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18.アルネイアの進化とジルのお手伝い

 

 タケルはふとセラフィナを助けたクエストの報酬の確認がまだだったことを思い出した。確認してみたところ、お願い券というのを三枚もらった。どうやらこれを使えば女神様に要望を出せるみたいだ。とはいえ、どのような願いでも叶えてもらえるわけではなく、ある程度限定的だ。


「……これは保留だな」


「どうかしたの?」


 一人で何かしていたタケルを見てフィリーが声をかけてきた。


「セラフィナを助けたクエスト報酬が女神様へのお願い券三枚だったんだよ。これがあればなんか色々叶えてもらえるみたいだけど、今特に欲しい物とかないしとりあえず保存しておこうかなと思って」


「なんだか本当にあなたは女神様に愛されているのね」


 フィリーのその言葉にはどこか元気がなかった。


 そこにカリュネラとアルネイアがやってきた。


「主! アルネイアが報告あるって言うから連れて来たよ」


「大きな町や里とつなぐ主要な道路はほぼ完成しました。小さな村への道はまだすべてできていませんが、それもいずれ完成させたいと思います」


「おお、早いな!」


「急がせましたから。……それでこれで私もタケル様の役に立てたと思います。ですから、報酬の方をいただきたいのですが……」


「いやいや、まだ完成してないからダメでしょ」


 ちゃっかり報酬をもらおうとするアルネイアをカリュネラはけん制する。


「報酬をいただけたらより一層頑張れるのですが……」


「うーん。まあ、いいか」


「ええ!ほんと主って甘いよね」


「結構頑張ってくれたみたいだしな。いいじゃねーか。アルネイア、好きな食べ物はなんだ?」


「果物が好きです」


「了解」


 そう言ってタケルは保存ボックスの中から大量の果物を出す。リンゴやナシ、ブドウ、イチゴ、オレンジなどの最上級品質の果物の山を前にしてアルネイアは目を輝かせる。


「ありがとうございます!」


 アルネイアは、ずっと食べて見たかった果物たちを前にして我慢できずにぱくりとかぶりつく。


「おいしいです!」


 その場でパクパクと食べていく。


「うっ」


 どんどんと食べている途中で急にアルネイアのうめき声を上げ、光り輝き始めた。魔人の進化の兆候だが、それを予見していたフィリーがエルミィに命令する。


「エルミィ!」


「はいにゃ!」


 エルミィは巨大な布をアルネイアに被せた。そうカリュネラの時は真っ裸で現れて困惑したのだ。今回はその対処ができた。


 光が収まると、人型になったアルネイアが現れた。


「これが魔人ですか」


 アルネイアは自分の力を確認するかのように手のひらを握ったり開いたりする。そして自分の力が増したことを実感したのか、にやりと笑いながらカリュネラを見た。


「これであなたと並びましたね」


「はあ~? 魔人になってからの年季が違うんだけど?」


「大して時間の差はないでしょう。魔人になった私の力を見せてあげます」


「いいだろう! その喧嘩買った! どっちが上かはっきりさせてやるから覚悟しろよ」


「望むところです」


 カリュネラとアルネイアの間にバチバチの火花が飛ぶ。


「おーい、戦うなら人の迷惑にならないところでやれよ」


「はーい」


「分かりました」


 カリュネラとアルネイアはタケルに対してはいい返事をしたが、バチバチのまま部屋を出ていこうとしたところ、フィリーから注意が入った。


「いやいや、その前に服をちゃんとしなさいよ! エルミィ、簡単なものでいいからアルネイアの着るもの用意してあげて」


「分かりましたにゃ」


 エルミィもアルネイアの服を用意するために部屋から出ていく。


 そしてジルがタケルに話しかけてきた。


「タケル兄ちゃん」


「ん? どうした?」


「道ができたってことはさ、タケル兄ちゃんの農作物を北部とかに運ぶんでしょ? 俺その仕事をやってみたい」


 ヤマトの町ではタケルがいるので、すぐに食料が渡せるが、他の地域になるとそうはいかない。タケルが歩いて回ることもできるが、タケルに使い走りみたいなことをさせられないと反論が出ている。そこで道を作って運搬するという話があったのだ。アルネイアが主要な道路を作ったことで、その話は進むのだが、ジルはその仕事がしたいということだ。


「うーん、ちょっと早くないか? まだまだジルは子供だろ」


 ジルの正確な年齢は分からないが、周りの獣人の子供と比べるとおよそ十歳前後だと思われる。その年頃の子供が本格的に働こうとしなくてもいいというのがタケルの感覚だ。せいぜいタケルの手伝いを少しすればいいくらいに思っている。


「いや、ジルくらいの年齢から働き始める子は多いわよ。家での手伝いだけじゃなくて、どこかに奉公に出るのもだいたいジルくらいの年齢じゃないかしら?」


「そうなのか? いや、でも……」


 この世界の常識としてはフィリーが正しいのだけれど、タケルは自分の感情との折り合いがつかなかった。


「俺タケル兄ちゃんと一緒に町に穀物を売りに行ったのすごく楽しかったんだ。あんな風に喜ぶ人の顔を見てすごくやりがいを感じたんだ。タケル兄ちゃんの夢は農作物で世界を征服することでしょ? だからタケル兄ちゃんが農作物を作って、俺がいろんな人に届ける! タケル兄ちゃんの農作物を世界に広めたいんだ! だから、俺に運搬の仕事を任せてください!」


 ジルが自分の思いを語る。町に穀物を売りに行った時も、熱心に仕事をしていた。タケルが売り場から離れるときもその場に残って仕事をしていることが多かった。きっとその時から色々と考えていたんだろう。

 タケルはジルの思いに心が動かされた。


「大変なことも多いぞ? それでもやるか?」


「もちろん! 絶対に成功させてみせるから!」


「……分かった。ジルには運搬隊長を任せてやろう」


「やったー!」


 こうしてジルに輸送部隊の一つを任せることになった。その輸送部隊は荷車一台分の荷運びを担当する。護衛兼荷下ろしとして大人の獣人が三人とエルフが一人部隊にはいるが、基本的にはジルが隊長として指示することになっている。大人たちには可能な限り口出ししないように言ってある。何事も経験だからだ。


「よろしくな。スノー」


 ジルは仲のいいホワイトウルフにスノーという名前を付けた。タケルが他のホワイトウルフに名前を付けようとするとラグナが邪魔してくるが、他の者が名前を付けるのは別にいいようだ。


 荷車はホワイトウルフ二匹に引いてもらうため、世話になるホワイトウルフをジルは撫でている。


 ジルは荷車の御者台に乗る。


「じゃあ、行ってきます!」


「道中気をつけろよ」


「うん!」


 元気よく手を振っているジルを見送るタケルとフィリー。


「全くいつの間にか大人になっちまったな」


「そうね」


 タケルたちは感慨深くジルを見送るのであった。



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