15.女神様の声
「じゃあ、ホワイトウルフに乗って、さっさと町に行こう」
「乗る!? この魔獣に!?」
ヨハネスはいきなりホワイトウルフに乗るという話が出て驚く。もちろんヨハネスだけではない。聖騎士たちもドン引きしている。
「ああ、その方が早いからな」
「しかし……」
早いからと言われてもそう簡単に魔獣に乗ることはできない。
「よろしくお願いしますね」
いつの間にかセラフィナはホワイトウルフに乗って首を撫でている。
「ヨハネス枢機卿。私の馬をお使いください。他の者たちもホワイトウルフに乗るのが怖ければ我々の馬に乗るがいい」
その言葉に聖騎士たちは何かを訴えるような目でアステリアを見る。
「我々が魔獣を恐れてどうする? それにこんな機会でもなければ魔獣に乗るなんて経験もできんぞ」
こうして一部の聖騎士とアステリアがホワイトウルフに乗ってヤマトの町に移動することになった。
タケルたちは道中何も起こることなくヤマトの町にたどり着いた。
「ここがヤマトの町か……」
ヨハネスはグリムウェイル大森林の中に大きな町ができていることに驚いていた。もちろんヨハネス以外の教会関係者たちも皆驚いていた。
入口を入ると、フィリーがエルドールやバラルたちを含めた十数名で出迎えた。
「ようこそヤマトの町へ」
「お出迎えありがとうございます」
フィリーの出迎えに一団を代表してヨハネスが答える。
「皆さまがここに来た事情は聴いております。ですが、長旅だったと聞いております。ひとまず迎賓館にて一休みされてはどうでしょうか? 軽食もご用意してあります」
「かたじけない。せっかくですから、一休みさせていただきます」
ヨハネスは内心驚いていた。タケルの粗暴な態度を見ていたためか、ここまで丁寧な対応をしてくれるとは思っていなかったからである。
フィリーは後の世話を他の者に任せ、タケルを呼んだ。
「タケル。ちょっと」
フィリーが笑顔で手招きをしているが、タケルは嫌な予感がしかしない。とはいえ、行かないという選択肢はない。教会の一団からは見えも聞こえもしないくらい離れたところに連れてこられた。そして、くるりとこちらを向くとフィリーがキレた。
「教会にめちゃくちゃ目つけられてるじゃない!」
「はは、成り行きでな」
「ヴェルノアから色々話聞いて思わず頭かかえたわよ」
「バレるつもりはなかったんだがな」
「それはもうしょうがないとして……下手なことしゃべってないわよね」
フィリーがジト目で問い詰めてくる。
「女神様関係は色々話したけど、俺のスキルの中身については、しゃべってないぞ。……どこまで俺の力話していいと思う?」
教会が興味あったのは女神様関係の話だったので、タケルのスキルの中身についてはほとんど語っていない。あんまりしゃべるとフィリーが怒りそうだったというのも理由の一つだ。
「……可能な限り隠した方がいいわ。仮にここでの話がうまくまとまったとしてもね。教会が認めてくれると言っても全員が全員あなたに友好的なわけじゃないでしょ? まあちょっと調べられたら分かる程度……作物を大量に作れるくらいまでなら言っても大丈夫じゃないかしら。いや、本当はそれも知られたくない話ではあるんだけど……」
タケルの農業スキルについてはすべて隠せるなら隠したいが、調べればすぐに分かることを隠してもあまり意味がない。
「まあ、そうだよな」
セラフィナやアステリアはタケルの味方ではあるが、それ以外の教会関係者からは半信半疑という感じで見られている。特にサルビオ枢機卿からは目の敵にされているので注意が必要だ。
こうしてフィリーと今後の対応を話した後、一休みした教会の一団とタケルたちは神社にやってきた。
「ここが例の神社という場所か」
ヨハネスは普通の教会や神殿とまるで違う場所に少しばかり困惑していた。本当にこの場所がセラフィナが言っていた女神様と最も近い場所なのかという疑惑の思いも湧いてきた。
「うーんと、何が知りたいんだっけか?」
「まずは一度見せるのが手っ取り早いと思います」
タケルは教会の一団を神社に連れてきたはいいが、どうすればいいのか悩んでいたところ、セラフィナが答えた。
「まあ、それもそうか」
タケルには見えもしないものなので、実践するのが一番手っ取り早い。
「じゃあ、今から女神様にお供え物してお祈りを捧げるから、一緒にやりたい奴はこっちに来てくれ」
タケルが教会の一団に向かって言った。
「私も女神様に祈りたい気持ちはあるが、真偽を確かめる義務がある。まずは聖女候補たちだけ参加しなさい」
「私も参加します」
「いいでしょう」
ヨハネスが皆に指示を出したところアステリアも参加したいと申し出た。
タケルの前に聖女候補の三名とアステリアがやってきた。
「こうやって二礼二拍手した後に祈りを捧げて最後に一礼するのが、ここでの作法だ。まあ、でもきちんと女神様に敬意をもって祈れば形はどうでもいいと思うがな」
タケルは一緒に祈りをする者たちに対して簡単にやり方を教えた。
そしてタケルはいつもより豪華なご飯が乗ったお盆をお供え物として台に乗せた。
「よし、それじゃあ、やるぞ」
タケルを筆頭にセラフィナ、アステリア、聖女候補たちは教えられたやり方に沿って二礼二拍手をした。
そしてタケルはいつも通りお祈りをする。
すると、ご飯が光の粒子になって天へと昇っていく。その様子を見て、教会の一団は皆驚いていた。思わず声を上げそうになったが、神聖な儀式だと思ったので思わず口を手で押さえる。
タケルは祈りが終わり一礼して目を開ける。
「まあ、こんな感じだな」
タケルの祈りが終わったことで、他の者たちも一礼をして目を開けると光の粒子が天へと昇っていく様子が見えた。
そしてアステリアと聖女候補生たちが天へと昇っていく光の粒子を目で追い天を見上げると、そこに光の柱が立っているのが見えた。
「あ、ああ……」
光の柱は初めて見るものだが、間違いなく女神様のところに繋がっていると思わされるものだった。その衝撃と感動は言葉にならなかった。
彼女たちを襲ったのはこれだけではなかった。
(聖女セラフィナよく戻ってきましたね)
「えっ、嘘っ!」
「女神様……」
女神様はセラフィナだけでなくアステリアや聖女候補たちにも声を聞かせたのだ。
それにエルシアとアステリアだけでなく、皆驚き動揺した。
ただセラフィナだけは動揺しておらず、再び手を合わせて祈るようにして女神様に声をかけた。
「女神様、私がここに戻ってこられるようにタケル様にお願いしてくださりありがとうございました」
(いいのです。せっかく力を与えた者が籠に囚われてしまっては意味がありません。これからはあなたが思うように聖女としての役目を果たしなさい)
「ありがとうございます」
そう言ってセラフィナは女神アメリアの大いなる愛を受け取り、涙を流した。
「一体どうしたというのだ!?」
混乱している状況にヨハネスは思わず声を上げた。
「今、女神様のお声が……」
「私にも聞こえた」
エルシアとアステリアだけでなく、他の二人の聖女候補たちもうなずく。
「なん、だと!?」
あり得ない。今までの歴史の中で二人の聖女がいた時期はある。だが、それでも十分に修行した者たちだけが聞こえるのだ。百歩譲って聖女代行になったエルシアが聞こえるのはいいとしても、ろくに修行をしていないアステリアまで聞こえるなんて言うのはあり得ないのだ。
「いや、いったんそれは脇に置いておこう。女神様は一体何とおっしゃったのだ!」
「私には女神様が、セラフィナがここに戻ってきたことを歓迎したこと、セラフィナが思うように聖女として活動するようにという内容が聞こえたが、他の皆はどうだ?」
アステリアが言った。
「私もそのように聞こえました」
「私もです」
他の聖女候補たちもアステリアに同意した。そして残りはエルシアのみだ。
「……私も同じです」
サルビオ枢機卿から絶対に認めるなと厳命を受けていたエルシアですら、これに反論を述べることはできなかった。エルシアは優秀ではないし女神様への信仰心もあまりない。それでも女神様のおっしゃったことを覆すなんて恐れ多いことはできないのだ。
全員が同じ内容を聞いたことにサルビオは驚愕した。これからどうするべきかを考えるべきだが、頭が回らなかった。
「ヨハネス枢機卿。私は女神様のお言葉に従い、この場所で聖女として活動していこうと思います」
「あ、いや……」
ヨハネスはこれほどまでに女神様に愛されている聖女を見たことがない。女神様への信仰心がゆえに神殿に置いておきたかった。
しかし、女神様のご意志があるのであればそれに異論を唱えることはできないので、反論の言葉を何とか飲み込んだ。
「……分かった。女神様のご意志であるなら、聖女セラフィナはこの場所に居るべきだろう」
「ありがとうございます」
セラフィナは正式にヤマトの町に滞在することを教会から認められたことで、喜んだ。




