小規模な戦争であれば適当に集めて適当に突撃していれば勝てるのだが、大規模な戦争でしかも王都まで攻めるとなるとそうはいかない。どうやって攻めるのか考えているときに、ヴェルノアはこういうのが得意と自ら言ってきたので、任せることにした。
「以前決めた方針と変わりません、敵の主力にうちの主力を当てたあと、追い込めば敵の超越者が出てくる可能性が高いので、それをタケル様に討ってもらうという形になります。……ですが、本当に敵の超越者とおひとりで戦うつもりで?」
「そこだけは譲れねーな。大体他の奴らが戦ったら被害がデカくなりすぎる」
「それでしたら、せめて私と二人で」
「これは俺の力を示す場でもあるんだ。複数人で超越者を倒したところで意味ねーだろ」
タケルは自分の存在が他国への抑止力になることを望んでいる。そのため敵の強者を囲んで袋叩きにして勝ったところで、その目標は達成されない。
だが、当然リスクもある。ヤマト王国はタケルがいるからまとまっているところもあるし、食料面での優位性もタケルがいるからである。万が一やられた時の損害がデカすぎるのだ。下手をすれば全軍が殲滅される危険性すらある。ゆえにヴェルノアは内心ではもっと安全策を取りたいと考えているのだ。
「分かりました。ですが、危機的状況になった場合、参戦することをお許しください」
「……分かったよ。そうならねーように圧勝してやる」
これはタケルのわがままであり、自分なりのけじめだ。その意地を押し通すためにも圧勝を目指して気合を入れていくのであった。
そうしてヤマト軍は軍を進め、平原にてノクタリア王国の大軍と対峙した。両者はにらみ合う形で陣容を整えた。
ヤマト軍の右翼。カリュネラとアルネイアの魔獣軍となっている。
「じゃあ、アルネイア指揮は任せたよ」
「いや、今回はあなたが指揮する番でしょ?」
「だーめ。今回は特に殺りたい奴もいるみたいだし」
カリュネラとアルネイアはどちらか一方が前線で戦い、もう片方が指揮をするという形を取っていた。順番でいうなら今回はカリュネラが指揮をする番だ。しかし、今回はそれを反故にした。
「順番くらい守ったらどうなの?」
「僕より弱いんだから、言うこと聞きな?」
カリュネラはそう言いながら、アルネイアに圧をかける。
かつてアルネイアが魔人となった時、カリュネラと勝負をしたのだが、それはカリュネラの圧勝だった。序列が確定したのである。そのためアルネイアはカリュネラの命令には逆らいにくい。
「……しょうがないわね。今回は私が指揮をしてあげる」
「そうそう。弱い奴は引っ込んでいた方が安全だよ」
(覚えているといいわ。いつかぶっ飛ばしてやるんだから!)
アルネイアはそう心に誓うのであった。
ヤマト軍中央。バルガスが将軍の軍隊となっている。オークや巨人族、牛人族などの体の大きな亜人が属しており、重装歩兵が多数いる部隊となっている。この部隊はタケルを守るための盾でもあり、攻めるときには重厚な槍でもあるのだ。
バルガスは敵の方を見つめながら思案していた。
(俺は敵の準超越者に勝てるのだろうか)
情報によれば、この戦場には準超越者がいる可能性が高い。超越者はタケルが相手をするという風に決まっているが、バルガスには準超越者を討つようにとヴェルノアから指示されていた。
しかし準超越者となれば、国でもトップクラスに強い人物だ。バルガスはタケルの最高品質の作物を食べ強くなりはしたが、それでも不安はぬぐえなかった。
(いや、不安になるな! タケル様に将軍を任されたのだ。みっともない真似はできない)
バルガスはこの戦いの意味を深く理解していた。他国に力を見せつけること。それによって国を守ること。ゆえに求められるのは勝利だ。
「バルガス殿、緊張されているので?」
牛人族の族長クルガンが話しかけてきた。
「ああ、少しな。……負けられぬ戦いだしな」
「そうですね。俺にとっても負けられない戦いです」
クルガンも真剣なまなざしで敵軍の方を見つめる。
「……奴隷の解放か」
「はい。もしかしたら家族がいるかもしれません」
タケルはこれまでの都市でも亜人奴隷の解放をしてきたが、その中にクルガンの家族はいなかった。タケルがこのままノクタリア王国を攻め滅ぼせば、この国中の亜人奴隷が解放されることになる。その中に家族がいることを願ってクルガンが戦っている。
「いるといいな」
「はい」
ヤマト軍左翼。鬼人族族長のディオランが将軍の部隊だ。ディオランは実力が高いだけでなく、視野も広いため将軍に任命された。
魔法が得意なエルフ族、蛇人族、単眼族や上空からの攻撃ができる鳥人族、ホワイトウルフの騎獣兵など多種多様な攻撃ができることが強みの部隊だ。
それをうまく指揮するには難易度が高いのだが、ディオランはそれをうまく活用して、ここまで戦ってきた。
ディオランは敵を見つめながら思案していた。
(これに勝てば少しは贖罪になるだろうか)
ディオランはいまだに巨人族のブラドと手を組んで北部を荒らしたことを後悔していた。特にその過程で多くの種族を奴隷にしたことは悔やんでも悔やみきれない思いがある。
タケルからは「生きるためだったんだろ? そう言うことをしなくちゃいけない時もある」と慰められたが、ディオランはまだ自分を許せていなかった。
それでも今回の戦いに勝って亜人奴隷を解放できれば少しは自分を許せるような気がした。
「ディオラン殿、今回の指揮も頼んだぞ」
獣人族のダルムが話しかけてきた。ダルムは初期の頃からタケルと一緒におり個としての実力は高くなっているが、大勢を率いたり指揮したりするようなことは苦手としている。そう言ったことはシェイドの方が得意だ。
「ああ、任せておけ。今回もきつい仕事を頼むかもしれんがな」
「はっはっは。それくらいお安い御用だ。タケル様が国を作られるのだ。こんなところでケチはつけられないからな」
初期メンバーに近いダルムとしてはタケルが国を作ることを感慨深く思っている。ほぼ何もなかったような場所から村ができ町になり、そして国になる。その過程をすべて見てきているのだ。この戦いにおける思いには熱いものがある。
(そうか。俺はタケル様に恩返しもまだできていない)
ディオランは自分の犯した罪のことばかり考えていたが、タケルへの恩返しが全然できていないことを思い出した。
タケルへの恩返しと自分の贖罪。それは勝利によってもたらされる。ゆえに、ディオランは気合を入れなおす。
「絶対にこの戦に勝つぞ」
「おう」




