17.セラフィナの相談
タケルが神社で朝のお祈りをしている。
「今日も一日よろしくお願いします」
お祈りが終わったところにセラフィナがやってきた。
「タケル様、相談があるのですが、今よろしいでしょうか?」
セラフィナはヤマトの町にやってきてから、以前決めていたように神社の管理を任せていた。
「なんだ?」
「私の回復魔法はどう扱えばよいのでしょうか?」
「セラフィナが女神様にもらったスキルだろ? だったら、セラフィナの好きなように使えばいいだろ。俺だって好きに使ってるだけだしな」
「私の好きに……」
セラフィナは今まで教会のルールに従って生きてきた。特別に何かするにしても教皇や枢機卿などから命令されて行うくらいだ。そのため自分の意志で何かをするというのに慣れていなかった。
女神様からもらった力なので多くの人のために使いたいとは思っているが、具体的にどうというイメージはなかった。
「まあ、どうすればいいか分からないなら、一度町を見てみたらいいさ。すぐに何かやんなきゃいけないってことはないしな」
「はい、一度そうしてみようと思います」
セラフィナは神社内の掃除をした後、町を歩いて色々な人を見たり話したりしてみることにした。
セラフィナは改めて町の歩くと、この町は豊かだということに気付かされた。
町の人々の顔は明るく、飢えている様子の人は誰もおらず皆生き生きと仕事をしている。
(これがタケル様が治める町……)
セラフィナは今まで女神様に仕えて生きてきた。それで不自由だったことはなく聖女という地位も得られた。だが、女神様に仕える以外の生き方が分からないのだ。それでもこの町に貢献したいという気持ちはある。自分を救い出してくれたタケルのためにも。
お昼時ということもあり、まずは食堂のおばちゃんに話を聞いてみることにした。
「けが人はいないかって?」
「はい」
「あんた妙なこと聞くね」
「すみません。私は回復魔法を使えるのですが、何かに役立てたくて」
「ああ、そう言うことかい。うーん、料理中にちょっとした怪我をするやつってのはたまにいるけど、たいていは下級ポーションを使って直しちまうからね」
「そうなのですか」
ヤマトの町は他の町とは比べ物にならないほど、下級ポーションがある。そのためちょっとした怪我では下級ポーションが使われるのが一般的だ。
「よっぽどのことがない限り、セラフィナちゃんのお世話になることはないね」
「おいおい、後ろがつっかえてんだ! 早くしてくれ」
「うるさいよ! あんたたち! 量減らされたくなきゃ黙ってな!」
食堂のおばちゃんの迫力にヤジを飛ばしたやつは大人しくなる。
「すまないけど私は役立てそうにないね。ごめんね」
「いえ、こちらこそ変な質問をしてすみませんでした」
「まあ、食べて元気だしな!」
タケルがセラフィナに回復魔法の使用の要求をしないのはポーションが量産されているのも理由の一つだ。ちょっとした怪我なら下級ポーションで事足りるし、大きな怪我をしても中級ポーションがあるのでそれで何とかなってしまうのだ。
セラフィナはご飯を食べながらヤマトの町の事情について思考をめぐらせる。
(私の力は必要ない……)
少しネガティブな気持ちになったが頭を振ってその考えを飛ばす。
(いえ、もう少し自分ができることを考えてみましょう)
昼食後セラフィナはまた町の中を歩きながら、色々と見て回る。相変わらず自分の力の使い道は思いつかないが、町の中を色々と見て回るのは楽しい。
そんな時、子供が走っているときに何かに躓き転んだ。
「うわああああああん」
「おいおい、大丈夫か?」
大声で泣いている子供に一人の男性が声をかけた。
転んだ時にできた擦り傷ぐらいなので、大事ではないし、最悪下級ポーションを使えばすぐに治る。セラフィナはそんな状況判断をした。
(別に私が治す必要は……)
必要はないと結論付けようとしたとき、タケルの言った「好きなように使えばいいだろ」という言葉を思い出す。
(ないかもしれないけど、私はあの子の涙を止めてあげたい!)
セラフィナは泣いている子供に近づいていく。
「ほら、もう大丈夫ですよ。ヒール」
セラフィナがヒールを唱えたことで、子供の怪我はあっという間になくなる。
「お姉ちゃん、ありがとう!」
怪我が治った子供は笑顔でセラフィナに感謝した。セラフィナはその子供の頭を笑顔でなでる。
(ああ、これか)
難しく考える必要はなかったのだ。怪我をしている人がいたら治す。自分が救いたいと思ったら救う。ただそれだけの話。
セラフィナは子供に声をかけた男性の指を見ると、小指と薬指が欠けていた。
「あの、その指……」
「ん? ああ、これか。この前の戦のときにどじっちまってな」
「私なら多分治せると思います」
「本当か!?」
「はい」
「いや、でも対価として払えるものが……」
男は自分の指が治せると聞いて喜んだが、冷静に考えると対価が払えないことに気付いてテンションが下がる。
「対価はお気持ちで大丈夫です。お金でなくても物でも大丈夫です」
「本当か! それなら……この怪我が治ったら町の外で獣でも買って必ず持っていく! だから治してくれ!」
そう言って男はセラフィナに頭を下げる。
「分かりました。それで構いません。それでは治しますね。セイントヒール」
セラフィナがセイントヒールを施すと、男の失った指が生えてきた。
「おお」
男は自分の失った指が生えてきたのを見て、感動していた。
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
男はセラフィナに対して何度も頭を下げて感謝する。
「それほどお気になさらずに。私はできることをしたまでですから」
男が何度も頭を下げている様子を見て、野次馬が集まってきた。
「いったいどうしたんだ?」
「俺の失った指が生えてきたんだ! ああこれでまた警備隊に戻れる! タケル様のために戦えるんだ!」
「そりゃあスゲーな」
「良かったな」
「なあこいつ以外にも怪我で悩んでいる奴がいるんだが、あんたのところに訪ねても大丈夫か?」
野次馬たちはみんな治ったことに関する感想を口にしている中、一人の男がセラフィナに質問をしてきた。
「もちろんです。私は普段神社の管理を任されているので、そこにいることが多いです」
「もしかして最近やってきたっていう聖女様か?」
「はい」
「聖女様がこんなお方だとは! まさに聖女と呼ぶにふさわしいお方だな!」
「俺たちはますます女神様に感謝をせねばな」
「ああ、全くだ」
セラフィナは少し照れながらも、女神様への感謝に繋がったことに気分をよくする。そうして周りの人を見回すとみんな笑顔で明るい表情をしていてすごく温かい。
(ああ、この町に来て本当に良かった)
後日。
セラフィナが欠損した指を治したという噂はあっという間に拡散した。そして怪我で困っている人たちはこぞってセラフィナのところにやってきた。
「セイントヒール」
今日もセラフィナは怪我をした人を治していく。魔力に限りがあるため一日に数人治せるかどうかという状況のため、毎日のように人がやってくる。
「はい、治りましたよ」
「ありがとうございます!」
「お大事にどうぞ」
そんなセラフィナたちをこっそりと影から覗いている者がいた。
「このままではまずい! あれを急がねば!」
そう言い残してその人物はその場を去っていった。
◆
それからまた時は過ぎ、タケルの屋敷にてタケルとフィリーが話をしていた。
「おい、知ってるか? セラフィナの奴神社で大人気みたいだぞ。いや、まさか欠損部今で治せるとはな! あいつスゲーな!」
セラフィナは治療ができるというだけでなく、見た目の可愛さや町の者には少ない丁寧な物腰、そして女神様の声が聞こえる聖女ということで、大人気だった。実際、セラフィナがやってきたことで神社に来る人の数はかなり増えた。
「……そうみたいね」
「これは神社とは別に診療所でも作るべきか……」
「あなたの好きにしたら」
嬉しそうにセラフィナのことを話すタケルだが、なんだかフィリーは少し不機嫌そうにしている。
「なあ、どうかし」
「タケル様ああああああああああああ!」
少し機嫌の悪そうなフィリーにどうしたのか事情を聞こうと思ったが、そこにミクシオンがやってきた。
バンと大きな音を立ててドアを開けると、全力で走ってきたからなのかぜえぜえと言っている。
「ついに、ついに完成しました! 上級ポーションが!」
「おお、やったな」
「はい! いやあ、焦りましたよ。あの女が来たことで実験体がいなくなるんじゃないかって。こちらの事情も聴かずにどんどん治していきやがりましたからね! でも、その恐怖が私に力を与えた! 今までのんびりまったりと開発を進めていましたが、こうしちゃいられないと通常業務と睡眠時間を削って開発に挑みましたからね! はっはっは!」
タケルとフィリーは揃ってどうしようもない奴だとジト目で見るが、ミクシオンはそれを無視して声高々に演説をした。
「ところで、上級ポーションはどれくらいの怪我が治るんだ」
「よくぞ聞いてくれました! 上級ポーションは小さな欠損でも治すことができます。まあ、あとは深く切られたり抉られたりして中級ポーションじゃ治せない時にも使いますね」
「そう言うことか。実験体がいなくなるってのは」
「あの女がすべての人を治したら、私の上級ポーションを試す機会がなくなりますからね!」
「上級ポーションまで作れるようになったのだから、これで少しは落ち着くわね」
「いえ、いずれは最上級ポーションを作りたいと思っています、これなら失った腕や足を生やすこともできますからね!」
「へえ。ちなみに、セラフィナは時間をかければ腕は生やすこともできるみたいだぞ」
「なあああああにいいいいいい!? こうしちゃいられない! すぐに最上級ポーションの開発をしなければ! 実験体がいなくなる前にいいいいいい」
そう言ってミクシオンは去っていった。
「全く、あの性格さえなければ優秀なポーション職人なのだけれど」
「まあ、平和でいいじゃねーか」




