23.辺境都市攻略1
タケルはふとこの世界の戦争の開始について疑問に思ったことをフィリーに質問をした。そのルールを守らず行って野蛮認定されるのも癪だからである。
「なあ、この世界って戦争する前に相手に対して宣戦布告って必要なのか?」
「えーっと……普通国が戦争する前の段階として外交で交渉して決裂してから戦争に移るものなのよ。そう言った意味ではその段階で宣戦布告をしているとも言えなくはないけど……。まあ、宣戦布告しないからと言って、問題というわけでもないわね。普通、国境付近は防衛しているのが当たり前だし、情報収集して敵の攻撃を察知したりするものだし、そんな当たり前のことをしていない国がバカとも言えるわね」
「なるほどね。じゃあ、奇襲かけて一気に攻めるか」
宣戦布告なんてしてしまえば、相手に準備期間を与えることになる。それが必要だと言われれば仕方ないが、できればしたくなかった。相手に余計なことをさせないためにも奇襲をかけて電光石火で王都まで駆け上がるつもりだ。
「……ねえ、タケル。私もついて行っちゃダメかしら?」
「いや、危ないぞ」
「だって、あなたこの世界の常識が全然分からないでしょ? 戦争関連の政治分かる?」
「うぐっ……」
タケルは戦争関係の攻め方であれば、それなりに知識はあるが、この世界の戦争のルールというのは知らない。今回は理性的な戦争をすると決めているのに、そのルールが分からないのは致命的だ。
「だから私も相談役としてついて行くわ!」
「うぐぐ、分かった。でも、いざっていうときはちゃんと逃げろよ」
タケルとしてはフィリーについてきてほしくないが、必要な存在なため嫌がりながらも付いてくることを認めた。
◆
辺境都市オーズ。ここはグリムヴェイル大森林が見える位置に存在する都市で、ノクタリア王国内ではグリムヴェイル大森林からやってくる魔獣から国を守る盾としての役割を担っている。
その都市の城壁で警戒にあたっていた兵士が、遠くに見えるグリムヴェイル大森林からぞろぞろと人がこちらに向かっているのが見えた。
「ん? あれは、亜人の集団か?」
その集団はすぐに途切れると思っていたのだが、いつまでも森から出てくる人は途切れない。さらに亜人だけではなく魔獣までもが一緒にこちらに向かってくるのを見て、兵士は大慌てで警告の鐘を鳴らしに行った。
「敵襲! 敵襲!」
警告の鐘を聞いてやってきた多くの兵士がその集団を見る。
「おいおい、いったいなんなんだよ。あれはっ!」
敵だと判明したわけではないのだが、明らかに異常な集団だ。複数の部族の亜人の集団と魔獣が一緒に向かってくるのだ、それは普通ではないため警戒するのは当然だ。
鐘の音を聞いたオーズの都市の領主であるオルランドがやってきた。
「いったいあれはなんだ?」
「分かりません! ですが、武装した上でこの大軍ですから敵である可能性が高いです」
オルランドは心の中で舌打ちをする。
グリムヴぇリル大森林には複数の部族の亜人がいることは知っていたが、それが一つになることなんて考えられなかった。ましてやその集団が国を作り自分たちの都市を攻めてくるなんて悪夢以外の何物でもない。
「あの集団は敵と想定して動く。兵士には準備させろ! その他戦える奴の臨時募集もしろ! これはこの都市の存亡をかけた戦いになるぞ!」
「はっ!」
「それと今すぐ他の町に……いや、王都に向かって鳥を出せ。援軍を寄こせってな」
「はっ!」
オルランドは敵の様相を確認するためその場に残る。近づいてくる集団を見るに、獣人族、鬼人族、巨人族、オーク族、牛人族、馬人族、単眼族など次々と確認できる。
(ほとんどの部族が参加してやがるのかっ!)
さらに魔獣はホワイトウルフにディープスパイダー、ゼルアント。これらの魔物は群れを作ることで知られている。群れを作るには優秀なこの存在。魔物や魔人がいる可能性が高いのである。仮に魔人がいるなら、どれか一つの魔獣の集団だけでもこの都市が落とされる可能性がある。
(おいおい、冗談じゃねーぞ)
先ほど命令した援軍要請のための鳥が放たれ飛んでいるのを見た。しかし、その鳥が落ちた。
(矢!? エルフ!)
矢が放たれたと思い、周辺をよく観察していると、ホワイトウルフに乗ったエルフまでもがいた。
「ははっ、援軍は呼ばせないってか」
オルランドは乾いた笑いをした。敵の様相が分かるにつれ、どんどんと絶望感が増してくる。
亜人と魔獣の集団は辺境都市オーズから一定の距離を保ってぐるりと囲んだ。
包囲が完了したところで、ホワイトウルフに乗った男――タケルがオルランドのいる城門に近寄ってきた。
タケルは威圧を放ちながらゆったりと進んでいく。その威圧に兵士たちの中にはがたがた増える絵始めるものもいる。
オルランドはこの圧力を知っている。ノクタリア王国にいる超越者に負けずとも劣らない威圧だ。つまり、目の前の男は超越者の可能性が高いということだ。
オルランドの心は半ば折れていた。しかし、辺境都市を守っている領主である以上みっともない真似はできない。内心逃げ出したい気持ちを押さえ、虚勢を張って堂々とした態度でタケルが近づいてくるのを待つ。
「矢か魔法を放ちますか?」
「バカか、効くわけねーだろ。むやみに刺激するんじゃねー」
部下が一人で来たという隙をついて攻撃をするか聞いてくるがオルランドはすぐに却下する。不意打ちしたとして効くことはほぼないだろう。むしろ、交渉の余地すらなくなる悪手だ。
タケルは城門に近づいたところで、大声を上げる。
「俺はグリムヴェイル大森林を支配するヤマト王国国王タケルだ! 少し前にお前らの国の奴らがうちの村の村人を皆殺しにしてへんてこな儀式をやったな。今回はその報復に来た」
(あいつらかっ!)
オルランドの脳裏にそれをやっただろう集団が思い浮かぶ。質の悪い連中で好かないやつらだったが、ここまで迷惑をかけられるとは思っておらず、無意識に怒りが込み上げてくる。
「本当は問答無用で皆殺しにするつもりだったが、一度だけチャンスをやる。今から使者を送るから、戦うか降伏するか選べ」
そう言ったタケルは軍の元に戻ろうとする。
「お待ちいただきたい! 報復ということだが、その事件に我らは関係しておりません! この都市を攻めるのはお門違いではないでしょうか!」
「悪いが、問答をするつもりはない! 恨むのであればこの都市がノクタリア王国に属していることを恨め」
「くっ」
タケルの取り付く島もない様子にオルランドは歯噛みする。
だがすぐに頭を切り替える。使者が来るということはひとまず話し合いができるのだ。だが、亜人たちについての情報が全く足らない。
ノクタリア王国では亜人差別や亜人蔑視の風潮があり奴隷としても扱っている。そのため亜人たちがどういうあり方をしているのか理解している人は少ない。
オルランドはそれほど差別意識はないと自認しているが、亜人と積極的に関わっているわけでもないのだ。交渉を進めるためにも亜人に関する情報が少しでも欲しい。
「急いで使者を迎える準備をしろ! あと亜人とまともに接したことがある人間……そう、商人なんかがいれば話を聞きたいと言って連れてこい! いいな!」




