20.後悔
役所の執務室で呼び出されたタケルは、フィリーとエルドールからタケルの判断が必要なものの説明を受けていた。
「グリムヴェイル大森林の北部にも町を作ろうっていう計画があるんだけど」
「へぇ、なんでそんなもん作るんだ?」
「一つは流通の関係ね。ヤマトの町から毎回輸送するわけにもいかないでしょ。だからいったん中継地みたいなところを作ってそこから各村に分配するのよ。他にも徴税するときも同様ね。そういう想定で道も作ってもらっているのだけれど」
今までは村が点で存在している形だったのだが、様々な種族がタケルの下に一つになったのだからこれからは有機的な繋がりを持たせようとしているのだ。
「ふーん、いいんじゃないか?」
「いいんじゃないか? じゃないわよ! さすがにこれだけ大掛かりなことをするとなるとあなたにも関わってもらうわよ!」
「うっ……分かった」
タケルは面倒くさいなと思いながらも、フィリーの圧に負けて了承した。
「一応候補地をディオランが選定しているから、一緒に視察に行ってきなさい」
こうしてタケルはディオランとフォリンをはじめとする護衛を五名ほど連れてグリムヴェイル大森林北部の視察を始めた。
一行は最有力候補地の巨人族の村にたどり着いた。
「ここは北部の中でも中心に近く、また川もあり町を作るにはちょうどいいと思っています」
タケルは確かにこれから作る町の目的を考えると、ディオランがこの村を中心に町を作るのはいい案かもしれないと思ったが、一つだけ気がかりがあった。
「確かに良さそうだな。でも、ここは巨人族の村だろ? 納得するのか?」
「拒否させません。我々はタケル様に負けた上に食料まで恵んでいただいたのですから当然です」
「そういうもんか。でも強く抵抗するなら他の場所でもいいからな」
「おそらくですが、彼らも喜ぶと思います。この村にいる者たちはこれから作る町の中でもいい場所を割り当てられるでしょうから」
この森の棲んでいる者たちはあまり自分たちの村に執着はないのかもしれないとタケルは思った。今までも獣人やオークなんかはあっさりとタケルの近くに移り住んできたわけで、場所に固執するよりも生きることや利益を優先させているのかもしれない。
「ま、そう言うことならいいけどよ」
この場所で町づくりをするという方針が決まったところで、一人の男がタケルたちに近づいてきていた。
「兄貴、何やら兄貴に報告したいことがあるみたいっすよ」
その男は北部の食料輸送関係で働いている役人の一人だった。
「どうした?」
「ジルフォード様が本来昨日この村についているはずなのですが、今のところ戻ってきておりません。何かトラブルがあったのではないかと様子を見に行こうとしていたところ、ちょうどタケル様がいらっしゃったのでこちらにもご報告を」
この巨人族の村はすでに輸送関係の中継地としての役割を担っており輸送した荷車の管理も行っているのだ。そこで本来帰ってくるはずのジルが帰っていないことに対してどうしようか悩んでいたのだが、ちょうどタケルがいるということもあり報告に来たのだ。
「まあ一日くらいなら何かで遅れることもあるだろうが……少し心配だな。俺も一緒に様子を見に行く」
「分かりました。それではジルフォード様に任せたルートをご案内します」
タケルたちはジルが通った道を進んでいくが、木が倒れていたり地面がぬかるんでいたりなどもなくいたって普通の道だった。
最終的な目的地の馬人族の村にたどり着いた。そこには悲惨な状況があった。
「なんだよ……これは……」
村に入るなりいきなり人が切られて殺されている。護衛の一人が死体に駆け寄るが、生きていないことが確認された。護衛達は周囲を警戒するかのようにピリピリとしだす。
警戒しながら村の広場にたどり着いたところ、そこにあったのは大量の異様な姿をしている村人たちの死体だった。槍を貫かれたものが五人、それ以外にもわざと痛めつけたような傷跡の村人の死体。そして皆、もがき苦しんだ表情のまま死んでいる。
「ジル、ジルなのか」
槍に貫かれた死体の一つがジルによく似た獣人の子供だった。タケルは拒絶したい気持ちがありながらも、ゆっくりと一歩一歩近づいていく。そして近づけば近づくほどジルであることが分かっていく。
タケルの手が届く位置まで来たときジルであることを確信した。タケルは手が震えながらもジルの死体に抱き着く。
「っ! ジル……、俺が仕事を任せなければ……」
タケルは堪えきれずに涙を流す。自分が輸送隊長なんかを任せなければこうはならなかった。あの時断固としても止めるべきだったと強く後悔した。
周りの者たちはタケルに声をかけようがなくただ茫然と見ていることだけしかできなかった。皆分かっているのだ。タケルがジルを自分の子供のように扱っていたことを。目をかけ大事にしていたことを。
「いったいこんなことを誰が……」
空気が重く誰もが答えることができなかったところで、ディオランが言った。
「おそらくですが、北の国の奴らかと」
「どこの国だ」
「申し訳ありませんが、そこまでは……。ただ奴らは時折人攫いやこのような悪趣味なことをしてきます。そこで罠を張れば犯人が分かるかもしれません」
「時折? こんなことがよくあるのか?」
「そう頻繁ではありませんが、北部の……特に北の国と近い村ではそう珍しい話ではありません」
タケルはディオランの言葉を聞いて愕然とした。
(俺はそんなことも知らなかったのか)
タケルはヤマトの町はフィリーやバラル、エルドールなどの他の者に多くの部分を任せていてもうまく行っていた。そのままの調子で北部も治めようとしていた。しかし、そのせいでこうなったのだ。
(これは俺が面倒を見ると言って、守ると言って、何もしなかった罰だ)
タケルは天を仰ぎ見る。
(こんな奴らがいると知っていれば、警備を増やせた。いや違う。国だ。国を作っていればこんなふざけたことは容易にはできなかったはずだ)
北の国は仮に好き勝手したとしても、せいぜい敵に回すのは一つの部族。一つの部族だけであれば国という圧倒的な力を持って潰せる。だから、好き放題できるのだ。
思い出されるのはフィリーに国でも作ったらと提案された時だ。こんな悲劇を防ぐためのチャンスは何度もあったのだ。
タケルは自分のバカさに対して怒り歯を食いしばる。
(バカだ! バカだ! 大バカ野郎だ! チャンスは何度もあったはずだ)
タケルは自分で受け入れておきながらも面倒ごとからずっと逃げてきた。自分は国を作る柄じゃないとか、農業をしたいからなんて言い訳をして。
タケルはもう逃げるのをやめた。大事なジルが死んでしまってからは遅いかもしれない。でも、これ以上大切な人たちが死んだり、自分が面倒を見ると決めた奴らが理不尽に殺されたりするのを防ぐために。タケルは決意する。
「決めた。こんなふざけたことを二度とさせないためにも……国を作る!」
「あ、兄貴」
いつもと違う雰囲気のタケルに思わずフォリンが声をかけるが、その言葉はタケルの耳に届かない。
「だが、その前にこんなことをした奴らをぶっ殺してやる!」
タケルの目のうちに復讐の炎が宿ったのであった。




