21.覚悟
フィリーは最近のモヤモヤする感情について一人物思いにふけっていた。
その原因については分かっている。
あの聖女とか言う肩書がある女セラフィナとタケルだ。
あの二人が話しているところを見ると、それはまるで世界から祝福されているかのように輝いて見える。そしてそれを見ると心が苦しくなる。
(まあ、でも、お似合いの二人よね。二人とも女神様に愛されていて、しかも顔も可愛くて性格もいいし同族だし……)
セラフィナと接してみて分かったが、普通に性格もいい。嫌味なところがなく誰にでも優しく接するほど慈愛に満ち溢れている。少し世間知らずなところはあるが、それすらもセラフィナの魅力になっている。
この世界では同族で結婚することが一般的だ。異なる種族でも結婚することはできるし子供を作ることもできるが、自然と同族に惹かれることが多い。
(そもそも私はいつか帰らなきゃいけないし……)
考えれば考えるほどセラフィナに有利な条件が出てくるし、自分に不利な条件が出てくる。
頭では分かっている。様々な事情でタケルと結ばれることは難しいことも。その事情がなくても結ばれるとは限らないことも。それはそれとして、心にモヤモヤがあるのだ。
「はぁ~、ダメね。こんなことを考えても埒が明かないわ」
答えが出ることのない物思いが終わったところで、なんだか外が騒がしくなったのに気が付いた。外に出てみるとタケルが帰ってきていたのだが、明らかに様子が変だった。
「どうしたの? タケル」
「ジルが殺された」
「嘘でしょ!?」
あの後タケルたちはあの村の人たちはその場に埋め、ジルとその護衛達の遺体は荷馬車に乗せて運んできていた。
フィリーはその荷馬車を急いで確認するとそこにはジルの遺体があった。
「嘘っ……」
突然のことでフィリーの頭は真っ白になった。数日前、笑顔で手を振って出発するジルを見送った時は何もなかった。戦地に赴くわけでもなく危険な地帯に行くわけでもない。普通に行って帰ってくるだけのちょっとしたお使いのようなものだったはずだ。
「なあ、これ、何を表す紋章か知っているか?」
あの後タケルは村の中に手掛かりになるようなものはないか探したところ、紋章が描かれている布が落ちていた。おそらく犯人たちの手掛かりになるはずだが、タケルたちには紋章の知識がなかったのでフィリーに尋ねた。
「それは……」
フィリーはしばし沈黙しながら、記憶の中を探って答えを見つける。
「たぶんノクタリア王国の紋章だったと思うわ」
「そうか、ノクタリア王国か」
タケルが発した言葉は決して大きな声ではなかった。しかし、思わずぞくりとするような恐ろしさを感じた。
「タケ――」
「族長たちを集めてくれ。話をする」
フィリーがタケルに声をかけようとしたが、それを無視してタケルはどこかに行ってしまう。
タケルの緊急の呼び出しで各部族の族長たちとフィリーは役所の会議室に集められた。
族長たちは村が襲われジルが殺されたことを知っているため、ざわついている。
皆が揃っているところに、タケルが現れた。
「知っている奴も多いみたいだが、俺の口からも言っておく。数日前馬人族の村の一つが襲われた。そこに食料を運んでいたジルも含めて皆殺しだった」
皆殺しという言葉を聞いて、その場にいた者は皆息を飲む。実際にその場面を見たわけではないが、タケルの雰囲気から悲惨な状況だったことが伝わってくる。
「まず一つ。俺はこんなふざけたことが二度と起こらないように国を作る」
「「「おお!」」」
一部の族長たちからは喜びの声が上がる。
国を作れば一つの部族では対応できないことも対応できるようになる。国を作り公表すれば北の国々に対していい牽制になるだろう。
「だが、その前にやることがある。こんなふざけたことをやってきたノクタリア王国を潰す。俺たちがやられたことを何倍にもして返してやる」
「どこまでやるつもりなの?」
フィリーがタケルに質問をした。
「皆殺しだ。王族、貴族、平民関係ねー。やられたことそっくりそのまんまお返ししてやる」
「ダメよ! そんなの!」
「いいや! 必要だ! 俺たちに手を出したらどうなるのか! この世界に示す必要がある!」
フィリーはタケルの主張に真っ向から反対する。
族長たちの反応はタケルに賛同している者、困惑している者、冷静に見極めようとしている者など様々だ。
「仮にあなたが大虐殺をしてノクタリア王国を滅ぼすことができたとしたら、そのあとどうなるか分かっているの?」
「周りの国はビビッて手を出してこないだろ」
「そうね。でも、それは最初だけよ。そのあとは警戒して周囲の国々は手を組みこの国を排除しようとするわ!」
「はっ? そんなのわかんねーだろ!」
「いいえ、タケル。あなたは分かっていないわ! この町には魔獣や魔人がいるのよ? そんな国が一つの国を滅ぼして大虐殺を行ったとなれば、恐怖でしかしないわ! 間違いなくこの国を潰そうと動くわ!」
「だったら、そうなる前に一つずつ潰してやるよ! どんな国だろうと関係ねー! 俺たちを脅かそうとするやつらは全員潰してやる!」
一歩も引き下がろうとしないタケルに対して、フィリーは覚悟を決める。
「分かったわ。もしあなたがそんなことをするっていうのなら……私は……」
そこで少しの沈黙がある。それを皆が固唾をのんで見守っている。
「私もタケルと一緒にその道を歩む覚悟を決めるわ。きっと私たちの国も滅ぼされると思う。それでも精一杯やってみせるわ」
フィリーは微笑みながら言った。
頭に血が上っていたタケルはその瞬間冷や水を浴びせられたような感じがした。
大虐殺をして周囲の国と戦争をするとなれば、仮に勝てたとしてもどれくらいの人が死ぬのだろう。この場にいる族長立ち、警備兵として働いている人たち、町中でいつも挨拶してくる人たち。
それに負けることだってあり得るのだ。そうなれば死者の数は跳ね上がる。
そして何より、目の前にいるフィリーも死ぬかもしれない。いや、そうでなくても自分と同じ道を歩むとなれば戦争ばかりの苦しい人生を送らせることになるだろう。それはすごく嫌だ。
「ねえ、タケル。あなたはどんな国が作りたいの?」
フィリーはタケルの優しく問いかける。
「俺は……」
タケルは復讐心から目を曇らせどういう国を作りたいというビジョンを決めていなかった。だから、タケルはありのままの思いを語ることにした。
「俺は多くの人を支配するとか、多くの領土を持つとか、そんなことはどうでもいい。みんなが笑って暮らせればそれでいい。そのために国を作る。他の国から理不尽な扱いをされるのを防ぐために」
タケルが国を作る理由は単純だ。ただ自分を慕ってくれる奴らを守るために国という仕組みを作るのだ。
「それなら虐殺なんて間違っているわ。それは余計に敵を増やすだけよ。ノクタリア王国を攻めるのもいい、滅ぼしたっていい。でも、あくまで理性的な戦争をしなければならないわ」
「そうだな。……前言撤回だ。俺たちは理性なき獣じゃねー。俺たちは理性のある人としてノクタリア王国を潰す。そして、俺たちの国を作る!」
タケルはこの場にいる全員に宣言をした。タケルの眼にはもう復讐の炎は消えていた。
「だが、全員にこれに付き合えとは言わねー。同意できないっていうんなら抜けたってかまわない。今更渡した食料を返せなんてせこいことは言わねーからよ。自由にしてくれ」
タケルは族長たちに問いかける。これから戦争をし国を作る自分についてくるのかと。
「タケル様が国を作るというのであれば、我らオーク族はタケル様に従います」
「同じくエルフ族もタケル様を支えさせていただきます」
バルガスとエルドールが同意した。
「我ら獣人族もタケル様には多大な恩があります。タケル様の国造りの手伝いをさせていただきます」
獣人族の長であるバラルが同意をすると、鬼人族、牛人族、巨人族、馬人族、蛇人族、単眼族、鳥人族、蜥蜴人族、魚人族、蛙人族、兎人族の族長たちは続々とタケルに従うことを表明した。
皆覚悟が決まった表情でタケルのことを見つめる。
「みんな、ありがとう」
タケルは皆がついてきてくれることにうれしくなり素直に感謝する。
「よし、それじゃあ、戦の準備をしろ! 俺たちにふざけたことをしてきやがったノクタリア王国をぶっ潰すぞ!」
「「「「「はっ!」」」」」




