24.辺境都市攻略2
それから一人の男――ヴェルノアが使者として門をくぐりやってきた。
ヴェルノアは周囲を敵に囲まれている状況にも関わらず、緊張するどころか柔らかな笑みを浮かべながら優雅にオルランドに挨拶をする。
「どうも初めまして。ヤマト王国国王タケル様より使者に任じられたヴェルノアと申します」
「私はこの都市の領主のオルランドと申します。それではヴェルノア殿、会談の準備をしておりますので、案内します」
オルランドとタケルたちの戦力差は明らかだ。使者としても下手に扱えないためオルランド自らが出迎えた。
オルランドが先行して歩いているが、心の中で愚痴を吐く。
(くそっ! 使者でさえこの強さか)
オルランドは使者であるヴェルノアが只ものでないことを即座に見抜いた。準超越者の実力を持つオルランドであっても戦えば、抑えることができるかどうかというレベルだ。
元々分かっていたが戦っても勝てない。交渉で少しでも有利な条件を見出すしか道がなくなった。
オルランドは領主の屋敷内にある一室に案内した。
「こちらにお座りください」
そう促されヴェルノアは椅子に座る。
「それでは早速、本題に入らせていただきます。我が主様より降伏するか、戦うのかについての返答をいただきように言われております。いかがなさいますか?」
ヴェルノアは魚定食を食べるか焼肉定食を食べるかを尋ねるような気軽さでオルランドに問いかける。
「いや、少しお待ちいただきたい。いきなり降伏と言われても我々がどう扱われるのかが分かりません」
「……それもそうですね。降伏するのであれば、我々は無意味な殺しをしません。今まで通りの暮らしができる保証はできませんが、そう悪い扱いはするつもりはないので、その点はご安心を」
「我々を奴隷のように扱うつもりはないと?」
「はい。ああ、そうだ。奴隷で思いましたが、亜人の奴隷は解放させていただきます」
オルランドにとってそれは許容範囲だ。反発する者はゼロではないだろうが、それは武力で黙らせることができる。むしろ降伏をしても奴隷のような扱いをされないのであれば、そう悪くない条件のようにも思えてきた。
「それと我々と戦い場合でも、無垢な民は殺しません。……ですが、我らも怒っているのです。いきなり村を襲われ何の罪もない人が殺されたり、いきなり奴隷として連れ去られたり。その憎しみは兵士たちに向くとお考えください。そして、我々は一度開戦したら、降伏は認めません。やるかやられるかの勝負だと思ってください」
ヴェルノアは遠回しに戦いに参加する兵士は皆殺しにすると言っているのだ。そして、降伏を禁じたためこの場にいるやつらだけが生き残るなんてこともない。
「……考える時間をいただきたい」
「いいでしょう。ですが、そう長い時間が与えられません」
オルランドは席を立ち別室にいる側近や幹部たちと話し合うことにした。
「降伏するか、戦うか。意見を募りたい」
「仮に戦うとして援軍が来るまで耐えられるでしょうか?」
「いや、おそらく援軍は来ない」
オルランドの援軍は来ないという言葉にその場にいる者たちはざわついた。
「それはどうしてでしょうか?」
「援軍を呼ぶために鳥を出したが、すべて撃ち落された。仮にこの状況に気付いた者がいたとして、それが周辺の町に伝わって……という感じで情報が届く可能性があるが、それでは時間がかかり過ぎだろ?」
その場に重たい空気が流れる。唯一可能性があるのが、籠城をしての援軍待ちの戦略だったのだ。それが断たれたとなると、戦いに希望が見いだせない。
そんな思い空気の中一人の幹部が口を開いた。
「……それではオルランド様は戦えば負けると?」
「ああ、そうだな。そもそも俺ではあの使者の男にすら勝てん。戦うとなれば負ける前提になるだろうな。」
「それでは降伏一択では?」
「いや、負ける前提で戦う道もあるが……それも含めて皆から意見を集めたい」
「仮に降伏してこの町の民は守られるのでしょうか?」
「一応使者が言うには町の民には手を出さないという話だな」
一人の幹部が机を叩きながら立ち上がった。
「相手は野蛮な亜人どもだぞ! それに魔獣もいる! そんな話信じられるか!」
「確かに魔獣が人を食わない方がおかしい」
「野蛮な亜人どもが約束を守る保証なんてないな」
男の主張に感化されたようにそれに賛同する意見がちらほらと上がってくる。
「でも、きっちり統率は取れているみたいだぞ」
「だからと言って信用できるか! お前はあの亜人どもの味方か!」
「そうじゃない! 少なくとも軍としての規律はあると言いたいんだ! それに下手に戦えば俺たちは死ぬんだぞ! 一時の感情で暴走するのは慎め!」
それから会議に参加している者たちが好き勝手に自分の主張をし始めた。オルランドはそれを黙って聞いている。
「相手はあの軍勢を率いてきながら交渉をしに来た! この都市を滅ぼすだけの力があるのにだ! 降伏したら殺されるという方が暴論じゃないのか!」
「我らを騙っている可能性は? 騙して門を開けた方が犠牲が少ないでしょう」
「そんな可能性のことを言いだしたらキリがないだろ!」
「亜人と取引をしたことがある商人を連れてきました」
話が平行線になっていたところに、亜人と取引したことがある商人が連れてこられた。商人がやってきたことで話し合いはいったん中断される。
オルランドが商人と話をする。
「お主は直に亜人と接したことがあるそうだな」
「はい」
「そんなお主から見て亜人とはどのような奴らだ」
「下劣な存在。野蛮な存在。汚らわしい存在などと言った風に言われておりますが、少なくとも商取引は行えます。私の立場ではこれ以上は……」
「最低限のルールは守ると?」
「はい。それに……あ、いやなんでもありません」
「この状況だ。どんなことでもいい聞かせてほしい。その内容の是非は問わん」
「……彼ら亜人もまた人なのです。私が取引をしに行ったとき、最初はそれなりに警戒されますがいきなり殺されるということはありませんでした。そして交流をし続ければ感謝もされますし笑顔も見せてくれます。もちろん私に対して敵意を持っている者がいないわけではありません。ですが、それは人も同じではありませんか? あ、いや、すみません」
あくまで商人は商人から見た出来事を語っている。ただそれはこのノクタリア王国内にある亜人差別の風潮に反する発言なので、商人は冷や汗をかきながら恐る恐る語った。
「よい。商人よ。お主の話は参考になった。下がってよい」
「はっ」
商人が退出してからもその場は沈黙が流れた。
そんな中オルランドが口を開く。
「……亜人もまた人だぞうだ。亜人だからこうだという偏見は我らを苦しめるかもしれんな」
その言葉を聞いて先ほど亜人に対する偏見を言っていた者たちは肩身が狭い思いをする。
「王都の……魔法研究局がやらかした尻拭いを俺たちがするかどうかって話だな。正直、俺はあいつらのために命を懸けるのなんてまっぴらごめんだね。逆に、あいつらのために命を懸けるって奴はいるか?」
「「「……」」」
王都と辺境都市オーズの関係性はあまりいいものではない。仮に命を懸けて戦ったとしても、利があるのは王都の連中だ。王都の連中のために戦うとなると、モチベーションも湧いてこない。
「じゃあ、決まりだな」
オルランドは再びヴェルノアの元に向かう。
「それで結論は出ましたか?」
「はい。我々は降伏したいと思います」
「そうですか」
ヴェルノアは別のどちらの回答でも構わないという感じで返事をする。
「ですが、我々の命や生活の保証をしていただきたい」
「ええ、それはお約束しましょう」
「いえ、そうではなく。できれば国王陛下からお約束いただきたいのです」
オルランドは超越者並みの力を持っているタケルがその武力を持って集団をまとめ上げていると分析をした。そうであれば王の言葉は絶対だ。だからこそ、王から言質を取りたいと思っているのだ。
「私の言葉が信用できないと?」
オルランドは使者の機嫌を損ねたかと内心焦る。
「いえ、そういうわけではありませんが……これから仕える国王陛下のお言葉があれば民も安心できるかと思いまして」
「……まあ、いいでしょう。我が主様に会わせてあげましょう」
オルランドは側近を二人連れてヴェルノアと共に城門を出た。内心ドキドキしながら、歩いているとホワイトウルフに乗っているタケルのところにたどり着いた。そこに膝をついて跪く。
「タケル様、こちらは辺境都市の領主オルランドとその側近です。どうやら我々に降伏することを選んだようです」
「そうか」
「この者たちは民の命や生活の保証が欲しいとのことで、タケル様よりお言葉をいただきたいのだとか」
「なるほどな。安心しろ。民の命や生活の保証はしてやる。うちの兵士たちが暴れないように厳命しておく。もちろんそっちが大人しくしているならな」
「はっ! ありがとうございます! こちらでも警備を増やしトラブルが起きないようにさせていただきます!」
亜人蔑視をしている民と揉める可能性はゼロではない。そのせいで機嫌を損ねて虐殺が始まるなんてことは絶対にさせないためにも警備を増やして、先にこちら側で押さえるぐらいの心づもりだ。
「あっ、そうだ。俺の村の村人たちを生贄にしてへんてこな儀式を行った奴らに心当たりはあるか?」
「……おそらく魔法研究局の誰かかとは思いますが……幾分私は辺境の地の領主をしている身でして王都の事情にはそれほど詳しくないのです」
「そうか。分かった。下がっていいぞ」
オルランドたちはその場から去る。
「よし、このまま一気に攻めるぞ。相手が対応してくる前にな」
タケルの作戦は電光石火の王都攻めである。可能な限り情報封鎖をして、相手が対応してくる前にガンガン都市を落としていく戦略だ。最初の都市を無傷で落とせたのは大きい。この勢いに乗って進軍を開始するのであった。




