・『目撃者』ノミニオ・
「ーーーーっ、!」
目で追える訳は無かった。ひと呼吸前に、ノミニオの横には確かに二人はいた。が、今はいない。代わりと言わんばかりに激しい音が辺りに響いた。
此処は地下だ。入口は無い。ノミニオは陸に言われ、目を閉じると此の場所にいた。陸に移動させられたからだ。一瞬だったので何も怖くは無かった。それよりも不思議だった。冒険者冥利に尽きると彼は思ったのだ。
神に出会えた。奇跡に近い、嫌、奇跡だろう。ノミニオは神から依頼を受けた。報酬は駆け引きをした。『加護』をねだった。取引相手は答えた。『自分は他の星の神だから、加護を授けても大した「意味」は無いぞ?』と。それでもノミニオはそれで良いと言ったのだった。
意味は要らない。ステータスを『視られた』時の『見栄』だ。又『はったり』にも為る。ノミニオは今のパーティに加入するまで、ややーー嫌、大いに燻っていたのだ。以前居たのは、皆彼よりも若い面々のパーティだった。殆どがアウトワーカー成りたての面子だった。ノミニオは上級者でも無かったが、経歴だけなら、『長』い。故に顔見知りのポート・リーダーに頼まれたのだった。初心者の彼等の面倒を。初めは良かった。初心者達は初々しく、ノミニオに従ったーーが、少し成長すると、不満が表れた。厳つい若い剣士がーーそれを進言して来た。いざこざの末、ノミニオはポート・リーダーに断りを入れてから離脱した。『どうして俺らは資格持ちでもないノミニオさんの言う事聞かないといけないんですか?』ーーか。
そんなもんはお前等が『初心者』だからだろうーーが。ノミニオはそう思ったが、彼等には言わなかった。傷付けるからだ。アウトワーカーが自信を喪失するのは、致命的だからだ。力業が使えないノミニオには、限界だと思ったのだ。彼等を指導するのは。故に自分は未だ、上級では『無い』のだろうーーと彼は思った。
ノミニオがアウトワーカーに成ったのは、意外に若く、12歳の時だった。『範囲』魔法がーー子供の範疇を超えていたのだ。ノミニオの生まれ育ったちいさな町に寄ったアウトワーカーの『調査』専門パーティのリーダーに、彼は『其れ』を指摘され知った。試しに『試験』を受けてみては?と。
調査隊はノミニオをワークコミュニティに連れていき、リーダーが試験の費用を出すからと『試験』を受けさせた。ノミニオは『仮合格』したのだ。
後は『格闘』の実技試験だけ受け、合格すれば『チップ』が得れると言われた。やる気なら『講習』を受けて、『闘い方』を知れば良いと。前線に出て格闘するのだけが『戦闘』では無いと、ノミニオは知った。『遠隔操作』や補助支援要員を選択すれば良いのだと。
両親を説得したノミニオは、そのパーティリーダー『保護』と補助の元に、冒険者と成った。二年の時を経て。つまりノミニオは10歳の時既に『仮合格』した強者なのだ。その記録はしっかりとチップに刻まれている。又、彼の『保護』者のパーティ・リーダーの功績も大きかった。
実はポーターのディランズと、解除師のミーディとは、此のパーティで出会ったのだ。ミーディは此のパーティの正規メンバー解除技師の弟子だった。ポーターディランズは見習いアウトワーカーとして、パーティにいた。二年と少しした頃、誘ってくれたリーダーが言った。『他』も経験してこいーーと。つまり『卒業』を言い渡されたのだ。ミーディもこの時言われたが、彼は拒んだ。
『師匠』が老いぼれで心配だから『最後』まで面倒をみるーーと。解除師の失敗は、パーティを全滅させる。確かに正規メンバーのミーディの師は、引退寸前だった。故にミーディを弟子としたのだが。
後にフリーになったノミニオは、幾つかの臨時パーティには参加したが、定着はしなかった。『先行偵察師』の能力だけでは、誰も彼の能力を買わなかったのだ。助かりはしても固定メンバーにする程では無いーーと。
そして、先に述べた様に、若いパーティの御目付役を頼まれるーーが、述べた通りだ。その後、
彼はミーディとディランズと再会したのだ。ノミニオが卒業した後、やはりミーディの師は限界を迎えた。『恥じる仕事はしたくない』と。併せてリーダーも引退を決意した。そして未だ若いディランズは『卒業』を言い渡され、取り敢えずミーディと組む事にした。勿論必然だった。
パーティは解散、皆引退するからと二人に十分な餞別をくれたらしい。ミーディはそれを元手にディランズと相談し、買える魔法は『買った』らしい。そして兼業『魔法士』を名乗れる迄に成ったーーと。
その後二人は運良く、『リィンツィオ』、『リッツ』、そして『マミアーノ』という面子と出会い、パーティを組んだ。その二ヶ月程後に、又運良くノミニオと再会出来たと言うのだった。
「ーーと言う訳でよろしくな」
その日ノミニオはミーディにそう言われた。『皆いいやつだから』と。
× × ×
「はい、一丁上がり〜て奴かな。」
『青』という男が言った。禍々しい迄のほほ笑みで。手にした『其れ』をーー放り投げた。
× × ×
「ーー青兄ちゃんっ、放しちゃ駄目だっ!」
巧の声が響いた。地下の『誰も知らない』ーー此の空間の中へと。振り返った男ーー青が言ったのだった。しかしそれは俺のもとには届かなかった。辛くか幸いか。
× × ×
「うぁ………っぅ、………………っぐぅ、っ!」
そして『何か』はーー起き上がった。
××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××
「お兄ちゃんてばっ!捕まえてよ!」
巧が再び叫んだが、兄はにやついただけだった。暗黒の様な不敵な笑みだった。いいや、暗黒だった。
そしてノミニオはみた。『末路』を。
「あっ?うあ?………………ぁぁぁぅ………………ぅう……………………」
「煩いんだよ酔っ払いが。唸るな。『ダサい』からな。」
「ーーは?」
巧は顔をしかめた。美形に有るまじき顔だった。眉間に皺が酷い。厳しい。
釣られて俺も多分顔をしかめた。これは多分仕方無い。不可抗力、無意識だ。いいさ、俺『イケメン』違うし。
真逆の美しい男は言った。不気味な笑みを携えて。その不気味さが又魅力だった。多分女ならば皆ーーなびくので在ろう笑みだった。不気味なのに、ふわりとしていた。目を細めた彼はーー言ったのだ。
『許さないよ』と。青黒い『靄』ーーの様なモノが、彼の周りを彩った。嫌、纏わり付く様に。漆黒の様な、又時折輝かしいばかりの青色の輝きを放つ様な『ソレ』はーーゆるりゆるりとーー『それ』をーー浸食する様だった。人型にも思えたーー例の黒い意思有る『靄』はーーつまり、『元神様』だったらしいーー『成り果て』は、青色の輝きの禍々しい『靄』に浸食されたのだ。
似た様な其れに思えた其の存在達はーーただ単に『成れ果て』を苦しめた。見るも『苦しい』位に。
唸り声だけが不気味に辺りにただーー響いた。
俺は全く動けなかった。にやりと笑う美の骨頂に、冷たい汗を知りながらも、動けなかったのだ。
理解出来たのは、彼は巧とも海とも、『陸サン』とも全く違う、『異質』な『モノ』だと。
俺はその瞬間を目撃したのであろうーーと。
地上で陸サンが、『無茶してなきゃ良いけど』ーーと言った事をーー俺は知らない。
知れる訳は無いのだから。




