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第九章 (2)

 さあいよいよ新しい任務です。それは一体? エリナ達が懸念していたスパイ作戦? それとも?


自 2012年4月7日

至 2012年4月17日


 このまま何事も無く地区本部基地まで戻れると思っていたのだが、事はそうは運ばなかった。前線基地まで戻ると、既に次の指令が待っていたのだ。

「アーケナクト戦線!?」

 聞き慣れない名前にサラが首を傾げる。

「ガイナック鉱山星を巡る攻防だよな、確か」

「ええ、あそこは良質のチタンが産出することで有名なのよ。現在ガイナック鉱山星はうちの領有なのだけど、連盟はそれを欲しがっていて…」

 ミックの声にエリナの声が重なる。ガイナック鉱山星はその名が示す通り、豊富な鉱物資源を誇る星で、これだけで小国一つ程度の消費量なら千年は持つと言われている。連盟が欲しがるのも無理はない…けれど…あそこは…。

「激戦地…だよな、確か。しかも現在も鉱山は稼働中で、鉱山労働者は守らなきゃならないし、物資の輸送も滞らせるわけにもいかないし…」

 カールが記憶の底からデータを引き出す。

「んで、俺達はそこで何をやるわけ?」

「現地で訊けってさ」

 ショウの問いには簡潔にリオが答える。通信を受け取った時点で内容は判っている。

「つうことは急げってことよね」

 マリーが口を挟む。細かい指示を出す手間を省いたのは、現地の状況が余りにも流動的だと言うことだろう。情勢が掴めないものの、増援は必要だと言うことだ。任務明けの部隊に次々と声を掛けているのだろうと思われた。

「燃料の補給は出来るんだろうな」

 ベンがミックを振り返る。無論、途中の基地でも可能だろうが、出来ればここで満タンにしてから出発したい。「いや、即、行けだと」

 相変わらず無茶いうわとエリナは思う。まあ現況なら次の補給基地まで敵に遭うこともないだろう。そこまでの燃料は充分にある。だが、その前に報告書だけは提出せねば…。

「取り敢えず報告書を提出してくるわ。ミックは出港の準備を進めていて」

 ディスクを持ち、エリナは艦橋を離れる。とは言え、時間はほとんどない。軍港には既に報告書を受け取る士官が待ち構えている。要は渡し次第、すぐ出港しろということだ。報告書を渡すと代わりにアーケナクト戦線の最新のデータが渡される。出港後に確認する様にとの指示が出されていた。


 ファルコンが前線基地を離れるとすぐにエリナがミックを振り返る。

「最初の補給基地までは安全だと思うから、今のうちに副官と打ち合わせをしておきたいわ。許可してもらえるかしら?」

「判った。場所はサブブリッジか?」

「ええ、そのつもりよ。デビー、私、副官と打ち合わせるから、代わりにメインに上がって。他のメンバーは指示が出るまで待機」

 前半はミックに、後半は通話でサブブリッジのデビーに伝える。カールとリオもそれぞれ自分の副官を艦橋に呼び出す。交替要員が来たのを確認して三人は出て行く。エリナがためらいもなく席を外すということは、真に安全が確保されているということでもある。ならばと先ずはマリーがショウとミックに向き直る。

「私もケンとアレックと今後について打ち合わせて来るわ。ミーティングルーム使うわよ」

 二人がうなずくのを見て、彼女も艦橋を出て行く。戦闘中でない今、こちらは交替要員はいらない。

「俺も格納庫行って来るわ。現地に着く前に基本戦略の確認をしておきたい」

 マリーに続いてショウも席を立つ。激戦地に行くのなら、戦闘に巻き込まれないうちに決めておきたいことがあるし、指揮官が負傷した時の流れなども再確認する必要があるだろう。本当はそんな事になって欲しくはないのだが、最悪の場合のシナリオはいつも念頭に置いておかねばならない。

「自動操縦に切り替えたら、俺らも航海班と打ち合わせて来る。航路図はさっきもらったしな」

 ベンがエルと顔を見合わせてからミックに言う。アーケナクト戦線に行くまでのより安全な航路の検討をこれから行わねばならない。

「機関部はいいのか?」

 打ち合わせの要をミックがエドナーに確認する。

「激戦地だろうとどこだろうと、うちの仕事は変わらん。特別な打ち合わせの必要はない」

 実際やることは日々安定した機関出力が出来る様にすることで、これは戦闘中だろうが移動中だろうが何ら変わりはない。元々、物すごーく地味な仕事なのだ。(艦の根幹を為す重要な部署なのだが、やっていることが地味すぎて周囲から認識されにくいのである)

「ふう、みんな行っちまったな」

 何かと賑やかな連中が揃って出て行ってしまうと、艦橋はどこか物淋しい空間になる。エリナ達の代わりに上がって来たデビーやライアンやメイリンは、まだ艦橋メンバーと気軽にしゃべれる訳ではないのだ。だからミックの呟きにはサラが答える。

「まあ、次は激戦地だって言われればねぇ」

「激戦地!?」

 ビクリと身を震わせてデビーがサラを振り返る。

「そうみたいよ。何? 怖いの?」

「…」

 サラの問いに口ごもる。即答はできなかった。怖いと言えば怖い。軍人となることを決めた時も、この間エリナに現実を突きつけられた時も、その時点で出来るだけの覚悟は決めている。でも覚悟を決めることと、怖くないということは同じではない。いつか怖くなくなる日が来るのだろうか。

「おい、デビー」

 考え込んでしまったデビーにミックが声を掛ける。

「怖くなくなったらお終いだぞ」

 えっと思って顔を上げる。ミックだけではなく、サラもエドナーも…いやライアンやメイリンまでもがデビーを見ている。

「怖いと思うからこそ、無茶はしない」

「怖いと思うからこそ、まわりに気を配る」

「怖いと思うからこそ、慎重になる」

「怖いと思うからこそ、自分の頭で考える様になる」

サラが、エドナーが、ライアンが、メイリンが、言葉を重ねる。サラやエドナーは軍人としての経験はないが、研究所で何度も危険な実験に立ち会っている。この言葉はその経験から来るものだ。ライアンやメイリンは既に軍人としては中堅どころだ。その言葉には実感がこもっている。これは本当に大切な事なのだ。怖さを忘れてしまえば、人は戦場で無鉄砲になる。あとさき考えず、周囲を見ることもせず、ただ闇雲に突っ込むだけになってしまいがちだ。それは自分だけではなく、まわりも傷つける。いやむしろ本人よりも、まわりを巻き込み、被害を与えてしまうだろう。だから怖いと思う心は捨ててはいけないのだ。


 航海班は航路解析室に集まり、アーケナクト戦線へのルートの検討に入っている。どういう途中経路を取るにしても、最終的には出来るだけ体力のある状態で辿り着きたい。その為に途中経路のどこでどれだけの補給をすればいいのか…を計算していかなければならなかった。食糧の減り具合は単純に日数で計算可能だが、弾薬等は敵と出会うかどうかで消費量は変わる。燃料も単なる移動なら、食糧の増減による艦体の質量の変化と距離だけの計算で事足りるのだが、こちらも敵と出会ってビーム砲等を使用すれば、当然使用量は大幅に増大する。要するにここでのポイントは敵と出会うかどうか、出会うとしたらどの程度の相手かを考えねばならないということだ。

「えーっ、これを俺達に計算させようって言うんですか?」

「無理ですよ、コレ」

 航海班のメンバーが次々と音を上げていくのを、ベンとエルは溜息まじりに眺めていたが、いくら何でもそろそろ止めないと収拾がつかなくなりそうだと思った、ちょうどその時。

「お前達、いい加減にしろっ!!」

 大きな声が響いてあたりは静まり返る。怒鳴ったのはドロシー・フェアード、ベンとエルの下で航海班をまとめている副官だ。彼女もさっきから、ベンとエル同様、口を開かず黙ってメンバーのやり取りを聞いていたのだが、とうとう我慢が出来なくなったらしい。

「お前達全員、一級航海士の資格は持ってるだろうがっ!! なのにこの程度の計算で音を上げてどうする」

 鋭い視線で全員を射すくめる。ベンとエルは互いに目を見交わして苦笑する。

「やれやれ、あいつらうちの姫将軍、怒らせちまったぜ」

「馬鹿だよなぁ、俺もう知ーらないっと」

「丸投げする気かよ」「じゃあお前が相手する?」

「俺はヤダね」

「俺もだ。なら放っとくしかなかろ?」

 こそこそと会話する。ドロシーは振り返って、ちろりっとにらむ様な視線をむけたが、上官にあたる二人に何か言い返す気はなかった様で、再びメンバーの方へ向き直る。

「出来ない…じゃなく、やるんだ。それともそのややこしい計算をあのお忙しい参謀殿に押しつけるつもりか?」

 確かにエリナなら彼らの何倍かのスピードで、それをこなしてしまうかも知れない。実際、戦闘中などの緊急時には、手を借りざるを得ないこともある。だが、いつもいつもそれでは自分たちのスキルは上がらないし、そうでなくても参謀を引き受けてからのエリナは忙しい。本当は戦闘中だって、出来れば彼女の手は煩わせたくない。戦闘中こそ参謀は忙しいのだ。だからこういう時にしっかりスキルを上げて、戦闘中に彼女の手を煩わせない様にするべきである。

「ということで、航海長」

 メンバー達を叱り飛ばし、作業に入らせた後で、ドロシーはベンを振り仰ぐ。

「んっ、何だ?」

「こっちは私達におまかせください。次の補給基地に到達するまでに航路案をまとめておきます」

「ベン、どうやらこっちはまかせておいて良さそうだ。俺らは艦橋へ戻ろう」

 ベンもエルも正直、こうした計算はあまり得意ではない。いやもちろんやれと言われればやるし、彼らの様に出来ないと音を上げることはない。(まあ、ただ時間はかかるだろうが…)でも操船技術に関しては彼らより上を行っている自信はある。敵と遭遇する可能性が極端に低いとは言え、航海士がいつまでも艦橋を離れているのは望ましいとは言えないのだ。


 ファルコンは激戦地への参戦が決まりました。これからが大変そうです。


 年末のどたどたで更新ペースは更に落ちてしまいました。お待たせしますが、次も遅くなりそうです。


入力 2012年12月27日


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