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第十章 (3)

 お待たせしました。第四十四話です。


 ファルコンはようやくアーケナクト戦線につきました。新たな登場人物も増えて更にややこしくなったかも…。


自 2012年5月22日

至 2012年6月14日


 そうして何日かにらみ合いの状態が続いた。増援が来たとは言え、こちらはあえて踏み込む必要はない。こちらから打って出る局面ではない。アーケナクト戦線における連邦の立場はあくまでもガイナック鉱山星の死守であり、それ以上ではないのだ。そして攻め込むべき理由のある連盟は、先の合流時の作戦の見事さとそれによる損害の影響とで安易に打って出るわけにはいかなくなっていた。要は攻めあぐねているのだ。

「このまま兵を引いてくれるとありがたいのだけど…」

「まあそれは無理でしょうね」

 ポツリとつぶやいたハルカに対してダレンはそう答え返す。無論そんなこと端からわかっている。そんな簡単にあきらめられるものなら、とっくにここの戦いは終わっている。連邦と連盟の国境線すべてが戦場になっている訳ではない。というより、そのすべてを戦場にしてしまう程の兵力をどちらの陣営も有してはいない。強制的に一定の年齢のものに兵役を課せば総力戦は可能だが、それは国を疲弊させるだけで何のメリットもない。だからこそ今はところどころの拠点での攻防になっているのだ。いい加減和解してもいいのではないかとも思うのだが、どちらの中央政府も戦い以外の選択肢は考えられないようだった。

「ってか、これって軍人の言うセリフではないわね」

「こう激しい戦いが続くといくら軍人でも嫌になると思いますが…」

 目の前で幾つもの船が散って行くのを見た。散った船の何十倍もの人がそこで命を落とした。それでも指揮官としてある以上、目を背けることも逃げ出すことも叶わなかった。ハルカもダレンもどれだけ人を殺しても、それに慣れてしまうことはできなかった。幾多の敵を殺し、仲間を失い、その痛みに耐えて守るべき民間労働者たちを守って来たのだ。


  カンジュンは目の前の敵がゆっくりと陣形を変えて行くのに気づいた。しばらくその様子をじっと観察していたが、どうやら攻撃を仕掛けてくる気になったらしいと判断し、部隊に第一級戦闘配置を命じ、詳細を旗艦へと送った。

「リー大佐より入電! 敵が動き始めた様です」

 そこに表示された敵の陣形の変化に目を見張る。それはエリナがもしかしたら…と示した敵の動きの予想の一つにぴったりと一致していたのだ。

「もしかして彼女、敵の司令が誰か判っているのかしら…」

 ハルカの疑問ももっともである。その陣形は普通の一般的な軍人ではちょっととらないようなものだったのだ。どこか癖のある特徴的な――ある意味、一目でわかる様な――そんな陣形だった。

「明確に認識はしていないのでは? あれだけの部隊を任されているということで、一つの可能性として、示唆しただけだと思いますよ」

 明確に誰だか判っていれは、その陣形のみを示しただろう。だか彼女はそれ以外にもいくつかの可能性を示していたのだ。それにしても敵の将軍の癖まで良く把握していると思う。実戦経験だけではこうも詳しくはないだろうから、過去の主だった戦いの研究もやっているのだろう。戦いの道具を開発するにはそれらが実際の戦場で、どう扱われるかを理解していなければならないのだから…。

「だとしても凄いことよ。上層部の物のわからない連中にぜひ彼女を見習って欲しいものだわ」

 そうせめて彼女の1/10でも現在の戦局を見る目を持って欲しいと思う。現場を知らない人間のたてる作戦ほど役に立たないものはない。いや、役に立たないのならまだいい。逆に相手の役に立つようなものすらあるのだ。相手の役に立つ…つまりこちらは負け戦ということだ。下手をすれば全滅というシナリオもありうる。流石に自分たちはそんな作戦、遂行したりはしないが(そうたとえ軍法会議にかけられるとしても、いたずらに部下を失うよりはマシである)、その判断のできないような相手ならそのまま自滅の道を歩むだろう。

「そうですね。でも今はそれどころでは…」

「えっああそうね。では作戦通りに」

「了解!」

ハルカの許可を得、ダレンは早速各方面へと指示を飛ばす。指示を受けた側は敵の様にゆっくりと陣形を変えるのではなく、それぞれ指定された時間に一気に陣形を変えた。


 連邦側の動きに連盟側で指揮を執っていたユリウス・ジャルダンは目を見張った。

「ほう、これは驚いた。この変則的な動きについて来るとは…」

「余程の参謀がついたのでしょうね」

 傍らで様子を見ていた副官のアンドレア・サルコーニが答える。ユリウスの下について以来、ここまで見事に彼の作戦について来る敵を見たことはなかった。

「これは手強いな。増援が来るまではあと一息かと思っていたが…」

「どうされます? このまま攻め込みますか?」

「いや…それは無理だろう。あの分ではこの後のこちらの動きもわかっているだろう。勝ち目がないとは言わんが、このままでは被害も大きそうだ」

 こちらの動きが読まれていても勝ち目はあるとは、何と強気な発言だろうか。だが、それを口にするだけの実力はあるのだ。変則的な動きで兵を動かせるのは、それだけ経験があり、戦局の全容を見渡せるだけの視野の広さがあるということだ。

「ではしばらくはにらみ合いというところですね」

「どうやらそうなりそうだな。今更引くわけにもいかないが、うかつに攻め込むわけにもいかない。しかし、それにしても一体誰が加わったのやら…」

「探らせますか?」

「そうだな。頼む」

 こちらの動きをここまで読んで手を打ってくる相手に興味が湧いたのだ。知ったところで今すぐどうこうできる訳ではないが、敵を知ることは戦いに勝つための一つの条件なのだ。


 連盟側で自分の身元にそんな探りを入れられているとは露ほども思わず、エリナはファルコンの艦橋で旗艦のハルカと通話中だった。

「あれ、随分と特殊な陣形だと思うのですが、良くおわかりになりましたね」

「これだけの規模の作戦を行える指揮官というのは限られてますから…。でも可能性の一つでしかなかったんですけれど…。当たりましたね」

「ですが、良く敵の情報をそこまでご存知とは…流石です」

「立場上、あれこれと耳に入ってくるだけですし、ほめられる程詳しいわけでもありませんよ」

「その指揮官の名前とかも知っておられるのですか?」

「確か、ユリウス・ジャルダン将軍だったかと。今はユージーン殿と同じ少将の位の筈です」

 まああれだけの部隊を束ねているのだ。大佐より低い地位にいるわけはないだろう。変則的な作戦を得意とすることから名を知られているのかも知れない。

「今は…ということは昇進したという?」

「私が最初にその名を聞いた時は大佐でしたが、かれこれ二年になりますから、多分少将にはなっているかと…」

 この二年、彼の作戦の大きな失策は聞かない。となれば、それなりの実績は積み重ねているだろうと思う。何分にも敵側のことであるから必ずしも最新の情報が入手できるものではないが、いつまでも大佐の座に甘んじているような男ではない筈だ。野心家という噂もある。まあそれは当てにはならないが…。

「彼の作戦についてはそれなりにお詳しいのですよね」

「そうですね。まあ、ある程度は…」

これは…呼び出されるなとエリナは思った。相手が動きを見せるたびにいちいちファルコンに連絡を取っていたのでは埒があかない。結局エリナはしばらく旗艦に詰めることになった。



 少し短めですが、切りがいいのでここで投稿します。その分、次は長めかも?


 次で第十章が終わります。第十一章がまだ書けていないので、しばらく更新せずに校正をかける予定です。


入力 2013年3月15日


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