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第二章 (3)

 研究所での日々です。ランドルフ家の五人姉弟たちの日々を通して、新造艦の様子もちょっと描いています。


自 2011年4月25日

至 2011年4月27日

 翌朝一番に研究所に行ったみんなは、それぞれ担当部署を与えられ、仕事に入った。エリナは自分の研究室も持っていたが、それ以外にもあちらの研究室、こちらの研究室と忙しそうにあちらこちらに出没していた。食事も決まった時間には取れないようで、良くとんでもない時間に食堂で会ったりした。もっとも研究所の食堂は研究所員の不規則な仕事に合わせて終日開いていたし、何時行っても必ず所員の誰かしらが、食事をしている様な有り様だったから、誰もそれを不思議には思わなかった。仕事が深夜に及ぶこともしょっちゅうで、帰宅時間はいつも日付が変わってからだった。それでも父の様に研究所に泊まり込むことはなく、どんなに遅くても自らジープを運転して家に帰って来ていた。

 一方、他の姉弟たちもそれぞれ、それぞれの部署で忙しく、お互い同士も顔を合わせるのは食事時ぐらいという日々を送っていた。そもそもこの姉弟、研究に没頭してしまうと周りが見えなくなるという点でそっくりだったのだ。それは多分父親の資質を受け継いでいたのだろう。ランドルフ博士自身、エリナたちが来てからは自室にこもり切りで、いつ食事をしているのだろうと思う程であるのだから。


 サラは新造艦のメインブリッジのシステム制御とマン・マシンインターフェースの作業を進めていた。艦内のあらゆる情報を集め、制御するためには情報の交通整理とアウトプットされた情報を、渡す相手に応じて編集する作業とが必要になる。スクランブル時の情報の優先度も考えねばならない。

「エドナー、機関部からの情報の流れはどうなってる?」

「えーっと、ちょっと待って、どっかにメモが…、あっあったあった」

 取り出したメモをサラに渡す。

「概略はそれで良い筈なんだが、詳細はまだだ。今それどころじゃなくてさ」

「それどころじゃない? 何かトラブル?」

「ああ、内燃機関の出力値が理論値と合わなくてさ」

「減衰値を計算に入れても?」

「いや、それが逆なんだ」

「逆!? 理論値より高いってこと!?」

「ああ、だもんでエリナの奴、もうそれに係りっきりでさ。しかも、他にも何か厄介なこと抱えてるらしくって、そばに寄るのも怖いぐらいにピリピリしてるぜ」

「それで連日、午前様なのね。でもそんなに忙しいなら泊まっちゃえばいいのに」

 研究所内にはちゃんと仮眠室もあるのだ。わざわざ家まで往復する時間を無駄にせずにすむ。

「馬鹿言うなよ。こっちに居たら、それこそ寝るヒマもないぜ。起きて仕事してる奴らは必ずいるんだからよ」

 確かに責任者がそこに居れば、事あるごとに起こしに来るだろう。少しでも休もうと思ったら、家に帰るしかないのかも知れない。

 それにしても理論値より高いというのはどういうことだろう。原因を突き止めるのは容易ではなさそうな現象である。――エリナがピリピリするのも無理はないわ―― 一つ深い溜息をつく。


「だから、それだと照準が合わなくなっちゃうでしょう!?」

 マリーに怒鳴られてマックは首をすくめた。確かに主砲の制御システムにはまだバグが残っている。計算通りの動作ができないのは、どこかで変なループに入ってるからだろう。どうやらプログラムリストを一からチェックしないといけないらしい。やれやれこの分じゃ今夜は帰れそうにない。

 一方、マリーはもう既に主砲のエネルギー出力の方のチェックに入っている。流石に頭の切り替えが早いと思う。それは以前に一緒に仕事をしていた時から思っていたことだが、まったく違う問題にぱっと飛んでいけるのは、一種の才能ではないだろうか? 頭の回転が早いというだけでは、ああも素早くいかないのではないかとマックは思っている。

「じゃあ、俺はプログラムチェックに入りますんで…」

「OK、頼んだわよ」


「う~ん、やっぱ実際に動かしてみないと駄目かなぁ…」

「シミュレーションだけじゃね~。地上戦の場合は空気抵抗とかもあるしな」

「風洞実験でも無理かな」

「それだと宇宙空間での動作が確認できないだろ」

 バーディとデビーは頭を抱えた。実際に動かしてデータを取るのがベストだというのは分かるが、辺境とはいえ前線のここで、新型の戦闘機の動作確認をするわけにはいかないではないか。下手をしたら敵と間違われて、ここの軍の連中に撃ち落とされかねない。

 互いに顔を見合わせて長い溜息をついた。取り敢えず、シミュレータで確認できる問題点だけでもつぶしておくことにしよう。それ以上のことは後で考えるとして…。


「だから、何だって理論値より30%もUPしちゃうのよっ!」

「そんなこと言われても…。何か予想外の物質が触媒になってるんじゃないんすかね~」

 エリナの怒声にデュオはのんびりと答え返す。この方がエリナの怒りをそらすのに効果的なのだ。知りませんよっ!なんて返しちゃうと売り言葉に買い言葉で、議論がエスカレートしてしまうのを経験上知っている。もうかれこれ三年の付き合いになるのだ。エリナの性格などとっくに見切っている。

「それが見つからないから困ってるんじゃないの」

「じゃあ理論値の方がおかしいんでしょ?」

「んなわけないでしょうがっ!」

 ――あーっもうっ! 他にも片付けなきゃいけない仕事が山積みだっつうのに…もう…、これ一つにかかずりあっているヒマはないのだが、かといって放っとくわけにも行かないし…。父さんにでも頼んで…あれ?――

「あれ? そう言えば最近父さん見た?」

「いえ、俺は見てませんけど?」

「食堂とかにも来てないわよね~」

「そういやそうですね」

「まさか食事とってない…なんてことは…ない…わよ…ね…」

 嫌な予感が鎌首をもたげてくる。

「まさか…いくらなんでも…腹ぐらい…減るでしょうに…」

 デュオの方も答え返しながら、背筋が冷えてくるのを感じる。二人顔を見合わせ、研究室を飛び出す。食堂に駆け込んで父のIDをチェックする。

「最後に食事をとったのって、一週間前よ」

「研究室で倒れてるなんてことは…」

「ありうるわ。とにかく行きましょ」

 構内車に乗り込み、父の研究室を目指す。

「しかし、博士のこれ、何とかなりませんかね」

「ムリよ。没頭すると周りが見えなくなるのって、ウチの家系の性癖ですもの」

「でも毎度これじゃあ…」

「そうよね。誰か助手でもつける?」

「そうしたいのはやまやまですけど、いま余分な人手なんてありませんよ」

「だよね~」

 顔を見合わせて溜息をつく。このあと二人は研究室で餓死寸前は大げさだが、栄養不足でフラフラになっていたランドルフ博士を救出し、医務室へ放り込んだのだった。


 あと一話で第二章が終わります。物語がゆっくりとではありますが、だんだんと動き始めます。


入力 2012年6月4日

校正 2012年6月30日


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