25.ノクタリア王国への侵攻
ヤマト軍は辺境都市オーズを落とした後、王都に向かって進行した。途中の中小規模の町はあっけなく降伏した。そのためここまで被害が出ずに進めている。
タケルはここまで順調に来られた功労者の一人であるオルランドをねぎらいに来た。
「飯はうまいか?」
「は、はい!」
「そうか! そうか!」
飯がうまいと返ってきてタケルはにこにこと頷いている。
多くの町が戦わずに降伏したのは辺境都市の領主をしていたオルランドの功績が大きい。オルランドは使者としてヴェルノアと一緒に降伏勧告に行った。その際に自分たちの都市がどう扱われたのかを説明した。
タケルたちは手に入れた都市でむやみな殺しや略奪は一切行っていない。亜人奴隷の解放は行われたが、一般の人たちにとって大きな生活の変化はないだろう。むしろ、なぜか食料をもらえたので、喜んでいる民の方が多いくらいだ。
その実情を聞いて、むやみに命を散らすよりも大人しく降伏した方がいいと判断する町の領主は多かった。
「いやー、オルランドが協力的で助かった、お前がいなかったらここまで戦わずには来れなかっただろうな」
オルランドには降伏勧告の他、道案内やノクタリア王国の事情なども色々話を聞いている。
「微力ながらタケル様のお手伝いができて光栄です」
オルランドはタケルに感謝をしているのだ。辺境都市オーズでは決して食糧が豊富というわけではなく、ギリギリの状態だった。その現状を見たタケルが恩を売るという意味でも大量の食料を上げた。通常、軍が攻めてきたら食料を奪っていくものなのだが、逆にもらえたことでオルランドは困惑しながらも感謝したのだ。
もちろんなるべく恩を返してこれからの自分の地位や都市の扱いを有利に働かせようという魂胆もあるため、非常に協力的なのだ。
「ですが、この先にある都市マルセトは降伏しない可能性が高いです。親王派の貴族が領主をしているので」
「まあ、そりゃあしょうがねーな。いつかは戦うことになるだろ。ま、安心しろ。お前に戦ってもらう予定はないからな。さすがに同じ国だった奴らと戦うのはつらいだろ?」
「いえ、いざとなれば我々も戦う所存です!」
「その心意気だけもらっておくよ」
都市マルセトの攻略が開始した。
タケルとしては先陣に立って戦いたかったのだが、フィリーとヴェルノアに止められた。そのため後方から戦の様子を見ているのだが、タケルはそわそわしている。
「落ち着かねーな」
「どっしり構えるのも王として必要よ。この戦いは前哨戦のようなものでしょ? こんなところで消耗していたら、敵の超越者相手に後れを取るわよ」
「分かってはいるんだが……」
タケルは国の中で最大戦力だ。そのカードをいつ切るのかという話し合いが行われたが、それは敵の超越者が現れたときに切ると決まった。超越者相手に一般兵士が戦うとなると被害が尋常じゃなく出る。被害を最小限に抑えるためにタケルが出ることに決めたのだ。
「それに戦をするんだったら、部下に手柄を取らせるのも大事よ」
タケルもフィリーが言っていることは分かる。頭では理解している。しかし、誰かに戦わせているというのは妙に落ち着かないものである。たとえ、こちらが優位に戦いている状態だとしても。
「よし! ちょっと農作業してくる!」
「あんたね……」
「もうどうせこっちの勝ちだ。頑張った奴らには取れたてのうまいもんを食わせてやりたいからな」
見ている様子じゃあヤマト軍が圧倒的に押している。そう時間がかからないうちに目の前の都市は落ちるだろう。そんな状況になっても強い奴が出てこないので、おそらくあの都市には超越者はいない。事前に分かっていたことではあるが、ここまでくれば確定したようなものである。
タケルは本陣の後ろの方で畑を耕し始める。農業はいい。無心になって作業ができるので、余計なことを考えなくて済む。
そうして畑を耕していると本陣の後方を警戒していた兵士が声を上げた。
「おい、それ以上近寄ってくるな! しっしっ!」
そんな言葉が聞こえてきたタケルは、そちらの方を様子を見に行く。
「どうしたんだ?」
「タケル様!? あ、いや、その……子供が近寄ってきたので追い払ったところです」
いきなりタケルが来て驚いた兵士ではあるが、すぐに何があったのか報告する。
「子供? ……あれか」
タケルが林の奥の方を見ると、そこには首輪のはめられた獣人の子供がいた。おそらく奴隷だろう。
その獣人の子供はジルとは似ていないが、それでもジルの面影を幻視してしまう。ジルと出会ったときジルも森の中で腹を空かせて一人でいた。
「おい、小僧! 腹減ってるか?」
獣人の子供はコクリと頷く。
「仕事を手伝うんなら飯を食わせてやってもいいぞ」
「タケル様!? 部外者を中に入れるのはマズいのでは……」
兵士がタケルに正論を言う。今は戦争中だ。たとえ子供であっても部外者を中に入れるのはリスクがある。
「ガキ一人で何ができる。それに重要な部分には近づけさせない。ちょっとした雑用をやらせるだけだ」
「分かりました」
一般兵士はタケルに忠告はできても決めたことを覆させるだけの力はないため、了承する。
「どうする? 来るか?」
獣人の子供はコクリと頷くこちらにやってくる。
タケルは獣人の子供を連れてひとまず炊事場に向かう。
「お前には仕事をしてもらうが、その前にぶっ倒れられても困るから、飯を食ってもらう」
タケルが炊事場に到着して料理人に話しかけるが、タケルがいきなり現れて料理人はびっくりする。
「タケル様!?」
「こいつになんか食わせてやりて―んだが、何か飯余ってねーか?」
「昼食の粥が少し残っていたかと……」
「それで十分だ。こいつに食わせてやってくれ」
「はっ」
料理人は粥をよそって子供に渡す。
「ほらよ。坊主」
粥を受け取った獣人の子供はその粥をじっと見つめている。
「それ食ったら働いてもらうから」
「うん」
もぐもぐと飯を食べている獣人の子供を見て、タケルはジルも最初は口数が少なかったなどと思い出す。
そんな風に獣人の子供を眺めているとフィリーが少し心配そうに話しかけてきた。
「タケル……」
「分かってる。何も言うな」
目の前いる獣人の子供は、ジルの代わりになるわけでもない。ジルはもうすでに死んでいるのだ。その現実から目をそらし代わりのもので埋めるつもりはない。あれは受け入れなければいけない苦しみだ。
フィリーはその場の空気を切り替えるかのように、ここにやってきた本来の目的を告げる。
「そろそろ落とせるわよ」
こうしてまた一つタケルたちは都市を落としたのであった。
◆
ノクタリア王国の王都オルセンティアでは謎の軍が王都に向かって攻めてきているという情報が入り、王城では大混乱していた。
王城の会議室では対策を練るために緊急会議が開かれている
「現状はどうなっているのですか??」
ノクタリア王国の宰相が軍務大臣に尋ねる。
「敵は亜人と魔獣の混成軍団です。すでにオーズからマルセトまで落とされたようです」
「なんと!? 亜人と魔獣だと!?」
「王都にまでだいぶ近いではないか!?」
「一体オーズでは何をやっていたんだ!」
想定以上に攻め込まれているため会議に参加している者たちがざわつく。
「静まれ。状況確認が先決だ。どうしてマルセトが落とされるまで情報が伝わらなかったのですか?」
「どうやら敵は電光石火の勢いで攻めてきているようでして、それに鳥が送られてこないことから考えますと情報封鎖にも力を入れている可能性が高いと考えられます。王都に向かって一直線で攻めてきているため、王都防衛のための時間もあまりないというのが現状です」
王都はそもそも防衛のことを考えた都市ではないため、防御力は低い。万が一攻められるのであれば脆いためできればその前に対処したいというのが軍務大臣は考えている。
軍務大臣からの報告を聞いた国王は恐怖に襲われた。その恐怖を払しょくするかのように大声を張り上げた。
「それならすぐに兵士を集めよ! 超越者であるボルガレスと準超越者たちをすべて呼び戻せ!」
「それでは帝国との国境線が……」
一人の大臣が反論をしようとするが、すぐにその反論は殺されてしまう。
「このような一大事にそのようなことを言っている場合か! 余の命がかかっているのだぞ!」
「国王陛下には王都からお逃げいただくことも……」
「余に亜人ごときから逃げろと?」
「いや、その……」
劣っている亜人ごときから逃げるとなっては、国王としてのメンツは丸つぶれである。そのようなことをしてこれからも他の貴族が付き従うという保証はないのだ。
「ふざけるな! 今すぐ周辺の都市から兵を集めて、亜人どもを皆殺しにせよ! これは余の勅命である!」
「分かりました。すぐに亜人どもを皆殺しにする準備を整えます」




